THICK~がんばれインスト・ロック!
「シック」といえば、Nile RodgersとBernard Edwards?イヤイヤ、ディスコなんてガラじゃない。
でもこのChic、本当は「シーク」って発音するんだって。いくら周りに外国人に接する機会があってもMarshallの仕事をしてればディスコの話しなんてしないからね…知らなかった。
私の場合はなんとっても『Thick as a Brick』だ。Jethro Tullの邦題が『ジェラルドの汚れなき世界』ってヤツ。内容もジャケットも大好き。今だに時々聴いてる。
ここでもういっちょ「THICK」。
某音楽学校の講師を中心メンバーにして結成されたギターとドラムのインスト・ユニットだ。ギターは篠原雅也。
この6月に発表したのがこのCD『THICK』だ。
構想2年、制作期間3年という力作。
もちろん篠原さんはMarshallを愛用している。JCM2000 DSL100と1936Vのコンビネーションだ。ん?コレのセットどこかで見たことあるって?
そして、CDの発売を記念して『MOJO RISING』というイベントで都内のライブハウスにTHICKが登場した。THICKを紹介してくれた仲良しのギタリストといっしょに渋谷のPLUGへ赴いた。
ウワ!く、暗い!これは撮れん!あらかた全部といっても許されるぐらい都内のライブハウスで撮影してきたけど、これdarkestかもしれない。
…とビビりつつも照明が当たる瞬間をねらってシャッターを切った!
ベースはサポート・メンバーだ。
最近はギターを中心とした歌なしのインスト・ロック・バンドが大活躍している。
インストゥルメンタル・ミュージックというものは当たり前のことだが歌がない分、楽器部隊の音楽的開放度が高く、十人十色、色んなスタイルがひしめき合っているところが実におもしろい。
SHARAさんの書くポップなメロディと分厚いサウンドが魅力のmintmints。
独自の音楽世界と圧倒的なギターの音色で聴かせるインスト・ロック界のセロニアス・モンク、三宅庸介率いるStrange Beautiful & Loud。
Van Halen以降のコンテンポラリーなギターテクニックを引っ提げてツイン・ギターでメタリックに迫るD_Drive。
AxSxEさんの壮絶な破壊的なギターと病的な変拍子に乗って絶妙なアンサンブルを聴かせるNATSUMEN。
70年代のハード・ロックから歌を抜いてそのままパックしたかのような名古屋の重戦車、DYNAGON等々…どれこもこれも今第一線で活動しているグループはやはり聴きごたえのあるサウンドを誇っている。
もちろん、ギタリストはこぞってMarshallを使用している。
ここで世界に目を向けるとおもしろいことに気づく。
世界的な常識として、ギターを中心としたインスト・ロックの大ベスト・セラーはナント言ってもJeff Beckの『Wired』と『Blow by Blow』、それに時代が下ってJoe Satlianiの『Surfin' with the Alien』だろう。(テケテケは除く)
これらのアルバムはそうしたスター・ギタリストの作品という趣が違うが、先に挙げた日本のグループは、ギタリストのグループという印象が薄く、あくまでも「グループ」として自分たちの音楽を作っているように思えるのだ。
もちろん、日本にもギタリスト個人で絶大な人気を誇っているケースもあるが、ロックでは稀有なれいであろう。香津美さんのようにジャズの人たちはまたチョイと成り立ちが違う。
一方、海外のロック系インスト・バンド、そうだな…Soft Machineとか後期のGONGとか、 GilgameshだのIn CahootsだのBrandXだのとなると圧倒的にプログレッシブ・ロック系になってしまう。
こうして考えてみると、日本のインスト・バンドはヘタをするとJ-POPなんて強引にレッテルを貼って商売の糧にしている音楽よりもよっぽど日本独自のものであるのかもしれない…なんて考えてしまった。
もしかしたらThe VenturesのDNAが知らないうちに組み込まれてしまっているのかもしれない。The Venturesはもはや日本の音楽だと思う。
こうしたインスト・バンドが支持されている状況は、パンク/ニューウェイブ・ムーブメント以降器楽演奏レベルが低下する一方の音楽制作現場に警鐘を鳴らしているようで大変頼もしく思う。
このTHICKも同様だ。しかし、好事魔多し。
こうしたインスト・ミュージックは「両刃の剣」的な要素が多分にあって、器楽演奏が前面に押し出されるのはいいのだが、歌詞がない分曲のクォリティがすべてを決めてしまう。
しかも、ロックの場合、どうしても耳馴染みのいいメロディを宿命的に必要とするので尚更だ。そうでないとまったくおもしろくなくなってしまう。(Strange Beautiful & Loudは例外)
ジャズが存在できる理由はそこにあったりすのではないだろうか?
あんなアドリブ・メロディ、ワケわかんないでしょ?30年以上聴いている私でもいまだにワケわかんないだもん。だからこそ聴けるのね。
ジャズのアドリブが一聴してワケがわからないのは、ロックに比べてメロディの自由度がケタ違いに高いからだろう。だからおもしろいし味わい深いのね。
早い話し、当たり前のことだが人を惹きつけるメロディが作れるかどうかにかかっているワケで、いくら超絶技巧をこらしてfく雑な演奏を展開しても、曲がつまらなければ誰も魅力的に思わないということ。
大変な音楽なのだ。この日のTHICKの演奏はハードかつナイーヴ。緩急自在、密度の濃い演奏に徹した。
CDのうたい文句からするとよっぽどゲップが出るほど始終ギターを弾きまくっちゃうのかと思ったらさにあらず。
自分たちの音楽を大切にしたバランスのいいプレイだった。それを支えるリズム隊も協力!
テクニカルなベース・ソロも大歓声を浴びていた。
いつも書いていることだが、こうしたグループがドンドン出て来て、本当の意味で「楽器を弾く」喜びを若い人たちが再発見してくれることを願って止まない。
THICKの詳しい情報はコチラ⇒Masaya Shinohara Official Web Site