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2021年5月21日 (金)

PROG TOKYO 2021 SPRINGのALL IMAGES BLAZING~私のプログレッシブ・ロック

 
今日はプログレッシブ・ロックの話。
最近でこそ「プロッグ・ロック」なんていう言葉を耳にするようになったけど、また渡英の経験がなかった23年前のちょうど今頃、当時Marshallのデモストレイターをしていたジェフ・ホワイトホーン(現Procol Harumのギタリスト)から初めてこの言葉を聞いた時その意味がわからなかった。
「イギリスではやっぱりプログレッシブ・ロックが盛んなんですか?」と尋ねると、「プログレッシブ……プログレッシブ…ん?もしかして『プロッグ・ロック』のことを言ってるの?
ハハハ、今UKでそんなのを聴いているやつは1人もいやしないよ!」という言葉が返って来て大きなショックを受けた。
もうひとつ、2年前のMarshall GALA2の時、四人囃子SPIN OFF#1が演奏する「一触即発」を聴いたMarshallの社長の奥さんが「どこで拍手をすればいいのかわからなかったわ!さすがプロッグ・ロック!」と言っていた。
この曲をご存知の方は意味がおわかりのことと思う。
自称「Uxbridge Girl(Uxbridge=アクスブリッジはロンドン西部にある町の名前)」の奥さんは70年代のロックをリアルタイムで、しかもロンドンで経験している人。
だから「Prog Rock」なんて言葉がスラっと出て来る。
しかし「70年代のロックをロンドンで経験した」…なんて羨ましいよナァ。
ナニもバラカンさんだけでなく、当たり前の話だけどロンドンに行けばこういう人がゴマンといる。
70歳を超える女性から「Edgar Broughton Bandをよく観に行った」とお聞きしてビックリしたこともあった。
観に行くのも「ハマースミス・オデオン」とか「マーキー」とか「スピークイージー」だからね!
つくづく、ことロックに関して言うと、神様は決して公平ではないと思うよ。
 
さて、翻って見るに今の日本のプロッグ・ロックはどうか…。
若い人は「プログレッシブ・ロック」なんて言葉すら知らないでしょう。
最近、「英国ロック」という言葉をよく見かけるんだけどアレは何だろう?
その前は「UKロック」という言葉を散見した。
10年ぐらい前、オモシロがってイギリス人に「UK Rock」という言葉を使ってみたところ、「ナンダそりゃ?そんな言葉はこの世にないよ。アノね、それは『ブリティッシュ・ロック』っていうんだよ」と完全にバカ扱いされたわ。
まぁ、言葉もそんな具合だし、今はビートルズの音楽すら知らない人が多いぐらいなんだから、世代間の音楽の受け渡しはもはや絶望的だろう。
とにかくプログレッシブ・ロックが絶滅の危機に瀕している音楽の最右翼であることは間違いない。
 ところが!
その一方でこんなイベントが開かれているのはどういうことだ!
『PROG TOKYO』…うれしいじゃあ~りませんか!
2017年からスタートし、毎年春秋の2回開催されているという。
その名の通り、プログレッシブ・ロックのバンドが「プログレッシブ・ロックの聖地」の異名を取る吉祥寺のシルバーエレファントに集うイベント。
私は普段ロックの他にジャズだ、クラシックだ、民族音楽だ、と騒いでいるけど一番好きだったロックのジャンルはプログレッシブ・ロックなんです。
そこで、その遍歴をココに書いたんだけど、前置きがあんまり長くなってしまうので、巻末へ引っ越した。
お時間があれば最後まで読んでやってください。
10ココから先は5月2日に開催されたその『PROG TOKYO 2021 Spring』のレポート。
出演は、イベント・ホストのあらんちゃんバンド(仮)とALL IMAGES BLAZING(以下「AIB」)。
お邪魔したのはAIBの方。
AIBは以前にも何度かこのイベントに出演している。

さて、リーダーの片岡さんはKRUBERABLINKAに在籍した時からのお付き合い。
オランダにTraceというキーボーズ・トリオがいて、このバンドの音楽を紹介するに「クラシックの楽理とジャズのリズムや旋法を同じレベルで学んだ人が聴くとすさまじくオモシロイ」という記述があった。
Traceがクラシックのパロディやワンコードで延々とジャズ・フレーズをつなげていくサマはそんなのを学んでいなくても十分にオモシロイ。
この辺りのことを鹿鳴館の楽屋で片岡さんに持ちかけると「Traceってリック・ヴァン・ダー・リンデンのTraceですか?」とスラリとお答え頂いた。
その瞬間、「ああ、こっち側の人だ」と確信した。
そして、「『ALL IMAGES BLAZING』というバンドを新しく結成したので聴いてみてください」とファースト・アルバムを送って頂いた。
聴いてビックリ!
私が「プログレッシブ・ロック」という音楽に対して期待するサウンドがギッシリ詰め込まれていたのだ!
関西を拠点としているバンドだけになかなか拝見することができなくて、この日とうとうその機会が巡って来たというワケ。

10sこの日のステージは3枚目のアルバム『Crimson Red』のレコ発ツアーの東京公演。
今回のアルバムも前もって送って頂いていた。
ま~、こんなに色んなことを詰め込んじゃって!というのが第一印象だった。
でも、こういうの大好きなのよ!
Yesの『Close to the Edge』じゃないけど、本番でどこまでこのサウンドを再現できるのか、この日のナマ演奏をすごく楽しみにしていたのだ。
そして、聴いていてどうしても気になるのがアチコチに出て来るロックの名曲の断片やイメージの数々。
失礼かも知れないが、黙ってはいられない私のこと「アソコはアレですよね?」といくつか片岡さんに確認すると、イヤな顔ひとつせず「このアルバムではホンマに好きなことをやらせてもらいました。もうね、『オマージュ』とかいうんとちゃいますねん。好きなモノを好きなようにそのまま使ことるんですわ」と答えてくれた。
 
コレでいいのだ!
まさに正解であり、これこそが正しい「ロックの伝承」の仕方だと私は思うのです。
そもそもLed ZeppelinだってDeep Purpleだってブルースを素材に同じ手法で自分たちの音楽を作り上げたワケでしょう?
やっぱりコピーはどこまでいってもコピーでオリジナルにかなうワケがないからね。
コピーで音楽を伝承することはできないでしょう。
過去のいいものをドンドン取り入れて自分たちの音楽を磨き上げる温故知新の手法は音楽を活性化させるひとつの有力な手段だと思うのです。
そこで今日は私がこのアルバムに収録されている曲を聴いていて気が付いたことを交えながら、ライブのレポートをお送りしたいと思う。
95cdところで、もうひとつ気になったのはこのタイトル。
「Crimson」に「Red」といえば「うなぎに山椒」、「スイカに塩」みたいな「つきモノ」だけど(King Crimsonのことを言っています)、コレ両方とも「赤」という意味じゃない?
他にも有名なナサニエル・ホーソーンの『緋文字』の原題は「The Scarlet Letter」。
この「scarlet」も「緋」というぐらいだから「赤」を意味する。
また、色鉛筆に「Vermillion」という赤いヤツがあるでしょ?…コレは朱色を意味する。
「フーム…コレはオモシロそうだ」と思い、「赤」関係の英単語にどういうモノがあるかを調べてみた。
red, scarlet, vermillionの他にも…
garnet
cardinal
blush
carmine
magenta
claret
burgundy
rose…等々。
意味はご自分で確認して頂くとして…日本語で言う「ワインレッド」や「赤紫」なんてのも含めておいたけどかなりたくさんあるようだ。
戦争ばっかりやって来た民族の言葉だから、「血」の色を表現するために色々な言葉が使われるようになったのではないか?…なんて勝手に想像してみたよ。
でもね、こと「色」の表現に関しては恐らく日本語の敵じゃないと思う。
日本は着物に使う反物の色を表現するために、色の名前がアホほどたくさん存在している。
日本人は繊細なのよ。
そういえば1981年にKing Crimsonが初来日した時、私は今は無き浅草国際劇場で観たんだけど、「Red」を演奏する前にエイドリアン・ブリューが「The next song is…ア~カ~」ってやったのがすごく印象に残っている。
AIBの「Crimson Red」はジャケットにあるように夕焼けの「赤」ね。
  
『Crimson Red』のオープナー「Roll on Tomorrow!」が流れる中、メンバー4人が登場。

20キーボーズ/リーダーの片岡祥典。

Img_2604 片岡さんの機材。
並べてカッコいいのはMarshallだけじゃない。
鍵盤楽器もこうなると圧巻だ。
ああ、もしもピアノが弾けたらなぁ~。
でも、組み立てとバラシは大変だぞ!
15ギターは楠戸洋一50v楠戸さんはMarshall。
JCM900 4100と1960Aのハーフ・スタック。
「くすど」さんとはなかなかにお珍しい…フーム、岡山に多い姓なのか。60vベースは藤井博章70v藤井さんにはEDENをご愛用頂いている。
WTP-900だ。80ドラムスは尾崎正敏。90v1曲目はアルバム5曲目の「The Moon is Laughing at us」。
ノッケから壮大なスケールで鳴り響く片岡さんのオルガン。

110疾駆する7/4拍子のリフを経てギターが主題を奏でる。120そしてシンガーが加わる。
100ボーカルズは田中敦子。
30vボーカル・パートになるとクルリとリズムを変える。130v曲はその後も何度もリズムや調子を変えてクライマックスに向けて突き進んでいく。
そうだよ、コレだよ、コレですよ!
私が期待する「プログレッシブ・ロック」のサウンドは!1402曲目の「Change Before You Have to」もオルガンのサウンドがガンガン押し寄せて来る。
BbのペダルトーンでDeep Purpleの「Might Just Take Your Life」を匂わせる。
オルガン・サウンドっていいもんだナァ。
150v_cbyhtそして、コレは…Genesisの「Watcher of the Skies」のようなキメ。
160これまたスティーブ・ハケットがいかにも弾きそうなフレーズが乗っかってくる!
ク~、タマらん!
200サビ(っていうのかな?)の「♪Don't break me down, bring me down」のメロディとオルガンの合いの手がものすごく耳に残るんだよね。180v今度はYesで「Roundabout」。
しかも歌詞は「♪Hold down」と「Siberian Khatru(サイベリアン・カートゥル)」を思わせる。
コレがAIBサウンド…コレでいいのだ!
チャンとしたロックを聴き込んでいれば聴き込んでいるほどオモシロく、そしてカッコいい!
190「ありがとうございます!
『Crimson Red』という新譜を出したAll Images Blazingです。
今日の衣装は白、白、赤、赤…紅白引き分けですね。
こうなったのは別に仲が良いからというワケではありません。
(片岡さんの方を見て)エルトン・ジョンですよね?
電撃ネットワークじゃないよね?」205_mc「アー写をコレで撮って出したら電撃ネットワークの方からフェイスブックの友達申請が届きましたよ!
今日は初めて演る曲ばかり…9割が新曲です。
どうぞ楽しんで帰ってください!」
40v片岡さんの装束はもちろんこのレジ。
あ、久しぶりに書きますが、リアルタイムでエルトン・ジョンの全盛期を体験したイギリスの人はエルトン・ジョンのことを「レジ」と呼びます。
本名を「レジナルド・ケネス・ドワイト」といいます。
あ、今は「サー・エルトン・ジョン」か…。
ちなみに、「エルトン」はSoft Machineのサキソフォニスト、エルトン・ディーンから、「ジョン」はブルース・シンガーのロング・ジョン・ボールドリーから借用したとか…。
ボールドリーはロッド・スチュアート、ジュリー・ドリスコル、ブライアン・オーガー、ミッキー・ウォーラー等とSteampacketなんてバンドをやってましたな。
後にジェフ・グループに参加するドラムスのミッキー・ウォーラーはジム・マーシャルのドラム教室の生徒さんです。
 
下の写真はマンチェスターの中心地をブラブラ歩いていて出くわした小さな画廊の店頭に飾ってあった美術作品。
どこが「美術」なのかというと…270_3全面に小さなロケットが引き詰められている。
作品のタイトルは当然「Rocket Man」。
レジが相棒のバーニー・トウピンやプロデューサーのガス・ダッジョンらと運営していたレコード・レーベルも「Rocket Record」といった。
エルトンは今も「Rocket」が付いた名前の事務所を運営していて、イケメンのチェロ・デュオ・チーム、2Cellosが所属しているんよ。280_3次も片岡さんのキーボーズからで、静かにスタート。
曲は新譜の4番目に収録されている「Fall Asleep to Dreams」。210_fatdそこに藤井さんのフレットレス・ベースが絡む。
ん~、いい音だ~。
170初めてこの曲を聴いた時、もうイントロでグワっと来たわ。
もうね「No Quarter」と「Love to Love」なワケ。
片岡さん、よくこんなところに目を付けたな~。
ってんで「Love to Love」を聴いてみて驚いた、コレって7/4と5/4の変拍子になっていたのね?
高校の時よく聴いていた曲だけどゼンゼン気がつかなかった。
その時代以来聴いてなかったのでAIBのこの曲がすごく心に沁みた…イヤ、待てよ、違うわ。
2010年のロンドンの「High Voltage」でフィル・モッグが歌ってたわ。
年甲斐もなく小声で「♪みすてぃぐり~ん」と一緒に歌ったのを思い出した。
しかし、そもそも「No Quarter」と「Love to Love」のイントロって雰囲気がよく似ていたんだな。

220メロトロンをバックにシットリと歌い込む敦子さん。
ホンモノのメロトロンでなくたってゼンゼンOK。
この雰囲気が大切なのです。
230ワルツのパートではアコーディオン風のサウンドでまた異なった雰囲気を醸し出す。
なんて盛りだくさんなんだ~!250尾崎さんのドラムスから「I'm lost inside of you」。

260v_ilioy雰囲気がいきなりファンキーに!

270そして、次に出演したイベント・ホストのあらんちゃんバンド(仮)から月本美香を迎えた。
美香さんも以前から存知上げておりましてね。
この日はAIBが終わって失礼しなければならなかったので、残念ながらステージを拝見することができなかった。
なので、この1曲でその熱唱を楽しませて頂いた。280グルーヴ感満点の藤井さんのベース。
しつこいようだけど、いい音だ~。
ヌケがスゴイ。2902人のコンビネーションは完璧!300仲良し缶丸出しで見ているこっちもすごく楽しくなったよ。
330楠戸さんのギター・ソロ。
音を選ぶタイプのギターですな…いいもんです。
Vintage Modernをお持ちだと以前お聞きしたことがある。
アレは名器でした。
大切にしてください。310vココでもオルガンやクラヴィネット風サウンド、ストリングスと多彩な音色を使い分けて曲をパノミックに演出する。
320v2人の激唱とノリノリの演奏でドッカ~ンと盛り上がった!
CDでは「♪Storm is coming」のところがどうしても「トニー谷」と聞こえるのは私の「空耳」ということで…。

350「新しいコスプレ」と紹介したのが片岡さんがかけているサングラス。
音声センサーがついていて、キャッチした音の周波数で色が変わるというモノ。
写真はそのデモンストレーション中。
昔、リッケンバッカーにもそういうギターがありましたな。
340_l4ココで新作から離れて、ファースト・アルバムから「Love 4」。
380豪快にブっ飛ばすAIBのドライビング・チューン!

350v当然、こういう曲ではガツンとしたギター・ソロが不可欠だよね~。

365ドライビング・チューンとはいっても、そこはAIBのこと。
仕掛けやらキメ満載でカッコいいことこの上ない!
片岡さんのソロも爆発!
今にして思うとこの片岡さんのプレイもトニー・バンクスっぽかったんだな。

Img_2715本編を締めくくったのはニュー・アルバムのタイトル・チューン「Crimson Red」。
藤井さんのフレットレス・ベースがジト~っとしみ込んでくる。
400vメジャーになったり、マイナーになったり…そして、それをグッとまとめるかのようなサビのメロディがとても素敵だ。

390インスト・パートではギターと…430vキーボーズの掛け合いで聴く者の耳を惹きつける。410vひとしきり暴れた後…420戻った歌のパートが1曲目の「Roll on Tomorrow!」なんだな。Img_2608片岡さん、ウマい!
コレもGenesisの『A Trick of the Tale』なんかにも使われているテクニック。
こうしてループを結ぶことにより「コンセプト・アルバム感」というか「ドラマ感」が猛烈に引き立ってくる。

Img_2732この日、「Roll on Tomorrow!」は実際に演奏はしなかった(実はとても楽しみにしていたの)けど、オープニングSEに使われていたので見事にアルバムを再現したと言っていいでしょう。0r4a0083「どうもありがとう!」

440アンコールはセカンド・アルバムから「Too Late to Be Saved」。450_tlt最後まで一糸乱れぬバンド・アンサンブルで自分たちの音楽を綴った5人…

460v

470

480

490なんだけど、楠戸さんはこの日がAIBのラスト・ステージとなった。500このレコ発ツアーの残りはyasuさんというギタリストを新しく迎えて続行されることが数日前に発表された。
間髪入れず前進を続ける姿勢が素晴らしい!
どうか日本のプログレッシブ・ロックの火を艶やかに灯し続けてくだされ!
 
ALL IMAGES BLAZINGの詳しい情報はコチラ⇒Official facebook510v後はオマケ。
 
この「プログレッシブ・ロック」という言葉ほど、良く言えば「間口が広い」、悪く言えば「定義がいい加減」な音楽のジャンルはないね。
ハード・ロックはハード・ロックじゃん?
ブルース・ロックはブルース・ロックじゃん?
ジャズ・ロックはジャズ・ロックじゃん?
大変カチっとしている。
ま、ジャズ・ロックに関しては、ロックの人が演ると「ジャズ・ロック」だし、ジャズの人がやると「ロック・ジャズ」になるんだけどね。
屁理屈だけど、コレは演奏中に使っている音楽の言葉が作り出す違い。
で、ことプログレッシブ・ロックとなると…
*曲が長い
*ブルースを感じさせない
*変拍子を多用する
*珍しい楽器を使う
*メロトロンを使う
*何やらワケがわからない
*変
…等、この辺りのどれかが当てはまるとみんな一緒くたに「プログレ」にくくってしまう傾向があるでしょう?
別にどうでもいいことなんだけど、どう聴いても我々世代が認識している「プログレッシブ・ロック」とは様相を異にしているのにそう呼ばれているのはどうもガテンが行かない。
例えばDream Theaterとか?
あのDream Theaterのフォロワーさんたちの音楽は技術的には確かにスゴイけど、ナニをどうやってもプログレッシブ・ロックには聞こえない。
海外に行くと驚いたことにD_Driveの音楽も「プログレッシブ・ロックっぽい」って言われるんだよ。
要するに上に書いたように定義がメチャクチャなワケよ。
 
つまるところプログレッシブ・ロックか否かを判断するのは、曲の形式やインストゥルメンタリゼーションではなくて、その精神性が「進歩的」かどうかということなんじゃないかしらん?
例えば、Jethro Tullもプログレッシブ・ロック・バンドのひとつに数えられることが多いけど、『Thick as a Brick』や『A Passion Play』のようにA面B面で1曲の変拍子を含む長い曲を作って演奏しただけで、いわゆるプロッグ・ロックのサウンドではないと思うの。
一方、同じA面B面で1曲の『Tubular Bells』なんかは猛烈にプログレッシブ・ロック性を感じるでしょ?
トッドの『A Wizzard/A True Star』辺りもメチャクチャやってるけど全然プログレッシブ臭を感じない。
一番いい例はザッパだろう。
私は14歳の時に『Fillmore East - June 1971』を買ってから45年間フランク・ザッパの音楽を聴いて来たが(一時期中断あり)、彼の創作する音楽がプログレッシブ・ロックに聞こえたことはただの一度もない。
その時代に、従来のモノとは違う「進歩的(プログレッシブ)なロック」を作り出そうとして出来上がった音楽がタマタマ上の手法を取り入れていた…コレだけの話なんじゃないかしらん?
音楽理論と同じで理屈は後から付けられるからね。
そして、当時のロックに飽き飽きしていた人たちが「ウワ!ナンじゃこりゃ!」とビックリして飛びついた先がKing Crimsonであり、Pink Floydであり…。
そして、それらの音楽は人呼んで「プログレッシブ・ロック」となった。
…ってところじゃない?
だから、「人と同じがいい」みたいな現在風潮の音楽界からは生まれてこない音楽のひとつでしょう。
そもそも制作サイドが儲からないしね。
 
そこで、その考え方に則って最もプログレッシブ・ロックらしいバンドはナニか?と考えるとダントツでKing Crimsonだと思う。
アルバムごとにスタイルを変えて、80年代に入り、どのバンドも時代に媚を売る中『Discipline』を出したでしょう?
出てすぐに出来たばかりの渋谷のタワーレコードで買ったのを覚えている。
聴いてメチャクチャ感動した。
あの後、黄色いのや青いのを出してしばらく締まりがなくなったけど、またその後にスタイルを変えて自分たちだけの音楽を作り続けるこのスゴさね。
でも、もっとスゴイのは、このバンドがいつでも大衆の支持を受けていることでしょう。
好きなことをやって、売れて、それでいて芸術性が高い…こんなの他にマイルス・デイヴィスとパット・メセニーとフランク・ザッパぐらいじゃない?
 
さて、ここまでプログレッシブ・ロックを熱く語りたくなっちゃうのは冒頭で触れた通り、好きなのよ、プログレが…。
以前から折に触れてチョコチョコと何回か書いてはいることだけど、今日まで45以上年音楽を聴いて来て最も時間を費やした音楽はジャズなんだけど、ロックに関して言うとダントツでプログレッシブ・ロックなのね。
 
初体験は13歳の時にラジオで聴いた「21世紀の精神異常者」だった。
1976年のことだったので、アレは『宮殿』がリリースされてから7年後のことだったのか…。
問答無用で「カッコいい!」と思ったね。
そしてアルバムを買って聴いたけど、「Moonchild」の後半あたりはかなりシンドかった。
オコチャマだったから。
その次が『Tarkus』ぐらいだったかな?
コレは数寄屋橋のハンターで生まれて初めて買った中古レコードでもあった。
ココから私の中古レコード人生が始まったんだナァ。
こんな私でもYesやらPink Floyd等、一応王道ものにひと通り夢中になっていたワケです。
『The Dark Side of the Moon』は随分聴いたけど、Pink Floydはいまいち性に合わなかったな。
でも1977年に『Animals』が出た時は大騒ぎだったのをよく覚えている。
私も買って聴いたものの、前の2作ほどには夢中にはならなかったナ。
正直言って『Atom Heart Mother』もどこがオモシロイのかがよくわからん。
そのくせ、こんなことはやってます⇒【イギリス-ロック名所めぐりvol.9】 バタシー発電所

Kc

El_2

ハードロックに飽きてしまっていたので、その後も色々とプログレッシブ・ロックを聴き続け、Gentle Giant、Van Der Graaf Generator、The Enid、Curved Air、Isotope、Greeslade、Nice、Brand X、Moody Blues、またSoft Machine、Caravan、Hatfield and the North、Matching Mole等のカンタベリー一派も好きでカンタベリーに行ってみたいと思ったもんです。
その後2回ほど訪れたけど、とても美しい町でロックを抜きにしても実にいいところだった。

そのレポートは⇒【イギリス - ロック名所めぐり vol.15】 カンタベリー…プログレの聖地
もう1回が⇒【Shige Blog】イギリス紀行 2015 その6~カンタベリー巡礼

とにかくブリティッシュ・プログレッシブは片っ端から聴いた。
でもね、RenaissanceとかCamelは苦手だった。
UKなんかも2枚目にはガッカリしたな…コンサートはヨカッタけど。

Gg

Bd
GongやAngeのフランス勢。
聞き慣れないAngeのフランス語の歌が最高にキテレツに聞えてクラスのロック好きの友達と大爆笑したものだった。
Gongは一般的に評価の低いこのライブ盤が好きだった。
1977年、リアルタイムで買った初めてのGongだったから。
Gongはデヴィッド・アレンの時代もいいし、後のピエール・モエルランのフュージョン期も好きでよく聴いたナ。
ちなみにこのスゴ腕ドラマーの苗字(Moerlen)の正確な発音が知りたくて毎年日本にやって来ていたフランス人に実演してもらったことがあったがとてもマネできなかった。
Atollとか、Zaoとか、Pulsarとか、Tai Phongとか、フランスもいいバンドがいるんだよね。
Magmaなんかも好きだったけど、後年ストラヴィンスキーを聴き出したら興味が失せちゃった。
スティーヴ・ヒレッジっていいよね。

Ange

Gon

イタリアものは今でも好きで時々聴いてる。
PFMを聴いてハマってすぐにArti e Mestieriを買った。
Banco Del Mutuo Soccorso、Formula 3、Quella Vecchia Locanda、Latte e Miele、Le Orme、New Trolls、Osanna…こうして見るとイタリアはなかなかに層が厚いな。
ディスク・ガイド本を見ては買い漁ったけど、どれも個性があってオモシロかった。
イタリア語は音が柔らかく、ロマンチックな響きなのでロックにもすごく合うんだよね。
それがオペラを通じてイタリアを世界一の音楽の国しているひとつの要因でもあるんだな。
大分前にPFMのヴァイオリニストに(マウロ・パガーニではない人)JCM2000のフル・スタックを貸し出したのはうれしかったけど、ライブは期待したほどではなくてちょっとガッカリした。

Pf

Aem

オランダにはFocusがいたしね。夢中になったナァ。
今日の最初に出て来たTraceとかFinchなんてもヨカッタ。

F3

Tr
ハンガリーのOmegaやAfter Cryingとか、ポーランドのSBBとか、大分後になって東ヨーロッパのバンドにも手を出した。
そんな中でポーランドを代表する歌手(らしい)、チェスワフ・ニーメンの下の2枚はすごくヨカッタ。
向かって左の『Niemen Aerolit』は「チャンとしたプログレッシブ・ロックが聴きたい!」という人におススメ。
この人、とにかく「歌を歌うために生まれて来た」としか思えないぐらいの魅力的な声の持ち主で、ひとつ前にリリースした向かって右の『Mourner's Rhapsody』にはそんな魅力が詰まっている。
プログレ臭もまあまあ。
で、スゴイのは一体ナニが起こったのかは知らないが、レコーディング・メンバーが「なんじゃコリャ?」状態。
まず、ドラムスがヤン・ハマー。
ベースが同じくマハビシュヌからリック・レアード。
ギターにジョン・アバークロンビーとスティーヴ・カーン。
キーボードはドン・グロルニック。
どういうワケがフルートがベテラン・サキソフォニストのセルダン・パウエル。
そして、ヴァイオリンがポーランドの名手、マイケル・ウルバニアク…この人はスウェーデンのSteeplechaseから何枚かリーダー・アルバムを出していて、チャンとしたビバップを演っている。ラリー・コリエルとの共演盤が私の愛聴盤なんです。
 
このニーメンみたいな場合もあったけど、こうした辺境モノは玉石混交もいいトコだったナ。
 
バルカン地方の音楽はすごく魅力的だと思うし、ロシアが本気になってスラブ系のメロディをロックに持ち込んだらまたオモシロいのが出て来そうな気もしている。

Niemen_2

Nie
…とマァ、私なんざぁ真のマニアの人にはとてもかなわないけど、一応若い頃に片っ端からプログレッシブ・ロックを経験してみた。
しかし、ドイツ勢だけはどうしてもムリだった。
Canぐらいならまだいいんだけど、Kraftwerkにはじまって、FausutとかTangerine Dreamとか、Ash Ra Tempelとか、マニュエル・ゲッチングとか、クラウス・シュルツェとか…ムリ。
ドイツ人と結婚した家内の親友がいるんだけど、この辺りの話になりましてね、その彼はこういうのが大好き。
で、ノイバウテンっているでしょ?
音楽が好みではないことも手伝って、この人のファースト・ネームがどうしても覚えられない…なんて話をしたら「アインシュテュルツェンデ・ノイバウテンのこと?」とスラっと口にしたのには笑った。
ちなみに私が知っているドイツ人は、特段若いワケでもないのにナゼかみなScorpionsをイヤがる…「古臭い!」っていうんだよ。

Ft

Art

私が若い頃はパンクやらニューウェーブやらテクノなんてのが全盛で、「ぷろぐれっしぶろっく」なんてモノを聴いている人は周りにまずいなかった。
「80年代の商業ロック前夜」とでも言えばいいのかな?
ヘソ曲がりだった私は例によって『ベストヒットUSA』を見て喜んでいる連中の気が知れなかった。
その当時から「あんなのロックじゃない」ってやってたんだもん。
つくづく自分は「70年代ロックの化石のガンコジジイ」だと思うわ。
しからば何が一番好きか…と訊かれると(誰も訊いてくれないけど…)、「現時点で」というか、「最終的に」というか…いわゆる「プログレッシブ・ロック」の括りで言えば、イタリアのAreaが一番好きかな?
それと、イギリスに行くようになってから俄然オモシロくなったのがGeneis。
この2バンドは今でもよく聴いています。
ディメトリオ・ストラトス…ソロ・アルバムには腰を抜かしたけど、惜しいことをしたな。
Areaみたいなバンドがズット新作を作り続けてくれていればどんなにヨカッタか…。

Ar

Gn

一度自由に自分のプログレッシブ・ロック遍歴のことを書きたいと思っていたのでスッキリした。
最後までありがとうございました。

 200_2 
(一部敬称略 2021年5月2日 吉祥寺シルバーエレファントにて撮影)