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2013年6月19日 (水)

【イギリス-ロック名所めぐりvol.9】 バタシー発電所

やっぱりロック・ファンなら絶対に気になるよね~、「東京電力千住発電所」…違うか!
 
スゴイよな~、こんなモノが街の真ん中にあって、昭和38年までガンガン石炭を燃やしていたんだから。
「地球の気温が上がる」なんて全く知らかった時代の話。
「オバケ煙突」ね。
私は昭和37年生まれなので見た記憶は全くないが、生まれも育ちも浅草の父が時折話していたのは覚えている。
「見る角度によって本数が変わるんだぞ!」って。
だから「オバケ」なのね。
Oe さて、ロック・ファンの間で煙突とくれば当然Pink Floydの『Animals』。
『Wish You Were Here』以来2年ぶりのPink Floydのアルバムだということで大きな話題になっていた。
私が中学3年生の時かな?
「犬」だったか「羊」だったか、発売前にラジオで収録曲を聴いたんだけど、それまでに聴き狂っていた『The Dark Side of The Moon』や『Wish You Were Here』に比べるてどうもピンと来なかった。
でもジャケットは「カッコいい!」と思った。
そこに写っている、白い4本の煙突を擁する薄気味悪い建物が「バタシー発電所(Battersea Power Station)」という名前であることを知ったのは大分後になってからのことだった。
そして、初めてロンドンに行った時から訪れてみたいと思っていた場所のひとつだった。

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バタシーに行くにはこの「London Victoria」駅を使う。
ココから国鉄でたったひと駅。
ロンドンの中心街の南側、テムズ川を渡ってすぐのところにある。
なんてエラそうなことを言っていても最初はよくわからなかったので、さっそく駅の案内所でどの電車に乗ればよいかを尋ねた。
係員は50がらみの黒人。
「スミマセン、バタシー発電所に行きたいんですけど?」と告げると、「ナニナニ、バタシーに行きたいのか?へへへ~、そうかそうか!バタシーに行きたいのか~」とナゼかメチャクチャうれしそう。
…と思ったら「へへへ。実はオレ、昔アソコで働いてんだよ~。」とのこと。
ていねいに出発番線を教えてくれた。Ert_20
Victoria駅を出たかと思うとすぐ着いちゃう。
乗車時間は約5分。

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駅の名前は「バタシー公園(Battersea Park)」。
ホームに降り立つともうあの白い煙突が見える。
興奮する~!
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駅の階段。
ロンドン周辺の公共の交通機関の設備はどれも貫録があっておもしろい。
木造だよ。

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同じく木製の渡り廊下。
なつかしいな~。東京の小学校でも1970年ぐらいまでは校舎はこんなんだったな。
塗りたてだったのか、ペンキの匂いがスゴイ!

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エントランス・ホールもまるで博物館のようだ。ほぼ無人駅。

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外観も立派!

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駅のそばの交差点に立っている標識。ここには「Battersea Park」という大きな公園があるのだ。

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街はかなりヒッソリとしていて、スレ違う人は色黒の方が多い。

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駅から5分も歩くとコイツが現れる。

発電所に向かう途中、モーターウェイ(mortorway:イギリスでは高速道路のことをこう呼ぶ)があり、それをまたぐ陸橋がかかっている。
発電所の周りはガッチリと囲いがめぐらされていて、なかなか設備を上から下まで撮影するポイントが見つからない。
仕方ないのでその陸橋の欄干にヨジ登って撮影した写真が以下の何枚か。

通る人たちがジロジロと見ること見ること!
果たして熱狂的なPink Floydファンと思われただろうか?…私、特にファンではないんだよね。

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天気も良くて『Animals』の雰囲気とはまったく違う!

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ものすごいデカさ!
レンガ造りの建物としてはヨーロッパ最大だそうだ。
ダムもそうだけど私はこういう人間が作ったバカデカイものが好きなのだ。

しっかし、こんなにデカイ火力発電所が街中にあるとはね~。
冒頭で触れた「オバケ煙突」と同じ。
オバケ煙突は1925年の建設。なんとバタシーより早かったのだ!
でも千住が1964年に廃止になったのに比べ、バタシーは1983年まで使っていたというのだから驚き!
1983年なんてつい最近だぜ!

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内部に陽が差し込んでいる。つまり、撤収したのか朽ち果てたのか、もう屋根も天井もないのだ。

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やはり一番の見どころはこの巨大な4本の煙突。って三本しか写ってないけど…。
ココも「オバケ煙突」なのよ。

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コンクリート製の煙突の長さは53m。最後部は地上から103mにもなる。根本の直径は8.5mもあるそうだ。

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この建物は、1929年に着手し、1933年に稼働を開始した時分にはこの写真の向かって右側しかなかった。
つまり煙突は2本しかなかったワケだ。

その後、ロンドンの電力需要が増えるにつけて増床することになり、1944年に工事を開始。
1953年に(この写真の)向こう側の建物が完成し、4本の煙突が出そろった。
その2年後の1955年から完全に稼働開始となった。

1983年にその役目を終えるまでロンドンでももっとも有名なランドマークの座に君臨した。Shige Blogでも触れたが、バタシー発電所は国から「Listed Buildings(保存すべき重要な歴史的建造物)」の「GradeII」の認定を受けている。
ところが後でイギリスの友人から聞いた話では、この「Listed Buildings」というのは「Grade I」、つまり一番上のランクの建物以外は壊しても構わないことになっているのだそうだ。

例えばウエストミンスター寺院とかヨーク大聖堂とかカンタベリー大聖堂とか、こういうのは壊しちゃダメなの。
でも「Grade II」のバタシーは「ま、ぶっ壊してもいいか?」みたいな。
だからこんなにボロボロになっちゃってるのよ。
モッタイない~。

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ロンドンには同じくテムズ川の南岸に「Tate Modern」というゴミ焼却場を改装したバカでかい美術館がある。
そこも焼却場だけあって大層立派な煙突がそびえているが、このバタシーもそういう風にできないもんかな~。
セント・ポール寺院の川向いのロケーションの「Tate Modern」に比べると、バタシーはあまりにも場所が悪いわな。
もっとも街中の便利な場所にはこんなバカでかい火力発電所なんか作れるワケないもんね。

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それでもこれだけのロンドンにほど近い物件だから色々と跡地利用の話が持ち上がってきた。
最近では2006年に4億ポンドでアイルランドの不動産会社がコレを買い、発電所をぶっ壊して3,400世帯を収容する新興住宅地にしようとしたが、経営難に陥り計画は頓挫。

その後、2012年にマレーシアの会社が同じく4億ポンドでこれを買収したという。さらにその後、スッタモンダがあって、最終的には2019年までにこの設備を取っ払って宅地にするようだ。だから興味のある人は早く見に行かないと!

でも調べてみると、この建物を残しつつ再開発をするという計画もあるようだ。
そうして欲しいナァ。(2022年現在、実際に再開発中。やや詳しくはコチラ⇒【イギリス-ロック名所めぐり】vol.51~変わりゆくロンドン <その1>)。

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『Animals』のジャケットはこっちの方向から撮ったハズ…。

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ジャケットは…オイオイ全然違うじゃん!

この有名な空飛ぶブタちゃんのアイデアはロジャー・ウォーターズによるもの。
オーストラリアのジェフリー・ショウというアーティストとHipgnosisが共同でデザインした。
ホンモノのZeppelin号を作ったドイツの業者によるヘリウムを詰めた12mにも及ぶ巨大な気球だった。
これをバタシー発電所の上に飛ばしてジャケット写真を撮ろうと計画したのだ。

撮影の初日、もしブタが何かの拍子にスっ飛んだ場合に備えて狙撃手も待機したが、天候に恵まれずブタを飛ばすことはなかった。

2日目の撮影日以降、ウッカリ連絡をするのを忘れたため、狙撃手が現場に現れなかった。
そして、3日目も撮影は決行されたが、運悪く突風に見舞われ、ブタちゃんは5分もするとその姿を空の彼方に消してしまった!
本来であればその場で狙撃手がブタちゃんを打ち落としてこと無きを得る予定だった…。

ブタちゃんの姿は10万メートル上空を航行する東方面へ向かう旅客機のパイロットに目視され、ヒースローでは欠航便が出てしまった。
そんな高所にパンパンに膨らんだブタが飛んでるんだからそのパイロットもさぞかし驚いたことだろう。

結局、ブタちゃんは風に乗ってケントの農場に着陸した。
「おまんらがそんただバカデカイ豚さ落っこどすもんだで、ウチがとごのベコさが怖がっとるでねーけ!」…と地元の農夫は大激怒。

結局、ブタちゃんを修理して再チャレンジしたものの納得いくモノができず、最終的に写真を合成してジャケットを完成させた。

ま、ココはコーナーが違うんでうるさくはいわないけど、こういうことなんですよ。
ジャケットひとつ作るのにこの情熱!
だからジャケットはオモシロイ!
今ならこんなことはしないでいきなりCGだね。
イヤイヤ、それどころかジャケットすら無くなりそうだもんね!

Hipgnosisのジャケットについてはコチラをご参照くだされ。

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何とかして中に入って写真を撮りたいけど…ガッチリとゲートが閉まってる。何しろ「メッチャ危険な建物」にも認定されているからね。

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「GATE2」か…。
行ってみるとしよう。

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塀沿いに進んで現れた工場の向かいの生コン屋。

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発電所の横をひっきりなしにゴミ収集車が通行している。
そう、この先にゴミ焼却場があるのだ。
さっきからどうも変なニオイがするのはこのせいなのね。

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発電所の真横にやって来た。

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近くで見るとますますデカイ煙突。壮観!

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写真の下の方にオジちゃんがいるでしょう。 何かしきりに話しかけてくるんだけど車の騒音スゴイのと訛りがキツすぎてナニを言っているんだかサッパリわからん。

んじゃ…と近づくと「あんまり入って来ちゃイカン!」と怒るし…。
イチかバチか「中へ入って写真撮らせてよ~」と頼んでみたがまったくダメ。
そりゃダメに決まってるわ。
「写真は外からならいくら撮ってもいいよ」というので数枚撮って退散。

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『Animals』の印象が強すぎて「Battersea」というとすぐにあのジャケットが頭に思い浮かぶ人も多いだろう。
でも、Pink Floyd以外にもバタシーの姿を確認することができるんよ。

中学1年の時に有楽町の日劇の横の地下にあった「日劇文化」という今でいうミニ・シアターで観たきりなのでまったく思い出せないが、ビートルズの『Help!』にもバタシーが出てくるんだってね?

しかしですよ、私が中学1年の時って1975年なんだけど、この『Help!』が公開されてまだ10年しか経ってなかった時なのね。
そうなんですよ、ロックを聴き出した頃ってまだビートルズが解散して5年しか経ってない頃なんだよね~。
驚くわ~。
若手のバンドのライブ会場に行くとどこでも最年長なのも仕方ないね。

話しを戻して…Judas Priestの「You've Got Another Thing Coming」(←映っている煙突、バタシーかな~?)やTake Thatの「The Flood」(←コレはいい!)などにも登場している。

Hawkwindの『Quark Strangeness and Charm』には発電所のコントロール室の写真が使われている。

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コレはThe Whoの『Quadrophenia(四重人格)』のブックレット。
Vespaに乗って疾駆するジミーの後ろにはもうもうと煙を上げて発電にいそしむバタシーの姿が見える。
『Quadrophenia』を題材にしたイギリス映画、『さらば青春の光(原題:Quadrophenia)』の舞台は1965年のロンドンだ。

1965年頃のロンドンはこうした光景が当たり前だったのだろうか?
興の覚めるようなことを言って恐縮だが、実はこの写真自体は合成らしい。
もともとのバタシーの写真にジミーが乗ったVespaの写真を乗っけてあるそうだ。
火力発電所の話もユックリ書きたいんだけどまたの機会にしておこう。

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両さんの「勝鬨橋」の話じゃないけど、4本の煙突から勇猛に煙が吐き出される光景を一度見たいものだ。

ああ、ロンドンはおもしろい。

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<つづく>
 

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