BARAKA~Superior Force Tour Final<後編>
今年の1月に『Superior Force』という新しいアルバムを発表したBARAKA。
「superior」という単語は辞書を引くと形容詞で、「優れた」とか「優位な」みたいな意味が並んでる。
要するに「上にある何かしら」を指す言葉なワケで、それもそのハズ「superior」の単語の語源は、ラテン語からそのまま借用していて、元々「上にある」という意味なのだそうだ。
誰でも知っている「super-」という接頭辞がついているからイメージが湧きやすい。
私の経験から言うと、英語圏の人と話す時は「superior」という言葉を「上司」の意味の名詞で使うことが多かった。
確かに上にいますからね、「上司」は。
また「最上の」とか「最高位の」という意味の「supreme」なんて単語はご推察の通り「superior」のかなり近いの親戚。
だからコルトレーンの『A Love Supreme』を『至上の愛』としたのはけだし名訳だと思うのです。
ま、あの不気味でハードな音楽を聴くと、コレのどこが「至上の愛」なんじゃろかな?と思わなくもないが、「私は聖人になりたい」と発言するような人がやっていることですからよくはわかりませんな。
音楽としては確かに「superior」で滅法カッコいいけどね。さて、アルバム発売記念ツアー『Superior Force Tour Final』のレポートの<後編>。
ショウも後半に突入する。
『Superior Force』収録の「Samsara」。タイトルの「サムサーラ」というのはサンスクリット語で「संसार」と書く…皆目読めない。
意味は「輪廻転生」。
平石さんがシンセパッドのタング・ドラムの音色を用いて5/4拍子のフレーズを奏でる。
とにかく延々と奏でる。
今時、普通のバンドであればココは打ち込みを使うことだろう。
それをBARAKAは人力でやってのける。「タング・ドラム」というのは「スリット・ドラム」とも呼ばれる「スティール・ドラム」の一種。
出元もトリニダード・トバゴとかあっちの方だという。
音色もよく似ている。
マレットで叩くスリットが入った部分を舌に見立てて「タング・ドラム」という名前がつけられたのであろう。依知川さんのベースと平石さんのタング・ドラムが奏でるパターンに時折音を重ねる一生さん。
多少キメのパートは出て来るものの、とにもかくにも約6分の間ずっと5/4拍子の同じパターンが繰り返される。
生まれては死に、死んでは生まれる流転の様子をその繰り返しで表現したのであろうか?そして概ね何も起こらず曲は幕を閉じる。
スゴい。
コレはもはや「現代音楽」のジャンルに繰り入れても良いのではないか?
こんなことを演っているロック・バンドは日本ではBARAKAしかいまい。続いての曲は『Superior Force』にインストゥルメンタルのバージョンを収録した沢田研二さんの1999年のアルバム『いい風よ吹け』のタイトル・チューン。
アルペジオのイントロ。クリーン・トーンを使って丁寧に歌メロをナゾる一生さん。
ク~、いい音だな~。もちろん一生さんが使っているギター・アンプはMarshall。
この日は「1987X」と「1960AX」を使用してこの美しいトーンを送り出した。
Bメロ(っていうのかな?)のパートはモジュレーションをかけて依知川さんが奏でる。
途中のマーチ風のスネア・ドラムのプレイがオモシロイ平石さんのドラミング。
やわらかめのクランチ・トーンで弾いた一生さんのソロは、音も雰囲気もバッチリと曲の流れに沿った印象的なモノだった。
BARAKAのコンサートの見どころのひとつ、一生さんのご挨拶。
「ハッ!皆さん、ありがとうございます。
元気?……元気ッ?
ヨッシャ~、じゃあ2階席もいってみるか!?」
コレは一生さん一流のギャグ。私は大いに吹き出してしまった!
「ありがとうございます。
ボク達も28年やっておりますが、人生、ナニが起こるかわからへん…って感じですよ。
思ってもみないことが急に起こったりしますからね。
ピンチがパンチですか?
パンチって『平凡パンチ』…ピンチがある時はチャンスですな。
チャンスがある時はピンチ、みたいな…それはおかしい。
ココはイコールにならないんですよ。
ピンチの時はもう笑うしかないんですよ!」…と、一生さんが笑っているのは、この時深刻なピンチを迎えていたから。
もう正式に発表されていたので、ココに書いても差支えがないと思うで書いてしまうが、一生さん、この日の2、3日前に転倒して左手の指を何本が骨折してしまっていたのだ。
開演前に楽屋にご挨拶に伺うと、「チョットこれ見てや!」と患部を見せてくれた。
少し紫色になって腫れあがった左手は、見るからに激痛のカタマリ。
「これじゃトミー・ボーリンみたいにボトルネックで演奏するしかないですな」と私が言うと「おお!その手があったか!」なんて笑っていらしたが、極めて重篤な状態にあるように私には見えた。
ところが、演奏が始まってみると、一生さんの演奏があまりにも自然で完璧だったので、すぐに手のことをスッカリ忘れてしまった。
一生さんは顔にも音にも苦痛の表情を一切出していなかったが、さぞかしシンドかったことと思う。
さすがに直後のライブはキャンセルされていた。
手は皆さんの重要な商売道具ですからね、くれぐれもお大事になさってください。「さぁ、身体をほぐしますよ。発声練習いきます!
♪ふふふふふ~…これを『はひふへほ』で。
腹筋に力入れていきますよ~。
♪はひふへほ~ハイ!」「素晴らしいね。今日は。
準備運動も出来たところで、笑っていこうか!
ネ、笑わなぁ~アカンよ!
じゃあボクが笑いますんで皆さん、コール&レスポンスでお願いします。
とりあえずみんな口角を上げて!」「ハッハッハッ!
ヒッヒッヒッ!
ヘッヘッへッ!」とお客さんとにぎやかに笑い声を交換し合った。ココで一生さんからメンバーの紹介。
「いつものメンバー紹介じゃオモシロくないんで、ボクが『シン!』ってて言ったらみんなで『シン!』って言うてくれます?
『シン』の発音は『Shing』ですからね…最後『ング』を『グー』言うたらアカンよ」「いきまっせ。
せ~の…Shing!」
チャンとお客さんも「ング」で返してくれました。「Shing」に手を上げて応える依知川さん。
平石さんは「ン~マックス」。
コチラもお客さんが器用にこなしてくれて無事平石さんが紹介された。「オレ、自分でやるの?」
「ま、ココは普通にいこうか」と依知川さんが普通に「一生!」と紹介してくれて一生さんのトーク・コーナーは終了。
さぁ、曲のコーナーに戻ろう!
この日のハイライトと呼んでいいでしょう。
「Special Medley」と題したBARAKAのキラー・チューンを接続して演奏した。
まずは「Bharmad」。10/8拍子って数えるのかな?…変拍子を全く感じさせないリフと一糸乱れぬハードなアンサンブルが気持ち良い!
時折差し込まれるベースのピックアップ・ソロがまたとてもスリリングだ。
平石さんのドラム・ソロ。
タムタムの連打でスタート。
そしてスネア・ドラムでのプレイを経てドラム・キットとシンバルの全てを鳴らしていく。
最後はバスドラムが猛り狂い、平石さんのパワーが場内に響き渡る。4分46秒にわたって平石さんが組み立てたドラムスの物語に大きな喝采が送られた。
そのまま依知川さんのソロのパフォーマンスが続く。
『BARAKA IV』から「It」。もの音ひとつしない客席に向かってディレイをかけて放つ深みのある低音。
ダブル・ストップ・フレーズを繰り返すと…
バンド演奏に入る。
メドレーは他に6枚目のアルバム『BARAKA VI』に収録されている組曲「Five Rings」の中の「The Wind Book」や「The Book of the Void」へとつなげていく。一生さんのソロから続々と変わっていく情景。
激しさが激しさを呼んでいよいよクライマックスに達したかと思うと…クリーン・トーンを用いた無伴奏のソロを弾き、レゲエのリズムを導き出す。
リズムはレゲエでもタイムは7/4拍子。
この大メドレー、この先も幾多もの場面を迎え立体的に進行していく。
その長さたるや約35分。
この日のショウの本編の演奏時間はほぼ90分ちょうど。
本編の40%弱がこのメドレーに費やされたことになる。
グスタフ・マーラーもビックリだ。その大メドレーは一生さんのしめやかなギターで幕を下ろす。
この時に沸き上がる感動はこの場に居合わせなければわかるまい。
しかし、コレは28年もの長きにわたって3人で育んで来た経験と技術と作品の蓄積の賜物ですナァ。
そうでなきゃこんな演奏はおいそれと出来ません。本編最後の曲は当然新作から。
アルバムのリード・チューン「Superior Force II」だ!
2022年の「スーパー・フォーミュラー」のテーマソングに採用され、テレビやレース会場で頻繁に使用された。
ニューアルバムには①2022年バージョン②2025年の新録音③アコースティック・バージョンの3様が収録されている。猛然と疾駆するリズム隊!
依知川さんはソロに足鍵盤にと大忙し!
印象的なテーマのメロディ。
そして合間に現れる仕掛けの数々。ストレートにドライブするBARAKAの魅力満載の1曲で本編を終了した。
28年ですからね。
その間、メンバーが変わっていないというのだからスゴイ。
今の若いバンドなんてヘタをするとデビュー前に解散したりするからね。
いくつもバンドをかけ持ちして、うまくいかないと何の惜しげももなくヤメちゃうんだから。
28年…メンバー間でお互いによっぽど大きな弱みを握り合っているか、一心不乱に自分たちだけのの音楽づくりを目指して続けて来たとしか思えない。アンコール。
まず2010年の『Inner Resonance』から「Palm Trees of the Maldives」。BARAKAのコンサートではおなじみのナンバー。
依知川さんのとても低いところでゴリンゴリンと演るベースが何とも豪壮。バラエティに富んだフィルで華やかに曲を彩る平石さん。
クリーンからクランチへと音を変化させて展開するギター・ソロ。
ステージ前に歩み出て…
行った~!
一生さんの得意技「客席弾き」。
ノッシノッシと場内をひと通りして…
「おかえりなさい」
そのままステージでも大爆発!
アンコールの2曲目は依知川さんの歌で「Come Together」。
BARAKAはビートルズ曲集を以前に発表しているがこの曲は取り上げていない。
ベース・ソロから…
再び歌に戻る。
BARAKAの仕業にしては比較的原型を尊重したアレンジだが、それでも派手にコードを差し替えてあったりしてBARAKA風味は濃厚。最後を締めくくったのは「Purple Haze」だった!
Marshallに向かって延々とフィードバックさせた後…
「みんな元気?!」
最後に一生さんがメンバーを紹介。メンバー紹介といっても「オン・ベース!」しか言わない。
「オン・ドラムス!」
再び依知川さんが一生さんを紹介して曲は幕を下ろし…
『Superior Force Tour Final』のすべてのプログラムを終了した。
「ありがとうございました!」
ツアー完走おめでとうございました!BARAKAの詳しい情報はコチラ⇒BARAKA Official Web Site