BARAKA~Superior Force Tour Final<前編>
久しぶりの「渋谷公会堂」…じゃない、「CCレモンホール」…じゃない、「LINE CUBE SHIBUYA」。
ナンカ渋谷公会堂の現在の名称を口にするのが恥ずかしい…と感じるのは私だけではないのでは?
この一帯は戦後まで陸軍の練兵場で、渋谷公会堂や区役所の場所には「衛戍(えいじゅ)監獄(陸軍の刑務所)」があって、「ニ・ニ六事件」の15名の首謀者の死刑はそこで執行されたというのだから、どうしたって驚いちゃうよね。
でも、ナンでも知らないよりは知っておいた方がいい。今日はBARAKAのコンサート。
今年1月に発表したニュー・アルバム『Superior Force』の発売を記念するツアーの千秋楽だ。
ロビーに飾られた祝い花の数々。
後ろに映っている人はBARAKAのメンバーではない…当たり前か。
屋台村もにぎやか。
「Superior Force」Tシャツが人気を集めていた。
会場にスペイシーなSEが流れる中、BARAKAの3人がステージに現れる。
1曲目は10枚目のアルバム『Trinity』から「Jupiter」。
とても3人で出しているとは思えないスケールの大きなサウンドがさっそく会場内に充満する。高見一生
依知川真一
平石正樹
ユッタリとしたリズムの中、一生さんが絶妙なクランチ加減のトーンと独特の音使いでソロを展開していく。
依知川さんはベースを弾きながらペダル・シンセサイザーを操り浮遊感にあふれた背景を演出する。
依知川さんの足元のようす。
向かって右側の黒っぽいヤツがペダル・シンセサイザー。シレっとリズムが7/4拍子に変わり…
一生さんのソロを経て…
曲は静かに終わる。
スゴイ緊張感。
これから広がっていくBARAKAの音の世界を提示するかのような深遠なアンサンブル。 2曲目は『Superior Force』収録の「Superior Force I」。
一生さんがクリーン・トーンで奏でる無伴奏のギターで曲はスタート。
そこへ平石さんのシャープなフィルが切り込んで来る!
依知川さんが出す低音が平石さんのドラミングと混ざり合ってバンドは猛烈にドライブ!
依知川さんはかつてMarshallが扱っていたEDENを使用。
音がいいナァ。とにかくその美しいクリーンなトーンには何の澱みもない。
4x10インチのキャビネットが2台と2x10インチ1台の組み合わせがこのヌケのよい低音を送り出している。テーマの提示から展開部を経てギター・ソロへ。
一生さんが超高速でスっ飛んで行く感じだ!ステージに並んだこの日の一生さんのMarshall。
1997年、Marshallが創業35周年を記念して生産した白いビンテージ・モデル。
通称「ホワイト・スペシャル」。
ステージに上がっていたのは「1959WSP」と「1960AXWSP」。
この他、50Wの「1987XWSP」と2x12"コンボの「1962WSP(=BLUESBREAKER)」、そしてアッテネーターの「PB100WSP」が同時に発売された。今日、一生さんが実際に鳴らしているのはコチラ。
「1987X」と「1960AX」。
一生さんは「ジャンプ」して1987Xを使用している。1987Xは現在も流通しているが、一生さんが所有しているのは昔のタイプ。
Marshallは2000年から2年の間、海外ではビンテージ系のモデルの販売を休止していた。
そして2002年、40周年を迎えた時…Marshallは以前生産していたすべてのビンテージ・モデルにセンド&リターンの回路を搭載して復活させた。
下の写真の通り一生さんが所有している1987Xは2000年以前のセンド&リターンがついていないモデル。
コレ、今探している人が結構いらっしゃる。
「え、センド&リターンが付いていた方が便利チヤウの?」とお思いになるかもしれないが、BARAKAのコンサートに来て一生さんのギターの音を聴けばすぐにその理由がすぐにわかる。
白い1959も同様にセンド&リターンが付いていない。
ちなみに「JCM900 4100」も海外では同じ状況で、1999年に生産を一旦終了させ、40周年に近いタイミングの2003年に「Vintage Reissue」として生産を再開し現在に至っている。 コチラは一生さんの足元。
一生さんの出すギターの音は「ああ、Marshallってそもそもはこういう音だったんだよな~」と思わせてくれる。
1970年代、私が高校の頃に新宿ロフトや渋谷の屋根裏でよく聴いた音だ。
そのカギはまずクリーンにあり。
絶対にMarshallからしか出て来ない独特のクリーン・トーン。
かつてのウリ・ジョン・ロートも1959でこういう音を出していた。
そして、そのクリーンにオーバー・ドライブを軽くかけてやる。
後は両手をうまく操って音を作る。
最上にして最良のロック・ギターのサウンドの出来上がりだ。
「デジタル」だのナンダのと騒いでいる中、ナンのことはない、一生さんは今でもこの方法で最高のギターの音を聴かせてくれているのだ。厳選した音だけで沈着に組み立てていく依知川さんのべース・ソロから…
曲は再びドライビング・パートへ突入して「最上級の宇宙エネルギー」を発散した。
「こんばんは、BARAKAです!
今日は平日にもかかわらずこんなにたくさんのお客様にお越し頂きましてありがとうございます。
1月15日にBARAKAとして通算18枚目、オリジナル・アルバムとしての12枚目の『Superior Force』をリリースしました。
次の日からツアーが始まったんですが、今日はいよいよそのツアーファイナルのLINE CUBE SHIBUYAです」「今日初めてBARAKAを観に来る方がたくさんいらっしゃるらしいので、メニューを皆さんにお配りしました。
曲目とどんな感じの曲かということを皆さんにわかって頂きたいと思ったのです。
今年、BARAKAは結成28年目を迎えました。
28年間休むことなくずっと曲を作り、ライブ・ツアーを行ってまいりました。
今年もたくさんライブをやって来ましたが、今日を本当に楽しみにしてまいりました。
最新アルバム『Superior Force』からの曲をたくさんお届けしますが、それ以外のアルバムからの曲もお届けしていきますので最後までゆっくりお楽しみください」依知川さんが触れた「メニュー」とはコレ。
BARAKAからのご挨拶と裏面には当日演奏する曲目の解説を掲載している。今回初めてMarshall Blogをご覧頂いている方もたくさんいらっしゃるでしょうからご存知のない方のために依知川さんのことについて書かせて頂くと…。
依知川さんは「依知川風人」という雅号を持ち、千葉の八日市場に「書の工房 風人堂」というギャラリーを運営している書道家でもある。ある時、依知川さんからお手紙を頂戴した。
さすが書道家…そこに書いてあった文字が「井上ひさし」の原稿のようで私にはとてもステキに見えた。
そこで、筆運びのマネをすることは不可能なので、せめてどんなペンをお使いになっているのかを教えてもらい、早速同じパイロットの万年筆を購入して私も使い始めた。
このことは以前にもココに書いていて、「その万年筆を手に入れた前年に長崎に行き、有名な万年筆専門店を訪れたが臨時休業していた」という話を添えた(上下の2枚の写真は『風人堂』で撮影したものではありません)。去年再び長崎に赴き、とうとうその万年筆店にお邪魔してきた。
その名も「マツヤ万年筆病院」…病院なんです。
私が尊敬してやまない作家の吉村昭先生が商売道具である万年筆はココでしか買わなかった…という専門店。
ちなみに先生の原稿用紙は浅草の「満寿屋」製だった。
川端康成、丹羽文雄、井上靖、吉川英治、壷井栄、司馬遼太郎、吉行淳之介、舟橋聖一、井上ひさし、石原慎太郎、大江健三郎、瀬戸内寂聴、林芙美子…エエイ、キリがない!
皆さん、満寿屋の原稿用紙を愛用していた。
夏目漱石は神楽坂の「相馬屋」という業者だったらしい…残念!何しろ人生において私が家内の他に本当に夢中になったのは、フランク・ザッパと黒澤明と吉村昭先生だけでしてね。
もちろんほぼ全作品読んだ。
Marshall Blogの脱線のネタの多くは吉村先生の書籍から得た知識を元にしている。
今でも下の文庫本の他に単行本や関係書籍を集めていて、最近では小説の舞台となった場所を訪れるのが年寄りの最大の愉しみになっている。
それほど好きなワケよ。そんなことを「マツヤ万年筆病院」の女将さん(「院長」っていうのかな?)に話すと、も~懇切丁寧に私を扱ってくれて、万年筆や吉村先生のことを教えてくれた。
そして、私に合った万年筆を選んでくださるという。
「じゃココに字をチョット書いてみてください」なんて言われて大いに緊張してしまった。
ところが私、こう見えても「達筆」である…イヤ、達筆らしい。
ウチは父とその母が達筆だった。
そんなことが関係しているとも到底思えないが、私が書いた字を目にした人がよくそう言ってくれる。
まぁ、悪筆とも思わないけど、私自身としては字がウマいだなんて全く思っていないのね。
そこで、その時覚えたてだった四文字熟語の「右顧左眄」他の文字を恐る恐る書いたように記憶しているが、院長先生はその文字をご覧になって「ウワ~!字がお上手ですね~!」とおっしゃる。
ちっともウマくない…要するに商売上手なのだ。
「もうコレは買わないでは帰れないヤツだ!」と覚悟した。
すると院長は私におススメだというパイロットの万年筆を陳列棚から取り出した。
そして、買って帰ってビックリ!ナント、院長が私のために見繕ってくれたオススメの万年筆は依知川さんご愛用の万年筆と同じだったのだ!
さすが風人書聖!
2本同じモノではあるが、ペン先の太さが異なるので双方楽しみながら使っている。
私に合っている!しかしも依知川さんとお揃い!
その後、万年筆病院から手紙とともに吉村先生や「三菱重工長崎造船所」に関する資料が送られて来た。
大変な親切にビックリしたのはいいんだけど、返事の手紙の字を上手に書くのにまたひと苦労してしまった!
脱線終わり。フェイザーを深めにかけた一生さんのギターからスタートする「Maverick」。
この音の揺れのすき間から聞こえて来る「♪ジャリンリンリンリン…」というシングルコイル・ピックアップ特有のサウンドがタマりません。フィルとともに入って来る平石さんが打ち出すリズムは5/4拍子。
続いて登場するヘヴィなリフは4/4拍子。
そのリフを4回繰り返すと今度はその拍子が7/4になる。また場面が変わりファンキーなリズムで一生さんがソロを奏でる。
ココは4/4拍子。
ワーミー・バーを巧みに使いながら独特のソロを展開していく。
そう、毎回書いているが、一生さんは既成のロック・フレーズにとらわれず「自分の言葉」で語る日本では稀有なギタリストの1人なのだ。ドラムスのピックアップ・ソロがまた次に現れる場面をつなぐ。
コレぞBARAKAサウンド。
次から次へと情景が変わってパノラミックな世界を作り上げる。
こんな音楽を演っているバンドは世界広しと言えどもそう簡単には他にいないでしょう。ミディアム・テンポのパターンで平石さんがビート・スタートさせるのは「The Infinite Wall」。
オクターバーでサウンドを分厚くした依知川さんが弾くラインは4/4と5/4拍子のコンビネーション。
コレが尽きることなく延々と続いて行くまさに「Infinite Wall」なリズム隊のプレイ。そのリズムにこれまた一生さんならではソロ・プレイが乗ってくる。
曲は若干の展開のパートを見せるが、とにかく基本は例の「無限の壁」。
さっき依知川さんがMCで紹介したメニューでは「BARAKAの新たなる境地」とこの曲を紹介しているが、「Barakish」とでも言おうか、徹底的にBARAKA色が出ているところがスゴイ。
徹頭徹尾、依知川さんと平石さんがやることは約7分の間変化なし。
以前、ビリー・コブハムの「Stratus」の延々と繰り返すベース・ラインに「いい加減、早く終われ!」と怒ってしまった若い女性のベーシストがいたが、イヤイヤ、コレはそんなもんじゃない。
こういう演奏ってかえって大変だと思う。
たいていナンカやりたくなっちゃうからね。
このリズム隊の2人の強靭な精神力は並大抵のものではないと見た!「皆さん、今日は平日の早めの時間にもかかわらずたくさん集まって頂きまして本当にありがとうございます。
さっき始まる前に曲順表を見て『あっ、オレがしゃべるのはこの辺か…大分先だな』って思っていたらもうしゃべる時間になってしまいましたよ!
1月にアルバムを出して、その後ずっとツアーを回って今日がファイナルです」「昔からBARAKAをご存知の方もたくさんいらっしゃっていると思いますが、初めて知ったという方のために説明しますと、BARAKAはライブが好きでアッチコッチでいつも演奏しているバンドなんですね。
普通ツアーっていうと『何月何日から何日まで、なんとかツアー』って打ち出しますが、友人とかに『BARAKAって今ツアー中?』ってよく訊かれるんですよ。
答えに詰まっちゃうんですね。
ボクらは好きで年中ライブを演っているので『ココからココまでがツアー、ココで休んでまたツアー』とはならないんですね。
ライブの時には、いつもヤル気を感じて演奏しています。
とにかくステージに立って皆さんの前で演奏することがとても好きなバンドですので、そういう感じでまた1年間ガンバっていきます。
これからも応援よろしくお願いします。
『BARAKAって今ツアー中?』って訊かないようにしてくださいね!」「やっぱりツアーの醍醐味は久しぶりの方と再会したりとか、新しい出会いがあったりとかなんですね。
今日初めてBARAKAをご覧になる方、10年、15年応援してくれている方、色んな方がいらしゃると思いますが、今日ココに集い、こうして会えたことをとてもうれしく思っています。
『思ったよりいいナァ』とか『歌がないんだ?』と思われる方もいらっしゃると思います…歌、ないんですよ、ボクら。
『ずいぶんイントロが長いな~』と思っていると曲が終わってしまいますからね。
なので、『初めて観たけど意外といいなぁ~』なんて思ってくださった方はゼヒとも応援に来て頂きたいと思います。
今日は我々も楽しみにしてましたLINE CUBE SHIBUYAを迎えておりますが楽しんで頂いておりますでしょうか?
こういう楽しみにしていたステージは時間の過ぎるのが早いというか、アッという間に終わってしまうものです。
これから後半に入って行きますが、最後まで全力で演奏しますので楽しい時間をご一緒できたらと思います」続いては「海の星」を意味するラテン語がタイトルの「Stella Maris」。
レスポールに持ち替えた一生さんがクリーン・トーンで静かにソロを弾くところから始まる。依知川さんが弾くハネるパターンのリズムは5/4拍子。
オート・ワウをかけた一生さんのギターが被さる。
ジョー・パスが時折使うジャズの常套フレーズを組み込みながら、今度は足でワウワウ・ペダルを操作してクランチ・トーンによるソロを作り上げた。
ジャズといえば、『欲望と言う名の電車』の登場人物のように女性の名前を題名に組み入れた「Stella by Starlight(星影のステラ)」という人気のスタンダード曲がある。
なんかこの曲が発するおだやかさに「美」という共通項を見出してしまった。
今日のBARAKAは実に幽玄だ。
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