【イギリス - ロック名所めぐり vol.15】 カンタベリー…プログレの聖地
Canterbury(カンタベリー)…熱心にプログレッシブ・ロックを聴いている方には魅力的に響く言葉に違いない。
文学ファンにはジェフリー・チョーサーか…。しかし、『カンタベリー物語』を読んだ…なんて人に出くわしたことないな。私も読んでいないことは言うに及ばないだろう。
でも、自称プログレ・ファンとしては、やっぱりカンタベリーに目がない。日本ではプログレッシブ・ロックのサブ・ジャンルとして「カンタベリー・ミュージック」とか「カンタベリー・ロック」と呼ばれているが、英語圏では「Canterbury Scene」とか「Canterbury Sound」という呼称がついているようだ。
ところが、本場イギリスの人とロックの話しをしても、まず「Canterbury Scene」の話しなんて出て来ない。それどころか「Prog Rock」の話しすら普通はしないから。
そこへいくと日本人は何でもよく知ってるよ~。マニアックな音楽や楽器の細かい知識はかなり高水準だと思うね。
でもね、イギリスでも詳しい人はホントに詳しい。
本場だし、自分たちの国の音楽なんだから当たり前なんだけど、話しを聞いてみると、我々のように文物で知ってるとか、YouTubeで最近見ることができるようになった…などというのとはワケが違う。
こないだのニューキャッスルじゃないけど、ビートルズをHammersmith Odeonで観たとか(Cavernで観たという人はさすがに会ったことないな…)、The WhoのMarqueeはスゴかったとか、SpeakeasyのDeep Purpleは忘れられないとか、そういうのがゴロゴロしてるワケだ。
こういうことをひとつでも言われると「うらやましい」と同時に自分の座学がチョット恥ずかしくもなる。
ま、しょうがない。それならこっちだって向こうを張って歌舞伎を観まくるか~?イヤ、カンタベリーの方がいいわな。
で、そのカンタベリー・ミュージック、ひとます「マイナー」ということで、知らない人のためにサラっと復習しておくならば…ジャズっぽいプログレッシブ・ロックということになるんかいな?
でも全然ジャズではないよ。
歌が入っていなくて16ビートの曲にロック・フレーズを乗っけて「ジャズっぽい」って言うロック・ミュージシャンを時々みかけるけど、それはロックですよ。ジャズというのはジャズで使う言葉、つまりジャズ・フレーズを編み上げて作る音楽のことで、ロックと言語体系がまったく違うんですね。
たとえストレート・アヘッドなジャズ・ビートでギンギンにロック・フレーズてもそれはリズムが4ビートなだけで「ロック」なんですね。ほとんどジャズには聴こえない。もちろんロックとジャズ、どっちがいいということではまったくない。
反対に、例えば16ビートのギンギンなブギにビ・バップ・フレーズをブチ込めばかなりジャズに聴こえるのね。香津美さんの「Manhattan Flu Dance」なんて最高の例だ。
脱線失礼。チョットどうしても言っておきたかったもんで…。
カンタベリー・ミュージックがハッキリ音楽的に定義づけることがムズカシイのは、この流派に属すると言われるバンドやミュージシャンの音楽のタイプがあまりに幅広いからだ。
初期のSoft MachineからHenry Cow、IsotopeとかGilgameshまでどれも全然違うもんね。
それでもひとつのジャンル感が強いということだけは言えるだろう。
どんなバンドが挙げられるかというと…
まず、Soft Machine、Cravan、Gong、Hatfield and the North、National Health、Camel…らのメジャー陣。どれもスキだナァ~。
加えて、Comus、Egg、Gilhamesh、Henry Cow、In Cahoots、Isotope、Matching Mole、Quiet Sun等々。他に知らないのもたくさんある。プログレ好きにはタマらんメンツだ。
それと、この流派の人たちは人材の交流が激しく、こっちのバンドにいたかと思うとあっちのバンド…みたいにコロコロとメンバーが入れ替わる。
それがまたこの「カンタベリー」という流派をファミリーっぽくさせている大きな要因だろう。
結局、このカンタベリーという街に住んでいたっぽい人が演奏していたロックということになるようだ。
それにもうひとつ付け加えるならば、「極めてイギリスっぽいロック」と断言できよう。
その大好きなカンタベリー、イヤ、正確にはカンタベリー派のバンドたち…、数年前、意を決してその地をこの目で確かめるべく訪れる計画を立てた。
めざすはケント。ここヴィクトリア駅がケント方面に行く電車の始発駅だ。
ホームを離れると5分もしないうちに左手に見えてくるのはバタシー発電所。もうMarshall Blogではスッカリおなじみだね。
約1時間半ぐらいで「東駅」に到着。「西駅」もある。
イギリスの電車はものすごくスピードを出すからね。一時間半も走るということは、結構ロンドンから離れていることを意味する。
途中、車両が前後に切り離されてそれぞれが別方面に行くことがわかった。果たして自分が乗っている車両がカンタベリーに行くか否か、ビビったけど、難なくクリア。
改札を出たところの駅前の風景。いきなりコレ。歴史を感じさせる。
街をトボトボと進む。日曜日だったのでかなりヒッソリとしてる。
向こうに見えるのがカンタベリー大聖堂。
デカいうえに、街には他に高い建物がないのでどこからでも見える。
地元の不動産屋。どれも小ぢんまりしていて素敵な家が多いのだが、結構高い。もちろんロンドンの比ではないが…。
やっぱりヒッソリしてるな~。市街地の人口は4万人程度の小さな街だ。
ココが一番の繁華街かな?
Marshallのロゴの帽子をかぶって歩いていたら、前からやって来る若い男の子ふたりが「オイオイ、あのオッサンの帽子見てみな!」ってな感じで私の方をジロジロ眺めていた。
どういう風に見えたんだろうね?
1. タハッ!オッサンのくせにMarshallの帽子なんかかぶりやがって…。
2. ウワッ!いいな~Marshallだよ、アレどこで売ってるんだろう!
3. ドヘッ!ナンダあの変なロゴ。見たことねーよ。
4. ゲゲッ!あのオジさまステキだな~。もしかしてマーブロの人じゃない?
まず、4はない。答えは1か2だな。
ココへ行ったのは3月ぐらいだったかな?みんなジャケット着てるのに平気で半ソデのヤツがいるし…。
こんな道の真ん中にも…。日本で言えば京都ってイメージかね。
小京都?「小京都 全部集めりゃ 超京都」なんてね。
これは公衆トイレの手洗い台。なんとお湯が出る。
最近、ロンドンの公衆トイレが片っ端から有料になってる。10年ぐらい前はきれいで無料だったんだけどな…。
公衆トイレに入る時なんて焦ってる時じゃない?「ああ、アソコにトイレがあったな!」なんて大急ぎで辿り着いた瞬間、以前はなかったハズなのに、入り口にガッチリ有料のゲイトが付いていたりするとものすごくパニクってしまう。コイン難しいから。
ロンドンの公衆トイレのことを少しココに書いておいたので興味のある方はどうぞ!
そろそろ「オイオイ、コレのどこがロックの名所めぐりなんだよ?」って声が聴こえてきそうですな。
それらしいものはナニもない。ないのよ。
事前に調べては行ったものの情報がとにかくない。だから現地に行ってもナニもない。
とにかく、カンタベリー大聖堂だけは観とかないと…。
これは山門みたいなもの?
普通の通りにいきなり現れる。
日本で言うなら…
雷門の提灯もリニューアルされてとってもきれいになった。
一時期、コレだったからね。
コレはないでしょう…。
気の毒だぜ~、ワザワザ遠くから観光に来た人に~。
今、入場料は£10.50だから1,900円ぐらい。浅草寺はタダ。
京都の名刹でも拝観料と言えば数百円でしょ?この1,900円、高いと思うか、安いと思うか…。
ココは安いと思う。
イギリスの博物館とか美術館といった類のものはほとんどが無料でうれしいのだが、有料のものもたくさんあって、それらの値段はことごとく高価だ。激高なのである。
たとえばイギリス王室のお宝を展示していることで有名な観光名所、ロンドン塔(Tower of London)なんて4,000円近い。
また、これは完全に民営なんだろうけど、ロンドンの(今は世界中にある。東京にもできやんの)マダム・タッソーの蝋人形館なんて聖飢魔IIもビックリの9,000円近くなんだぜ!(ちなみに東京は2,000円だって)それでもいつもロング・キュー(long queue)ですわ。
そこへ行くと、ここの1,900円はメッチャ安いと思う。ものすごく見応えがある。
コレは内部の大聖堂のようす。
スゴイよ。コレ見てビックリしなかったら浅草寺へ行ったほうがいいわ。
もちろん聖堂だけでなく、地下まで観るところ満載。歴史やキリスト教を勉強して、ホントにジックリ観るとするなら一日以上かかるだろう。
世界遺産。1070年から建設が始まり、ナンダカンダで1503年に出来上がったという代物。
Herman's HermitsやRick Wakemanでおなじみのヘンリー八世が最初の奥さん、「アラゴンのキャサリン(スペインから輿入れしたこの人はすごく評判がよかったらしい)」との離婚がローマ教皇から認められなかったもんだから、逆ギレして自分で会派を作ってしまったんだね。これがイングランド国教会。
そして、教会裁治の権力を北部をヨークの、南部をカンタベリーの大司教に与えた。だから、ここがイングランド国教会の本山になっている。ヨークの大聖堂もスゴイよ。
それで晴れて2番目の奥さん、アン・ブーリンと結婚したワケ。
で、以来この会派の親分は英国を統治する者ということになっていて、今ではエリザベス2世女王がその地位についていて、ロンドンのウエストミンスター寺院で執り行われる戴冠式も必ずオープニングがカンタベリー大司教の祈祷なんだそうだ。
大司教にチョットあいさつしてくればよかったな~。
さて、ここで強引にロックっぽい話題に引っ張り込むと~…ヘンリー八世の6人の奥さんといえば、アラゴンのキャサリン⇒アン・ブーリン⇒ジェーン・シーモア⇒クレーブスのアン⇒キャサリン・ハワード⇒キャサリン・パー。
6人中3人が「キャサリン」で2人が「アン」。流行してたのかね?
イギリスの人はコレを我々が歴代徳川将軍の名前を覚えるみたいに学校で覚えさせられる。
それに…アレレ、Rick Wakemanのアルバムの収録曲とタイトルがおんなじだ~!…って当たり前か。
この6曲のうちで一番カッコいいのはやっぱり有名な「Catherine of Aragon」か…。それと「Anne of Cleves」…コレがYesの「海洋地形学」の3曲目と同じなのは以前にも書いた。
それにしてもこのアルバム、改めて聴き直すとどの曲ももめっちゃカッコいいな~。それと、Yesの『Yessongs』のRickのキーボード・ソロが『ヘン8』のアルバム全体を何とうまくダイジェストしていることよ!
ちなみに「Jane Seymour」のパイプ・オルガンのパートはロンドンの「St. Giles-without-Cripplegate 」という教会で録音された。このパイプ・オルガンって「Close to the Edge(危機)」に出てくるあのパイプ・オルガンと同じなんだぜ。
それとRick WakemanはSaturday Boy、つまりアルバイトでJim MarshallのUxbridgeの楽器店で働いていたことがあったそうだ。
それに、例の50周年の記念コンサートのキーボードは息子のAdam Wakemanが務めた。
これがヘンリー八世と六人の妻。写真はカンタベリーとゼンゼン関係ないところで撮ったもの。
さて、それとやっぱりHerman's Hermits「ヘンリー八世」。1910年の曲のカバー。
この歌の内容は、「隣の未亡人と結婚したよ。彼女、7回も離婚していて、前の旦那の名前はみんなヘンリーなんだって。だから僕はヘンリー八世なんだよ」みたいな。
ま、史実のパロディということなんでしょうな。
曲のなかで「Henry」を「ヘネリー」と歌っているのはコックニー訛り。
このオッサンがヘンリー八世。好き放題やっちゃって、もう!
アン・ブーリンとの間の娘、メアリー1世と「ブラッディ・メアリー」については別項に記したので興味のある方は是非コチラをご覧あれ。
裏庭も美しい。とにかくこの街は美しいですよ。街全体が世界遺産なんだそうだよ。
ま、すっかりカンタベリー・ミュージックとはかけ離れた街の観光案内になっちゃった。
だってナニもないんだもん!
先述の通り、「カンタベリー」という音楽ジャンルの定義はものすごくあいまいで、EggのDave Stewartなんかはその言葉に否定的な考え方をしているらしい。
まず、「カンタベリー・ミュージック」とは言っているものの、地名、もしくは場所に関係ないということ。実際、シーンの立役者的な存在のひとりでもあるSoft MachineのHigh Hopperは他の場所に住んでいたし、Robert Wyattもその呼び方を嫌っていたという話もある。
それに、こんな小さい街なので音楽で喰っていくなんていうことは不可能で、Soft Machineもロンドンで結成し、活動していた(トッテナムにあった有名なUFOというクラブのハウスバンドは最初Pink Floydだったが、後にSoft Machineがそれを引き継いだ)。だから、現地の人に言わせるとSoft Machineはカンタベリーのバンドではない…ということになるらしいよ。
でも、なんか響きがいいじゃん、「カンタベリー」って?
以前エジンバラの時に出てきた「Prog Rock」のプログレ・アルバム・TOP30でカンタベリーのバンドがどういう扱いになっているのか調べてみると…。
16位にCamelの『The Snow Goose』…
21位にCaravanの『In the Land of Grey and Pink(グレイトピンクの地)』がランクされていた。
どっちも大好きだけど、ま、こんな順位。もっと上だろうとも下だろうとも思わない。それがカンタベリー?
また両方ともジャケがいい!
とにもかくにも何のサプライズもなかった…と諦めかけて、街を突き抜けた時に発見!
Caravanファンの皆さんなら一発で手を叩く。
そう、『Blind Dog at St. Dunstans(聖ダンスタン通りの盲犬)』のジャケットのモチーフとなった場所。
…ということでまた電車に乗ってロンドンに帰ったのであります。
でもね、ものすごく街がきれいで雰囲気があってとてもいいところです。ヨークをすごく小さくした感じ。
残念ながら好きなカンタベリー・ミュージックの名所はほとんどみつからなかったけど、同名の街に訪れた…ということでとても思い出深い旅になった。
将来、また行くかも知れない。温泉でも出てりゃ尚いいんだけどな…。