TOKYO 2020 OLYMPIC TORCH RELAY<前編>
生まれて初めて降り立ったこの空港は島根県の萩石見空港。
いいね~、地方の空港って…広々としていて、とても静かなんだよね。
昨今のコロナ禍で羽田から日に2便飛んでいたウチの夕方の便が欠航だって。
ホントにANAさん頑張って耐え抜いて欲しい。
さもないと長年貯め込んできた私の虎の子のマイレージが水の泡になってしまうからね。
これから向かうのは山口県の萩市。
後で地元の方に訊いてみたところ、東京との行き来には普通宇部空港を使うらしい。
飛行機の運航便数が多いのと、アクセスする道路の便が良いとか…。
そして、萩石見空港は「国内最優秀空港」というANA社内のコンペティションで4年ぶり2回目の優勝を果たしたそう。
「安全性」、「定時性」、「快適利便性」の3つのポイントにおいて全空港従業員が一丸となって業務を遂行している姿勢と結果が評価されたらしい。
前年は最下位だったんだって!
また、空港から萩へのルートも超快適だった。
新しい発見もあったし…。私がどうして萩まで来ているのかと言うと…オリンピックの聖火リレーのイベントに田川ヒロアキが出演するので、Marshall Blogがその取材にお呼ばれしたのだ。
会場となったのは市役所や総合庁舎が立ち並ぶ町の中枢部にある「萩中央公園」。
当初、5月13日と14日の2日間にわたっての開催が予定されていたが、昨今の情勢を鑑み全プログラム通じてのハイライトとなるセレブレーションのパートだけが催行された。天気は心配なさそうだ。
何しろ野外ステージは先月、日比谷野外音楽堂で地獄を見たからネェ。
でもこの翌日は丸1日雨だった。
そういう意味ではこの日はとてもラッキーだった。
コレがイベント・ステージ。イベントのクライマックスはこの花道をトーチ・ランナーが駆け抜ける算段だ。
入場者数は300限定。
来賓の方々のイスの配置もご覧の通りの距離が置かれ、厳格なコロナ感染拡大予防の態勢が取られていた。
コレはオリンピックの聖火リレーのオフィシャル・ショップ。スポンサー各社のPRブース。
NTT…
コカ・コーラ…。
何せスポンサー様が神様ですから。
この後のその神様の力を目の当たりにすることになろうとは!
野外イベントには付き物の光景だけど、コレ、閉め切っていると風が一切入って来ないので夏場は暑いのなんのって!
ステージではヒロアキくんのリハーサルの準備中。
「よし、今日もいい音だ…と」
コーラスの子供たちもMarshallの音の良さに驚いていた。
「やっぱりギター・アンプは真空管アンプに限りますね!」と言ったとか、言わないとか…言うワケないか。
ヒロアキくんは今日もJVM210Hと1960Aの組み合わせ。
「誇るべき歴史と美しい自然が織りなすふるさとを愛し、心のよりどころとなる、あたたかいまち」にもMarshallのロゴが映える!
まずはボーカルズとギターのサウンド・チェック。 そして、コーラスが入って「Sky」を演奏。
これまで何度もMarshall Blogで紹介してきた通り、オリンピック/パラリンピックで日本に来る人たちを迎えるために作った曲。
2019年、ロサンゼルスでレコーディング。
ギターの録音ではMarshall USAが用意してくれたJVMが使われた。
昔で言えば三波春夫の「東京五輪音頭」的なアニバーサリー・ソング。
前のオリンピックの時、私は2歳だった。
もしくは、これも三波春夫で万博の時の「世界の国からこんにちは」。
万博の時は小学2年生だった。
「よいしょこーら 夢じゃない オリンピックの顔と顔」
「こんにちは こんにちは 世界の国から こんにちは こんにちは 握手をしよう」
「大空見上げて心の叫びを描けば 降る雨 吹く風 夜明けが塗り替えてく」
こうして見ると、エラくモダンだな~。
時代を感じるね~。
古賀政男に中村八大、そして田川ヒロアキ…ここまで来た!
やってることは同じですからね。聴けば聴くほど味が出て来るのがヒロアキくんの曲。
いつの間にか「♪お、お、ぞら~…」って口ずさんだりしちゃうんだよね。そして、今日は菊川よさこい連合キッズチーム「きらり」の皆さんとの共演。
彼女たちは何と、レコーディングの時のメンバーそのままなのだそうだ。
そして、ライブでは初の共演となる。
レコーディングから2年もの月日が経ってしまったので、全員声変わりしていたけど…冗談ですよ~。女の子ですからね、声変わりはありません。
リハーサルでも鈴を鳴らすような声で美しいメロディを歌い上げてくれた。
そして、場面は変わって…
本番で演奏するもうひとつの曲、「男なら」。
コチラは下関から「馬関奇兵隊」と「菊川よさこい蓮合」が参加しての演技。ヒロアキくんは2000年からたくさんの「よさこい」チームのための曲を作って来た。
その中にあってこの「男なら」は「総踊り」といって、山口のよさこいを取りまとめるようなステイタスの高い曲なのだ。
ヒロアキくんの大親友、馬関奇兵隊の濱崎さんの掛け声もリハーサルから力が入る。この「男なら」は、一般民衆の間では長い間忘れられていた存在であったが、この曲を記憶していた萩市の助役の母がキッカケとなり、昭和11年(1936年)にレコードを制作。
それが大ヒットして「炭鉱節」と並ぶ全国的に知られる民謡となった。
そんな山口で最も有名な民謡をヒロアキくんがよさこいに作り直したというワケ。
私は田川バージョンしか知らなくて、下のCDを頂戴した時からすごく気に入っていたんだけど、今回、この曲の歴史を知ってオリジナルをYouTubeで聴いてみた。
ビックリ!
ヒロアキくん、よくコレをアソコまで持って行ったな~、とスッカリ感心してしまった。
やっぱりリズム面でのアレンジで苦労したとのこと。
曲は、文久3年(1863年)尊王攘夷思想を強硬に押し出す長州藩が関門海峡を通過する外国船たちに向かって問答無用で砲撃を加えた。
その翌年、イギリス、アメリカ、フランス、オランダが手を携えて報復措置に踏み切ったからさあ大変。
コレがいわゆる馬関戦争、あるいは下関戦争。
「馬関」とは下関の昔の名前。
列強四天王にかなうわけがない。
そんなご時勢だったもんだから萩も外国船の襲来に備えるべしとして、「菊が浜」というところに全長2kmもの土塁を築いた。
この作業を支えたのが武士の妻や奥女中だったので、この土塁は「女台場(おなごだいば)」という異名を取ったのだそう。
そして、この作業をする時、士気を上げるために歌われたのがこの民謡「男なら」なのです。
♪男なら
お槍かついで お中間となって
ついて行きたや 下関
お国の大事と聞くからは
女ながらも武士の妻
まさかのときにはしめだすき
神功皇后さんの 雄々しい姿が
鏡じゃないかいな オーシャリシャリ
私が男だったら戦に出れるのにナァ。
でも女だそうもいかない。
でもイザという時には見てらっしゃい…みたいな。
「オーシャリシャリ」といいのは「おっしゃる通り」という意味。
要するに銃後を守る萩の女性の心意気を歌っているワケ。
するってーと、萩の女性は気が強そうですな~。
戦後、連合国軍側から莫大な賠償金を請求されたんだけど、長州藩はそれに応じず、仕方なしに幕府が肩代わりしたんだよね。
しかも、長州藩は幕府とくっついてると攘夷はムリだな…と考えるようになって、今度はイギリスとくっついて討幕運動を推し進めることになっちゃった。
この頃、ヴィクトリア女王の時代イギリスはとにかくヒドイからね。
中国、インド、ミャンマーがとにかく散々な目に遭わされ、本国イギリスは東西の三角貿易で巨万の富を得、世界の覇者になった。
そもそも今の世界の問題の8割ぐらいはイギリスが元だと私は見ている。
私はイギリスの会社に勤めているぐらいで、イギリスが大好きなんだけど、過去にナニをしでかしたかということぐらいは勉強するようにしている。
一方、フランスは幕府にくっついて貧乏クジを引いた。
イギリスは倒幕を支持したとする論功行賞で、明治新政府は現在英国大使館がある皇居の隣の一番町の地所を未来永劫イギリスに貸し与える約束をして現在に至っているという。
何回かあの中に入ったことがあるんだけど、スゴイよ…イギリスなの。
この「男なら」の3番の歌詞が「三千世界のカラスを殺し、主と朝寝がしてみたい」となっているらしい。
この都都逸は古典落語の「三枚起請」のサゲに使われているので、私は昔から知っているんだけど、民謡の歌詞の一部になっているなどということは知らなかった。
コレ、女郎の気持ちを歌った都都逸で、高杉晋作が作ったとされている。
なるほど「男なら」には「高杉晋作は男の中の男」なんてクダリも出て来るもんね。
江戸の昔はカラスがものすごく多かった。
大ゲサだけど、集まったカラスが一斉に飛び立つと空が真っ黒になったというぐらい。
そして、早朝になると腹を空かせたカラスが住民を起こそうとして「カアカア」と大合唱した。
住民を起こして、ゴミを出させて、それをエサに頂こうという利口なカラスたちの算段だ。
「大好きなおまいさんとこうしてユックリ床に入っていたいけど、カラスがうるさくてそうもしていられないよ」…という馴染みの客へのラブ・コール。
客は「おおそうか、別れるのは寂しいけどまた来らぁ!」となる。
コレは本当は女郎の手練の歌…要するにお世辞ですな。
「とっとと帰ってくれ」ということ。
女郎というのは、吉原を例に採ると「大引け」といって夜中の2時に仕事が終わり、朝6時には客を送り出すために起きなければならない。
客を送り出した後、二度寝をする時間が少しあったものの、昼は昼で忙しく、慢性のひどい睡眠不足だった。
つまりこの都都逸は、相手がいようといまいと「もっとユックリ眠りたい!」という女郎の睡眠への欲望を唄ったモノなのだそうだ。
コレは落語を通じての我々江戸チーム解釈なので長州サイドではまた別の理解があるかも知れません。
脱線しますよ。
最近、何度も引き合いに出して恐縮なんだけど、また川島雄三の『幕末太陽伝』が登場する。
この『幕末太陽伝』は「居残り差平次」をベースに「三枚起請」、「五人回し」、「品川心中」といった古典落語のスタンダートのエキスを巧みに織り込みながら、高杉晋作らの英国大使館焼き討ち事件前夜の品川宿を描いている。
で、この映画の中でこんなシーンが出て来る。
湯船に浸かったフランキー堺扮する佐平次が「♪三千世界のカラスを殺し~」と、いわば「男なら」の3番の歌詞を歌う。
すると湯船で隣にいる石原裕次郎が「おい、ヤメてくれんか。それはオレが作った文句だ。目の前でやられちゃさすがに照れる」。
裕次郎が演じているのは、そう、高杉晋作。
他に若き日の二谷英明が井野聞多、小林旭が久坂玄瑞を演じている。
左幸子も南田洋子も芦川いづみも若くて美しい。
フランキー堺、最高!
日本映画史に残る名作と謳われるだけあって、黒澤映画に匹敵するとでも言いたくなるぐらい完璧な作品。
一方、上に書いた通り、落語でこの都都逸が出て来るのは「三枚起請」。
サゲがこの都都逸になっている。
五代目古今亭志ん生が有名だが、師匠は都都逸の説明はおろか、高杉晋作の名前を一切出さない。
志ん生は本名を美濃部孝蔵といって、お父さんが旗本だった。
いわば佐幕派…幕府の人だったんだから当然だ。
上に書いた馬関戦争が起こったのは、明治23年に志ん生が生まれるたった27年前の出来事だからね。
もしかしたら、志ん生は倒幕派の雄の名前を出すのがイヤだったのかも知れない。
一方、その息子の三代目古今亭志ん朝。
昭和の大名人=志ん生の大親友=黒門町の師匠=八代目桂文楽をして「この人は100年にひとり出て来るか出て来ないかの天才なんだからみんなで大切にしなければイケません」と言わせしめた超名人が志ん朝。
私も生前に一度だけ高座を拝見したが、ヨカッタね~。
その志ん朝の「三枚起請」を聴く…もちろん最高中の最高。
志ん朝は枕で都都逸の説明はするものの(上の私の説明は志ん朝の受け売り)、やはり「高杉晋作」の名前は一切出さないんだよね。
やはり、日暮里で生まれ育ち、お父さんの薫陶を受けた生粋の江戸っ子だからだろうか?
しからば!と思い立ち、志ん生の長男=志ん朝のお兄さん=池波志乃のお父さんである金原亭馬生はどうかと思ってYouTubeを検索してみたが見当たらなかった。
ちなみに「池波志乃」という芸名は、お父さんの馬生が池波正太郎のファンだったところから名付けられた。
馬生は池波さんにキチンと挨拶をして、許しを得てから娘にその芸名を付けさせたそうです。
ちなみに池波さんの生家は吉原にほど近い待乳山だ。
リハーサルは順調に進む。
はためく菊連の大旗。
コレは大変な仕事だよ。
私なんか見ているだけで腰が痛くなってくるわ。ヒロアキくんとよさこいチームは長いお付き合いだからね、もうイキの合いようはこの上なし。
後は本番で爆発するのみ。記念撮影。
この皆さんが「山口県」の代表として今日のイベントに登場する。
聖火皿とMarshall。
こんな機会はもうないだろうと思って撮っておいた。
やっぱりMarshallのロゴはどこでも映えるね。
この聖火の台、どうも「皿」って呼んでいたように聞こえたんだけど「皿」なのか?
コレ、萩焼にすればよかったのにね。
本番のようすは<後編>でレポートします。
田川ヒロアキの詳しい情報はコチラ⇒FretPiano
<つづく>
以前、本記事に併載していた「私の萩<前編>」はShige Blogに引っ越しました。
コチラ⇒Shige Blog 私の萩<前編>