GO GO TOMOKO!~バースディ・ライブ2014
先日書いたばかりだが、我ながらなかなかいい発見だと思っているのでまた書く。
それは「テケテケ」のことである。
「テケテケ」…この擬音語を一体誰が作ったのだろうか?ベンチャーズの前に「テケテケ」なし、そしてベンチャーズの後に日本特有の文化のひとつとして「テケテケ」という言葉が残った。
ご存知の通り、多様な音楽への適応能力が他の楽器に比べて圧倒的に高いギターという楽器にはバラエティに富んだ奏法が存在し、様々な「音」をクリエイトしている。
その「音」を表現する言葉は色々あれど、「テケテケ」ほど浸透している言葉はあるまい。
オルガン入りのソウル・ジャズを「コテコテ」と呼び、一時かなり流行したがこれはジャズ好きだけの間の符牒であって一般的ではない。
ヘビメタのシュレッド・ギター(速弾き)を「ピロピロ」とか「ピラピラ」と表現することはあっても音楽を指し示す言葉として確固たるものではあるまい。
私が思いつく限り、音楽の種類いろいろあれど、擬音語で音楽ジャンルが表現できるのは「テケテケ」と、(適用範囲は狭いが)「コテコテ」だけだ。
しかも、「テケテケ」の流行から50年。この言葉が連綿と生き続けているのは、1960年代のブームがいかに巨大であり、一般市民の生活に溶け込んでいたかを語って余りあるのではなかろうか。
今日のMarshall Blogは「テケテケ」が主役。
これまでMarshall Blogは、「旧」を含めると、これまで1,400回ほど更新して来ているが、もしかしたら「テケテケ」がフィーチュアされるのはコレが初めてかもしれない。
その主役はTOMOKO。The VenturesのNorkie Edwardsとも親交のあるエレキ・ガールだ。
そのTOMOKOさんが今年2月末に発表したファースト・シングルがこの『FANTASTIC BLUE』。
このジャケ写、実際にギターを持って海に潜って撮影した。その撮影のもようが特典DVDに収録されている。もちろんスタントなしの本人の実演だ。
ところで、今まで「テケテケ」がMarshall Blogでフィーチュアされなかったのはナゼか?このジャンルでMarshallが使われることがないからだった。
TOMOKOさんはMarshallだ。
こ~れが、実にいい音なのだ。CLEAN/GREENをメインに、時折ORANGE MODEを交えながら素晴らしいサウンドをクリエイトしていた。
さて、今日はTOMOKOさんのバースディ・コンサート。会場となった昭和33年開業の銀座の老舗TactにはTOMOKOさんの誕生日を祝おうと大勢の人が詰め掛けた。
そういえばこのTact、現在は地下にあるが、まだ階上にあった1998年にはJCM2000 TSLシリーズの発表会をするにあたり、ここにJim Marshallが数日訪れている。
オープニングにはCDに付いている特典DVDの映像が上映された。
TOMOKOさんが下げているのはこのカスタム・メイドのダブル・ネック。ネックが2本なだけでなく、ビグズビーも2ケ装着されているためその重さたるやハンパではない。
キーボードは信田和雄(寺内タケシとブルージーンズ)。
パーカッションは米元美彦(米本さん、実はマーブロ登場は2回目。前回はコチラ)。
ベースは杉田孝弘。寺内タケシとブルージーンズのベーシストだ。
杉田さんはEDEN。ヘッドはThe Traveler WT-300。キャビネットはD410XLT。
Marshallファミリー。金と黒の素敵なコラボレーション!
1曲目は「Blue Star」。
このダブル・ネックのギターは見た目はピンクだが「Blue Star Tomoko Special」という名前がつけられている。
ベンチャーズで有名な、「想いでの渚」のメロディをうろ覚えで歌ったかのようなこの曲の作者はなんと大作曲家、Victor Young。「When I Fall in Love」、「Stella by Starlight」、「Love Letters」、「Street of Dreams」、「Johnny Guitar」、「My Foolish Heart」、「Delilah」、あ~もうキリがない!…他を作った大作曲家だ。
「Blue Star」は医療をテーマにした50年代のアメリカのテレビ・ドラマ、「Medic」の主題歌だった。
澄み切ったコシのあるJVMのクリーン・トーンがこの美しい旋律を華やかに演出する。
飾りのついたテンガロン・ハットと長い脚がトレードマークのTOMOKOさん。
2曲目にしてもう「ベンチャーズ・メドレー」。テケテケ炸裂で会場は興奮のるつぼ!
続いてもベンチャーズの「Rap City」。ブラームスの「ハンガリー舞曲 第五番」。
矢継ぎ早に繰り出されるナンバーは「さすらいのギター」。
はい、もう一度正直に言います。私は超有名なところしかテケテケを知りません。しかし!好奇心旺盛にして勉強熱心な私は気になることは調べないと気が済まないのですよ。
調べてみるに…もうこのあたりでこの時代のエレキ・ギター・ミュージックに脱帽ですな。
この「さすらいのギター」の原題は「Manchurian Beat」というんだけど、この「Manchurian」って何だかわかる人はいるかしらん?
ハイ、そこのあなた…そう!これは「満州」のことなんだね。
この曲の元はかなり古くて、日露戦争に軍楽隊員として従軍したロシア人が戦死した戦友に想いを馳せて作った「満州の丘に立ちて(На сопках Маньчжурии)」という曲。ロシアでは今でも吹奏楽でよく演奏されているらしい。
ちょっと脱線するけど、日露戦争ってのは「日本が勝った」ことになっているけど、「何とか勝っていた時点で終わった」…というよりか、「終わらせてもらった」というのが正確な史実のようだ。
雨天のため試合は最後まで行われなかったが、何とか6回まで日本チームが試合をリードしていたので勝ちゲームにさせてもらったというイメージか?
もしあのまま試合を続行して、強打者バルチックが代打で登場していたら、今頃私の苗字はシコロフスキーかペドロハバロフスカヤになっていたかもしれない。ハラショー、ドウショー。
だから戦勝国であるハズの日本はロシアから賠償金を一銭もとれなjかった。
この終戦の交渉をロシアのウィッテというオッサンと丁々発止やりあったのが時の外務大臣の小村寿太郎という人。
昔の政治家は本当に立派だった。
この交渉を描いた記録小説が吉村昭(また出た!)の『ポーツマスの旗(新潮文庫刊)』。今の政治家先生全員に読んでもらいたい。議会で居眠りしているぐらいならコレをまず読むべき。おもしろくていっぺんに目が覚めら!
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もちろん一般の方もどうぞ。おもしろいよ。
戦争というものは、一般市民がマスコミの情報操作によってイケイケドンドンになって加速していくことがよくわかる。
なにしろ『昭和史(平凡社ライブラリー刊)』の半藤一利先生によれば、この日露戦争が太平洋戦争を導いたとある。つまり、「日本はメッチャ強い」と国民はダマされたんだね。そうした情報操作に惑わされないよう、国民はシッカリ勉強をする必要がある。今こそその時だと思うね。
話しを「さすらいのギター」に戻そう…1960年代の前半にフィンランドのThe Soundsというグループがワルツの原曲を4/4にアレンジして「Manchurian Beat」として世に送り出した。
何でフィンランド?
The Sputnicksはスウェーデンか…。北欧もテケテケが盛んだったんだね。
そして、その後、The Venturesがカバーしてヒットしたという次第。
邦題は「さすらいのギター」…さすがに「満州の丘に立ちて」なんてタイトルは付けられないもんね。
でも曲はいい。スラブっぽいメロディとでもいうのかな?いかにも日本人好みだと思う。同じくロシアのショスタコーヴィチのジンタ、「ジャズ組曲第二番:ワルツ」なんかも同じ味わいだもんね。もしかしてこの曲、ベンチャーズ演ってる?
この日の大きな発見はふたつ。
ひとつはMarshall JVMがテケテケにメチャクチャマッチすること。
今ひとつはギターだけでなく、TOMOKOの歌が素晴らしいことだ。
第一部で歌ったのは「雨の御堂筋」。
この歌、流行ったんだぜ~。欧陽菲菲。
ベンチャーズ作曲だもんな~。これは歌詞とメロディ、どっちが先にできたんだろう?ま、メロディが先か…。
それにしてもアメリカ人がこんな日本人の塊のようなメロディをよく書いたと思うが、先の「満州の丘に立ちて」のメロディなんかに接していたことを思うと納得がいくかもしれない。
とってもチャーミングな声ゆえにTOMOKOの歌はとても耳に心地よいのだ。
今度はリムスキー=コルサコフ。「Bumble-bee Twist」すなわち「熊蜂の飛行」。
派手ににぎやかにカッコよくキメるTOMOKOさん!
さっき「テケテケに脱帽」と書いたのは、もう60年代で色んなことをすべてやり尽くしちゃっている…ということ。
強引にも見受けられるあまりにアグレッシブなクリエイティビティに時代のパワーを感じるね。
今とは雲泥の差だ。
The Beatlesもそうだけど、この時代から70年代の半ばまでの人たちがすべてやっちゃい過ぎてるんですよ。
後輩にネタを少しは残しといてあげればヨカッタものを…。
先輩が遠慮なく新しいことをやり尽くしてしまったものだから、後の人たちは真に新しい音楽をクリエイトすることができなくて、「新しい音楽」と思いこませることにしか心血を注ぐスペースがなくなってしまった…というのがここ30年のポピュラー音楽の流れだね。
だから今やれること、やらなければならないこと、やった方がいいことは絶対に「温故知新」しかあり得ない。そうしないと本当に「世界の終わり」が来ちゃう。
ところで、このクロマチックのかたまりのような「熊蜂の飛行」、それこそ色々な楽器で演奏されている人気曲だが、ベンチャーズ・バージョンは技巧を追求するより、タイトル通りロックンロールらしいノリを重視してのアレンジだ。
一方、他の楽器に目をやると、断然マリンバが頑張ってるね。もうマリンバのイングヴェイ状態。この音板打楽器ってのはヤケクソに難しいからね。
そういえば、パーカッショニストのBrian SlawsonってのもStevie Ray Vaughanを迎えて演ってたな。
でも、圧巻はWynton Marsalisのトランペットだろうな。楽器の特性からいってもWyntonの演奏が一番スゴイのでは?
「朝日のあたる家」、「ダイヤモンドヘッド」、「パイプライン」と定番を固めて第一部は終了。
第二部はシングルに収められている「花氷」でスタート。
しごく和風に響く物悲しいメロディが印象的な曲。レコーディングにキーボードで参加しているShiho Teradaさんの作。
第二部では「Fly Seagull Fly」なるオリジナル曲も披露。
話しも上手なのでMCもまたおもしろい。
ギタリストとしてギターへの愛情と演奏に対する情熱の決心を語るくだりでは、途轍もない迫力のようなものを感じた。
最近は学校の普及とともにシュレッド・ギターを弾きこなす若い女性がジャンジャン出て来ているが、同じ女性ギタリストでもTOMOKOさんはまったく違う世界にいる。
速弾きともスウィープともタッピングとも無縁のスタンダードな演奏スタイルは、ただただギターを使っていい音楽を聴く者に届けようとる音楽への情熱で成り立っている。
しかし、ギター一本を手に日本国中を駆け巡る女ギター・スリンガーの夢と野望は大きいのだ。
4曲目は「ムーチョ・カリエンテ」。これは竹田和夫の作品。
実はTOMOKOさんは竹田さんを師と仰いでおり、当日も駆けつけてくださった師、自らSonny Rollinsの「St. Thomas」をプレイしてくれた。
第二部で歌ったのは前川清の「花の時・愛の時」。
このあたりからはクライマックスに向けてテケテケの魅力大爆発ナンバーが続く。
まずは「秘密諜報員(Secret Agent Man)」。コレ、何が一体「秘密諜報員」なのか前から気になっていたので、今回はそれを調べるいい機会となった。ありがとうTOMOKOさん!
これは1960年に放映されていたイギリスのテレビ・ドラマ『Danger Man』のテーマ・ンングだってよ。
驚いたことにMel Tormeもカバーしているらしい。もちろんベンチャーズがカバーしているからここで演奏されているのだが、一番有名なのはJohnny Riversのバージョンなのだそうだ。
ゴーゴー調丸出しのサビの部分がなんともイナたくていいな~。
もう1曲の歌は「北国の青い空」、奥村チヨとベンチャーズのコラボ作品。
「北のエレキガール」、TOMOKOさんによればこの曲の原題は「Hokkaido Sky」といい、北海道出身の自身のテーマ曲的存在であるという。
それだけに渾身の絶唱!ホント、もっと歌のレパートリーがあってもいい感じ!
本編の最後は定番「十番街の殺人(Slaughter on the Tenth Avenue)」。
「いい曲~」だって?そりゃそうだ。作曲はRichard Rogers。1930年代のブロードウェイ・ミュージカル『On Your Toes』の挿入歌。
やっぱりこれはテケテケ界の「Smoke on the Water」というところなのだろうか?それとも「Highway Star」か…どっちでもいいか、名曲であることは間違いない。
TOMOKOさんも思わず激演!
こうして聴いてみると、Marshallが「テケテケ」に向いていないなんてことはまったくないな。そりゃモデルにもよるけど…さすがに1959とか1987で演るのはチトしんどそうだ。
「歪み、歪み」ととかく言われがちだが、Marshallはクリーンもよいのですよ。そして長い間見ていると、一般的に腕の立つギタリストほどこのことを口にするようだ。
充実の本編第二部が終了。
割れんばかりの場内のアンコールに応えて再度登場!黒いTシャツとトレードマークのテンガロンハットがよく似合う!背が高いからね。
演奏したのは「Caravan」。この曲についてはMJGの記事に書いたので是非ご覧いただきたい。
アップ・テンポでドライブしまくってバースディ・コンサートは終了した。
余韻に浸る大勢のお客さんが終演後も席を立とうとしなかった。
TOMOKOの詳しい情報はコチラ⇒TOMOKO PROJECT
今回この記事を書くにあたり、予想以上に色々なことを調べてしまった。
コンサート・レビューなのに曲目解説みたいになってしまってTOMOKOさんには申し訳なかったが、存外におもしろかったし、勉強になった。
こうしてみると、60年代のエレキ・ブームがいかにパワフルなものであったかがわかるというものだ。
そして、驚くべきはこのThe Venturesというバンドの制作意欲だ、浅学にして情報を持ち得ないが、一体誰がこのバンドのディレクションをしていたのだろう?
当然ブームに乗って、周りのスタッフはここぞとばかりに「売らん哉」をたくらんだのだろうが、ネタを見つけて、アレンジを考えて、演奏して…。
そうさせることができたのは何と言っても「時代」だろう。ポピュラー音楽自体がまだ若かったのだ。やることなすこと、みんな未体験のことばかり。そりゃ与える方も与えられる方も面白かったと思うね。
もう音楽にこういう時代は永久にやって来ないだろう。だとすれば、音楽に必要なのは「伝承」しかない。
がんばれTOMOKO!