【追悼】青山純さんのこと
「あなた、マーシャルの人?広規のアンプ調子悪いよ」
これが初めてお会いした時の青山さんのお言葉。2011年5月、伊藤広規さんが今でも積極的に取り組んでいる東日本大震災のチャリティ・イベントが仙川のKick Back Cafeで初めて開かれた時のこと。ビビった。
震災からまだ3カ月程度しか経っていない被災地の方々の生々しい体験談とゲストの方々の演奏が披露され、いよいよ登場したのはKAZ南沢さん、松下誠さん、中村哲さん、そして広規さんと青山さんだった。
素晴らしい演奏だった。
青山さんのプレイは「ドラム」という楽器として音楽の一部を構成するものではなく、一打一打が音楽そのものであり、広規さんのベースと絡むとそれはさらにすさまじさを増した。鳥肌が立った。
3日、青山さんが急逝された。まったく信じられない。
それから5カ月後、2回目にご一緒させていただいたのは福島県の『いわき街かどコンサート in TAIRA』でのことだった。
震災のチャリティ・コンサートということでMarshallも機材でお手伝いする傍ら、ステージの模様を撮影させていただいた。
会場に到着するなり楽屋にご挨拶にうかがった。もちろんそこには青山さんもいらっしゃって、私に向かってこうおっしゃった。
「広規のアンプ、ノイズ出てるよ。」
ガーン!またしても?! 穴があったら入りたい…とはまさにこのこと。ビビった。
しかし、幸運にも実際にはまったく問題なく、スゴ腕ミュージシャン達の演奏はまさに鬼気迫るものであった。
その時の演奏はもう何度もMarshall Blogで紹介しているライブ・アルバム『Relaxin' at IWAKI ALIOS』に収録されている。
このアルバムで私は9,000字に及ぶライナーノーツを書かせていただいたが、青山さんらの名人芸について思いのたけを書き記すことは、音楽を愛する者として、何よりも誇りであり、何よりも楽しかった。
青山さんは、広規さんたちとともに翌年も『街かどコンサート』に出演し、前年同様の目的で私も参加させていただいた。
この時のもようはMarshall Blogでレポートした⇒いわき街中コンサートin TAIRA2012<後編>
もちろんこの時の演奏も最上にして最高のものだった。
そして、悲しいことにふたりのこの姿を見ることはもう永久にできなくなってしまった。いわきから帰って数日後、今度は高尾で昼食をご一緒させていただいた。
昼食といっても、青山さんと広規さんのデュオ・アルバム『A*I』のライナーノーツのためのインタビュー会とでもいおうか、プロデュースを担当していただいたホッピー神山さんを交え、おいしい料理に舌鼓を打ちながら色々なお話しを聴かせていただいたのだ。
その後、ジャケットに使う写真を撮影しようと「武蔵陵墓地」へ向かった。あいにく天気が悪く、かつ陽も暮れかかっていたため色がうまく出ずこんな仕上がりとなったが、この青山さんのトレーナーと広規さんのスニーカーの赤がとても印象に残った。(ホッピーさんも、赤いシャツと靴をまるで示し合わせたように着用していた)
その時撮った写真はモノクロに焼かれて、私が書いたライナーノーツの一角にレイアウトしていただいた。
そうして出来上がったのがこの『A*I』。
ベースとドラムのデュエットを基本とした、2枚組の奇盤にして名盤。
青山さんの超絶プレイがテンコ盛りだ。我々はこの音源が残されたことに感謝するべきであろう。
そして、先月、満を持して発表された『FUTURE DAYS』。松下さん、広規さんらが中心となって1991~92年に制作された音源だ。
ここでも青山さんの素晴らしい演奏を聴くことができる。
もちろん、青山さんが参加して世に流通している音源は限りなく、そしてそのすべてが最高のプレイであることは言うまでもないことだ。
このアルバムを紹介したMarshall Blogの記事には先述した広規さんのチャリティ・コンサートのレポートが併載されている。このコンサートにも実は青山さんが参加する予定であったのだが、体調不良を理由にご欠席されたのだが、それがこんな風になってしまうなんて本当にショックなことである。私が知る青山さんは以上だ。親しそうにこんな記事を書く資格などないかもしれない。でも、一緒にお仕事をさせていただいたことを心から誇りに思っている。
さらに、音楽を愛する者として、素晴らしい音楽をクリエイトする能力を持つ芸術家がまたひとり鬼籍に入ってしまったという無念の気持ちは大きい。
大衆音楽の幼稚化とデジタル・テクノロジーの進歩による器楽演奏能力の低下が進んでいる結果、音楽の伝承が遅々として進まず、後進の演奏者が順調に育っているとは考えにくい昨今、青山さんのような「音楽の塊のような人」を失うことは、音楽がまたひとつ魅力を失ったことに等しいと思う。
このまま放っておけば、器楽演奏の「名人芸」は近い将来に絶滅する可能性が高いだろう。
謹んでご冥福をお祈り申し上げます。
青山さん、どうか安らかにお眠りください。
伊藤広規さん、荒木くり子さんには不世出の天才ドラマーと一緒に仕事をさせていただく貴重にして誇りある機会を与えて頂きました。この場をお借りしまして、心から厚く御礼申し上げます。