中京の重戦車、DYNAGON見参!
先日予告編的に名古屋へ出張取材したことをレポートした。
名古屋も結構久しぶりで、駅前の「大名古屋ビルヂング」がなくなっていてビックリした。
「大名古屋ビルヂング」を知ったのは高校生の時。なぞなぞ商会の曲によってだった。
Rocky Horror Showの挿入歌、「Sweet Transvestite」をテンポアップさせて、「♪わしらはなぞなぞ、名古屋の鼻ツマミ」と自己紹介する曲の中に「ナンや、大都会の名古屋の駅前に『大名古屋ビルヂング』って?ナンで『ディ』やなくて『ヂ』なんや?!」と絶叫する場面があったのだ。
戦前は「di」の発音を「ヂ」とするのが普通のことであったらしい。「スタヂアム」とか。
お年寄りが「デズニー・ランド」って発音するでしょう?これは、昔の日本語には「ディ」という発音がなかったので「ディズ二―」と言いにくい…という話しをどこかで聞いた。音でも文字でも同じようなことが起こっていたんだね。
その代わり昔の人は「ぢ」と「じ」、「づ」と「ず」の違いを発音できたというからね。
我々が英語を話す時、日本人は「r」、「l」、「th」、「w」の発音が苦手とか言うが、大きなお世話なのだ。そういう音を母国語に持っていないんだからしょうがないでしょ。
ちなみにこれらの日本人が苦手とされる文字をふんだんに使っている言葉を見つけた。それは「Woolworth(ウールワース)」。エンパイア・ステート・ビルができるまで世界で一番高かったビルをマンハッタンに作り、それをキャッシュで買ったというスーパーマーケット会社の名前だ。
これは英語圏の人でも正しく発音するのは難儀らしい。
さて、今日のバンドの名前には「r」も「th」も「ヂ」も「じ」もない。親しみやすい名前だ。
DYNAGON(ダイナゴン)の登場だ!
彼らがDYNAGON、Dynamic Gonzalezだ。「大納言」ではない。
見て!ベテラン感丸出し!「人殺し」以外の悪いことはすべてやって来た…なんてのはまったくのウソだが、凄味満点!
ちなみに「ゴンザレス」という言葉は「ザ」にアクセントが来るので要注意。
Marshall Blogではおなじみの人が右端にいる。そう、中野重夫がRollover以前にやっていたバンドがDYNAGONだ。
それがナント24年ぶりに再結成と相成り、こうして取材の依頼を受けて名古屋まで来たというワケ。
「尾張名古屋は芸どころ」といいましてな…楽しみ!
でも当然アンプはMarshallね。
シゲさんが3台所有するSUPER100JHのウチのヘッドだけを2台使用。
キャビネットは70年代の1960AXだ。
裏には「NOKEMONO(野獣)」のステンシルが!野獣は1979年『地獄の叫び』でデビュー(この頃はメジャーもインディーズもない。「デビュー」とは今でいうメジャー・デビューしかなかった)。Judas Priestの名古屋公演の前座を務めたこともあった。
ついでに書いておくが、シゲさん以外のDYNAGONの3人は、かつてスナイパーのメンバーとして活躍しており、ボーカルはBAD SCENEの金子光則さんだった。
そのスナイパーから日下部バーニー正則さんが脱退して、シゲさんが合流。短期間ではあったが活動を共にした。その流れがDYNAGONにつながっている。(中野重夫談)
BAD SCENEはかつてCharさんやナルチョさん、牧野元昭さんらが在籍した名門バンドで、後年はとびきりカッコいいツイン・リードのハードロック・バンドになった。「風に向かってぶっ飛ばせ」とか「Bird of Fire」、「In the City」、「XXXXの女(タイトル忘れちゃった。「♪ベイビー、いつもの酒でも飲もう…」という歌いだしの佳曲)」なんてカッコいい曲がゴロゴロしていた。
最近アチコチでBAD SCENEの名前が出て来るようになっていて、コリャ、何かあるのかしらん?と期待していたりもしている。
シゲさんの足元。Fuzz FaceとUni Vibeのフットコントローラーがないのがちょっと不思議…。でもしっかりカールコードが使用されている。
Rolloverの時よりは若干歪みも増してややコンテンポラリーなサウンドをクリエイトしていた。
DYNAGONのサウンドの大きな特徴はキーボードに重点を置いていることだろう。
Emerson Lake & PalmerやTraceやQuartermassみたいなキーボード・トリオということでなく、鍵盤楽器が活躍するハードロック・バンドっていいものだ。
Uriah Heepしかり、Greensladeしかり、Deep Purpleだってそう。サウンドの奥行きがドバーっと広がる。
これが加藤さんの機材。Marshallは使っていないんだけど、思わず紹介したくなった。…といっても鍵盤楽器のことはサッパリわからん。
ちなみにJon Loadを見ればわかるように、Marshallは70年代までセッセセッセとキーボード・アンプを生産していたんよ!
完全に手作りで、使用するキーボードのサイズにピッタリ。セッティングやバラシの時にラクなようにいたるところに取っ手がついている。よくあるでしょ?「あ~、ココが持てれば楽なんだけど、取っ手がない!」みたいな。そういうことが一切ない、「生活の知恵」の塊のスタンドだ。
シゲさん所有のSUPER100JHのキャビなんて泣きたいぐらいアホなところハンドルが付いてるからね。でもアレは完全復刻仕様だから仕方ない。
何しろ土台はダイニング・テーブルだ!これがパタンパタンとコンパクトにたためるようになっている。加藤さんの自作。器用なもんです。
シゲさんの猛烈なフィードバックからスタートするはHenry Manciniの「Peter Gun Theme」。
「Peter Gunn」というのはアメリカの刑事もののTVドラマで、Blake Edwards(Julie Andrewsのダンナさん)が制作していた。
誰しもが耳にしたことのあるこの有名なリフ…かつてはELP&Pもオハコとしていたが、DYNAGONバージョンの方がヘヴィだ。
ちなみにBlake EdwarsとHenry Manciniのコンビはこれ以外にも「Breakfast at Tiffany's」で「Moonriver」を、「The Days of Wine and Roses」で「酒とバラの日々」を、「Pink Panther」で「ピンク・パンサーのテーマ(あの有名なテナー・サックスのテーマはPlus Johnson)」を世に残している。
間髪を入れず加藤さんのシンセサイザーのSEが会場に充満する。
2曲目は「Hammerhead」。サメ?
この曲以降は1曲を除きすべてオリジナル曲。
シゲさんの「Freeway Jam」を思わせるテーマから、予想しない方向へ物語がドンドンが展開していく。
最後の最後で転調するところが何ともスリリング!
ところで、もうお気づきのこととは思うが、DYNAGONはインストのバンドである。
シゲさんとのお付き合いもかれこれずいぶんと長くさせて頂いていて、この「DYNAGON」という名前はかなり以前から知っていたが、実際に見たり聞いたりしたことはなかった。活動していなかったからね。
で、今回見て初めて知ったの…DYNAGONがインストのバンドだったってこと…。
70年代(現実的には80年代)のハードロックがそのまま帰って来たようなサウンドというか空気感がタマリマセンな。一発に気に入ってしまった。
続いての「Put the Metal」はややポップなハード・ドライビング・チューン。
シゲさんのワイルドな8ビートの刻みに…
加藤さんのオルガンのメロディがからみつく。
バンドのダイナミクスを極限まで発揮したゴキゲンな1曲。
シゲさんのクランチーなアルペジオ一発。ああ、そうだ、1959ってこういう音なんだ…ってことを確認させてくれる。
曲は「Art of Nazca」。「ナスカの地上絵」をテーマにした作品。
これもコロコロと場面が移り変わっていく聴きごたえ十分な大作だ。
しかし、シゲさんがこういう曲を演るとはね~。あまりにもRolloverのイメージが強いからね。シゲさんがキメを弾くなんて「Manic Depression」ぐらいかと思ってた!
次の「Crazy Driver」も直球勝負の真性ハードロック・チューン。
しかしそこはDYNAGONのこと、いたるところに仕掛けが潜んでいるぞ!
6曲目の「Moon」もミディアム・テンポのマイナー・チューン。こういう曲はDYNAGONのへヴィなリズム隊が光るね。
さらに増井さんのドラムで始まる「Rising Dragon」もカッコいいテーマを持つミディアム・チューン。
ミディアムなテンポが加藤さんのソロをキッカケにアクセルレイト。このあたりのメリハリが実に見事!
そして頂点に登り詰める!
まったくすき間なく演奏されたのはアップテンポの「Paradise a Go Go」。
ってコレ、ボロディンの「韃靼人の踊り(Polovetisian Dance)」じゃないの!
「♪ザンザカザンザカ」と原曲とはほど遠いハードなロックになっちゃって!これはこれで実にカッコよろしいな。
最後を締めくくるのはバンド名をそのままタイトルにした「DYNAGON」。
ド派手なテーマ部から加藤さんのソロになだれ込む。ルール無用のソロ地帯!加藤さん大爆発!
そしてクライマックスはギターとキーボードのガチンコ・バトル!
シゲさんも入魂のソロをブッ込む!
そういえば、シゲさんはよくこんなことを言っていた。「ホレ、ジミ・ヘンドリックス演っとるやろ?新しいことは何ひとつ出来んのや」
つまり、シゲさんはRolloverをやっている限り、ジミ・ヘンドリックスの没後に出て来たフレーズやテクニックは一切ステージで弾くことができないというのだ。ライトハンドだの、スウィープなどもってのほか!ジミはそんなことやってないからね。
それがDYANAGONでは自由自在。水槽から離された雷魚のように好き勝手にギターを弾くシゲさんの姿を見てて「自由っていいナァ~」と思ってしまった。
ん~、恐るべしDYNAGON!
ここのところmintmintsやD_Driveといったインスト・ロックの活躍が目覚ましくとてもうれしく思っている。
歌は「言葉」と「声」いうとてつもなく強力な武器を持っているので、最終的には主役の座を他に譲ることはないが、それに負けじと音楽的、器楽的に英知を曲に注ぎ込むところがインスト・ミュージックのおもしろいところだ。
ジャズがいい例だ。あのワケのわからないアドリブ・メロディがもっと単純なものだったらすぐに飽きて誰も聴かなくなってしまうだろう。リズムにしても、あのスイング感が快感だから聴いていられる。
古くはテケテケに熱狂し、かつてはCasiopeaのコンサートで会場全体が飛び跳ねた時代もあった。
日本人はインスト・ミュージックが根っから好きなんだと思う。
DYNAGONの、この生きる化石のようなアナログのインスト・ロックとmintmintsやD_Driveのようなコンテンポラリーなインスト・ロックの共演を見てみたいナァ。
DYNAGONの詳しい情報はコチラ⇒DYNAGON facebook
さて、DYNAGONはMt. Ena Rock Festival(恵那ロック)への出演が決まっている。竹田和夫や外道が出演する中津川市で開催される伝統のロック・フェスだ。
そこでも重戦車っぷりを存分に発揮してくれることだろう。
Mt. Ena Rock Festivalの詳しい情報はコチラ⇒Mt. Ena Rock Festival facebook