金属恵比須~邪神"大和田千弘"覚醒 <後編>
大和田さんの乳酸が溜まったところで『邪神"大和田千弘"覚醒』も中盤に突入する。「『躑躅ヶ崎館』と『月澹荘綺譚』でございました。
(ピアノがフューチュアされているので)すごく上品になりません?」
「そう、ナンカいつもより上品な香りがするよね~」
「アレ?…じゃ今までは下品だったの?
さて、横溝正史の金田一耕助シリーズの短編を元に『鏡の中の女』という新曲を作ってみました。
殺人事件が起こるんです…前回作った『雪割草』も殺人事件でしたね。
あれも横溝正史だったんですが、今回も金田一耕助。
三鷹と銀座という地名を入れて椎名林檎に対抗しようか…と」
<前編>で触れた通り中学校1年生の時に横溝正史が流行って私も『獄門島』、『八つ墓村』、『三つ首塔』、『悪魔の手毬唄』、『悪魔が来りて笛を吹く』あたりを読んだけど、この「鏡の中の女」という作品は知らない。
チョット調べて見ると、コレは『金田一耕助の冒険』というシリーズの中の一編で、横溝さんは「~の中の女」という題名の作品をベラボーにたくさん残していらっしゃる。
やってみると…「~」の中に入る言葉ですよ…夢、霧、泥、鞄、鏡、傘、檻、洞、柩、赤、瞳、日時計と、ずいぶん色んな「女」を描いて見せたんだネェ。
さすがに「東中野女」なんてのはなかったな。
そういえば、芦田伸介と渡辺美佐子が主演した『危険な女』という「東中野」を舞台にした映画があったっけな(原作は松本清張)。
ということで新曲の「鏡の中の女」。
「Get Thy Bearings」とか「A Man, A City」のようなミディアム・テンポのヘヴィなムード。
「ロック」以外の何モノでもない。
大和田さんのピアノをバックに…
稲益さんがメロディを重ねると…アララ?完全に昭和歌謡になっちゃった!
そこにマスヒロさんと…ロクロウくんのコンビがジャズ・ビート(かつて「4ビート」と読んでいたリズムです)を流し入れてくる。
そして、またあのヘヴィなリフを経て大和田さんのパーカッシブなピアノ・ソロ。
すごい展開!そして最後にたどり着いたのは三鷹駅。
ハハハ、こんなの初めて聴いたわ!
でもね、わかるんです。
昔のキング・クリムゾンと演歌って紙一重だと思っているので。
それと、歌詞に地名を入れるアイデアは大賛成です。
日本のロックが本場のロックにどうしても敵わない理由のひとつはコレだから。
「ルイジアナ」と「狸穴」、「エジンバラ」と「小塚原(こづかっぱら)」の違いを考えればこのことがすぐにわかる。
映画はこの狭い日本でロード・ムービーを作ることがほぼできない…って思うでしょ?
山田洋次の1970年の『家族』という映画をご覧なさい。
ロード・ムービーの傑作です。 再び高木さんがキーボードに向かってイントロのメロディを奏でるのは「紅葉狩り パート3」。 美しく物悲しい歌のメロディが印象的なワルツ。大和田さんの熱情的なピアノのバッキングが実にステキ!
そして曲は4/4拍子となり、エキサイティングなバッキングが稲益さんを囲む。 さらに7/4拍子のインストゥルメンタル・パートへ。
「紅葉狩」の「パート4」に入ったのだ。一糸乱れぬアンサンブル。高木さんがピックアップ・ソロで弾くフレーズは13/8拍子かな?こういうタイプのギターにもMarshallはバッチリだ。
高木さん愛用のMarshallは「1959SLP」と「1960A」のハーフ・スタック。稲益さんがメロトロンでアンサンブルに加わって再び7/4拍子のパートに戻る。こういう音楽は聴いていて全くありがたい。 ところでこの「紅葉狩」。
金属恵比須はどこに素材を求めたのか寡聞にして存じ上げないが、「紅葉狩」というのは平安時代中期に平維茂(たいらのこれもち)という武将が、戸隠に住む「紅葉」なる鬼姫を退治したという伝説。
「紅葉」とは鬼にしてはカワイイ名前だが、長野の鬼無里や別所温泉、もちろん現場となった戸隠等に伝わっている話だそうだ。
日本で最初のストリップティーズとして有名な「天岩戸」伝説といい、戸隠ってのはよっぽど神秘的な所とされていたのかネェ?
私は7年半もの間長野に住んでいたことがありましてね、子供を連れてちょくちょく戸隠に行ったもんです。
冬のスキーはもちろん最高だし、よく知られる戸隠そばは言うに及ばず、「ランプ」という喫茶店の自家製チーズケーキや産地直売のとうもろこしやトマトが殺人的においしかった。
だから、この「紅葉狩り」というのは「ぶどう狩り」とか「りんご狩り」の「狩り」ではなくて、「キツネ狩り」とか「魔女狩り」の「狩り」なんですな。
この伝説が歌舞伎の人気演目になった。
そして1899年(明治32年)、当代きっての人気役者だった市川團十郎と尾上菊五郎がこの演目を歌舞伎座で演じ、その機会に演技をフィルムに収めて映画に仕立てた。
こうしてこの「紅葉狩」が日本で最古の映画になったそうな。 このことは前回紹介した京橋の「国立映画アーカイブ」で実際の映像を見せて解説しているので、この曲が好きな金属恵比須ファンの皆さんはどうぞチェックしに行ってみてください。
「一気に現代音楽っぽくなってスゴイですよね。
スタジオで演っている時はわからなかったんですが、『おとみやげ』の音源の大和田さんのトラックを聴くとものすごく凝ったアレンジをして頂いているんですよ。
ゼヒ『おとみやげ』を聴いて頂きたい。
ホント、乳酸が溜まる曲ばっかですので、メンバーの皆さんの話を聞いてチョット休憩しましょうか?
では…ロクロウくんの長所と短所はどういうところですか?」
「短所…は、食べるのが遅いことです」
すかさずマスヒロさんから「それ、短所じゃないよ!」。
全くの同感。
「早メシ、早グソ、毒のウチ」ってね。
「マスヒロさんは?」と訊かれて…
「長所はないと思う。短所は全部です!」
「私の短所は…自分勝手ということなんですよ。
会社で出張に行く時は絶対1人で新幹線に乗りたいタイプなの。
2人で行く時もあるんですけど、そういう時は席をズラすとかね」
コレは私もいっしょ。
上司と海外出張する時なんかは特に深刻だった。
いつも飛行機の席を思いっきり離して取るようにしていたら、ナンのことはない、相手も同じことをやっていたわ。
「そうそう、昔福岡のライブに行く仕事があってみんなは飛行機に乗って行ったんだけど、当時飛行機が大キライだったのでオレだけ博多まで新幹線で行ったのね。
そしたら6時間だか7時間だかかかってさすがに飽きた~。
食堂車でカレーライスを食べたりして何とか時間を潰したんだけど、九州は新幹線で行くもんじゃないナァと思いました」稲益さんの長所?(短所?)は声が大きいことで、その声の振動でハードディスクを止めることができるそうです。
で、それが巻き起こすレコーディングの時の苦労話についてアレコレ。
するとマスヒロさんからツルのひと声。
「もう新しい録音機材買おうよ!」
そういうことでした、ジャンジャン。
大和田さん。
「私はガチめの引きこもりなんです。
今ココにいるのもスゴくガンバっているんです。
と言っても結局さぁ、物事の受け止め方によって長所にも短所にもなりますよね」
すこぶる社交的な大和田さんは全然そんな風な感じがしませんですけどネェ。稲益さんが拍子木を手にしてバンド全体のダイナミックなキメから始まるのは「勝頼」。大和田さんがピアノで奏でる鋭角的なリフ。リズムが3/4拍子に替わって高木さんのディレイを深くかけたギター・ソロ。ダ・カーポして曲が終わり、ひと息入れると聞こえて来るのはおなじみの「武田家滅亡」のハードなイントロ。金属恵比須のキラー・チューンのひとつ。
メンバーの気合の入った演奏で会場の熱気が更に上がる!
「♪武田家!滅亡!、武田家!滅亡!」
曲に合わせて上がったお客さんの腕が猛々しかった!「『武田さん』に失礼なのでコレはあまり拡散しないでくださいね。
あ、コレ?…自慢なんですけど、藤岡弘さんからもらったサインなんです」
「対談をさせて頂いた時に『コレに書いてください』とお願いしました。
いつもサインをする時に使ってるバンド備品のマジックインキ、『マッキー』をこっそり手に取って渡したところ『コレ、細いなぁ!もっと太いのないの?』と藤岡さんがマネージャーに言ってすごくブットいマジックを持って来てもらったんです。
それで書いて頂いたのがコレ」
「サインは1998年に美輪明宏さんからももらいましたね。
それは高校生の時、『未来潮流』というNHKの討論番組に出た時でした。
『サインを書いてくださ』と言うと『(美輪さんのマネで)ちょっとギター弾いてください』と言われて弾いたんです。
そしたら『うまいわね』って。
その時美輪さんに『うまい』って言われたからギターを続けて来ることができたんですよ。
だからミュージシャンからサインをもらっていない」
イエイエ、美輪さんは今では「0120 333の906」だけど、元々は中退したとはいえ音楽大学に通ったシャンソン歌手。
私が子供の頃にテレビで見る明宏さんの名字は「丸山」さんでした。
ココで高木さんと稲益さんがステージを降りて「千弘恵比須」の演奏を鑑賞するコーナー。
つまり大和田さんが金属恵比須のリズム隊の2人と組んでトリオ・フォーマットで演奏するということ。
「トリオで演るなんて20数年ぶりかもしれない。
しかも、ギターがいないトリオなんて本当に珍しい。
まずは華麗なピアノから聞かせてやってください。
後ほど我々が入っていきますんで」 「いつでも入ってください。
せっかくなので、ワタシの演ってる“烏頭”の曲を…ちょっとメドレーっぽく演りますね。
ナンカ入りたいなって思ったらご自由にどうぞ!」まずは大和田さんのピアノ独奏からスタート。 いつリズム隊が加わって来るか様子を窺う大和田さん。
大和田さんが弾いたピアノを聴いて当意即妙、すぐに入って来た。 そして、曲は烏頭のレパートリー「Trialogue(トライアローグ)」に。
「独り言」を英語で「monologue(モノローグ)」って言うでしょ?
元はフランス語で、その語源はギリシャ語の「mono(=ひとつの)」と「logos(=話)」。
そこで、この「mono」をギリシャ語の数を表す接頭辞で「2」を意味する「di(ジ)」に替えてみると「dialogue(ダイアログ)」、すなわち「会話」という意味になる。
今度はこの「di」を「3」を意味する「tri」に替えると「trialogue」となって「3人の会話」、すなわち「鼎談」という意味になる。
オモシロイねぇ。
じゃ、4人ではどうか?
「4」は「tetra(テトラ)」だから「tetralogue」になるけど、こんなん見たことないな。
言葉自体は実在するようです。
それでは、ネコ好きだという大和田さんのために、この数を表す接頭辞を「cat(ネコ)」に替えてみる。
すると、おお!「catalogue(カタログ)」になるではないか!
もしかして「ネコちゃんの会話」?
ナンでやねん?…と思って調べて見たら「catalogue」の語源はやはりギリシャ語なんだけど、「katalogos」という言葉があって「数え尽くす」という意味なのだそう。
ネコちゃんは関係なし。残念でした。
3人が一体となったまるで岩石のようなテーマの提示から…曲名通り、3人が手にした異なる楽器による音楽の会話。
イヤ、言い争いかな?…その語り口が3人ともハード極まりないから!ロクロウくんのクランチーなベースの発言がひと際強力だ!ひとしきり3人の言い分が出ソロったところでダ・カーポしてあの岩石のようなイントロに戻る。
ウ~ム、ところで果たして話はついたのであろうか?
これこそヘビとカエルとナメクジの「三すくみ」で決着つかずだな。
そこへ割って入って来たのが藤岡弘の虎の威を借りた高木さんのギター!
曲は「Trialogue」から短いブレイクをはさんでそのまま「邪神覚醒」にイントロになったのだ!
コレは大変にいいアイデアだぞ!
ハイライトだぞ!
クライマックスだぞ!
だからそのまま曲は「邪神覚醒」。
高木さんのボトルネック・ギターが宙を舞い…大和田さんのピアノがバッキングにリフにと大活躍!縦横無尽に飛び交うロクロウくんが繰り出す低音。そして、アウトロでのマスヒロさんの壮絶なドラミングが炸裂して… ショウの本編を終了した。アンコールまでの間、タマにはアギター・アンプ屋さんらしいことをチョットやらせてもらうと、さっきの烏頭の「Trialogue」ね。
「モノレール」なんかもそうだけど、このギリシア語の接頭辞を持つ言葉ってものすごくたくさんあって、Marshallも大きくそれに関わっている。
それは真空管。
高木さんが愛用している「1959SLP」という1965年から製造され続けている伝統的なモデルには7本の真空管が使われている。
プリアンプ部の「ECC83」という「三極管」とパワーアンプ部の「EL34」という「五極管」がそれ。
1959より以前のモデルにはもう1本、「GZ34」という電流を一方向だけに流す仕事をする「二極管」という真空管も搭載されていた。
この「二極管」を英語で「diode(ダイオード)」という。「-ode」というのもやはりギリシア語で「道」とか「通路」のことだが、ココでは「電極」を意味する。
この「2」を表す「di」を「3」の「tri-」にすると「triode(トライオード)」…すなわち「ECC83」のような電極を3つ擁する「3極管」になる。
「4」の「tetra」にすれば「tetrode(テトロード)」になって「KT66(kinkless tetrode 66)」等のような「4極管」。
同じように「5」の「penta」がついた「pentode(ペントード)」は5極管で、「EL34」が作り出すサウンドはまさにMarshallのサウンドなのよ。
イギリスには国が運営しているコンピューターの博物館があって、そこにありとあらゆる真空管が展示されている。
戦時中、アラン・チューリングがドイツの暗号「Enigma」を解読するために開発した「Bombe」というコンピューターの先祖には2万本の真空管が使われていたというからね。
現在のイギリスの紙幣の最高額である50ポンド札に印刷されている人物はアラン・チューリング。
あのAppleのロゴの欠けた部分を食べたのはチューリングで、その箇所には青酸カリが塗布されていた…という話があるんですよ。
真空管に興味のある方はコチラをどうぞ。
久しぶりに読んでみたけど、我ながらとてもオモシロかった。
↓ ↓ ↓
①【イギリス-ロック名所めぐり】vol. 47 ~ 国立コンピューティング博物館<その1>
②【イギリス-ロック名所めぐり】vol. 48 ~ 国立コンピューティング博物館<その2:真空管まつり>
アンコールではまずロクロウくんが1人でステージに登場。
「アンコールありがとうございます。
お知らせをしていいというお許しを頂きました。
この度、秋葉龍さんというプログレ界の天才作曲家とPink Square Avenueというバンドを始めました。近々ライブもやる予定ですのでよろしくお願いします。
私からは以上です」
「アンコールありがとうございます。
今日はいかがでしたか?
スゴイの見たな…って感じではするのではありませんか?
するでしょう?」
「大和田さんとゼヒ1度演ってみたいな…という風にずっと思っていました。
そこでこの機会でお誘い致しました。
ホントに楽しい時間でございます」「金属恵比須…ホントにカッコいいっすねぇ!
緊張しました!…まだ終わってないけど!」高木さんが今後の金属恵比須の今後の予定を発表。
「今日が今年最後のライブになります。
でも、年内に前回と今回のライブ音源をコンパイルしたライブ盤を出します。
『金属万博』の開催についても考えております。
そして、次のライブは『猟奇爛漫FEST』として来年3月15日に4人で演ります」来年還暦を迎えるというマスヒロさん。
おめでとうございます。
「ビックリだよね~、そんなに歳を取ったのか?って!
ある先輩がおっしゃっていたんですけど、『右向いて左を向くと10年経っている』って…まさにそんな感じ」
来年の9月ごろに「還暦記念ライブを企画したい」と高木さんが提案すると…
「オレはやめてくれ!って言ってるんですよ!普通にやろうよ~。
オレ、長所もないし、友達がいないから呼べる人がいないんだよ!」
と照れるマスヒロさん。
マスヒロさんは金属恵比須に加入して10年が経過したそうだ。
在籍期間の長さは歴代メンバー中トップ。
そんなマスヒロさんが現在愛用しているドラムスがNATAL(ナタール)!アンコールで選んだ1曲は「イタコ」。金属恵比須流の「口寄せ」は凄まじいまでの迫力!
最後の最後までパワーを保ちつつ、緩急自在にして緻密な演奏を聴かせてくれた。 高木さんのエンディングのルーティン。大和田さんも最後にひと暴れして…感動のエンディング!
大和田さんの助けを借りてライブの数の少なさを質の高さで補った素晴らしいショウだった!
金属恵比須の詳しい情報はコチラ⇒Kinzoku-Yebis Official Web
<おしまい>
☆☆☆Marshall Music Store Japanからのお知らせ☆☆☆
バディ・ガイに認められた実力派ギタリスト/シンガー、ローレンス・ジョーンズ。
現在ヨーロッパで大活躍中!
<Anywhere With Me>
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