RagnarøkKr 神々の黄昏 <前編>~ Kelly SIMONZ's BLIND FAITH
今日お届けするのは、3月に開催された『Ragnarøkkr 神々の黄昏』というイベント。
「神々の黄昏」とくれば。どうしたってワーグナーの『ニーベルングの指環』ですな?
ワーグナーは聴かないな~。どうやって接すれば良いのかがサッパリわからない。
でも、ヒトラーもそうであったようにワーグナーには狂信的なファンが世界中にいて、そういう人たちを指す特別な言葉がある。
「ワグネリアン」…という。
カッコいいね~。
「エリントニアン」なんてのもある。
コレはデューク・エリントン楽団のメンバーを指す言葉。
エリントンのオーケストラのメンバーであることはそれだけ名誉あることなのだ。
以前もチョコっと書いたけど、ジャズ・ギタリストで松坂慶子さんのご主人である高内春彦(ハル)さんの著書によれば、アメリカの音楽はすべて、今も昔もデューク・エリントンでできているのだそうだ。
実は雑誌の取材で、私は過去に何度かハルさんとご一緒したことがある。
仕事柄、私もたくさんのギターの達人にお会いするけど、ハルさんの演奏には舌を巻いた。
ジョー・サトリアー二とか、ハルさんとか、「本当にギターのウマい人」とはああ方々を指すのだろう…と思わざるを得ない。
まるで息を吸うようにギターを自然に弾き、その場で「自分だけの音楽」が成立してしまう…という感じ。
で、ハルさん、Marshallがお好きなんですよ。
それで色々とお話を伺うと、とにかく優しい口調で、信じられないぐらい何でも上手に説明してくださる。
ニューヨークの黒人がハルさんにブルースを習いに来るというぐらいで、話の何しろ説得力が凄まじい。
そんなハルさんがジャズの歴史という音楽の歴史を俯瞰した一冊がコレ。
ジャズ理論についても詳しく言及していらっしゃってすこぶる面白い。
また表紙がいいね、『Somethin' Else』で。
ジャズ・ファンに限らず、音楽ファンの皆さんにはいつか読んで頂きたい一編だ。
久しぶりにMarshall Blogを更新したもんで、いきなり思いっきり脱線してしまった。
で、この「神々の黄昏」の原語が「Ragnarøkkr(ラグナロク)」という言葉。
ミュージシャンなら気になるよネェ…「ø」が。
「Aø」なんて、ポコッと大文字のアルファベットの隣にくっ付けてやれば、Am7の5度が半音下がっちゃう。
いわゆる「ハーフ・ディミニッシュ」ね。「Am7-5」とか「Am7b5」とも書くけど、ジャズの連中はツラりと「Aø」って記す。
もちろん、「Ragnarøkkr」の場合はそんなことはゼンゼン関係なくて、コレはスカンジナビアの方で使われる「o」と「e」を合わせた文字。「oe」と発音するようだ。
スウェーデンに「Niels-Henning Ørsted Pedersen」という有名なベーシストがいた(2005年死去)。「ニールス=ヘニング・エルステッド・ペデルセン」とカタカナでは表記されるが、きっと真ん中の「エルステッド」は「オェルステッド」と発音するのが正しんだろうね。
ちなみにぺデルセンはベルギー人のフィリップ・キャサリンというギタリストと組んでSteeple Chaseというスウェーデンのレーベルから何枚かのアルバムを出しているけどカッコいいよ。
このギタリスト、レスポール・カスタムでガンガンとジャズを弾いちゃう。
ロック・ファンにわかりやすく言えば、オランダのFocusのヤン・アッカーマンの後任で、『Focus Con Proby』というアルバムに参加している。
Focusファンには冷遇されているアルバムだけど、私は好き。
ちなみにこのアルバムでドラムスを担当しているのは、Journeyに参加する前のスティーヴ・スミス。
それと、キャサリンは1975年に2度目のFocusの来日公演に参加している。モノの本によるとエラく評判が悪かったようだけど、私は観たかったな~。
大スキなギタリストで、学生の頃この人が参加しているアルバムを探して歩いたものです。
で、スカンジナビアの古語で「神々の運命」を意味する言葉「Ragnarøk」は、北欧の神話で「終末の日」や「世界の滅亡」を表すのだそうだ。
また、13世紀のアイスランドの詩人スノッリ・ストゥルルソンという人が著した『エッダ』という詩の教本や9~13世紀の『古エッダ』と呼ばれる歌謡集では「Ragnarøkkr」と呼ばれ、「神々の黄昏」と訳される。
ワーグナーはコレを「Götterdämmerung (読めない!)」というドイツ語に訳して『ニーベルングの指環』の最終章のタイトルとした。
だから、日本語でも「Ragnarøkkr」には「神々の黄昏」という訳語が当てられるのだそうだ。
ブリッジ通訳みたいな感じだね。
そんな『Ragnarøkkr』を冠したダブル・ヘッドライナー。
出演はDraculeaとKelly SIMONZ's BLIND FAITH。
「二人の魔王が出会う時、神々の世界は、終わる。」…まず最初の魔王にお出まし頂こう!
最近作『Overture of Destruction』のオープナー「Overture」でショウはスタートする。
Kelly SIMONZ
Kellyさんのホーム、東京キネマ倶楽部のサブ・ステージに現れたYAMA-Bが3人に加わる。
曲はアルバム通りの進行で、タイトル・チューンの「Road to Destruction」。
中間のバロッキッシュなキメがカッコいい。
そのパートからつなぐギター・ソロ。CDではまさに鬼気迫る演奏を聴かせてくれる。
もちろんライブではそのCDのプレイを上回る激演となる!
キレ味鋭いKellyさんのリフでスタートするのは「Road To Ruin」。
「Road to」シリーズ。
やっぱりこういうのはMarshallのサウンドじゃないとダメね。
メロディアスなサビでYAMA-Bさんの声が会場に響きわたる。
ギアはトップに入れたまま。
ストレートなエイト・ビートに乗って思いっきりアクセルをベタ踏み!
さて、ココでマーブロ的には避けて通れないのが「Road to」シリーズでしょう。
コレは1940年代にビング・クロスビー、ボブ・ホープ、ドロシー・ラムーアという人気スターがレギュラーで出演したハリウッドのコメディ映画シリーズ。
日本では「Road to」が「珍道中」と翻訳されてやはり大きな人気を博した。
下はそのウチの4作品、『モロッコ珍道中』、『アラスカ珍道中』、『南米珍道中』、『バリ島珍道中』。
戦中の映画ですよ。
日本人がヘロヘロになっている時にアメリカ人は『珍道中』を観てハラを抱えて笑ってたワケ。
一方、ニューヨークではビ・バップのムーブメントが隆盛を極め、「モダン・ジャズ」が誕生した頃。
それだもん。アメリカなんかに勝てるワケないよ。
とにかく、映画や音楽に関しては30年代、40年代、50年代とアメリカは一番いい時代を過ごした。
さすがに私も数本しか観ていないが、やっぱり面白いよね。
マルクス兄弟なんかもそうだけど、「お笑い」のオリジナルネタが山ほど詰まっている。
ちなみにQueenの『オペラ座の夜(A Night at the Opera:映画のタイトルは'オペラは踊る')』と『華麗なるレース(A Day at the Races:映画は'マルクス一番乗り')』の原題はそのマルクス兄弟の映画のタイトルをそのまま頂いている。
ちなみにボブ・ホープはジム・マーシャルが熱心に活動していた「ウォーター・ラッツ」という芸能関係者が運営する慈善団体の会長を務めていたことがあり、ジムはそのことを何度か私に話してくれた。
当然、コチラもボブ・ホープといえば「Roat to」シリーズと知っているので、そのあたりの話をしたことがあった。
ちなみにブライアン・メイやリック・ウェイクマンもそのウォーター・ラッツの会員だ…ということはもう何度も書いている…それを知ってて書いていますのでご安心ください。
もう一発!
前作『At the Gates of a New World』から「Bound For Glory」。
快調に飛ばすKellyさん。
とても気持ちがよさそうだ。
いつかの「怒り」をテーマにした新宿の時とはゼンゼン表情が違うもん。
KAZさんが送り出す低域が急速調に輪をかける。
ベース・アンプはもちろんEDEN。
ヘッドがWT600、キャビネットはD410XSTだ。
この曲も中間部に設けられたバロッキッシュなキメが魅力。
どうしてもどうしても、バロック音楽って聴けないんだけど、Kellyさんのならいいな。
昔、イギリスの古楽とロックを融合したGryphonっていうバンドがいてね、なかなかヨカッタのよ。ノリノリのKellyさん…曲よりも高速でスケールの大きな音符を叩き出す!
『Overture of Destruction』から「Regeneration」。
この曲のポイントはナント言っても勇ましいサビのメロディでしょう。
1回聴いたら忘れない。
それこそワーグナーの楽曲に出てきそうだ。
あ、Marshall Blogでは「楽曲」という言葉はクラシックにしか適用しません。
広辞苑では「楽曲」という言葉を「音楽の曲」と説いてはいるが、その後に「声楽曲・器楽曲・室内楽曲・管弦楽曲などの総称」としている。
ロックやジャズには「曲」という言葉を使うのが適当だと私は強く考えるのであ~る。
「ワルキューレ」とJ-POPの曲を並列で「楽曲」と呼んでいるのをワーグナーが知ったらアタマから湯気を出して怒るって!
Yosukeくんはこの日、両バンドを通じて出ずっぱりだったのだが、エネルギーの配分など一切考慮しない激演ぶりを見せた。
Kellyさんがマイクを握る「I Am Your Judgement Day」…実際には握っていないけど。
70年代ブリティッシュ・ロック風のサウンドが好き。
この曲も最近はスッカリKellyさんのステージでは定番になったね。
さて、Kellyさんのステージの中盤。
ココがもスゴかった。
怒涛のインスト3連チャンだ~!
Kellyさんのテーマ・ソング的存在?
「やっぱコレっしょ!」感がスゴイ。猛烈な密度のソロ。
息をつくヒマなど与えはしない。
Yousukeさんがハジキ出す3連から始まるのは「The Wrath Of GAIA~Suite NO.1」。
「wrath(ラス)」というのは「激怒」という意味。
ジョン・スタインベックがピューリッツァー賞を獲った「怒りの葡萄」の原題は「The Grapes of Wrath」という。ちなみにスタインベックはこの作品を対象にして、発表から23年後にノーベル文学賞をもらった。
私は原作も読んだし、ジョン・フォードの映画も観たけど、イヤな話でね~、アレ。
こっちはスカッと、そしてどこまでもヘヴィにKellyミュージックが鳴り響く!
さらに~、インスト三段活用の最終段階は「Opus#3」。
『Overture of Destruction』収録のシンフォニック・インスト・ナンバー。
同じ「Opus」でもこの曲はクラシックのモチーフをジックリ煮込んだようなやり方。
そうだな…モーツアルトの25番の第1楽章の第1主題みたいなイメージかしらん?
「ナニ、クラシックを引き合いに出してカッコつけてんだよ、マーブロは!」なんて言われそうですな。
その通りです。でもクラシックはすごく好き…もっとも普段はアマデウスなんて聴かないけどね。
でも、ハッと「交響曲第25番」がアタマに浮かんだのだ。
KAZさんだから平然と弾いているように見えるけど、このコーナーはかなりガッツが必要だったハズだ。
そして、YAMA-Bさんが戻ってKellyさんのステージは最終楽章を迎える。
「Journey To The Gates」から「At The Gates Of A New World」へ。
前作『At The Gates Of A New World』の冒頭の再現だ。
指板を駆け巡るKellyさんの指!
しかしKellyさんの手自体はふっくら、やわらか、しなやかだ!
「コレでもか!」と押し込んでくる音の洪水にファンはノックダウン!
「ココでボクの洗礼を受けなければならない人がいます…」
「洗礼」って…!
サブ・ステージから姿を現したのは、"H.E.L"KAISER.Dracul!
この後に登場するDraculeaの魔王だ。
曲はKellyさんのリード・チューンのひとつ「Now Your Turn」。
こんな感じで終了。
イヤ~、締めて1時間、かなり密度の濃いステージだった!
さて、Kellyさん、次はトモ藤田さんとの共演。イヤ、競演か。
以前、『TOMO & KELLY GUITAR ACADEMY』と題してココ東京キネマ倶楽部にもご登場頂き、Marshall Blogでレポートしているが、今回は京都と大阪での公演だ。
そちらのエリアの方はゼヒ!
以前の記事はコチラ ↓ ↓ ↓
★Kelly SIMONZ~TOMO & KELLY GUITAR ACADEMY 2016 <前編>
★Kelly SIMONZ~TOMO & KELLY GUITAR ACADEMY 2016 <後編>
★Tomo & Kelly Guitar Academy 2015 <前編>
★Tomo & Kelly Guitar Academy 2015 <後編>
Kelly SIMONZの詳しい情報はコチラ⇒Official Website