【号外】プロジェクトM~Marshallを著せ!
予てより大騒ぎしておりました新しいMarshallの本、『アンプ大名鑑 [Marshall編]』が昨日発売となった。
予定通りの発売となり、ひとまず胸をなでおろしている。
おかげさまでたくさんの予約も頂戴し、ライブ会場限定での先行発売でも大好評を頂いた。
すでにお買い上げ頂きました皆様、これからご購入を予定されている皆様には心から感謝申し上げます。
私は「監修」という大役を仰せつかり、当書の制作他の業務に参画させて頂いた。
すでにMarshall Blogでは制作レポートを掲載したが、こうした機会は滅多にないので、完成を見た現在、プロジェクトを振り返りながら今一度本書をご紹介させて頂きたい。
本著は1993年に上梓された『THE HISTORY OF Marshall』を大幅に改訂・増補した『THE HISTORY OF Marshall THE FIRST FIFTY YEARS』の日本語版だ。
前著はJCM900までを掲載していたが、本著では新DSLシリーズまでが網羅されている。
したがって、JCM900シリーズまでのモデルについての記述は前著からの転用もところどころ見受けられるが、前著は日本語版が制作されなかったので、事実上日本語での公開は今回が初めてとなる。
また、JTM45や1959、1962といったMarshallの歴史の根幹をなすモデルについては、1993年以降も研究が進み、新しい情報や未公開写真がふんだん追加された。
さらに、前著ではあまりフィーチュアされることがなかったKen BranやDudley Craven、Terry MarshallやKen Flegg等、Jim以外のMarshallスタッフにも十分にスポットが当てられている。
全463ページの半分近くの紙幅を埋めんとする写真は圧巻。
希少モデルの細部にいたるまでの写真だけでなく以前に見たことのないアーティストの写真や歴史的な書類、広告等、ページをめくるたびにニヤっとさせられてしまう。
フォト・クレジットを見ると、存外に個人蔵のものが多い。この本を編むために多方面から集められたのだ。(頻出する「Matt York」はアメリカはフェニックス在住のフォトグラファー。50周年イベントの時にいっしょになって以来、友達付き合いをさせてもらっている)
なんといってもうれしいフル・カラー!
こんなものに惹かれるなんて不思議だよね~?いくら見てても飽きないよ。
ところで、監修の仕事は難航を極めた。
勝手知ったるMarshallのこと、やり出せば簡単にできるだろう…とタカをくくっていたのがそもそもの間違いだった。
『THE HISTORY OF Marshall』の原文にトライした方は少なからずお思いになったことと思うが、ノンネイティヴにとっては、なかなかに手ごわい文章が散見されるのだ。
それに加えて、ミュージシャン独特の英語表現も多く、何度も何度もイギリスやアメリカの友人にメールをして教えを乞うた。
海外で活動したことがある人には釈迦に説法となるが、せっかくの機会なので日本のギタリスト諸兄にいくつか例を示そう。
●crank : 「アンプをフルテンにする」という意味。もし、海外の人と演奏する時、「Hey, why don't you crank it up!!」なんて言われたらグイっとやって欲しい。
おもしろいことにこの「フルテンにする」という意味を持つスラングは他にもものすごくたくさんあるらしくて、「dime」なんていうのも同じ意味だそうだ。やっぱ外人は爆音好きということを物語るエピソード。
●break up : 「お別れ」という意味ではない。コレはボリュームを徐々に上げて行って、クリーンの音がクランチに変わり出すポイントを指す。日本語では「クリップ」って言うのかな?
●chunk : 右手でミュートをしながらパワーコードを8分で刻んでゾンゾンやるでしょう。アレ、「チャンク」って言うんだって。
…等々、こんなものどこの辞書を調べても出てるワケがない。英米に住んでバンドをやるか、外国の音楽か楽器の関係者に友人を持つしかない。
さらに、つまらない…というか、日本人には理解不能なジョークが結構ちりばめられている。コレは訳しようがないんだよね。そのまま訳しても到底面白くない。かといって相対する表現を考え出すのは至難のワザだ。
また、当時の文化やロックの名曲やアルバムのタイトルをシャレで引用している文章がやたら多い。
下訳をちょっと読んで意味がわからないのは大抵コレ。
おかげさまでこっちはだいぶ歳を喰ってるもんだから、古い曲はすぐにわかる。
そうでないのは、原文を読んで、ネットで調べて、それでもわからなければ海外の友人にメールして…ひとつの文章を仕上げるのに1時間近くかかってしまうなんてことはザラだった。
結局、原文をすべて読むことになったが、得たものも大きかった。
それとね、誤植かなんか知らないけど、原著にはモデルの名前や真空管の本数等の仕様に関する誤記が結構あったんですよ。
おかげさまでこっちは比較的頭に入っているのでスイスイと誤りを見つけることができたけど、コレ知らない人だったら大変なことになっていたと思う。
すなわち英語版より日本語版の方が正確ということ!
392ページにわたる原著を訳出するのはプロとはいえかなり忍耐のいる仕事だったと思う。
ここで改めて翻訳を担当された水科哲哉さんと脇阪真由さんに心から御礼申し上げる次第である。
作業としては、下訳をデータで頂き、内容をチェックしてemailでやり取りをした。その後、レイアウトした紙資料を推敲するのだが、データ段階でかなりしっかりチェックしたつもりでも、まだまだ誤りやヌケが多く、訂正を加えられた。それが下の写真。
毎日徹夜してこの作業にあたった。
もちろんこればっかりやっているワケにはいかない。
Marshall Blogは毎日更新したいし、取材に出かけなければネタに尽きてしまう。
取材に出れば、今度は写真の整理に時間を取られてしまう。
イヤ~、久しぶりにまいりましたね~。でも、自業自得なの。もっと余裕をもって作業にあたればなんてことはないハズだったのです。
そうして下の写真のように推敲を重ね、表記の統一等、細大漏らさずチェックしたものの、まだまだ断然ヌケが多く、出版社である㈱スペースシャワーネットワークのご担当、岩崎梓さんが根気強く、そして女性特有のキメ細かさでそれをフォローしてくれた。
最後には締切が目前に迫り、チェックし終えたページを次から次へと宅急便で送り、最後はバイク便で原稿の受け渡しをするに至った。
ま、ちょっとした「手塚治虫」気分?
岩崎さんには色々ワガママを言ってしまい恐縮至極である。そのひとつが表紙の写真。
よせばいいのに、自分で撮るって言っちゃったのよ!
実は四角くて大きい被写体って撮影が難しいんですよ。
正面で撮るとなると、ゆがみが出やすくかなり、引いて撮らないとうまくいかない。こっちは1993年度版の『THE HISTORY OF Marshall』を参考に、てっきり斜めに撮るもんだと思ってるから、「やらせて欲しい!」と申し出たワケ。
それで斜めに撮っていたら先方のデザイナーさんから「やっぱり正面でお願いします」というリクエストが来たからさあ大変。
「それじゃあ」というので、ハンブルな我が「Shige Studio」を片付け直して、引きで撮れるようにした。
それが下の写真。
1959と1960AXの美麗極まりないルックスのおかげで、キャビネットのモアレが心配ではあったけど、オモテは、ま、すぐに何とかなった。
問題は表4の写真だった。
デザイナーさんから「裏面のパネルを開けて撮っちゃってください」との指示。「撮っちゃってください」ったって、アータ…。
まぁ、コレには滅法時間がかかった。
ご存知の通りAキャビのバッフル版には角度が付いているので、スピーカーの上2ケと下2ケに当たる光の角度がゼンゼン違うわけですよ。
ウマく光が当たったかと思うとリアパネルに写り込みが出たり、白とびしたりで難しいことこの上ない!「ドツボ」ってやつ。
それで、家内に頼んで付き合ってもらい「あーでもない、こーでもない」とレフ板の角度をミリ単位で変えながら、何時間もかかって撮影したのが下の写真。
「そんだけ時間をかけてこのザマか?!」と笑わば笑え!ああ、もうブツ撮りの仕事来ねーな…。
でも面白かった!
その他、この時予備で撮ったJVMや1959のイメージ写真も大変気に入って頂き、何点か使って頂いた。
本著の前書きにも記したが、株式会社スペースシャワーネットワークの岩崎梓さんにはこの場をお借りして改めて感謝の意をささげたい。ありがとうございました。
最終的には私の苦労なんざどうでもよくて、とにかく皆さんにこの本を楽しんで頂きたい。
ロックを聴き始めた中学生の頃、ミュージックライフ誌のグラビアページで初めてMarshallの姿を目にしてからかれこれ40年近くが経つ。
あの時、まさか40年後にマーシャルに勤め、マーシャルの本の制作に携わることになろうと一体どうして想像できたであろう。
この仕事をして、またますますMarshallが好きになった。
書店で見かけた際には是非、お手に取ってご覧になってみてください。
よろしくお願いします!
アンプ大名鑑[Marshall編]
著 者:マイケル・ドイル、ニック・ボウコット
監 修:ワタシ
発 売:12月19日(金)
体 裁:B5判/並製/400頁強(オールカラー)
価 格:本体4,500円+税
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