The Paisleys & JUICY HALF ジョイントLIVE <前編>
曾我泰久が長年にわたる構想を練り上げて2009年より活動を開始したトリオ・バンドがThe Paisleys。
ペイズリーとはあのアイビー・ルックでおなじみの…といっても最近では「アイビー・ルック」なんて言葉もスッカリ聞かなくなったが…いわゆる「勾玉もよう」というヤツ。
このペイズリーという柄は水滴の形をした野菜をモチーフにしていて、ペルシアまたはインドがその起源とされている。3世紀初頭から存在していたとか…。18~19世紀にヨーロッパで広く普及し、一般的なものとなった。スコットランドのペイズリーというところでこの模様が用いられた衣料品が量産されたことより「ペイズリー」と呼ばれるようになったんだそうだ。アメリカの古いキルト作者たちの間では「ペルシアン・ピクルス」などと呼ばれている。
…ということなんかさておいて、The Paisleys…いいんだゼ~、このバンド。
サイケデリック・ロック・バンドを標榜して結成したとのことだが、ナンノナンノ、「サイケデリック・ロック」なんて言葉は全然無用の上質なポップ・ロック。
メンバーは曾我泰久、ヤッチン。
ベースに風祭東。
ドラムが大島賢治。
とにかくね~、曲が飛びっきりいいんだ! スッカリ気に入っちゃった!
3人のやりたいことのベクトルが完全に一致していて、やわらかい音楽ながら出ている音はかなり硬質だ。
「硬い」というのは音や曲のことではなく、緻密で完成度が高いということだ。3人で「いい音楽をつくろうじゃないの!」という意気込みがヒシヒシと伝わってくるのよ。
そこには何の仕掛けもサプライズもなく、とにかくいい歌詞をいいメロディに乗っけて美しいアンサンブルで奏でよう…このことだけ。
そして、3人とも歌がウマイ!
リード・シンガーが曲ごとに代ることによってバンドの音楽性がさらに拡張していく。
ヤッチンの構想からスタートしたバンドなのかもしれないが、民主性が高く、ヤッチンばかりがフィーチュアされることはない。リード・ボーカルを担当するのは、11曲中ヤッチンが5曲、風祭さんが4曲、大島さんが2曲という構成。
そう、ジョンと…
ポールとジョージみたいだ。ウワッ!気が付いてみれば風祭さん、サウスポーだ!
ヤッチンはピアノを弾きながら1曲。
「こんな日に」…
ヤッチンの歌はやさしくていいナァ。聴いてる方も知らず知らずのうちにニコニコとやさしい表情になってしまうよ。
演奏は完璧!百戦錬磨のベテランたちだけあって、インスト・パートでは抜群のドライブぶりを見せてくれる!
また風祭さんのリッケンの音がいいんだ~!
大島さんのドラムもガ~ッチリとThe Paisleysの音楽に溶け込んでいる。完璧なアンサンブル!
ヤッチンはJVM210Hと1960Aのコンビネーション。すっかりお気に入りのJVMだ。
でもね~、ヤッチンにはもっとギターソロ弾いてもらいたいんよ~。名シンガーであるばかりじゃなく、名ギタリストなんだから!
このバンドのもうひとつの強みはナント言ってもコーラス!
一糸乱れぬ完璧なハーモニー。聴いてて気持ちいいわ~。
「♪アアン、アアン、アッアアアアン」で有名な「気になる女の子」も演奏。フィンガー5がやってたんですね。The Messengersというアメリカはミネソタのグループの1971年の曲。原題は「That's the Way a Woman Is」という。本国のヒットチャートで62位をマークしたが、曲は日本での知名度の方が高いらしい。そうか、最近CMで流れてたのか…。
The Paisleysの音はもうビートルズなんですよ。どの曲も私なんかは思わずニヤリとしてしまう。
素材が凝っていて…たとえば「I'm the Walrus」が出てきたりして、それがまた実に巧妙で深い!ある種、サンハウス的な指向と言えなくもないが、とにかくカッコよくて気持ちいい!
これはヤッチンとも楽屋で話したことなんだけど、ビートルズを超すことはできないし、する必要もない。それならばリスペクトしちゃおう…的なことを。それでいいのだ。
いつもマーブロに書いているけど、やはり一番クリエイティブだった頃の音楽を聴いて、自分の世代の感性を注入する。これが肝要だと改めて思ったね。
ビートルズをコンテンポラリーな(つまりエルヴィス以降ということ)ロックの第一世代とするならば、ヤッチンたちはそれを直接聴いて育った第二世代だ。70年代前半、日本にロックがあった頃活躍していた名バンドたちもしかり、第二世代までは素晴らしいものがクリエイトされるようだ。
全11曲。ヤンヤの拍手。どの曲もものすごく楽しめたよん!オススメです。
もっと聴きたいな~。次回もお邪魔しちゃうぞ!
ところで、イギリスの人ってホントに傘をささない。NYCの人なんかもそうだけど、イギリス人ってドシャ降りでも傘ささないんだよね。私も理由はわからない。ご存知の通り天気がコロコロ変わるロンドンは1日数回思いっきり雨を降らさないと気が済まない。私なんかは雨が降り出すたびにデイバッグを背中から下ろして傘を引っ張り出して濡れないようにするんだけど、かえって周囲の人から奇異な目で見られちゃう。「ホント、日本人って傘好きね~」みたいな…。冗談じゃない、こっちは旅先で熱でも出したらそれこそ命取りだから気をつけているのさ!ま、東京にいてもすぐに傘さすけど…。
あ、ゴメンなさい。イヤ、これは今年3月に発売されたヤッチンのジャズ・アルバム『The Swinging in the Rain』収録曲の1節の話し。
まずタイトルがいいね。「Swing」の現在分詞に冠詞をつけて「スウィングすること」と名詞にした。もちろん、『Singin' in the Rain(雨に唄えば)』の転用だ。
ジーン・ケリーが、ドナルド・オコナーの「吹き替え」という名アイデアとデビー・レイノルズ(この人は『スターウォーズ』のレーア姫や『ブルース・ブラザーズ』に出てくるジョン・ベルーシに復讐を挑む謎の女を演じたキャリー・フィッシャーのお母さん)との愛に最高にハッピーな気分になり、雨の中で歌って踊る…。映画『雨に唄えば』のハイライト・シーン。
この「The Swinging」という言葉が、念願のジャズ・アルバムを作り上げたヤッチンのハッピーな気持ちと雨の中で歌い踊るジーン・ケリーのハッピーな気持ちをダブらせるのだ・
それとジャケット。ん~、ウマイことやりましたな。Jckie McLeanの『A Fickle Sonance (4089)』。これまでにもJoe JacksonやElvis CostelloのようにBlue Noteのデザインをモチーフにしたジャケットがあったが、この『The Swinging in the Rain』は秀逸でしょう。『A Fickle Sonance』に目をつけるところが面白い。
ちなみにJackie McLeanは『A Fickle Sonance』の以前に『Swing, Swang, Swingin' (4024)』という名盤を発表している。ここでも「Swingin'」…何かの符合かな?
ピアノ・トリオをバックにスイングするヤッチンもまたステキ哉。曲は相変わらずやさしく都会的だ。初のジャズ・アルバムだからといって決して力んだりすることはない。
ビートが「8」から「4」に変わっても、ここにあるのは完全なヤッチン・ミュージックだ。是非一聴していただきたい。
ヤッチンはファンキーさん、和佐田さん、そして田川ヒロアキさんらと組んでまた8月からツアーに繰り出す。各メンバーの故郷で演奏するという、前回の『Live! Live! Live!』で約束した通りの旅程。東京公演をまたMarshall Blogでレポートしたいと願っている。
詳しくはウェブサイトをご覧いただきたいが、また公演ごとにヤッチンが簡単なコメントをつけていて感激。なんという気遣い!
曾我泰久の詳しい情報はコチラ⇒Soga21.com
<後編>につづく
(一部敬称略 2013年5月19日 渋谷Rexにて撮影)