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2018年6月21日 (木)

マルコ・ジョルジビックについて

 

この日はチョットした音楽的ショックを受けた。
「ショック」というより「刺激」かな?
昨今の私は、個人的な時間においてはジャズ、近世のクラシック、映画(舞台)音楽、民族音楽、それに古いロック…と比較的色々な音楽を楽しんできたつもり。
しかし、欲張りで飽きっぽい性格のせいか、ここのところ興味のある音楽に出会う機会がメッキリ少なくなった。
チョット前までは毎月欠かさず30枚以上のCDを買って聴かないと禁断症状に陥ってしまう「CD買い中毒患者」だったんだけど、そんなこともスッカリご無沙汰になてしまった…で、それで平気でいられるのが我ながらコワい。
ここのところ買うCDといえば、ブックオフで280円で売っているキテレツなクラシックの中古盤ばかりだ。
コリャいよいよ「ソバ打ち」にでも趣味を転向する時がやって来たか?…と思っていた矢先に出会ったのがこのドラマー。
名前はMarko Djordjevic。
ラスト・ネームを一発で読める人がいたらスゴイ。
私はといえば、Django Reinhardtをハッと思い出して2回目で概ね正しく読むことができた。
そう、「D」は黙字で「マルコ・ジョルジビック」さんとおっしゃる。
「d」と「j」が重なっている字面からポーランドの人かと思っていたらさにあらず。
もう~、この人のドラミングときたら!
彼の演奏を聴いて「おお!まだまだ面白い音楽があるじゃないか!」と再び音楽の世界に引き戻された気にすらなった。
今日はそんな刺激的な1日をレポートする。

10今日お邪魔しているのは西葛西にある「東京スクールオブミュージック&ダンス専門学校」。
ニューヨークで活躍する日本人ベーシスト、宮地遼によるアンサンブルの特別授業だ。

20授業は遼さんのお話から始まった。
遼さんはニューヨークの音楽学校、Bass Collectiveの卒業生だ。
そこで、「ニューヨーク」という街の魅力や、どうして世界的に有名なボストンの学校に行かずにBass Collectiveを選んだのか…等について語ってくれた。
30v遼さんの説明によると、ニューヨークは街中に色々な音楽があふれている反面、ボストンには音楽の場面が少ない。
それゆえボストンの学校を出ても音楽の仕事にありつくことが難しく、結局「音楽の仕事」を求めてニューヨークに出て来ることになってしまう。
だったら、最初からニューヨークを根城にする方が得策と考えたのだそうだ。
何しろスゴイ人たちが集まっているので、そもそもニューヨークにいること自体が刺激的だという。
以前、グリニッチ・ヴィレッジにある老舗の楽器屋が閉店することになって、「さよならマット・ユマノフ!~私のニューヨーク」という記事を書いたが、私もニューヨーク大スキでしてね。
ほぼ観光客としてしか訪れたことはなく、その滞在期間も最長で1週間程度なのだが、遼さんの「刺激的」という表現はとてもよく理解できる。
でもね、中古レコード屋と食べ物、それに街の清潔さだけは日本の方が格段に上です。

50コレは遼さんがニューヨークで制作した初のリーダー・アルバㇺ『November』。
マンハッタン・ブリッジを背後に従えて愛器を手にした遼さん。
「ニューヨーク大スキ!」って感情がにじみ出ているようですな。
私もこの光景を見たことがある。
どこからだろう?バワリー・ストリートの近くあたりからかな?
近くで見るとスゴくでかいんだよね。
マンハッタン・ブリッジはイースト・リバーにかかっていて、ひとつ下流にあるのが有名なブルックリン・ブリッジ。
初めてニューヨークに行った時、試しにブルックリンまで歩いて渡ってみたことがある。

40cd一方、マンハッタン・ブリッジのひとつ上流の橋がウィリアムスバーグ・ブリッジ。
1959年にソニー・ロリンズが活動を停止してシーンから退いた時、このジャズ界の巨人はウィリアムスバーグ・ブリッジでサックスの練習に勤しんだという。
見てみたかったナァ~。
「ウワ~、音も歌い回しもロリンズそっくりだな~」と通りかかって、顔を覗き込んだらホンモノのソニー・ロリンズ…だなんてね!
そして復帰後、1962年にリリースしたアルバムが、その名もズバリ『The Bridge』だった。
ああ~、またニューヨーク行きたい!!!!

108_2br この授業のテーマは「アンサンブル」…ということで、ピア二ストとドラマーが加わっていよいよ実技の開始となった。

70ピアノはビリー・テスト。

80vドラムスはマルコ・ジョルジビック。

100vそして、もちろんベースは遼さん。
実は遼さんはこの2人の他にギターとサックスを加えたクインテット編成で、『November』を引っ提げた凱旋ツアーの真っ最中だった。
そして、この日はそれとは別にピアノ・トリオで特別授業を開講したというワケ。

90vで、なんで私がこの授業にお邪魔しているのかというと…NATAL。
マルコはNATALプレイヤーなのだ!
3千里もたずねなくても、アナタのNATALはすぐそばに!

1_s41a4008 コレがこの日マルコが使ったNATAL。

110全然シンプルなメイプルのキット。
スネアもNATAL。

120また、私が初めて観た外人ドラマーはRainbowのコージー・パウエルで、UKのテリー・ボジオ、フィル・コリンズ、ビル・ブラッフォード他、数切れない数のロック・ドラマーたち。
ジャズではエルヴィン・ジョーンズ、アート・ブレイキー、ジャック・ディジョネット、ポール・モチアン、レニー・ホワイト、アル・フォスター、トリロク・グルトゥ…残念ながらトニーは観れなかった。
ドラム・ソロではディジョネットとテリー・ボジオ、そして1979年にサンタナで来日したグラハム・リア(ジノ・ヴァネリのところにいた人ね)がすごく印象に残ってるな。
…と、長年にわたって色々なドラマーのプレイを観て驚いてきたけど、この日のマルコのプレイにも本当に驚かされた。
結局はジャズ・スタイルなんだけど、も~レガートの一発目でヤラれた。

140音色もプレイもモノスゴイ個性なの。
といっても、決して奇を衒っているワケでは決してない、でも何かがモノスゴク独特なんだよね。
音楽の種類を問わず、すごいドラマーってバッキングだけで自分の音楽を作っちゃうところがあるじゃない?
まさにソレ。
マルコはDrummers Collectiveという学校で教鞭を執っている遼さんの同僚だ。
こんなプレイを見たら「世界中からスゴイ人が集まって来るから」という遼さんがニューヨークを重視する理由が一発で理解できる。
そうそう、プレイを始める前にマルコは私のフルネームを何も見ずにスラスラと正確に発音し、謝辞と共に「NATALの協力者」として私を受講生たちに紹介してくれた。
こういうところがスゴくシッカリしてるんだよね、向こうの人って。

130v曲は「Wise Man Say」って聞こえたが、変拍子のワタシ好みの曲。

150vまたこのピアノのビリーが滅法スゴイ。
バツグンの構成力でソロを物語に仕立てていく。
なるほど、ビリーは「Village Vanguard Orchestra」のメンバーで、グリニッチ・ヴィレッジの人気ジャズ・クラブ「Smalls」の常連なのだそうだ。
クラシックもOKの今ニューヨークで引っ張りダコの売れっ子ピアニスト。
道理で…。
アレ、どういうワケかニューヨークのクラブでは月曜日になると、ビッグバンドが出演するんだよね。
もうなくなった「Sweet Basil」なんかもそうだったし、敏子さんのオーケストラをBirdlandに観に行ったのも月曜日だった。
各店の常連の腕利きミュージシャンたちが集まって編成されるオーケストラだからして、スゴイにキマっている。
しかも、Village Vanguardは老舗中の老舗だからね、ビリーのニューヨークのジャズ・シーンでの評価が窺えるというものだ。

1602曲目は遼さんのオリジナル・バラードでアルバムのタイトル曲「Novemeber」。

170_nov強靭なテクニックに裏打ちされたプレイ。

180ひとりで本場に出かけて行って、勉強して、自分のコンボを立ち上げて…ホント、スゴイと思うわ。
ボストンの学校へ行って、何年かして帰って来ちゃうのとはワケが違うもんね。
マジで尊敬するわ。
私が20歳若かったら…なんてことすら思わないもんね。

190v20年以上前、最初にニューヨークへ行った時、ヒョンなことからベーシストの中村健吾さんとご一緒させて頂いて、エイブリー・フィッシャー・ホールへにウィントン・マルサリスを一緒に観に行ったことがあった。
まだその頃、中村さんはダンス・クラブのようなところで演奏されていて、ステージの上のウィントンのオーケストラを指して、「いつかこのバンドに入ったろ思とんのですわ」とおっしゃった。
それから数年経って、中村さんは本当にウィントンのコンボに入って『Live at the House of Tribes』というライブ・アルバムに参加しちゃった。
アレもビックリ仰天したよ。CDを見つけてその場で買ったわ。
アータ、ウィントン・マルサリスといえば、ジャズ界のマイコーみたいなもんですからね。
そういうことが起きるのが、また「ニューヨーク」ということなんでしょうな。
東京にいたら一生ムリだもんね。

108_wm3曲目も『November』から「Evan's Wedding Song」。
マルコの作品で、コレにブッ飛んだ。
リズムが変拍子だということは瞬時にしてわかるが、何拍子なのかがどうしても解読できない。
16分がベースになっていることまでは読み取れるのだが…。

200v_wとても「結婚式の歌」には聴こえないスリリングな展開。

210vAREAのデビュー・アルバムの『Arbeit Macht Frei』のオープナー「Luglio, Agosto, Settembre」にも通じる風合いだ。

220vマルコはセルビア共和国の出身だそう。
セルビアはかつてのユーゴ・スラヴィアに属していた国。
太古の昔にスラヴ民族が入り込んだユーゴ・スラビアは、「1つの国、2つの文字、3つの宗教、4つの言語、5つの民族、6つの共和国、7つの隣接国」といわれる大変に複雑な構造を持った国だった。
そういうエリアからは面白い音楽が出てきやすいんだよね。

230vこの曲もそんな複雑な雰囲気を醸し出しているが、聴いていて実に自然で気持ちがいい。
そもそもメロディがとても魅力的だ。
一聴するとテクニカルに聴こえる変拍子はそれを引き立たせるモノでしかない。
そして、マルコのドラミングはまるで故郷の歌を歌っているようだ。
「ドラマー」というより「音楽家」なんだろう。
完全にドラムスのテクニックの向こう側にあるモノに喰い付いている感じがする。
向こうのスゴイ人って大抵そうなんだよね。
どんな楽器のプレイヤーも「音楽>テクニック>機材」の順番で大切にしているように見える。
まず、自分だけの「音楽」を作ることが第一なのだ。

240_23曲の模範演奏を終了したところでQ&Aコーナー…なんだけど、例によって生徒さんたちは恥ずかしがって質問をしない。
しからば…。
「すいません!業者が質問してもいいですか?」と手を上げたのは………ワタシ。
「もちろん!どうぞどうぞ!」と快く応対してくれる遼さん。
「今の曲は一体何拍子だったんですか?」…もう辛抱たまらなくなって質問させて頂いた。
遼さんが教えてくれたのは、「ハハン、今の曲は、15/16拍子と19/16拍子の組み合わせでできているんです」
そんなんわかるワケないっつーの!
パット・メセニーの「First Circle」の22/8拍子ってのも、数えていてイライラして諦めちゃったぐらいなんだから!
19/16というとザッパの『Joe's Garage』の「Keep it Greasy」もそうだったようなことを思い出して、ザッパの名前を出したところ、ヤッコさん、案の定ザッパ好きだった。
私が質問の口火を切った後はもう大丈夫。
次から次へと受講者から色々な質問がマルコに投げかけられた。
ある女子生徒さんなんか、ナ、ナント、「ザッパのおススメのアルバムは何ですか?」なんて質問をするじゃんね。
そういうことは私に訊きなさい。
「さっきシゲが言ったように『Joe's Garage』はおススメです。他に『London Symphony Orchestra』とか…」と答えるマルコ。
エエ~!『London Symphony Orchestra』はないんじゃないの?!
後でマルコにこのことを尋ねたら、彼は『London Symphony Orchestra vol.1』に収録されている「Mo 'n Herb's Vacation」を演奏したことがあるんだって。それでおススメなのだそうだ。
やっぱり聴いている音楽の幅と深さが違うわ。
『London Symphony Orchestra』の2作はロックやジャズとはほど遠い、フランスの大指揮者ピエールが・ブーレーズが取り上げるような純粋な「現代音楽」なのです。
野次として「One Size Fits All!」って言っておいた。そしたらマルコは私を指さして「イエ~!」って。

250Q&Aの後は生徒さんが参加する実技コーナー。
遼さんトリオのメンバーとの共演。
緊張するだろうね~!

260ピアノ・トリオの編成に…

285vギターの生徒さんも交代でジョイン。

270v

280v生徒さんのパフォーマンスにアドバイスを与えるマルコ。
先生業も本職とあって、実に指導がウマい。
まずホメる。
とにかくホメる。
そして、「でも、こうした方がもっとよくなる」というポイントを具体的に説明する。
ボストンの学校で教鞭を取っていらっしゃる方も「ますはホメなきゃ絶対にダメです」とおっしゃっていた。
ああ、ウチの子ももっとホメてあげればヨカッタなぁ。

305vみんな超真剣!当たり前か…。

320v

300v先生はことの他楽しそうだ!
290演奏している題材は『November』収録の「White」という遼さんのオリジナル曲。
『第七銀河』の頃のReturn to Foreverを彷彿とさせるロック色の濃いカッコいいナンバーだ。
譜面を見ながら演奏を聴いている受講者。
しかし、今みんなコレだもんね~。
便利になったナァ。

390遼さんも理路整然としたアドバイスで生徒さんをステップアップに導く。

330

400v

420v

440vもちろんドラムスの生徒さんも参加する。

350

375vその演奏をジ~っと聴き入るマルコ先生。

340コレがNATALですよ~!いい音でしょう?

360v

410v

450v

370v真正面の席に座って演奏に聴き入るマルコ先生とビリー先生。

380充実の授業は先生たちの演奏による遼さんの「Path of the Light」で締めくくられた。
面白かった~!
そして、やっぱりNATALの音ってステキ!

460最後はみんなで記念撮影。

東京スクールオブミュージック&ダンス専門学校の詳しい情報はコチラ⇒公式ウェブサイト

470私もマルコと。
終演後、「さっき演奏した曲、リズムもスゴかったですが、私はメロディに感銘を受けました。あのメロディはアナタの故郷のバルカンのテイストですね?」と伝えると、「コイツ、わかってたのか?」と私の指摘に少し驚いたように「そうなんだよ!」とうれしそうに答えてくれた。
冒頭に書いたように、ホント、すごい刺激を受けたわ。
今、「そば打ち」をどうしようか迷ってる。

480実は、マルコたちが教鞭を執っているニューヨークのDrummers CollectiveやBass Collectiveの創設者のひとりはロブ・ウォリスという人で、教則ビデオのDCIとかHUDSON MUSICのオーナーでもある。
私、ロブとはとても仲良しだったのね。
コレは2003年ぐらいにフランクフルトで撮った写真。

108_rimg0079 その15年後のバージョンがコレ。
お互い歳を取ったナァ。
しばらく没交渉になっていたけど、下の写真を撮った今年のNAMMを契機にまた時折メールで連絡を取り合うようになった。
また何か仕事で一緒になれればいいナァ。
洋の東西や言葉の違いを問わず、昔の友達って素晴らしい。

310_2  200
 
(一部敬称略 2018年5月16日 東京スクールオブミュージック&ダンス専門学校にて撮影)