【訃報】 ジョン・アバークロンビーのこと
ジャズ・ギタリスト、ジョン・アバークロンビ―(John Abercrombie)が心不全で亡くなった。
享年72歳。
今日は急遽予定を変更してこのジャズ界の大御所ギタリストについて少し書かせていただくことにした。
「少し」というのは、彼について「少し」しか知らないからだ。
それなのにナゼ私がMarshall Blogでこの悲報を取り上げたのかは最後の方でわかる。
John AbercrombieはECMレーベルの看板ギタリストとして数々のアルバムを残しているが、私は彼の弾くギターが苦手でしてね~。
フワフワ、何ともつかみどころのないプレイのよさがどうも理解できないでいた。
下の写真はジャズの入門書によく出て来るDave HollandとJack DeJohnetteとのトリオ『Gateway』。
コレですら好んで聴くことはなかった。
Gil Evansの有名なJimi Hendrix作品集『The Gil Evans Orchestra Plays the Music of Jimi Hendrix』。
1974年の作品。
ギターはアバークロンビ―と川崎燎。
これも名盤の誉れ高いアルバムだ。
私はGilが大スキで、少なくない枚数のアルバムを持っているが、コレが一番苦手。
だってホンモノのJimiを聴いていた方がいいもん。
Gilのアルバムの流れからなのか、約20年後にはこんなアルバムにも参加している。
オルガ二ストのLonnie Smithのトリオ盤。
その名もズバリ『Purple Haze』ときたもんだ。
Lonnie Smithって、インド人みたいな、あのターバンを巻いたオッサンね。
タイトルになっている「Purple Haze」の他にも「Up from the Sklies」とか「Gypsy Eyes」なんかを演ってるんだけど…どこがいいのかサッパリわからん。
「Voodoo Chile」なんてコレ違う曲何じゃないの?というぐらい原型を留めていない。
「Purple Haze」に至ってはレゲエだもん。
他にもBilly Cobhamの『Crosswinds』や『Total Eclipse』なんかも聴いてはいるが、どうもシックリこなかった。
私のアバークロンビ―はとにかくコレ。
Lew TackinがプロデュースしたGeorge MrazとPeter Donaldとのギター・トリオ・アルバム。
選曲がいい。
「In Your Own Sweet Way」、「My Foolish Heart」、「There is no Greater Love」、「Beautiful Love」、「Nardis」、そしてColtraneの「Bessie's Blues」。
Peter Donaldは初期の秋吉敏子のオーケストラで活躍したドラマーで、歯切れのようドラミングが快感。
Miroslav Vitous同様、チェコ出身のGeorge Mrazは好きなベーシストのひとり。
彼のコントラバスはヴァイオリンで言うストラディバリウスやガダニー二のような貴重品で、ケースだけで200万円するとかいう話を聞いたことがある。当たり前か。
また、ものスゴイ酒豪で、Thad Jones=Mel Lewis Orchestra(サドメル)の一員で来日した時、公演前日に大量の酒を飲み、翌日重度の二日酔いに陥ってしまった。
サドメルを「ビッグバンドのコルトレーン」と例えたトランぺッターがいたが、それほど困難極まりない音楽の低音部を割れるような頭痛の中でまったくピッチを狂わすこともなく完璧な演奏をしたらしい。
その音源はライブ・アルバムになっていて私も時折聴いているが、そうは思えないナァ。
そんな最高のリズム隊に乗って、フワフワではあるけど、縦横無尽に弾きまくるアバークロンビ―が実にクールでカッコいい。
さて、Marshall Blogがなぜジョン・アバークロンビ―の訃報を掲載しているのかというと、コレ。
HUDSON MUSICというビジュアル・チュートリアル・グッズのレーベルの『The Hudson Project』というCD。
Steve GaddやTerry Bozzioらの教則ビデオを制作し、ビジュアル・チュートリアル・グッズをいち早く世間に定着させたDCIの創設者、ロブ・ウォリスとポール・シーゲルが1998年に立ち上げた教則ビデオ・レーベルがHUDSON MUSICだ。
前に勤めていた会社では、このレーベルがスタートする時からビジネスに関わらせて頂いた。
「日本に既に存在する同名のゲーム会社との商標問題はクリアになっているか?」なんてこともやったっけな。
主宰者のロブとは話もよく合って仲良く、とても楽しく仕事をさせて頂いた。
ロブもポールもドラマーだったので、HUDSON MUSICからはドラム系の作品が多くリリースされたが、アレでずいぶんドラムのことを勉強させて頂いた。
そのことが今のNATALの仕事に少なからず役立っていると思う。
このCDは、レーベル創設時にリリースした同名のビデオが元にあって、その音源だけをまとめた作品。
当時はまだDVDなんてなかったんよ。ビデオだけ。
そのうちDVDが出て来て「ビデオ」というモノが強制的に「VHS」と名前を変更させられ、その姿を消すまでそう時間はかからなかった。
このセッション、Bob Berg、John Patittucci、Peter Erskineというそうそうたるメンバーのアルバムで、色めきだったが、「なんだよ、ギターはアバクロかよ」とチョイとガッカリした…当時はね。
ところがですよ、ビデオの中身を見てビックリ!
アバークロンビ―がMarshallを使っているじゃないの!
あのフワフワした音ってMarshallで出してたの?というワケ。
ま、いつもMarshallを使っていたのかどうかはわからないが、このセッションではJCM900の2x12"コンボ(2502、4502、4102のどれか)を使用している。
下はCDスリーヴの表4に載っている写真。
遠目だろうが、画像が不鮮明だろうが、ひと目でそれとわかるMarshallのルックスはあまりにもパワフルだ。
このことを知ってかなりアバクロが身近になったような気になった記憶がある。
ちなみに今も販売している1922という2x12"のスピーカー・キャビネットがあるでしょ?1936をひと回り小さくした感じのヤツ。
アレはこのコンボのエクステンション・キャビネットだったんだよ、確か。
このHUDSON PROJECTがキッカケになったというワケでは決してないんだけど、ホント、ここ数年何となくアバクロが気になってチョコチョコと買っては聴いていたりした。
右のヤツは一部でギター・シンセを使っていて「アリャリャ~」という感じだが、普通のギターで弾くストレートアヘッド・ナンバーなんかはトリハダもの。
まぁ、アバクロもさることながら、Peter Erskineのカッコいいこと!
左の白いSteeple Chase盤はAndy LaVerneとのデュエット・アルバムもか~なり素晴らしい。
ウォーキング・ベースでピアノのバッキングを入れたり、ほとんどオーソドックスなギター・ジャズを聴かせてくれている。
『ピーター・パン』の「Never Never Land」なんか演っちゃって…選曲も大変センスがよろしい。
最後の「Softly」なんてめっちゃカッコいいよ。
今になって考えてみると、この人は既成のジャズ・フレーズを単純につなぐようなスタイルを全く採らず、自分だけのオリジナルのフレーズ、言い換えれば自分だけの単語や文章で音楽を綴っていたということなんだなァ。
私のバカ耳は長い間それを理解できなかったのだ。
そして、せっかくその良さがわかって来たというのに…今回の訃報だ。
残念でならない。
偉大なスタイリスト、そしてアーティストのご逝去を心からお悔やみ申し上げる次第である。
YouTubeに「The Hudson Project」の動画が上がっていたので紹介しておく。
アバークロンビ―の後ろのMarshallに注目。
(敬称略 ※冒頭の写真はCDのスリーヴから引用させて頂きました)