三宅庸介、ASTORIAを語る~Yosuke Meets ASTORIA
昨日の記事では三宅さんがichiroちゃんとともにステージで実際にASTORIAを使用したことをレポートした。
両氏ともASTORIAを弾くことに関してはそれが初めての機会ではなかったが、やはりいい真空管アンプでギターを弾いて自分を表現することの素晴らしさを改めて教えてくれたような至上のギター・サウンドと最高の演奏だった。
そして、今日は三宅さんにASTORIAの魅力について語って頂く。
本番の前ながら、タップリと時間を空けて頂いてジックリとお試し頂いた。
業界きってのMarshallサウンド通にして、ギター・サウンドのウルサ方だけにどんな洞察が飛び出してくるのかが大変楽しみだった。
試奏の際に使用したペダル類は、実際にJVM210Hに組み合わせて実戦で使っているモノだ。
それでは、まずCLASSICから。
ASTORIA CLASSIC
三宅庸介(以下「M」):シゲさんからお聞きしていた通り、楽器そのものの音がものすごくストレートに出てきている感じがしましたね。
意外と言ってはナンですが、ツマミをすべて全開にしてもイヤな音が一切しないし、逆に絞っていっても楽器本来の音がキチンと再生されている。
Shige(以下「S」):そうですね。三宅さんが弾くとそれがよくわかる。
M:イエイエ…。
ツマミが効く範囲がすごく広いんですけど、自分の好きなセッティング、会場の響き、あるいはその時の気分でポイントをみつけたりするのが楽しいです。
ボクの場合、アンプをセッティングする時、あれこれイジって、一生懸命探して、やっといい位置を見つける…という感じがどうしても心理的にあるんですが、ASTORIA CLASSICの場合、ツマミをどこの位置にしていても出て来る音が楽しくて…。
S:ナンカ「楽しい」っていうのがうれしいですね。
M:ホントに楽しいです。
例えば、いつもよりカリっと乾いた音がしていても、その音がまた心地よくてゼンゼン弾けてしまう。
自分の理想を探して無理にクルクルとツマミを回したり、すごく緻密に設定したり、ナーバスになる必要が全くなくて、ASTORIAから出て来る音をそのまま受け入れることができます。
S:クリーン・トーンを出すためのモデルで、エフェクターを併用する…というのがCLASSICのコンセプトであることを三宅さんはビハインド・ストーリーも含めて以前からご存知です。
それなのに、先ほどASTORIA直でクリーンの音を試されて、その音にすごく感心されていましたよね?
CLASSICのクリーンのどういうところに魅力をお感じになりますか?
M:ボクにとっての「クリーン」というサウンドは世間の皆さんが想像されるクリーン・トーンとはおそらく全然違っていて、強く弾けば真空管がそれに応えてパワフルな音が出て来るし…あ、コレ、「歪む」という意味ではなくて、「力強い音」という意味ですよ!
反対に弱く弾けば、まるでギターが囁いているかのような音を出してくれる…そんなイメージなんです。それがボクの「クリーン」の定義。
S:ただ単に「歪んでいない」ということではないんですね?
M:はい。
信号によって変化する真空管の明るさが目に浮かんで来ないとボクは「クリーン」だと思わないんです。
そういう意味では、皆さんがおっしゃる軽いクランチがボクのクリーンなのかもしれません。
ラインの信号やトランジスタ・アンプやデジタル・アンプにありがちなオーディオ的なクリーンではないんです。
そういうのは楽器として全然違う。
S:よくわかります。
M:そういう「再生装置」ではなくて、本当に音楽の中に入ろうとするなら、真空管でアンプリファイされたサウンドであって欲しい。
CLASSICは本当にそういう意味での「クリーン」なんです。
S:「再生装置」ですか…最近よく聞く言葉のひとつですね。
昔からズッと真空管のアンプ使っていらっしゃる方々は、今ハヤリのデジタル系のアンプ系機器を、「楽器」でなく、あたかもステレオセットのように「再生装置」と皆さん形容して区別するところが面白いナァ。
M:それらはゼンゼン別のものですから。
で、このCLASSIC、「クリーン系のモデル」ということに何ら間違いないんですが、ボリュームをフル近くまで上げればそこそこクランチに近いようなところまで鳴ってくれます。
S:なんか「アンプが一生懸命働いている!」という感じがありますよね。
M:そうです、そうです!
もちろんボリュームを目一杯上げたりしなければいわゆる「クリーン」で鳴ってくれますが、真空管アンプなので、やっぱりボリュームを上げていくと若干歪んでくる。
これでないとダメなんですよ。
例えばウェス・モンゴメリーのライブ盤なんかを聴いていると、2弦を強く弾いた時、ボクの耳にはその音がクランチに聴こえる。
彼のアンプは真空管ではなかったかも知れませんが、ちゃんと彼の気持ちが音になっている。
どんな弾き方をしても、ズ~っとクリーンというのはボクはチョット違うと思うんです。
そういう風に考えると、もうASTORIA自体が音楽に溶け込んでいて、もっと言うとそれ自体が「音楽」になっているということを思わせてくれます。
S:シアワセだわ~。
併用するペダルについて何かご意見はありませんか?
M:アンプの特徴として、セレッションのクリーム・バックが使われていたりして、ものすごくビンテージ・テイストが強い。
コーンの鳴らし方ひとつ取っても最新のモノのとは違って、「ハコ」としてすべて一体で音を出していますよね。
現代的なメタルに合ったハイファイな音作りをするのであれば、アンプの音量を低めにして、ペダルでしっかり音を作ってやって、最終的にASTORIAがきれいに鳴らしてくれるということになるでしょうね。
でも、アンプのせっかくの良さを出そうとするのであればそうはなくて、クリーム・バックを鳴らしてボクが言うところの「軽いクランチ感」というか「ダイナミックなクリーン」を出してやって、この「ハコ鳴り」を活かしてやるべきです。
そうしようとするなら、70年代のロックとかジャズとかブルースとか…「古きよき時代のサウンド」と呼ばれているような音楽に使うべきでしょうね。
S:それはまず間違いないでしょう。
M:Bluesbreakerなんかもそうですが、コンボ・アンプがどういう鳴り方をするのか?…ということをまず身体に叩き込む必要があるんですね。
ボクはスタック・アンプを使う機会が多いですが、コンボ・アンプを使うと弾き方が変わってくるんです。
「こうやって弾いてやるとこういう音を出してくれる」という風に、時間をかけて試してみると、知れば知るほど面白い部分が見えてくるんですね。
それはMGシリーズみたいに自宅練習で使うようなすごくいい音のする小さいコンボではなくて、ASTORIAやBluesbreakerのように、ライブ・ステージでバンドの中で鳴らせる規模の真空管のコンボ・アンプのことを指しています。
S:オープバックのコンボはワザと壁から離してセットしてやるとか?
M:そうですね。後ろにマイクを立てる人もいます。
壁からハネ返ってくる音を前から出ている音とミックスしてアンプ全体を包んでやるとか…。鳴らし方がいろいろありますね。
ま、スタックでも同じことが言えるんですけどね。ただコンボの方が扱いやすい。
S:なるほど。
M:とにもかくにもCLASSICはすごくいい音です。
コレは是非言いたかったんですけど、Jimiに『In the West』というアルバムがありますでしょ?
S:ハイ。高校の時、ジミ・ヘンドリックス入門用アルバムとして人気がありました。
M:アレの「Little Wing」とか「Red House」とか、ファズを踏んでいないMarshallとストラトキャスターだけの音っていうのは、ものすごく彼が手元で音を作って演奏しているんですが、アレはひとつの「スタンダードな音」だと思うんですね。
あの音を目指して…ペダルなんかを使わないで、ギターとアンプだけで出て来る音をまずああいう音にしようと目標にしている人は多いと思うんです。
それで、あの演奏の中で聴ける巻き弦の何とも言えない倍音感というか、ビーンという巻き弦ひと
つひとつの動きが見えるような独特の鳴り方をしているんですよ。
1959みたいな音の速さ。
ピシッと来るんですけど痛くないし、硬くもない。それでいてキチンとハイが出ている。
そういう倍音の構成感っていうのかな?
それと同じものがASTORIAシリーズの3種すべてにあるんですよ!
だからASTORIAの3種類に共通点を感じているのはその部分なのかな?と思っています。
S:その巻き弦についての感覚は香津美さんがCLASSICをお試になった時もおっしゃっていました。
今日帰ったら『In the West』聴き直してみようっと!
M:ハハハ、是非!
それと、とにかく音が速いですね。
弱く弾いても、あるいは手元のボリュームを下げても音が速いので、本当に弾いたイメージをそのまま音にしてくれるんです。
でも、ムズカシイとも言える。だからまた面白いんですけど…。
ASTORIA CUSTOM
S:「結構歪む!」ってビックリされていましたね?
M:ハイ・ゲインというイメージではなかったですからね。
ボクはMarshallを鳴らす時、クランチを作るクセがあって、ゲインがどこまで上がるかとか、ゲイ
ンが上がった時にどういう音になるのか?ということには興味としては二の次なんです。
だから、まずは「クランチでどういう音がするのか?」ということを押さえておいて、そこでトーンなどをマネージメントする。
それからゲインを上げてみて「おお、ここまで歪むのか」という感じです。
S:で、CUSTOMは「かなり深めのクランチ」って感じになりましょうか。
M:はい。70年代中盤までのロックのリフを弾けば、あのままの音が出て来るようなイメージですよね。
S:丸っきり同感です。
M:コレもCLASSICと同じようにすごくトーンの効きがいいですね。EDGEの使い方なんかで割と自由自在に音が作れる感じです。
でも、結局はどちらかというと古いタイプの音色というか、Marshallが作ってきたロックのギターのトーンですよね。
あの音があって、もう少し後の70年代の、例えば、Thin Lizzyとか…今日も色々試してみましたが…AC/DCとか、Marshallとハムバッキングのギブソンのギターの組み合わせて作られた名リフなんかの再現能力なんかはバツグンだと思います。
70年代のJMP時代と言われているタイプのモデルから出て来るトーンに近いものも感じます。
S:「BOOSTもいいな」なんておっしゃっていましたが…。
M:僕は基本的にこういうスイッチは入れないんですけど、入っているのを知らずに弾いていたらすごくよくて…。
S:ハハハ!
M:すごくよかったんですよ!
S:それは何より!
M:コレは入れたり切ったりできるんですか?
S:LOOPとBOOSTはフットスイッチでコントロールできます。
M:それならスゴイな。
S:三宅さんの至言のひとつに、「スイッチで音を切り換えるのは自然ではない」というのがあります。
M:チャンネルのことですね…それは自然ではない。
それもどういう音楽をプレイしているかということによってくるし、どれが正解ということもないんですが…。
S:ま、JVMの立場もありますし、この話題はやめておきましょうか?
M:クックックッ(笑)。
はい、でもそれはそれで良さがありますから。
S:CUSTOMについて続けましょう!
M:例えば、Ritchie BlackmoreとかEddie Van Halenとかはハードな方のMarshallサウンドのトップじゃないですか。ギタリストたちに与える影響の大きさもスゴイ。
今だにあの音が最高と言われているし、僕も実際にそう思っています。
あれらの音は基本的に歪みからトーンからすべてMarshallで作って出しているワケです。
S:そうですね。
M:それではペダルを使って音を作ることがよくないのか?というとそんなことはない。
Jimi Hendrixなんかはファズを使ってMarshallからカラフルな音を出しました。
ファズなんかはスイッチのオン/オフと手元の細かい上げ下げでガラリを音を変えてしまいます。ボクなんかもそうしていますが、アンプ半分、ペダル半分という感じです。
でもこのCUSTOMはアンプだけでその色彩が出せると思います。
結構歪むとはいえ、手元で十分クリーンにすることができます。
そうしてペダルを使わずにアンプだけでそういう音の幅を作ることができるといろんなことができるんですね。
もちろん弾き方はムズカシくなりますけどね。
S:でもやっぱりその方がいい音ですよね。
M:もちろん。でも、今はそういうことがスッカリ忘れられてしまっていますよね。
S:そのムズカシさがまたギターを弾く楽しみでもありますよね。
M:その通りです。
CUSTOMは70年代テイストのとてもいいアンプだと思います。
ASTORIA DUAL
S:それでは最後にDUAL。
かなりお気に召していたのが意外でした!
M:イエイエ、「意外」なんて言ったら失礼なんですが、はじめはチャンネルの設定に戸惑いました。
でも、コレ、クリーンがCLASSICに近いんですよ。
CUSTOMはCLASSICのようなクリーンは出ないのでまたテイストが違う。
ところがDUALのクリーンはCLASSICのような「ピシッ、ピシッ」というところが割とそのまま出ているような気がします。
歪みの方は「モダン」というのとは全然違いますが、80年代前半ぐらいまでの歪みという感じでしょうか?
S:よくわかります。
M:ロックの場合は、トレンドの移り変わりが早い上に、奏法や録音技術でドンドン音が変化していくので、ホンの5年ぐらいの違いがCUSTOMとDUALの歪みの違いに出ているように少し感じます。
S:ウ~ン、すごく面白い洞察!
M:だからといってクラッシック志向の人たちがDUALを弾いて、「モダンだからイヤ」とかいうものでは全然ありません。
僕もクラシック志向なので最初は好みじゃないかも?なんて思っていたんですが、弾いてみたら全然好きな音でうれしかった。
S:確かにMarshallとしてはDUALが「モダンで~す!」とは言っていないし、反対にCLASSICやCUSTOMが「ビンテージ、ビンテージ」とやたら強調しているワケでもないんですよ。
ま、商品を説明する時の便宜でそう言っている部分はあるかな?
M:でもCLASSICはやっぱり1959を何とかこのサイズに詰め込みたい、という意向が伝わってきます。
S:ギャハハハ!2159のミニ版?
M:1959といっても初期のKT66を搭載していた頃のJTMの100Wですね。Jimiが使っていたヤツ。
S:なるほど?JTM45 100ね。
M:Marshallもリイシューしていましたよね?
S:Jimiのシグネチャー・モデル、JTM45 SUPER100JHとしてですね。
M:はい。ああいうサウンドをコンボで出せないか?と考えているのではないかと思いました。
S:ん~、それをやろうとしたのがVintage Modernだったんです。コンボ云々ではなくて、あの頃の「Marshallの復活」というか「原点回帰」という意味ですけど。
M:なるほど。でもCLASSICは1959感っていうのがありますね~。
S:いいことだと思います。
M:一方、DUALは他のふたつに比べていろんな機能もついていますしね…。便利です。
ルックスについて
S:でも色は一番イヤなんでしょ?
M:…(長い間)…まぁ、そうですけど…。
S&M:(爆笑!註:三宅さんはルックスについて保守的で、カラフルなMarshallではなく、黒、白、金という伝統のMarshallカラーをあしらったデザインがお好みなのだ。以前から三宅さんとは今回のASTORIAのいでたちについて語り合っていたので、ココで一発三宅さんをイジってみたというワケ)
S:ま、私も最初は面食らいました。しかし、周りの人たちの反応は信じられないぐらいの大好評で、クラシックなMarshallのルックスにこだわっているのは最早三宅さんだけになってしまいましたよ!
M:(爆笑)ルックスのことを言うと、正直やっぱりいつものユニフォームの方が好きですけど…ただですね、色に関して言うと、写真なんかで見ているより実物のほうがずっとヨーロッパ調なんですよね。
「赤」といってもアメリカンではない。
いわゆるカリフォルニア・テイストのものではないし、「緑」もゼンゼン違う。ちゃんとブリティッシュ・グリーンなのが素晴らしい。
S:白い部分とのコンビネーションなんかは昔のアメリカの車って感じがしないでもないですけど…。
M:あ、わかりますけど、色に関してはゼンゼン違いますから!
ある大手のギター・ブランドなんかは車に使われている塗料をギターに使っているんですよ。(註:三宅さんはやたらと車にお詳しい)
S:へ~!
M:そのギターの会社がオリジナルで発注したカラーは赤いラメのヤツひとつしかなかったらしいです。
S:あ~、もしかして、「ナントカ・ブルー」とか「カントカ・レッド」とかいうギターのフィニッシュの名前って車から来ているんですか?!
M:そうです。
S:知らなかった!
M:確かにASTORIAを写真で見たときにアメリカの車って思った部分もあって、「なんで大英帝国がアメリカのマネをしてカリフォルニア・テイストにするんだ!」とガッカリしたんですよ!
でも、こうして実物を目の当たりにして、それがまったくの間違いであっていたことを知ってまたうれしくなりました!
S:それはヨカッタ!大英帝国らしく、ASTORIAのフィニッシュの名前は「グリーン」、「レッド」、「ブルー」ですから!
M:そういうところがまたMarshallの好きなところなんです!
三宅庸介の詳しい情報はコチラ⇒Strange,Beautiful and Loud
ASTORIAシリーズの詳しい情報はコチラ⇒【Marshall Blog】いよいよASTORIAが出るよ!
(一部敬称略 2016年5月31日 三軒茶屋Grapefuit Moonにて撮影)