STONE PUSHING UPHILL MAN in Shibuya~ポール・ギルバート・ニュー・アルバム・発表ミニ・ライブ
コンスタントにソロ・アルバムを発表し続けるPaul Gilbert。その創作意欲はとどまるところを知らない。
2012年9月にリリースした『VIBRATO』に続く新作のタイトルは『幸福なるシジフォス~ストーン・プッシング・アップヒル・マン(原題:STONE PUSHING UPHILL MAN)』。
ジャケットを見るとPaul愛用のギターが描かれている…ちゃうちゃう、そこじゃなくて、力のありそうなオジちゃんが大きな岩をギターの側面に沿って一生懸命押し上げているでしょう?
この様子がタイトルになっている。「Stone Pushing Uphill Man」とは「石を丘に押し上げる男」という意味。見ればわかるか…。
出自はギリシャ神話の「シジフォスの寓話(神話)」で、岩をやっとの思いで丘に押し上げるが、頂上に着く直前に重みで転がり落ちてしまい、また最初からやり直すという永遠の苦行を意味している。
日本式に言うと「賽の河原」というヤツだ。
Paulはギタリストとしての生き方やギター道こそがこの岩なのだと語っている。
イヤイヤ、ギター道に関しては、Paulはもうスッカリ頂上へたどり着いていると思うんですけどね…。でも、それでヨシとしないところがPaulのアーティストとしての偉大さなのだ。
ま、真面目に生きている以上、誰しもこの岩を押し上げながら毎日を過ごしているとは思うよね。
ちなみに、内ジャケットにはMarshallのイラストも描かれているので要チェック!
尚、アルバムのレコーディングには愛用の1987Xと2061Xが使用されている。
そして去る6月28日、その新譜のプロモーションのために来日したPaul Gilbertが渋谷のタワー・レコードでミニ・ライブを開催した。
特設ステージが用意された1階はたくさんの人でゴッタ返していた。
早速アルバムからの曲をプレイ。
今日のMarshallは…
向かって左がPaulのリクエストによるDSL40C。
セッティングはClassic GainのCrunchでGainがほぼフル。ボリュームは3程度でEQはすべて5付近。Reverbは4ぐらい。
右はJVM215C。
以前はステレオにセットしてフェイザーのトリックなどを仕掛けていたが、今回はDSLをメインに使用し、JVMはバッキングのループやソロ時の補足的な役割に活用されていた。
気持ちよくソロをキメるPaulだが、問題発生!
電源のトラブルでバッキング・トラックが止まってしまったのだ。
トラブルを知ったPaul、間髪を入れず王者の雄叫び、「ロッケンロー!!!!!」。
観客はもう大騒ぎ!
Paulはといえば、ま~ったくあわてずに直ちにその場でバッキングのループを作る。ブルースだ。
そして歌い出したのはJimi Hendrixの「Red House」。
こういうとこところはスゴイよな~。ステージにトラブルはつきもの…きっとこういう目に何度も遇っているんだろうけど、むしろトラブルを楽しんでいるよう!
またこの「Red House」がいい!
歌とギターのひとりコール&レスポンスがカッコいいのなんのって!フレーズがいいんだわ~。
オーディオ装置もすぐに直ってショウは何事もなかったように…イヤ、かえって盛り上がって進行した。
今回のアルバムはPaul McCartneyやElton John、James Brownらの曲を取り上げている。Paulは彼らからインスピレーションを得て「ギターに歌わせる」ということをテーマにしたという。
今まではとにかく「速く、正確に、安定したボリュームとトーン」でギターを弾くことを目的としていたが、今回は偉大なロック・シンガーたちのような豊かな感情をギターで表現したかったという。
どうなんだろう、一般的にはPaulは徹底したハイテクニックの超絶シュレッダーという印象があるのだろうか?
私も昔、教則ビデオに関連した仕事をしていたのでREHあたりのPaulの壮絶なプレイを見ている。
しかし、Marshallの展示会やインベントなどを通じ、何度となくPaulのプレイを見て、話をしていると、もう全くそういった超絶技巧をウリにするギタリストという印象がなくて、あの手この手でギターの魅力をアッピールし、音楽をクリエイトすることをひたすら楽しんでいるギタリストにしか見えない。
クラシックの声楽の人たちが自分の声を「楽器」と呼んでいることは以前にも書いた。
やはり「声」はもっとも個性的な音色を持つ楽器の王様だ。加えて「詞(ことば)」という強力な武器も持っている。
どんなに超絶技巧で楽器を操っていても老練なブルースシンガーや浪曲師のひとウナリには到底かなわなかったりもする。
関係ないけど、昔、テナー・サックスの巨人、Dexter Gordonが来日し、日本のジャズ・ミュージシャンとテレビで共演した。何しろ相手は偉大なる「Long Tall Dex」、リハーサルの時、日本のミュージシャンは技術の粋を尽くして込み入ったソロを展開した。
そして、その後Dexterが「ボー」とたった一音吹いた。その後、日本のミュージシャンは誰ひとりDexterの前で演奏できなかったという。
…なんて伝説がある。
このDexter Gordonのテナー・サックスから出た「ボー」も声だったに違いない。それもドスのきいたド迫力の声だったろう。
Paulのメッセージを読んでいてこの話を思い出した…という次第。
ギターを「声」という高い丘に押し上げようとするPaulは真のSTONE PUSHING UPHILL MANなのだ。
そして、最終的にその「声」を出しているのがMarshallであることがうれしいのだ。
「Steven Tylerはキーが高いからね…」と言いながら最後にはAerosmithの「Back in the Saddle」をプレイ。この曲でスタートする『ROCKS』はホントにカッコよかったもんね。
Aerosmithは「もうCDを作らない」宣言をしたんだったね?作っても売れないから。
一体なんでこんなんなっちゃったんだろうね。理由はわかっているつもりでも絶対おかしいよ。ミュージシャンはCDを作るが仕事なんだから。こんなことしていたらホントに音楽の「世界の終り」が来てしまうよ。
Paulがこの曲を選んだのも、そんなロックの巨人へのエールを送りたかったのではないかと思ってる。
だって「♪Back in the saddle again」だもん。
この曲もそうだが「初めてナマで演奏する」という曲もいくつかあったが、当然危なしげもない演奏で、ポール節がさく裂した…あ、イヤ、歌詞で苦労している曲があったな…。
Paulが足を上げて踏んづけようとしているのは…なんていうんだろう…フット・パーカッション?とにかく踏みつけるとゴツンとパーカッシブな音を出す装置。
思い出してみるに以前はこれギターケースでやってたんだよね。
掘っても掘っても次から次へと出てくる完成されたフレーズ。こうした音楽的な厚みは日本人のそれとは全く異なるものだ。
当たり前なんだけど、その違いが「洋楽」と「邦楽」の差さんだよね。
「洋楽」がすたれ始めた時から日本のロックは形骸化した。だってロックは海の向こうのものだんだもん。やっぱりロックを志す者は「洋楽」を聴かなきゃ絶対だダメだ。
短い時間ながら今回も「ギターを歌わせるギタリスト」としてのPaulが大いにフィーチュアされていたと思う。
もっとも、この人わざわざギターで歌に挑まなくても、実際のノドで十分勝負できるほと歌がうまいんですけど…欲張っちゃイカン!
アンコールではPaul McCartneyの「Why Don't we do it in the Road」を演奏した。
『幸福なるシジフォス』の詳しい情報はコチラ⇒WHDエンタテインメント公式ウェブサイト