SPOCK'S BEARD 初来日公演
「ジャズとロックが合体して、イギリスではプログレッシブ・ロックになり、アメリカではフュージョンになった」とFrank Zappaが言ったとか、言わないとか…
敬愛するFrank Zappaにタテつくつもりは毛頭ない。しかし!確かに「フュージョン」という言葉こそシックリこないが、イギリス人にはこの種の音楽をクリエイトする優秀な「ジャズ・ロック」のグループやアーティストがゴマンといた。
一方、イギリス式のプログレッシブ・ロックを「プログレッシブ・ロック」と定義するならば、アメリカはその手のバンドの層があまりにも薄い。反対にジャズ上がりのフュージョン・ミュージシャンが山ほどいることは間違いない。
だからZappaの言葉は普遍性はそう高くないにしろ、「当らずとも遠からず」ということは言えそうだ。
どうしてアメリカから強力なプログレッシブ・ロック・バンドが出にくいのだろう?
プログレッシブ・ロックの人気が(今は別として)ないかというと全然そうではない。アメリカにもプログレッシブ・ロック・ファンは多い。
アメリカのプログレッシブ・ロック・バンドといったら誰を思い浮かべるだろう?Kansas?
Kansasもイギリス製のそれに比べればポップこの上なく、私なんかには「プログレッシブ・ロック」というイメージは希薄だ。
他は?…Pavlov's Dog? Styxもそうかな?…出てこない。プログレッシブ・ロックを聴くのにわざわざアメリカのバンドなんて探さないからな…。
そんな中で出会ったのがSpock's Beardだった。
初めて聴いた時は驚いた。やや明るめではあるが、そのサウンドがイギリス製プログレッシブ・ロックに響いたからだ。
Spock's BeardはNealとAlanのMorse兄弟によって1992年ロスで結成された。
その活動は20年以上に及ぶものの、何と今回の公演が初来日というのだから驚く。
会場は長年にわたり来日を待ち望んでいたファンで満席だった。
客電が落ち、薄暗いのステージから送り出されるシンフォニックなキーボード・サウンド!
事前に亮さんにコンタクトを取り、Marshall Blogの取材をお願いしたところ、快くご了承いただいた。
この場をお借りしましてご協力に厚く御礼申し上げます。
機材は、というと…
ボーカルのTedはMarshall。
JCM900 4100と1960Aのコンビネーション。ガリガリとリード・ギターを弾くワケではないが、バンド・サウンドを分厚くする存在感のあるサウンドを醸し出していた。
WT-800ヘッドとD410XSTキャビが2台ずつという構成。
EDENのプレイヤーにはGenesisのMike Rutherfordが名を連ねているが、EDENのピュアでヌケのいいトーンがこうした緻密な音楽にもぴったりマッチするということの証左だろう。
オープニングは「Something Very Strange」。
昨年リリースした最新作『Brief Nocturnes and Dreamless Sleep』の収録曲。
コレがその『Brief Nocturnes and Dreamless Sleep』。
ものすごく分厚いアンサンブル!とにかく演奏がうまい。もちろん「うまい」なんて言葉は世界を股にかけて活動するバンドに大変失礼だとは思うんだけど、とにかく「うまい」と言いたくなる。
浅草国際劇場で観た初来日のKing Crimsonも演奏のうまさに圧倒されたっけ。そんなイメージ。
そして、このAlanを見ればわかるように実に楽しそうに、うれしそうに演奏してくれる。Robert Fripは下向きっぱなしだったけんね。
それとみんな歌が滅法ウマい。
いつか野音でRenaissanceやSteve Hackettの演奏を見ながら岡井大二さんがおっしゃっていたが、「彼らはああして一緒に歌っていると声が似てくるんだよね。だからコーラスがすごくきれいに聞こえるんだ」
まさにそのお言葉通りの美しいコーラス。
指だろうがピックだろうが、実にリッチで伸びやかなベースらしいトーンで聴いていて気持ちがいい!EDENの面目躍如といったところか。
聴けばアータ、このお方、1991年にEric BurdonとBrian Augerで結成された「Eric Burdon-Brian Auger Band」のメンバーだったっていうじゃないの!その時の話しを聴きたかったナ。
セカンド・アルバムから参加している亮さん。中心人物としてバンドを引っ張っていく!
やっぱり、マルチ・キーボードはプログレッシブ・ロック・バンドのシンボルだね。
ハード・ロックやメタルにMarshallの壁が不可欠であるようにプログレッシブ・ロックにはこの光景がベスト・マッチする!
開演前楽屋の廊下で、DaveとこのJimmyと3人で雑談をしていると、Jimmyが私のシャツにプリントしてしてあるNATALのロゴを見て「NATAL知ってるよ~」と言ってくれた。High VoltageでThin LizzyのBrian Downeyと一緒になった時に知ったそうだ。「すごくいいドラムだ」とオホメの言葉を頂いたのはうれしかった。
オフステージではすごく気さくなJimmyだが、いったん演奏が始まると「ドラムの鬼神と化す!」といった感じで、気迫のこもったドラミングは素晴らしいのひとこと!
アンコールも含めて全11曲。うち5曲が『Brief Nocturnes and Dreamless Sleep』からのチョイス。緩急自在に富んだ素晴らしい演奏だった。
やっぱりさ、うれしいよね。古くはFreeやFacesの山内テツさんや穐吉敏子さんのように孤軍奮闘、日本人が世界的なバンドにメンバーとして参加して活躍するというのは。
しかも亮さんの場合はバンドをリードしている点が輪をかけてすごい。
音楽に国境はないというけど、音楽活動には国境があるのだ。その国境を超えて、相手の土俵で勝負をするのはいまだに至難のワザだ。
数々のキーボードに囲まれて派手なアクションで鍵盤を叩きまくる亮さんの姿に感動を覚えずにはいられない。
近い将来の再来日を期待している。
そして、プログレッシブ・ロックという音楽。
いつも書いていることだけど、やっぱり若い人にも聴いてもらいたいナァ。
童謡のような今のロックに耳なじんでいる若い人たちにとってプログレッシブ・ロックを聴くことはおおよそ苦行の類になることは間違いない。でもね、そういうものこそ深く、飽きが来ないのだよ。
イヤ、好きにならなくてもいいから聴いて欲しい。こういう音楽もあるということを知っておいて欲しいのだ。
それでもし好きになればメッケもん!人生がより豊かになる。何もこれはプログレッシブ・ロックに限ったことではない。ジャズでもロックでも少しでもたくさんの音楽を楽しまないともったいないよ!
SPOCK'S BEARDの詳しい情報はコチラ⇒Japan Official site