Steve Hackett GENESIS Revisited 2013 Japan Tour<前編>
15歳の頃からプログレッシブ・ロックを聴きはじめ、ジャーマン系を除いては比較的広い範囲にわたって夢中になった。それがFrank Zappaにつながり、Jazzに行き着き…。もちろんプログレッシブ・ロックに行き着くまでにはハード・ロックもよく聴いたけど、やっぱりプログレッシブ・ロックは好きだな。
15年ぐらい前に来日したミュージシャンに「イギリスではプログレッシブ・ロックは今、どうなんですか?」なんて何も知らずに訊いたことがあった。「ナニ、Prog Rockのこと言ってんの?あのね、イギリスではそんなもん聴いてるヤツなんてひとりもいないよ!」と言われ驚いた。え、プログレッシブ・ロックとハード・ロックはあなた方の誇りなのではないの…?
それぐらいプログレッシブ・ロック好きなんだけど、どーも苦手だった、Genesisだけは…。『Tresspass』以降のレコードは『Seconds Out』まで持っていたし、Peter Gabrielの最初のソロ・アルバム(Hipgnosisのヤツね)は大好きだったんだけど、どうあがいてもGenesisの音楽に周波数が合わなかったんだよね。
一番最初に買ったGenesisのアルバムは『Foxtrot』だったんだけど、思えばコレがよくなかったのかも…。今は無き秋葉原の石丸電気のレコード館で480円のカットアウト盤を買った。帰ってさっそく聴いてみた。A面を聴き、B面に移るとメロトロンのサウンドがドバーっと出て来た。アコースティック・ギターの美しいハーモニクスではなくて、私が買った『Foxtrot』はB面も重厚なメロトロンの音でスタートしたのだった。「ナンカA面の曲によく似てるな…。ま、プログレだからこんなもんか…」なんて勝手に納得として聴いていると、「♪Watcher of the skies watcher of all」なんて歌ってる。「チョット待てよ…コレ、完全にA面と同じじゃねーか!」
それでもこっちは子供なもんだから、そういう作品なのかと思って聴き進めていくと、もう絶対にA面と同じ。「Supper's Ready」なんか出て来やしない…。
そう、このカットアウト盤、ミスプレスでAB両面同じモノが入っていたのだ。たとえ480円でもガッカリしたナァ。その後、ダマして友達に売っちゃったけど、その友達もすぐに気づいて文句言われた。でも返品は認めなかった(鬼)。
この印象がよくなかった…というのはあったけど、1978年の来日公演には新宿の厚生年金に観に行った。12月で確か期末試験の最中だったんだよな…。親に怒られたのを覚えてる。
覚えていないのはコンサートの内容。時期的に『…And Then There Were Three…』の曲が多かったのかな?とにかくPhil Collinsのタンバリンのソロと美しい照明だけはとても印象的だった。行っておいてよかった。これがその時のプログラム。 とにかく、ナンカ大仰なワリには盛り上がりに欠けるというのがGenesisの音楽の印象で、どんなに聴いても覚えられないんだよね。「Watcher~」みたいのはいいんだけど…。
それでどうも夢中になれないで来た。
以前、大谷令文さんとGenesisの話しをしていて、彼が実に細かいところまで『Lamb』を聴き込んでいたのを知って驚いたことがあった。
さて、ところが!である。Genesisすごく好きになっちゃったんだよね。それはいつからかと言うと、頻繁にイギリスに行くようになってからなのだ。だからそう古い話ではない。
よくGenesisって「いかにもイギリスらしいバンド」って言われるでしょ。それがすごくよくわかるような気になったんですな。つまり、イギリスを好きになったらGenesisが付いてきた…みたいな。
以前にもどこかに書いたけど、ホテルからMarshallの工場へテクテク歩いて通う時なんか、「Listen to the Music」なんて絶対に口ずさまない。「The Weight」なんてまったく出て来ない。
出るのはね、「Supper's Lady」よ。じゃなかったら「I Know What I Like」よ。
こんなこと考えてるのはおそらく自分だけだと思うけど、とにかくGenesis=イギリスなのね、私の中では。
遅ればせながらGenesisの魅力がわかってきたところへ持ってきて、うまい具合にSteve Hackettが来るっていうじゃない…しかも全曲Genesisのレパートリー。うれしくて小躍りしたね。そう、しかもSteveはずっぷりMarshallのプレイヤーなのだ!
ステージ上のMarshall。1987Xのハーフ・スタックが2セット。これがSteveのBacklineだ。
開演前、ギター・テクの人に話を聞く。この1987はビンテージでもなんでもなく、2002年にMarshall社創業40周年を記念して再生産を始めてからの再リイシュー・モデル。平たく言えば今のSend & Returnつきのヤツだ。
キャビはなんかスピーカーをイジッてるらしい。
Steveに会うのは日比谷野外音楽堂で開催された2010年の『PROGRESSIVE ROCK FES 2010』以来。気が遠くなるようなとても暑い日だった。昨日も野音に行ってきたけど、このフェスの時の方が全然暑かった。
もうあまりにも暑くて耐え切れず、Renaissanceは四人囃子の森さんや大二さんとおしゃべりしながら楽屋で鑑賞させていただいた。でもSteveのバンドの出番は日が落ちてからだったので、しっかり観て、そして撮影させていただいた。
出番の前に楽屋に挨拶に行くと、もう本当にいつも写真で見ている通りのイメージの上品な立居振舞いでSteveは私を迎えてくれた。
すると「本当はね、私は50Wが好みなんだ。今回はどうしても間に合わなくて100Wを弾くがね…」と切り出してきた。そうこの時はJCM800シリーズの1959が2台レンタルされていた。
どうもSteveの中には1959も1987もVintageもクソもなくて、100Wか50Wかのチョイスしかないように受け取れた。昔からMarshallを使っている人の特徴だね。
と、あれから3年。まぁそういう過去もあって今回は1987Xを1台持参したようだ。
ちなみにギター・テクの人曰く、モニター卓も持参したとのこと。「イヤ~、大変だったよ~」って言ってた。
そしてリハが終わったSteveにバックステージの廊下でバッタリと遭遇。
するとSteveが私の顔を見るなり、スッと自分の楽屋に入ってまた廊下に戻ってきた。Steveの手にはなんと、3年前に野音の楽屋でプレゼントしたMarshallのデリバリー・バッグが握られていた!
「コレ、本当に便利なんだよ。いつも使っているんだ。改めて礼を言うよ!」
…と言ってくれた。
うれしかった。バッグを大切に使ってくれているのはもちろんだが、私のことを明確に覚えていてくれたのがもっとうれしかった!
この手の話しではJohn Paul Jonesの時と双璧をなすな。JPJの時はMarshallの扇子だった。
アータ、Genesisのギターですよ!Led Zeppelinのベースですよ!そんな方々に顔を覚えていてもらえるなんて、そりゃシアワセこの上ないですよ、ブリティッシュ・ミーハーとしては!
そんなこともあったのでニコニコしながら開演を待つ。
私がお邪魔したのは3回公演の最終日。日曜日。イス席の会場はもうパンパン!本当はいつもの通りステージ前っツラで撮りたいところなんだけど、もうステージと客席のスキマがないぐらいの超満員で、客席の上下から撮影させて頂いた。アングルのパターンが少ないのはそのせいである。予めご了承いただきたい。
1曲目はあの思い出のメロトロンのサウンド!「Watcher of the Skies」でステージは始まる。
これがナマで聴けるとはネェ~。
今回の来日メンバーは;
Steve Hackett
フルート、サックス、キーボード、コーラス、ちょっとしたパーカッションのRob Townsend。この人は野音の時も参加していた。
、リードヴォーカルのNad Sylvan。
ベースはLee Pomeroy。この人も野音の時のメンバー。
PomeroyといえばDave Pomeroy。やっぱりベース…ナンカ関係あるのかな?ないか。
キーボードはRoger King。この人も野音に出てた。
ドラムはGary O'Tool。この人も野音の時のドラマーか。えらく雰囲気が違うな…。
「オトゥール」さんといえばピーター・オトゥール。彼はアイルランドの出身だそうだ。この人もそうかな?「ロレンス」ばかり有名なピーター・オトゥールだけど『マーフィの戦い』という作品もメチャクチャおもしろいよ。
やっぱりスゴイ大歓声!みんな待ってたんだネェ。日本ってのは本当に素晴らしい国だ。いまだにこうしてプログレッシブ・ロックが楽しまれているんだから。王室&皇室、島国、長い歴史…イギリスと日本の共通項を思い浮かべずにはいられない。やっぱりアメリカよりイギリスなんだよな~。
2曲目は『Lamb』から「Chamber of 32 Doors」。
ボーカルのNadが後方の台上に立って歌う。デカい人だナァ~。
この人、ちょっと聞くといかにもPeterっぽいんだけど、どちらかといえばPeterよりもAcqua FragileからPFMに加入したBernard Lanzettiに声が似てると思うんだけどいかがだろう…。
Steveの紹介で始まった曲は「Dancing with the Moonlight Knight」。
「♪Can you tell me where my country lies…」 ん~、鳥肌だ~!
もうマーブロでは何度も書いて来たけど、この曲が1曲目に収録されている1973年発表の5枚目のスタジオ・アルバム『Selling England by the Pound(月影の騎士)』は、英Classic Rock誌の別冊『RROG ROCK』が選ぶベスト30プログレッシブ・ロック・アルバムの1位を獲得している。確かに名曲ぞろいだもんね。
物悲しく静謐なオープニングからエキサイティングなパートに入る。今でいうライト・ハンド奏法。エディよりはるか昔から存在するテクニック。でも少なくともSteveの方がEddieより早くからこのテクニックを曲に導入していた。
バンドが一丸となった壮絶なパフォーマンス!
こういうところこそがプログレッシブ・ロックの醍醐味だよね~。
リッケンから12弦とベースのダブルネックに持ち替えたLeePomeroy。
この楽器がずいぶん多くのパートでSteveのギター・パートをサポートしていた。
それにしてもこんな前半にこんないい曲演っちゃって大丈夫なのかいな?なんて心配もしたけどゼンゼン大丈夫。セットリストもらってたから…。
続いてはまた『Lamb』から「Fly on a Windshild」と「Broadway Melody of 1974」、そして「The Lamia」。
この「Fly」はいつ聴いても強烈な曲だよね。何とも重苦しいサウンドがたまらん。これは前回野音でも演奏してた。Steveのお気に入りなのかしらん?
曲のイメージを完全に把握して熱唱するNad。ちょっと見ると照明の加減で「♪0120何とかかんとか906」みたいだけど、その熱演ぶりは見事。イヤ、むしろこうしたシアトリカルな曲だけに共通項があったりするかもしれない。
まじめ~なMCを展開するSteve。楽屋の時と全然変わらん。
でも投げキッスなんかしちゃったりして!
1987Xのハーフ・スタックを背中にしょったSteve。やっぱり絵になるね。
お、聴きなれたイントロ!「The Musical Box」。
美しいフルートが絡む。
この曲のエキサイティングなパートはこのコンサートの聴きどころのひとつだった。特にエンディングは会場のファン全員が頭で合わせていた。あ、私も…。
<後編>つづく
(敬称略 2013年6月9日 Club CITTAにて撮影)