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2013年5月14日 (火)

フィル・ウェルズ・インタビュー~その2

最も魅力的なモデル

S:あなたはマーシャル社の中でも最長のキャリアをお持ちですよね?

P:エレクトロニクスの分野ではそうですね。

S:そこで、今日はあなたからマーシャルのウラ話や普段は語られることのないエピソードなどをたくさんおうかがいしたいと思います。

P:わかりました。

S:ではまず…過去の機種について、あなた個人の観点で構いませんのでお答えください。あなたが最も魅力的に感じたモデルは何でしょう? 音質面からでも、見た目でも、最も印象的だったモデルは? 個人的に思い入れが大きいものでも結構です。

P:たくさんありますが、最も思い入れがあるのは近年の物ですね。近年といっても過去25年間ぐらいの事ですが、それはトランジスPw_img_7787
タ・モデルになります。最初のValvestateシリーズですね。とりわけその中の8080でしょうか。これは80Wの1×12”のコンボでした。
S:名器と呼ばれたモデルですね?
P:はい。でも最初は「あーあ、トランジスタ・アンプか…」と世間からいわれたシリーズです。Marshallは真空管アンプで有名なメーカーでしたからね。しかし、あのシリーズこそマーケットに大きなインパクトを与えた製品なんですよ。私達にとっても同様です。
S:なるほど…。
P:8080はとても音がよく、信頼性も高かったので何千台と生産しました。音がよかっただけでなく、的確なタイミングでマーケットに投入できた。つまり、消費者がちょうど欲しがっていたものをタイミングよくリリースしたのです。
S:なるほど。新商品を投入するタイミングはとても大切ですよね。
P:その通り。当時、真空管アンプの価格は6~700ポンドでしたが、8080は約200ポンドでした。マーケットにとっても我々にとっても良い製品だったんです。
一方、単体のモデルから選ぶのであれば、4210が最も印象に残るモデルになるでしょう。JCM800シリーズの1×12”のスプリット・チャンネルのコンボです。

S:コンボ・バージョンの2210か2205という事でしたっけ?

P:2210は100W、2205は50Wのヘッドですね。4210は2205のコンボ・バージョンで70年代後半に出てくるはずの物でした。そこでJCM800の中の1×12”コンボでは一番最初にリリースされました。
それがマーシャル社の最初のモデルであるJTM45に次ぐ革命を起こしました。なにしろJCM800シリーズは会社にとって2番目のマイルストーンとなりましたからね。
S:エリザベス女王から賞ももらいましたもんね。
P:はい。具体的にもっと詳しく説明しましょうか?

S:お願いします。

P:4210は非常にシンプルなアンプで2チャンネル仕様です。ひとつはクリーン寄りですが、クリーンではなくオーヴァードライヴ。ODほどダーティではありませんが…。背面にはエフェクト・ループを搭載しています。リヴァーブもあり、オンオフが出来ます。小さなコンボですが通常の50Wスタック並のパワーとパンチがあります。

4210_1
EL34が2本。それにECC83を5本搭載しています。プリ・アンプに3本、リヴァーブに1本、位相反転に1本。

S:もちろん知ってはいますが一度も弾いたことないな…。

P:試す価値は十分にありますよ。生産終了からもう22年も経っているのに、今でも「また生産しないのですか」と訊かれることがしょっちゅうあるんです。
S:そうですか。
P:JCM800 2203はリイシューを出しました。ですからシリーズでリイシューされるのではないかと注目が集まっています。
S:日本でも2203はいまだに人気がありますよ。
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P:JCM800は1981年に生産がはじまり、1990年に生産終了になりました。
生産されているシリーズが終了して、次のシリーズが紹介されるまでに平均して6~8年なんですね。会社の方針や市場でのポジションも変わるんです。

S:日本ではほとんどの人が忘れているかもしれません、JCM800のコンボは…。本当にリイシューされたらいかがですか?

P:ええ、するべきだと思います。出来ますよ。

S:(小声で)限定生産でもいいので。

P:(笑)はい、その方が効果的ですね。コンボだけではなくて、ヘッドもやるといい。50Wのヘッド。中身はコンボと全く同じ仕様のヘッド・ヴァージョンです。
S:いいですね。
P:当時、非常に評価が高かったので、(もしリイシューが実現したら)みんなが試奏するでしょうね。20年経った今でも、「生産されないのか?」と訊かれるモデルはそんなにあるもんじゃありません。「他の新製品を出すよりも、そっちを優先した方がいいんじゃないですか」とね。

マーケットへの投入

S:他には?

P:私がここにいる間にとても気に入っている製品が2つありました。
同時に上手くいかなかった製品も2~3ありました。理由はただひとつ、市場を見誤ったことでした。その商品が収まるべき場所に収めることができなかった。商品を明確に定義づけられなかったのです。クリーンなマーケットに向けるのか、ヘヴィ・メタルやスラッシュ・メタルの方に向けるのか。そういう指向が特定されないものがあったんです。これはいつでも難しいことなんです。その点、4210はブルース、ジャズからヘヴィ・ロック、何にでも使えました。それとは反対にどのジャンルにもまったく当てはまらないモデルがあるんです。

S:でも、機能が多彩すぎてしまうモデルもある。

P:そうです。12個以上つまみがあるものは、多すぎだと思っています。

S:(笑)

P:「正しいことをしようとしろ」と言っているのではなく、「やりすぎないようにしろ」と言っているんです。
S:昔の人はアンプから欲しい音を得ようとする時、いちいちコントロールをいじったり改造したりするより、自分の指で音を作っていたと思います。

P:はい。1つの箱にいくつもアンプを入れるような必要はありません。例えば“JVM”でも、4チャンネルで12種類のサウンドがありますが、2チャンネルしか使わない人達がいるのを知っています。クリーンと何か他の物。それ以外はみんなペダルです。そんなものですよ。その方が簡単に切り替え出来ますからね。
だから…私は機能が多彩なアンプを使うには年をとっていますが…たくさんの人が言うように、12個以上つまみがあると難しすぎると思います。
もちろんそこに市場があるから存在する製品ですが、購入者のほとんどが、意図された設計通りに使わないのが普通なのです。つまりいくらチャンネルを増やしても、すべてのチャンネルを使わない傾向にあります。非常に多彩なアンプでフェンダーのクリーンからスラッシュ・メタルまで使えるのに。使わないんですよ。

S:マーシャルはマーシャルですから。それで十分ですよね。

P:そうです。フェンダーのクリーンで弾く人とスラッシュ・メタルを弾く人は同じではありません。どちらか一方だけを弾くものです。でも、JVMはチャンネルがたくさんあってもとても良いアンプですよ。

奇妙なモデル

S:同感です。それから…その一方で、どの製品が一番奇妙な存在感を持っているとお思いですか? 他のどの製品とも異なるものは?

P:良い意味で? 悪い意味で?

S:両方です。お思いになっていることを何でも…。

P:チョット考えさせて下さい…(間)…一番奇妙だったのは、発表してからも全く良い評価を得られなかったのがStudio 15…4001で
Pw_img_7796
した。小さな15Wの製品で、今のClass 5みたいな感じですね。しかしあれは15Wで、パワー管には6V6が2本入っていました。ギグ用のアンプとして使う事が出来、ジェスロ・タルのマーティン・バレが使っていました。
彼は6台を同時に使っていました。2台はクリーン用、2台はオーバードライブ、そして残りの2台はエフェクト用です。素晴らしかったですよ。あまりラウドではないけど、ミキサー卓に直接つなぐ事が出来ました。
しかし問題は、あまりにもクリーンで繊細すぎたので、100Wのパワー・アンプにつなげなければまともに動きませんでした。真空管が良いとか悪いとかではないんです。ただ、アンプがとても繊細だったので、設定が難しかったんですね。
市場に出てからも長い時間をかけて売っていました。2~3年は売れましたが、思ったような所まで行きませんでした。
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しかしその一方で、大体同じ時期に“SE-100”というユニットを生産しました。ラック型で…。

S:ジェフ・ベックも使っているモデルですね。

P:はい。これもまた、「どうだろうか」と思いながら市場に出しましたが、結果的には周りから「また作らないんですか」と訊かれる製品になりました。なぜならシンプルで使いやすかった。スピーカーなしで直接ギターをつぐことができたし、スピーカーを使う時は25Wや30Wに変換する事も出来ました。れっきとしたパワー・ブレーカーではありませんでしたが、エミュレーションの方は、アンプを取り外してミキサーに信号を送ることができ素晴らしい製品でした。評価も高かった。

S:マイキングの位置を変えたり…

P:そう!あれも、もう作って20年ぐらいになりますが、いまだに尋ねてくる人がいます。ちょっと前までは中古で300ポンドぐらいで買えましたが、今は7~800ポンドに上がっています。みんなが気に入っているから。スタジオにも良いし、ライヴでも非常に重宝するんです。

もうひとつは…これもよく評価され、しかもこれまでに作ったものと比べてちょっと変わっていたのがJMP-1でした。MIDI搭載のプリ・

アンプで…クールですよね。プリ管を2本搭載していましたが、飾りだと思っていた人が結構いたんですよ!もちろん音をウォーム・アップさせる為に実際に使用されていたものです。サウンドのエミュレートは素晴らしいものでした。これはMIDIプリ・アンプですが、ベース、トレブルなど何でも変更して保存出来たという点がそれまでとは大きく異なる点でした。評価も高く、他の商品の平均的な寿命が6~8年であるのに対して、JMP-1は12年も生産され続けました。今でも人気があります。ただ私達が作れなくなってしまっただけです。パーツやユニットの問題がありましてね。

S:お客さんからも、JMP-1を復刻してほしいという声を聞かれると思いますが…。

P:もちろんです。「JMP-2は作れないのですか?」とかね。「中身は変えないで、よりモダンな感じにしてください」とか…。
S:ああ、気持ちはわかりますね。
P:人々がJMP-1を気に入ってくれたのは、とてもシンプルだったからです。本体の中でたくさんのパラメータを変えられますがベースやトレブル、ミドルなどを変えたり、ゲインを増やしたり減らしたりするぐらいです。アタック、ディレイといった音に関するあらゆるパラメータを変える事は出来ません。凄くシンプルなユニットですが、私達にとっては革命でした。これまで真剣に踏み込んで行かなかった領域に入ったのです。
今はほとんどの製品に何らかの形でデジタル信号が使われています。リヴァーブだけということもあるし、それからMGシリーズにようにすべてがデジタルでコントロールされているものもあります。形が違うんですよ。モダンな手法だと言えるかもしれません。悪いとは言っていませんよ。ただ、これが現代のやり方なんです。

最も成功したモデル

S:過去の製品についての質問を続けさせてください。個人的には、どの製品が最も成功したと思われますか?

P:様々な角度からの見方があります。持続性…どのぐらい長い期間生産されていたかということならJTM45でしょう。設立当初かPw_img_7804
ら現在までいまだに作り続けられているモデルですからね。

しかし一番ポピュラーなのはマスター・ヴォリュームを搭載した2203と2204でしょう。1970年代の半ばに出てきましたが、何かの理由で生産がいったん止まってしまった時を除き、ずっと生産され続けている一番有名な製品です。考えてみると、DSL、TSL、そして今作っているJVM、すべてにマスター・ボリュームが付いています。みんな2203や2204の設計を受けて作られたものです。
でも、あなたの質問にもしひとつだけ答えるならJTM45でしょうね。50年にわたって生産され続けていますから。生産していない時期もちょくちょくありましたが、基本的には50年です。さらに、人気という事でいえば、多分…。

S:DSL?

P:DSL。ウン。JTM45 ほど長い間は生産されてはいませんが、市場に的確なタイミングで参入してきました。スラッシュ・メタル用のアンプではないし、クリーンなアンプでもありません。「マーシャルのアンプ」です。ちょっと聞き飽きた表現かもしれませんが、これがマーシャルを有名にした音です。JTM45はなかなか買われません。クリーンが弾けないから。
S:良い答えですね(笑)。

P:ありがとうございます(笑)。

S:では、一番短命に終わったのは?

P:そう来ると思って今ちょっと考えていました。調べてみましょう…(間)…“Powercell”というコンボでしょうか。JCM800のシリーズで基本的には1×15"。リード、100Wのコンボです。

S:パワー何ですって?

P:Powercell(パワーセル)。こう呼ばれた理由は、搭載したスピーカーがセレッションのPowercellという名前だったからです。2年も経たないうちに生産終了してしまいました。多分全部で2~300台しか生産されなかったと思います。箱の大きさの割にパワフルすぎたのがマズかったかと…15インチのスピーカーが1発で、パワー段はストレートに100Wです。通常のJCM800のパワー部と変わらないんですから。音が箱っぽかった。

S:箱っぽい?(笑)

P:まさにその通り。鼻をつままれたような感じで、コントロール部でどういじってもそこを変える事が出来ませんでした。

S:(笑)

P:4×12"に繋げば素晴らしい音になりました。しかしコンボしか作りませんでした。だから、長続きしませんでしたね。

S:どんなヤツかなぁ?

P:テストもしたんですよ。ここにも1台あったんですが…。でもテストしただけでした。これは2バージョン作ったんです。1つは1×15"、もうひとつは1×12"。まず1×15"をやってみて、次に1×12"にして箱っぽさをなくそうと試みましたが、上手くいきませんでした。全く同じ音が出ました。低音が出るわけでもないんです。ただ、箱の音がするんです。 とにかくあれはもったいない製品でした。Pw_img_7799
スゴく良いものになるはずだったんです。でも、あれがここ50年作ってきた中で一番短命に終わってしまいました。
上部にコントロールがあって。ちょっと1959みたいですね、入力が4つあって…ボリューム、ベース、ミドル、トレブル、プレゼンス。それからマスター・ボリュームも搭載していました。だから、1959と2203の中間だといえます。

S:いい感じですよね~!

P:いい感じです。完全に新しいモデルでした。それまでは回路は…JCM800…つまり2210や2205みたいに、同じ回路を使って真空管の数を増やしたり減らしたりしていました。それで50Wや100Wモデルを作っていたんです。これは全く新しい回路を使いました。
これが回路の写真です。

S:ヒューズの数が凄いですね(笑)。

P:そうですね。問題があったわけじゃないんです。ただ音があまり良くなかった。というか理想の音を得られませんでした。

S:アンプとキャビネットの組み合わせが悪かったという事ですか?

P:はい。新しいアンプ、新しいキャビネット…。小さめに作って、地元のパブやクラブで弾けるようにしたんです。サイズは大きくないけれどパンチがある。

S:キャビネットがパワーを十分に受けきれなかったんでしょうね。

P:さすが!まったくその通りです。1978年から1979年の間に作られました。

S:短い!(笑)モデル・ナンバーは何番でした?

P:2150です。このシリーズの中で、実は他にも1年しかもたなかった製品があります。、Powercellが1977年の後半にスタートして1979年に中止された時に作られていました。、Club&Countryと呼ばれているモデルです。

S:それは知っています。

P:これも凄く良かったんですよ。とてもよく動きます。

S:茶色いのがマズかった…?

P:はい。それと、タイミングが良くなかったのか、あまり売れませんでした。誰かの決断で…外部の人間だったか内部だったかは覚えていませんが、とにかく生産中止になりました。

ビッグ・ダディ

S:あれは確かJCM800のファミリーですよね。

P:もちろんです、みんな同じファミリーですよ。JCM800というとマスター・ボリュームのことを思い浮かべる人がほとんどですが、確Pw_img_7778
かJCM800という名前の下には25種類の製品があります。

S:25も? それは一大家族ですね。

P:はい、2203と2204があって… 。

S:お父さんとお母さんですね(笑)。

P:はい、まさに(笑)。4010、4104、4103、そして4”×12"とマスター・ボリューム、そしてつい先ほどお話した2150、2140、2145、それから4001…あの小さなStudio 15です。それから4203…これはハイブリッド。3203はハイブリッドの30Wヘッド・ヴァージョン。だから、たくさんあります。

S:考えてみるとJCM800シリーズって本当に大家族ですよね~!

P:ええ、単独のアンプ・ファミリーの中では一番大きいんじゃないでしょうか。なぜならいろいろ々な製品が生産されていた時期でした。私達にとってブームの時期だったんです。作れば作るほど売れ、人気が出ました。

つづく

(一部敬称略 2012年9月 英Marshall社にて撮影・収録 ※協力:ヤングギター編集部、平井毅さん&蔵重友紀さん)