NATALでハレソラ~岡井大二のドラム・キットの新旧
雅楽師の東儀秀樹が3年ぶりにニューアルバムを発表した。
タイトルは『NEO TOGISM』。
東儀さんは、まだ六本木にスイート・ベイジルがあった頃にMarshall Blogにご登場頂いたことがあった。今回は岡井大二がらみ。
大二さんがその『NEO TOGISM』のレコーディングに参加されたのだ。
とくれば、当然Marshall Blogとしては放っておけないワケで…大二さんにお願いして現場にお邪魔させて頂いた。
レコーディングで使用したドラム・キットはもちろんNATAL。大二さんのホームはこのバーチのキットだけど…今回はアッシュのキットを起用。コンフィギュレーションは13"、16"、22"。
いくつか用意されたスネア・ドラムのひとつがNATAL Stave(ステイヴ)。
simoの時にいつも使っているスネア・ドラムだ。マイクの数がスゴイ!後ろで控えているのはsimoのライブでおなじみのユースケくん。
この日もバッチリとサポートしてもらいました。大二さんが演奏したのは1977年の四人囃子の『Printed Jelly』の1曲目に収録されている「ハレソラ」。この日レコーディングしたパートは大二さんのドラムスとギターだった。ギターを弾いているのは東儀さんの息子さんの東儀典親。
典親くんは70年代の音楽が大好きだそう…私と一緒。
また四人囃子についてはミツルさん期がお好きなようで、この日のレコーディングはメチャクチャうれしかったことでしょう。
ドラムスは「ホンモノの人」ですから!
今回のバージョンはオリジナルの大二さんのプレイとアレンジの魅力をそのままに…
篳篥(ひちりき)や笙(しょう)のサウンドを大胆に導入して東儀さんのテイストをガツンとフィーチュアしたスグレモノ。
コレぞ「Togism」!数回テイクを繰り返して、ハイOK!
大二さん、完コピ…当たり前か。
スゴイよナァ、この曲を録ったその46年前の現場にいた人だもんナァ。
アタシャ中学校3年生だったわ。大二さんのタスクは終了。
典親くんが持参した四人囃子のインタビューが掲載されている当時のプレイヤー誌を囲んでみんなでパチリ。記事のページにサインをする大二さん。
典親くん、うれしそ~!
愛器を手にして笙の説明をしてくれた東儀さん。
それにジックリと聴き入る大二さん。
スミマセン…私も質問させて頂きました。
というのは、笙のサウンドがある物にとてもよく似ていることに気が付いてすごく興味があったのだ。
「ある物」とはナニか?…それは、マイルス・デイヴィスが弾くオルガンのサウンド。
演奏の途中でソロの交代を指令するときにやる「ビャ~」というあの音が笙のサウンドにソックリに聞こえるワケ。
マイルスのことだから、テオ・マセロと2人で笙のサウンドを研究したに違いない。最後に記念撮影。
東儀さん父子は「若年寄」というバンドを結成して活躍中!
東儀秀樹の詳しい情報はコチラ⇒OFFICIAl WEBSITE
さて、今日の記事の後半はガラリと趣きを変えて…。
大二さんの思い出のドラム・キットを紹介する。
NATALではござらんよ。それは、イギリスの老舗ドラム・ブランド「Premier」のキット。
Marshall BlogがMarshallファミリー以外のブランドの商品を取り上げるのはごくごくマレなことなんだけど、このドラム・ブランドはイギリスの方で大いにMarshallと関係がありましてな。
かつてプロ・ドラマーだったジム・マーシャルはPremierドラムスの第1号エンドーサーだったのだ。だからジムは元気だった頃、フランクルトの展示会のパーティの席上でよく余興でドラムスを演奏していた。
そういえばネクタイ姿のジムは珍しい。写真を撮ったのは2005年のちょうど今頃。
ジムは大正12年(1923年)の生まれなので、もし生きていれば今年100歳だった。1962年、ジムはやがてやって来るであろうロック・ブームを予測してドラム教室を運営する傍らロンドンの西のハンウェルというところに小さな楽器店を開いた。
それが後のMarshallだ。
ジミ・ヘンドリックスのドラマー、ミッチ・ミッチェルはジムのお弟子さんで、この店でアルバイトをしていた(リック・ウェイクマンも働いていたことがあったとか…)。
またキース・ムーンも一時期ジムの教室に通い、今は下の写真の床屋になっているそのジムのお店でPremierドラムスを買ったワケ。
イヤ、買わされたのかも知れない。
教室の生徒さんに楽器を販売するというのはジムのアイデアだったからね。そのミッチ・ミッチェルやキース・ムーンのドラミングに憧れて、大二さんはこのPremierのキットを購入し、『二十歳の原点』や『一触即発』の一部で使用したというのだから、回り回って今NATALとご縁があってもナンの不思議もないのかも知れない…と考えると、「ロマン」じゃない? 大二さんがこのキットを手に入れたのは1972年頃。
高校を卒業して、四人囃子が始まる時のことだった。
大二さんだけでなく、バンドとしてそれぞれのメンバーが楽器を新調してもらった。
森園さんはSGスペシャルと迷い、メンバーの押しもあってストラトキャスターを入手。
当時はまだストラトキャスターを使っている人は少なかったそうだ。
コレが後のチャーさんの「ストラトをああいう風に使ったのは日本ではモリが一番最初なんだよ」という発言につながっているのかも知れない。
中村さんはプレシジョン・ベース。
坂下さんの楽器が最も高価で、ハモンドもどきと小さなレズリー・スピーカーだった。
そして、大二さんはこのキット。
当時、Premierドラムスを扱っている楽器店は珍しかったのだが、大二さんは池袋の「モリタ楽器」というお店に置いてあることを知っていて、他のメンバーの楽器と併せて某楽器店を経由させて入手した。
キットは20"のバスドラムと…12"のタムタムと16"のフロアから成っていたが、フロア・タムは自宅の倉庫で保管している時に水分によるダメージを受けて残念ながらダメになってしまった。今もほぼ変わらないロゴが「パーマン」みたいでいいね。
シッカリ「MADE IN ENGLAND」と謳ってある。
Premier社は創業が1922年なのでPremierも100歳を超した。
スゲエな、Marshallより40年も古い。
大二さんがとにかく気に入っているのはこのフィニッシュ。
このウネウネは手作業ならではだね。
確かにこの重厚な風合いは見事だよ。
漆の名匠が丹精込めて塗り上げたような仕上げになっている。今はこんなに手の込んだことはできないでしょうね。
オーダーしたらまず「データを送ってください」と言われてプリントしたフィルムを貼るのが普通だろう。
楽器に限らず、昔のモノって何でもチャンと作ってあるんだよね。
「使い捨て」なんてトンデモナイ!チャンと作って長持ちさせる。
コレぞ江戸時代の庶民の精神。
Premierはレスターっ子だけどね。
パーツひとつひとつが前時代的で落ち着いているナァ。バス・ドラムの最下部。
この蝶ナットがなっとも言えないね~。ヘッドはキース・ムーンとお揃いのEverplay。
このヘッドは普通のモノと異なりティンパニのヘッドのような作りになっているそうだ。
もちろん「MADE IN ENGLAND」。バスドラムの中。
シンプル・ムード満点!エッジのようす。
バスドラムのシェルに残っている魚の形のステッカーの後。
大二さんがかつてサカナクションでプレイしていたワケではない。コレはマーク・ベノの『雑魚(Minnows)』についていたオマケのステッカーを貼っていて、それをハガした後だそうです。
「よにんばやし」か…コレ、なつかしいね。
何て言うんだっけ?カチンカチンとやって文字を打っていくテープ。
Premierドラムスを使っているドラマーは他にいなかったので他の人の持ち物と混同されることはまずあり得なかったが、念のため貼っておいたそう。
大二さん、ステッカー貼るの好きだからな。大二さんにこのキットで臨んだ最も印象に残っているコンサートは?とお訊きすると即座に「ミラージュ・オブ・四人囃子」とお答え頂いた。
『ミラージュ・オブ・四人囃子』とは1973年7月21日に杉並公会堂で開催された四人囃子にとって初めてのホール規模での単独コンサート。
昔は「杉並公会堂のコンサート」ってよく見かけたよね。
私も高校の時に一度だけステージに上がったことがあるわ。
「泳ぐなネッシー」と「空飛ぶ円盤に弟が乗ったよ」と「中村君が作った曲」はこの日が初演だったという。
つまり大二さんはPremierのドラムスでそれらの曲のPremierをしたワケよ。
そして今、『一触即発 デラックス・エディション』という3枚組CDでこの時の演奏を聴くことができる。
オフィシャル音源にはない「ピンポン玉の嘆き」のイントロのインスト・パートや「円盤」の長尺のドラム・ソロなど、このドラム・キットの写真を眺めながら大二さんの演奏を聴くのは実に楽しい。
でもね、結局は「大二さんのドラムスの音」なんだよね。
思い出のドラム・キット…処分しなくてヨカッタ!
そう、大二さんとのお話の結論は「捨てちゃダメ!」。
捨てちゃおしまいなのよ。
我々は断捨離反対派なのであった。
でも大二さん、もう安心。
こうしてMarshall Blogに残しておきましたから!
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