虚無回廊~金属恵比須レコ発ワンマン<前編>
吉祥寺シルバーエレファントの山門に建てられた唐花紋の幟。今日は金属恵比須の単独公演のレポート。
Marshall Blogは2度目のご登場。
もっと出て頂いている感じがするんだけど、2022年4月の高円寺以来なのよ。
アレからもう1年近く経ったのか…とても信じられん。入り口の掲示にある通り、今回は昨年12月7日に発表した新譜の発表記念ライブ。
コレがその新譜、『虚無回廊』。
2011年の死去に伴い、結果的に未完成のまま小松左京の遺作となった同名の説を素材にしたコンセプトアルバム。
私は残念ながらこの小説を読んでいない。
また、生来大のアマノジャクゆえ、氏の代表作である『日本地没』の映画作品すら観ていない。
というのは、この映画が公開された1973年当時、私は小学校5年生だったんだけど、それはそれはモノスゴく大きな話題になっていたんですよ。
そうか…この作品は橋本忍が脚色していたんだね。
この時からもう50年も経ったのか…。しかし、中学生の時、短編を夢中になっていくつか読んだ。
遺跡を掘っていくと発掘されるアイテムがドンドン新しいモノになっていく話や、普通の部屋の空間からポタリと血が滴り落ちて来る話とか、子供ながらにスゴイ着想に感心したものだった。
とりわけ印象に残っているのが「くだんのはは」という作品だった。
もちろん戦後に二葉百合子の歌でリバイバル・ヒットした「九段の母」に引っ掛けてのタイトル。
戦死した愛息を自慢に思う憐れな母を歌った「軍国歌謡」と呼ばれたプロパガンダ・ソングだ。
一方、小松先生の「くだんのはは」は一種のホラー小説…っていうのかな?
空襲で焼け出された少年があるツテで身を寄せた家は、ナゼか爆撃の被害を受けず、食料にも困っていないことを不思議に思う。
その少年はある時、その家の奥に自分が知らないナニか得体の知れないモノが隠れ住んでいることに気づく。
そして、少年はその正体とその家が災厄を被らないかの理由を知る。
どう読んでみたくなった?
何とも言えない暗くドロドロとした不気味な雰囲気が絶妙な筆致で描かれていて中学1年生の私は大きなショックを受けた。
ややネタバレになってしまうが、「くだん」というのは「件」と書く。
「件」はその字の形が表す通り人と牛が合体した妖怪の一種で、災厄を予言する能力を持っていると言われていた。
ギリシア神話にも頭が牛で身体が人間の「ミノタウロス」という「件」とは逆のパターンのヤツがいるけど、ナンで皆さん人と牛を合体させたいのかね?
東京の街を歩いていると下の写真のような緑色の外壁の古い家を見かけることがあるでしょう?
コレは「銅板建築」といって、大正12年の関東大震災(今年で100年)の時の火災を教訓に、燃えにくくするため薄い銅の板で包んだ外壁材を用いて作った家で、時間が経った今では緑青がふいて貫禄ある風合いになっているが、オリジナルは美しい赤銅色だった。
今、こうした銅板建築の建造物は取り壊されて大分少なくなってしまったけど、台東区の下谷やナゼか神田の神保町で見ることができる。
この銅板建築は昭和3年に集中して建てられたらしい。
つまり昭和20年3月10日の東京空襲を含む122回のアメリカ軍の空襲にも耐え抜いた建造物こそが東京の銅板建築なのだ。
そうして、この銅板建築のように焼け残った家があると、空襲で焼け出された人たちはヤッカミもあって「あの家には件がいるのでは?」と噂をしたりしたそうだ。
本当はいないのよ。
戦時中、自らの無事を祈るワラにもすがる民草の気持ちは共通で、金魚を飼っていると空襲に遭わないということも言われたそうだ。
コレは、空襲を免れたある夫婦が、フト気が付いてみると飼っていた金魚が2匹死んでいて、「我々の身代わりになってくれた」と思い込んだのがコトの始まりで、ウワサがウワサび、金魚ブームが起こってしまった。
ところが、人々が満足に喰うこともできない戦時中ゆえ、金魚など流通しているワケもなく、人々はガラス細工の金魚を買い求めて無事を祈ったという。「らっきょう」もこうした戦禍から逃れるためのお守りになった。
ナンでだと思う?
アメリカ人がニオイをキラって逃げるから?
ウン…チョットそれに近い。
空襲が終わって爆撃機が去っていくことを当時「脱去(だっきょ)」と言ったらしい。
それに「らっきょう」を引っ掛けた。
つまり、空襲があった時にすぐに爆撃機が「脱去」するように「らっきょう」を備えてお守りにしたというワケ。
そんなことまでして…かわいそうにナァ。
今日はインテリ・バンドの登場ゆえ、チョッと知的な脱線でスタートしたよ。さて、金属恵比須のニュー・アルバム。
まずは映画監督の樋口真嗣さんのペンによるの帯の惹句を読んで驚いた!
「この電圧と正弦波の饗宴に堕ちるがよい!」
その果てのバニシング・ポイントに屹立する虚無の伽藍よ!
耳朶(じだ)を打ち鮮血と化したアンペアを浴びて痲痺(しびれ)るのだ!」
瀧口修三の詞みたいだな。
CDを聴いたら電圧より血圧が上がりそうだ。
そういう作品は大好きだゾ!『バニシング・ポイント』か…バリー・ニューマンね。
懐かしいね。
小学生の時、テレビにカジりついて観たわ。 下は『虚無回廊』のバック・パネル(イギリスではこういうCDスリーヴの「面」のことを「パネル」と呼びます=チャンとした英語)。
小松先生の元マネージャーの乙部順子さんと先頃亡くなられた渡辺宙明先生の賛辞が寄せられている。
私はこういうのがうれしいんだよね。
つまり、バカみたいに「英語表記優先」の日本の文化にあって、こうして平気で日本語の文章をCDスリーヴにドッカと載せてしまう。
それと曲名をご覧。
「Nantoka of Kantoka」とか「Are in the Kore」とか簡単な英単語を並べたタイトルで中身が日本語なんてのはもうヤメたらどうかね?
もう英語表記なんてカッコよくないって。
ナゼかというと、英語ができない日本人のそうした言葉の羅列には英語が作っている文化を感じさせないから。
ゴメンなさい…今日はチョット書き過ぎか?
でもマーブロ的前説ココまで…後は大人しくしています。
…ということで金属恵比須のレコ発ライブが始まるよ!
初めに高木さんがひとりで登場。
ココからがホンモノの前説。
「まだお客様が入り切れていないので…7時から始めようと思っていたんですがチョット押します。
その間、少しお話を…。
12月11日は大変申し訳ございませんでした」
公演が中止になっていたとは知らなかった。
その日のお誘いを頂戴していたんだけど、いくつかの他の取材と重なって臍を噛む思いをしたのだ。
その振替公園が今日だったとは…。
中止はアンラッキーだったけど、マーブロ的にはラッキー!「今日は写真OKですのでドンドン撮ってください。
動画もチョコっとだったら撮っても大丈夫です…が、撮ったモノは個人で楽しまずに、人に見せて自慢してください。
SNSに上げて頂いてもかまいません」
「今回『虚無回廊』というアルバムを出しまして…もうお買い上げ頂きました方はいらっしゃいますか?
ありがとうございます。
今日は、この会場にご用意しておりますのでよろしくお願いします。
サインも致します」そして、お客さんが入り切ってショウがスタート。
満員御礼!
まずは「八つ墓村」のオープニングSEからそのままバンド演奏へ。高木大地高木さんは今日も愛用の1959SLPと1960A。足元のようす。足鍵盤も装備。宮嶋健一宮嶋さんの機材郡。
鍵盤がこうして集まっている様もとてもいい景色だ。栗谷秀貴後藤マスヒロ曲は高木さんが弾くシンプルでヘヴィなギター・リフに入る。そして早速『虚無回廊』収録の「魔少女A」につながった!
稲益宏美コチラ、稲益さんの機材。
やっと名前を覚えたカシシ他、ゾロゾロ。
とてもにぎやかだ。
「A」は『虚無回廊』の登場人物「アンジェラ・インゲボルグ」の「A」。
歌のメロディがとても印象的。
「♪無聊をなぐさめる」なんて表現がロックの曲に出て来たのを初めて耳にした!そして、いたる所に散りばめられた宮嶋さんが弾くキーボーズがドラマチックに曲を演出するのだ。「こんばんは!うれしいですね~。え~…」…というMCを遮ってマスヒロさんのカウントが容赦なく入る!続いても『虚無回廊』から「人工実存」。
ドバーっと繰り出されるメロトロン・サウンドがうれしい。
人はナゼこの音が好きなのかネェ。
オッサンだけか?
ロックを聴く若い人はこの音色って知っているのかしらん?「人工実存(AE)」とは「人工知能(AI)」と異なり、人間と同じ個性と判断力を持つ人工の知性…みたいな。
『虚無回廊』の中で重要な役割を担う。
高木さんのアルペジオをバックに… 哲学的な歌詞を重々しく歌う稲益さん。中間部から曲想が変わり幻想的なシーンで活躍するのが宮嶋さんが奏でるビンテージ楽器のリボン・コントローラー。
オリヴィエ・メシアンの「トゥーランガリラ交響曲」で使われている電子楽器、オンドマルトノがその原型とされているとは知らなんだ。
やっぱり新しい音楽をクリエイトする時にこそ新しい楽器は生まれて来るし、新しい楽器が生まれてくからこそ新しい音楽も生まれるってことよナァ。
そこへいくと今は惨憺たる状態だ。
一番ヒドイのはギター・アンプではなかろうか?
利便性を優先せんとするデジタル技術が音に退化をもたらしてしまったのだから。
各種ハンドパーカッションでサウンドに色どりを添える稲益さん。ちなみにMarshallのドラムス・ブランドNATAL(ナタール)でも各種ハンド・パーカッションを取り揃えてございます。続けてガラッと変わって「ルシファー・ストーン」。すさまじいビート感で疾駆するマスヒロさんのドラムス!
高木さんの典型的なハード・ロック・ギター。
やっぱりこういうのはMarshallでないよダメよね。
その点、金属恵比須は安心!猛然とドライブするバンドをバックに稲益さんが熱唱する。 意表を突いたジャズ・ビートのパートから…
高木さんのボトルネックのパートへ。そして宮嶋さんのオルガン・ソロをフィーチュア。
脇目を振らず走り抜ける曲中にいくつものドラマが盛り込まれたゼイタクなナンバー。「こんばんは!ありがとうございます。
1曲目が終わった後にしゃべり出そうとしちゃって!
3曲続けて演るのをスッカリ忘れてしまった。
この客席の光景を見た瞬間にすごくうれしくなってテンション上がっちゃったの!
今日はお越し頂いて本当にありがとうございます!」
「1曲目…登場の音楽が芥川也寸志先生の『八つ墓村』の『呪われた血の終焉』からの「魔少女A」、そこに稲益のMC…結構恨むよオレ」
「オレ、真顔でニラまれたもん。
でも、コレは止ちゃダメだと思って次の曲に入ったよ…スゴい圧だった」
稲益さんが感無量になってしゃべり出そうとしたのを、マスヒロさんが引っ張って予定通り次の曲につなげて修正した…というひと幕ね。
「さて、2曲前の『人工実存』は初披露でございます。
この曲は歌詞が出来ずに最後まで仮のタイトルが付けられていたんですよね。
一昨年の12月から取り組んで来て去年の9月まで書けてなかったんだよ」
「仮のタイトルはたいてい誰かの曲のタイトルを2つ3つくっつけて付けちゃうんだけど、一番ヒドかったのは『砂の器』から『器に砂』ね…」
ギャハハ!
言葉が前後に入れ替わっただけで不思議とオモシロイ。
そういえば『砂の器』は「橋本忍の代表作」とされている作品。
音楽は芥川也寸志だった。
私は苦手な映画なんだけど、サントラ盤は持っている。
芥川家は息子さんが3人いて、也寸志さんは末っ子。
長兄はビルマで戦死されて、そのすぐ下の息子さんは芥川比呂志という俳優さんだった。
伊藤一葉の『にごりえ』を今井正が監督した1953年の同名のオムニバス映画で主役の人力車夫を演じるのを観たけど、なかなかカッコいいんだよ。
一方、也寸志さんの方はクラシックの作曲家だけど、それでは喰っていけないので膨大な数の映画音楽を手掛けた。
早坂文雄、伊福部昭、古関裕而、佐藤勝、林光、木下忠司、團伊久磨、この時代の作曲家はみんなコレをやった。
芥川さんは『野火』、『鍵』、『おとうと』、『女経』、『私は二歳』等々、比較的市川崑の仕事が多いのかな?そうでもないか?
どれもいいお仕事をされています。4曲目も『虚無回廊』から「誘蛾灯」。
タイトルを連想させるようなオドロオドロしいイントロからしてカッコいい。
秀貴くんのベースがゴリンゴリンとド迫力だ。稲益さんはマスヒロさんのシンバルを打擲して加勢する。
曲はSGモデルに持ち替えた高木さんが弾く5/8拍子のリフから様子が変わる。宮嶋さんのキーボーズが大活躍!
ああ、いいナァ。
こういうことを演ってくれるバンドがまだ日本にいることを誇りに思うわ。また曲調が戻り高木さんのソロ。「♪開け~ゴマ~」
いいわ~。続け『黒い福音』から高木さんが高校2年生の時に作ったという「鬼ケ島」。高木さんがリード・ボーカルズを務める正統派ヘヴィ・チューン。キタキタキタ~、6/4拍子のインスト・パート。
それに続くギター・ソロもタップリの高木さんフィーチュア曲。
「『虚無回廊』、聞いて頂けましたか?
ありがとうございます。いかがでしたか?
色んな曲が入っているので結構人によって好みがバラけるのはないでしょうか?
お客さんの拍手で『虚無回廊』の人気曲を調査するコーナー。
どの曲も甲乙つけ難い反応。
結局みんな全部スキ…みたいな?
「オープニングテーマ」が別扱いのようになってしまった高木さん…
「ボク、作ったんですけど~」で客席大ウケ!
まるでアンドリュー・ロイド・ウェッバーの『キャッツ』が始まるかのような怪しげな幕開けからメロトロンが鳴り響くワルツ…私は初めて聴いた時「コリャ、ナニがが始まるぞ!」という感じがしてすごくいいと思いましたよ。
こんなことをしているバンドは他にいないかね。それがとても大切。
次に演奏する「星空に消えた少年」について解説。
作曲指導を乞うた日本を代表する作曲家の渡辺宙明先生がその3か月後の昨年6月に亡くなってしまったのだ。
その先生の思い出について触れた。 荒川の河川敷でビデオも撮影した。
今日はその時の服装なのだ。
まさに私が子供の時にリアルタイムで観ていたヒーローもののような仕上がりが最高に楽しい!
そのビデオの中のポーズを…少しキメてくれた。そして、『虚無回廊』のリード・チューン「星空に消えた少年」を思い入れたっぷりに演奏してくれた5人!
ホントにいい曲なの。
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