【イギリス-ロック名所めぐり】vol.38~キンクスに会いに行く!<中編>
ようやっとのことで着いた「The Clissold Arms(ザ・クリソールド・アームズ)」。コレがThe Kinksファンの聖地か!
見た目は普通の「郊外型パブ」といったところ。
入り口のドアの横には「Campaign for Real Ale(キャンペーン・フォー・リアル・エール)」のプラークが掲げられている。
「1960年12月、The Kinksの創始者であるレイとデイヴ・デイヴィスが初めて公衆の場で演奏をした場所。The Kinksは最も影響力の強いイギリスのロック・バンドのひとつで、バンドが解散するまで各々のメンバーはその後に世に現れた音楽ジャンルの父とみなされた」
いつか書いたようにイギリスのパブは大抵どこかの大手ビール会社が運営していて、自社の商品を卸すのが当たり前の図式になっている。
この「Campaign for Real Ale」というのは、そんな事情を憂いインディーズで経営している伝統的なパブを大手ビール会社への系列化から守る運動をしている団体。
いい人たちだ。
1971年から活動していて、その会員数は19万3千人にも上る。
私も入っちゃおうかな~。
様々なビールのフェスティバルなども企画しているっていうし。
で、気になるのはこのプラーク。
他にどんなパブに付いているのか調べてみたのだが、その範囲は音楽関係にとどまらず、歴史的な場所から、食べ物に関する場所…たとえば「スティルトン・チーズ発祥の地」なんてのもあった。
イギリスはかなりのチーズ文化国で、日本に来たイギリス人に言わせると、日本の食べ物は何でもおいしいけどチーズだけはダメだそうである。
私は特にチーズが好きなワケではないのでこんなことを言われてもゼンゼン平気。
このスティルトン・チーズというのは世界三大ブルー・チーズの一角なのだそうだ。
そして、有名なチーズ専門店がこのマズウェル・ヒルにもあることは前回書いた。
他にリバプールに行けば「ジャカランダ・クラブ」といって、ビートルズの最初のマネージャー、アラン・ウィリアムスが開いたパブにもこのプラークが付けられているそうだ。
ウィリアムスは地下室をリハーサルの場所としてはジョンやスチュアート・サトクリフらに貸し、ビートルズ、正しくは前身のシルバー・ビートルズがその店で演奏したのだそう。
そして、フォーティス・グリーン・ロードを挟んだクリソールド・アームスの向かい。
コレがレイとデイヴィスの生家なのだそうだ。
お世辞にも「結構なお住まいで…」などとは言えない庶民向けデタッチト・ハウス。
いわゆるイギリス式棟割り長屋。
私も友人が住むこの手の家に何度かお邪魔したことがあるが、チョット狭いけど建物の向こう側にはバックヤードがあったりして、棟続きとはいえ「戸建て感」が十分にあって結構いい感じ。
と思っていたら奥に広いテラスがあって結構にぎわっていた。
エールを頼んで、写真撮影の可否を問うと「ご自由にどうぞ~!」ということだったので、遠慮なくやらせてもらった。
まずはソファに座ってひと休み。
結構歩いたからね、ノドが乾いた。
しかし、「Real ale云々」なんてことはナニも言ってなかったな。
ま、こっちはハンド・パンプで注がれるエールなら何でもいいんだけどね。このテーブル!
「K」だらK!「God Save the Kinks」か…、
「God Save the Kinks」は伝記本のタイトルにもなっている。
私はこっちを読んでみた…『ひねくれ者たちの肖像(原題:The Kinks The sound and the Fury)』というもうひとつの伝記本。
ハードカバーで500ページを超す大著なんだけど、読み切るのにかなりの忍耐を要した。
何度途中で放り出そうと思ったことか…。
レイとデイヴの不仲話を中心に、メンバー間の不調やイジメが延々と書いてあるだけという印象。
何かこう、もう少しレイの天才的な作曲能力の秘密に迫るような内容が含まれていたらヨカッタんだけどな~。
「ひねくれ者」か…。
そもそも「kink」というのは「よじれ」とか「もつれ」とか「ひねり」という意味だからね。
Marshallが1962年に発売した記念すべき第1号モデルのJTM45に搭載されていたパワー管ははじめ5881だったが、後にKT66となった。
KT管はイギリスが開発した真空管で、「KT」とは「Kinkless Tetrode」、つまり「よじれのない四極管」の頭文字だ。
さて、店内の壁のメモラビリアを見てみると…。
表のプラークと同じことが書かれている飾り。
コレは「Waterloo Sunset」。
ドデカイ「K」。
舞台装置かなんかだったのかしらん?
その後ろの壁面にはアルバム『Word of Mouse』のジャケットをモチーフにした「The Kinks ROOM」のサイン。
ね、「キンクス部屋」なの。
やっぱり「Dedicated Followers of Fashhion」はロンドンっ子テーマ・ソングみたいなものなのかね?
流行のファッションに血道を上げてカーナビ―・ストリートに集まって来るミーハーの若者を歌った1966年2月のシングル・ヒット曲。
パブリシティ・フォトから…
チョットしたライブ写真まで色々。
コレも「Waterloo Sunset」。
やっぱりロック史に残る必殺の名曲だからね。
ホントにこの曲好き。
ローリング・ストーン誌が選ぶ「500 Greatest Songs of All Time」というリストの42位にランクインしている。
もっと上でもいいんじゃないのか?もっとも日本ならランク外だろう。
ちなみにこのリストの上位を見てみると…
10位がレイ・チャールズの「Waht's I say」。
9位がNirvanaの「Smells Like Teen Spirit」…知らんがな。
8位以上は「Hey Jude」、「Johnny B. Goode」、「Good Vibrations」、「Respected」、「What's Going On」と続く。
で、3位が「Imagine」。
2位が「(I Can't Get no)Satisfaction」。
そして栄えある第1位は「Like a Rolling Stone」だってサ。
英語圏と日本のロックの鑑賞の仕方の違いが如実に表れていると思う。
ところで、やっぱAreaの「Luglio, Agosto, Settembre (nero)」は入ってねーな。
キンクスの名曲で構成したショウ『Sunny Afternoon』の告知ポスター。
4年前、ロンドンに来た時に演っていたんだけど観にいかなかった!
エラく後悔している。
代わりにこのショウの音源を聴いたんだけど、その臍を噛む思いはチョット晴れたね。
コレはまたもうチョット後で。コレはファンが作ってくれたのかネェ?
キンクスのゆかりのある建物の紙細工。
時計回りにいくと、左上は上の写真にあったデイヴィス兄弟の生家。
その隣はこのクリソールド・アームズ。
右の下はココのほぼ向かいにあった「The Alexandra」という、レイとデイヴが若い頃に入り浸っていたというお店らしい。パブか?今はもう無くなっていた。
最後は1981年のアルバム『Give the People What They Want』のジャケット撮影現場。
熱心なファンを装っていても、『Preservation』以前の旧作ばかりを聴いているウワベだけのファンなんですよ、私は。
Aristaに移籍したあたりから、パンク/ニューウェイブの煽りを受けて「何とかバンドのサウンドを変えないと!」とレイが焦っているような感じがして聴くのがツライ。
ムリして80年代の商業ロックの仲間入りなんかすることなかったのに!
でもこのパブリシティ・フォトにある1982年の『State of Confusion』は好き。
ナント言っても「Come Dancing」とか「Don't Forget to Dance」といった名曲が入ってるからね。
でもジャケが!
この時期の2枚は一体どうしちゃっただろうね。
色目は変えてあるけど、写真の撮影現場も上の紙細工のところで一緒だもんね。
一種の連作になってるのかな?
「民衆が望むモノを与えよ(Give the People What They Want)」…でも与えられないから「混乱状態(State of Confusion)」になってる?
「DAVRAY MUSIC LIMITED」というのはレイがやっていた音楽出版社。
今もあるのかも知れません。
「DAVRAY」は「Davies」と「Ray」をくっつけたモノだろう。
住所を見ると「17, Savile Row」とある。
調べてみると、ビートルのアップル本社が入っていたビル、言い換えると「Roof Top Concert」と呼ばれている、1969年1月にビートルズが屋上で開いたビルから100mぐらい行ったところ。
この「Poole & Co.」というテイラーの隣。
クソ!コレを先に知っていたらドンズバで写真を撮ってきたのに!
コレは入り口のある壁に飾ってあるポートレイト。ファンからのプレゼントなんでしょうね。
「空想の男とデイヴ」となっている。
下の写真の額縁に入っているのは、テキサスに住む熱心なキンクス・ファンからクリソールド・アームスのソニアという人に宛てられたお礼の手紙。
店内が暗かったので奥の方にピントが送れておらず、書いてある全部の単語を解読することはできないが、読めるところだけ拾い出すと…
「ソニア
The Kinks Roomの一員になる機会が持てたことに心から感謝申し上げます。
(中略)
レイとお話することができたのはとても光栄なことでした(2010年に彼は私のTaylorギターのバックにサインを入れてくれたんですよ)。レイは私の永遠の音楽ヒーローです。
以前にもお伝えした通り、写真はテキサス・オースチンのもうひとりのキンクスの大ファンあるリンダ・キャロルトンが『Schoolboys in Disgrace』ツアーの時に撮影したものです。(考えてみれば41年も経ったんですね。いまだによく覚えています)
とにかくありがとうございます。展示は、ロンドンに戻って来れる大幸運に恵まれた時に「またクリソールド・アームスに来なさい」という私とメアリーに対する指令ですね(寄付と写真に関する名前のクレジットもありがとうございます)。
もしよろしかったら、それが展示された時に携帯で私のPCに写真をメールして頂けませんでしょうか?
本当にありがとうございます。GOD SAVE THE KINKS!!!
スコットとメアリー・シェンケル
キャロルトン、テキサス」
シェンケルさんがクリソールド・アームスにキンクスの何かを贈呈して、お店がそれを飾って、そのことを知ったスコットが直筆で礼状を書いたんだね。
エラく感動しておりますな~。
私みたいのがアメリカにもいるのね。
ま、私はこうしてMarshall Blogでお店にお邪魔した感動を綴らせて頂きます。
まさかシェンケルさんって「Cal Schenkel」の親戚かなんかじゃないだろうな。そっちの方がうれしかったりして!
スコットの手紙に出て来たキンクスの『Schoolboys in Disgrace』というアルバムはコレ。1975年の作品だから、今からだと44年前のリリース。
私がThe Kinksの名前を知ったのはこの辺りかな?
音楽雑誌でこのジャケットをよく目にした。
しかし、このイラストがミッキー・フィンの作品とはね~。
器用だな~。
ミッキー・フィンはT.Rexのパーカッショニスト。
要するにマーク・ボランの相棒だ。
ミッキーはずっとNATALのパーカッションを愛用していたんだよ。
コレは「Sunny Afternoon」のシングル盤。
「およげ!たいやきくん」の元の曲ね。
こっちの壁には主にスクラップが飾ってある。
スゴイね、コレ。
ブリティッシュ・インヴェイジョンがまだ盛んなりし頃のアメリカのコンサート告知ポスター。
Herman's HermitsにThe Dave Clark 5、The KinksとMoody Bluesはコレが初めてのアメリカ公演だった。
キンクスはこの前に、カーディフのステージ上でデイヴとドラマーのミック・エイヴォリーが殺人事件寸前のヒドイ乱闘騒ぎを起こし、物騒なバンドとしてアメリカへの入国が禁止されていた。
以上はすべてニューヨークの「The Academy of Music」という会場。
The Academy of Musicはユニオン・スクエアにほど近い場所にあるオペラ・ハウスで今は「Palladium」という名前になっている。
言っておきますけど、こういう劇場の名前なんかはみんな元はロンドンですからね。
「London Palladium」というのはウエストエンドでも最も有名な劇場。
そして、さすがビートルズ!
コンサート会場はあのシェイ・スタジアムですよ。
その下に出ている「The First New York Folk Festival」もオモシロい。
出演はフィル・オクス、チャック・ベリー、ジョニー・キャッシュにバフィ・セイント・マリーだって。
シングル盤のジャケットいろいろ。
コレは2010年にクリソールド・アームスでライブを演った時のスクラップ。
コチラの壁にはこんなデコレーションが。
「♪Fortis green preservation society」とつい口ずさんでみたくなる。
残念ながら「Village Green」は「Fortis Green」のことではない。
ソファ用のテーブルとして使われていたユニオン・ジャック柄の箱。
なんかいい。
『Sunny Afternoon』ショウの告知看板。
上に書いた通り、4年前にロンドンに来た時に見逃した。
それで、後にこの音源を聴いたんだけどちっともオモシロくなかった。
もちろん収録されている曲、あるいは上演されていた曲はキンクスの珠玉のヒットソングたちで文句のつけようがないんだけど、やっぱりレイやデイヴの声じゃないとダメなの。
ビートルズってそんなことないじゃない?
もちろんビートルズの音楽はジョンやポールの声があって初めて完成するものだけど、曲のパワーがあまりにも強いので、あの声がなくても何とかなる。
キンクスはあのレイのあのチョット鼻にかかった声やちょっとガナリ気味なデイヴの声でないと曲の魅力が半減しちゃう…ということに気がついた。
他の人が違う声で歌う「Waterloo Sunset」を聴いても全然グッと来ないのです。
歌は「声」ですな~。
店内をすべて見終わった頃、老若男女の団体が入って来た。
聞き耳を立てていると、どうやら子供さんの誕生祝いの席だったようだが、「♪ハッピーバースデイ」を歌うワケでもなし、それぞれに運ばれて来た料理をボソボソ食べているだけの静かなお誕生会だった。
もう一度レイとデイヴ・デイヴィスの生家を見て、近くのバス停までフォーティス・グリーン・ロードを歩く。
日本だとほとんどが白い瀬戸物の入れ物だけど、向こうは骨壺が自由に選べるらしい。
今、チョット見てみたらAmazonって骨壺も売ってるのね。
おお、この「Leverton & Sons」という葬儀社はこの地域の2018年の「ベスト葬式プランナー」の最終選考まで残ってるよ。
最寄りのバス停に来た。
コレで「East Finchley(イースト・フィンチリー)」まで行って、地下鉄に乗って次の目的地に向かいます。
653番は「School Journeys」か…。
ロンドンでは学校が当局に登録を申し出ると、生徒が何人かのグループになっていれば、ピーク時を除いて無料でバスが乗れるシステムがある…ようだ。
要するに路線バスのスクールバス化だね。
653番の「School Journey」がそれに該当しているかどうかわからないが、いいシステムだ。
ただし登録しようとする学校は、当局が指定しているカリキュラムを導入していなければならない。
ホントに向こうは教育に熱心だよ。
なんて感心している場合じゃなくなって来た!
スタバで飲んだアイス・コーヒーとさっきのエールでスッカリもよおして来ちゃったぞ!
こんなところに公衆トイレなんかないし…どうするシゲさん?
という場面で<後編>に続く。