HIGH VOLTAGEの思い出 <その3>
かくして『HIGH VOLTAGE』の第1日目も無事に終了し、Ravenscourt Parkのホテルに帰って、ホテルのバーでエールを飲んで、風呂に入って、横になった頃には結構いい時間になった。
そして2日目。
もう勝手知ったるところなので、アラよっ!と地下鉄に乗り通勤よろしくスイスイと会場に向かう。
はい、ヴィクトリア・パーク到着。
ココから会場の入り口まで結構歩くんよ~。
今日のパスはコレ。昨日もらっておいた。
「PROG STAGE」の表記があるけど大丈夫なのかしらん…と一瞬不安になったが、中に入ってみると昨日とまったく同じ待遇で安心した。
今日はデカいカメラも持っていないのであのサン・ラに怒られることもない。
相変わらずホコリっぽい!
昨日ほんのチョットだけお湿りがあったけど、今日は雨の心配はまったくなさそう。
コレは移動キャッシュ・ディスペンサー。
どこのATMも結構長い列(queue)ができていた。
今日は昨日より早めに来たよ。
メインのClassic Rock Stageはもう結構人が集まっている。
13:05から始まる最初のステージはThe Quireboys。
コレはトイレ。
ま、あまり書きたくはないんだけど、中はどうなっているかと言うと…イヤ、やっぱりやめておこう。
暑いし、混んでるし…そこがどんな惨状になっていたかは皆さんのご想像にお任せする。
外人ばっかりじゃない?
肉ばっかり食べてるし、我々より腸が長いし…スゲエんだよ。
私は1回しか入らなかった。イエイエ、入れなかった。
あ、イカン!ほとんど書いてしまった!
お昼休みに読んでいらっしゃる方、ゴメンナサイ!
では、トイレにまつわる社会的、かつ真面目な話をひとつ。
このHIGH VOLTAGEは翌年も開催された。
メイン・ステージのヘッドライナーはJudas PriestとDream Theaterだった。
他にもThin LizzyやMSGも出演。
それよりも私的にはProg Stageの面々が魅力的だった。
Barclay James Harvest、Caravan、Jethro Tull、Spock's Beard、Curved Air、The Enid…タマらんじゃんね。
実はMarshallに頼んでプレス・パスも出してもらい、行きさえすれば写真を撮れることになっていた。
ところが、イギリス自体に行くチャンスなかったのでオジャン。遊びに行くワケじゃないからね。あくまで会議がメインで、その会議がなかったのだ。
Ian AndersonやSonja Kristina…撮りたかったな~。
で、また翌年に期待を寄せたのだが、3回目は開催されることはなかった。
ひとつには1回目に比べて2回目の面子があまりにもショボくてチケットの売れ行きが悪く、継続を断念せざるを得なかった…という噂を聞いた。
そして、もうひとつの理由は「トイレ」だったという。コレは確かな情報。
その年は2012年…すなわちロンドン・オリンピックの年だ。
ナント、イギリス中の移動式トイレがオリンピックの方に偏ってしまい、野外フェスティバルが開けなかったというのだ。
どれだったかは忘れたが、同時期に開催されるかなり老舗のフェスティバルも同じ理由で開催が危ぶまれたが、そちらは何とか乗り切ったようだ。
その後、HIGH VOLTAGEは開催されていないので、結果、今のところ2回開催しただけのやや「幻のフェス」になっている。
The Quireboysはゼンゼン知らないのできれいにパス。
今日もProg Stageからスタート。
見て、チョットしたウッドストック気分。
回りは全員外人だからね~。
あ、今は自分が外人なんだ!
この日3番目にProg Rock Stageに登場したWishbone Ash。
イヤ、正確にはMartin Turner's Wishbone Ashか…。
かつては「世界一美しい音を出すロックバンド」と評されていたバンドも当時はややこしいことになっていた。
Andy Powell組のWisbone AshとMartin Turner組のMartin Turner's Wishbone Ashの2つの派閥による血で血を洗う仁義なき戦い!…ってほどのモンでもないか。
でも、その両組が『Argus』の再現なんてことをやってたからそれもマンザラでもない。
私はライブ盤にもなった1978年の来日公演を中野サンプラザで観たのだが、この時は39年ぶりのWishbone Ashだった。
ギエ~、アレから40年も経った!
下はその時の公演を収録したライブ・アルバムとコンサート・プログラム。
前から7列目でね、友達と大騒ぎした。多分、ライブ盤には高校生の私の声も入ってる。
私はこの後、Andy Powell組のWishbone Ashも令文さんとチッタに観に行ったので、本家3度目の来日、Martin組、Andy組と三種類観たことになる。
グランド・スラム達成!
まさか、まだ他にありゃしないだろうな~?ヤダよ、Steve Upton's Wishbone Ashとか。
前にも書いたけどLaurie Wisefieldは、昔Marshallのクリニシャンを時々務めていたPhil Hillbourneと交代でロンドンのドミニオン・シアターで『We Will Rock You』のギターを弾いていた。
さて、このMartinの方のステージ、やっぱり「Argus」づくしだった。
「Warrior」やら「Blowin' Free」やら…「Throw Down The Sword」には泣けた。
これ高校生の時にコピーして演ってたもんで…。
あの頃は高校生がWishbone Ashのコピーを演っても何ら不思議はなかった。いい時代だった。
まぁ、とにかくコーラスが美しい!
途中Ted Turnerも合流して「Blowin' Free」をプレイ。
Andy組とMartin組の抗争…オリジナル・メンバーの在籍率の高さによりMartin組の勝利か?
Tedはレコード通りのソロ・フレーズを弾いていたっけ。
しかし、Wishbone Ashのようなバンドはもう出てこないだろうな。
この美しい曲とサウンドもまた「時代が生んだ奇跡」だと思うのだ。
この音楽が見事に次世代に伝承されていないのは、人類にとっては大きな文化的な損失のひとつであろう。
だって聴く人がいなくなってるんだもん。
「芸術」って作り出すことは際限なくできるけど、見たり聴いたりする側がいなければ何の意味もないし、価値もないんだよね。
それと、今みたいに流通する音楽の幅がセマくなると、もうジリ貧で、ドンドン画一化が進んで身動きが取れなくなってくるんだよね。
「同じ音楽ばかりでつまらない!」と現状を打破しようとする動きは抑えられていって、「じゃ、オレも」とますます似たモノしか出てこなくなる。「貧すれば鈍する」というヤツ。
その正反対が60年代~70年代前半のロックだった。
Wishbone Ashに限らず、HIGH VOLTAGEに出ているベテランのバンドはすべてその時代の出身だ。
さぁ、お昼にしよう。
南の国から行くせいか、イギリスは8月でも朝晩は寒く感じる。
朝晩ヒーターを入れることも珍しくないし、セーターを忘れると大変ツライ思いをすることになる。
でもさすがに昼は暑い。
中には二階にエアコンが付いていない古いダブル・デッカーもあって、それを知らずに二階に上がって「特等席!」なんてガマンして一番前に座っていたら身体がをおかしくなった。ごく軽い熱射病だったのだろう。後で頭が割れそうに痛くなっちゃって!あの時はマイッタわ。
それでも、日陰や木陰に入ると涼しくて、長袖が恋しくなるんだよね。
私は暑いのがすごくキライなので、イギリスの気候がとてもうらやましい。
でも、9月ぐらいにはもうかなり寒くなっちゃうのでそれもな~。
とにかく、このHIGH VOLTAGEに来てすぐにわかったのは、この気候なら夏のフェスティバルは楽勝じゃん!ということ。
翻って35℃以上の炎天下で身体を寄せ合う日本の夏フェスって一体どういうことなんだろう?
アレ、どうして春とか秋に開催しないんだろう?夏休みの関係?
このまま地球の温暖化が進んだら、日本での夏のロック・フェスティバルはできなくなるのではなかろうか?
そんな気候のロンドンでも冷たいビールは欠かせないね。
ビールのスタンドには始終行列ができている。
どうせ並ぶならカワイコちゃんのところがいい。
「写真撮ってもいい?」って訊くと、即座にこの笑顔。
向こうの人は本当に笑顔が上手だ。
街中でスレ違った時に目が合うと、ニコっとしたりウインクしたり…アレはでなかなかできないな。
実にステキなことだとは思うんだけど。
それより、いつもニコニコしていたいとは思うんだけどね。ついカリカリきちゃう。
ハイ、お昼ごはん。
フィッシュ&チップス。
イギリスに行って最初に食べるフィッシュ&チップスほどウマいものはない。
でも、それも半分まで。
あ、チャンとしたレストランのフィッシュ&チップスは最後までおいしいですよ。
でも、こういうファストフード仕様のものはそうは喰えんよ。油で。
コレはまだ小さい方だから食べちゃったけど。
いくらジャガイモがおいしいったって、ポテトフライもいい加減飽きるしね。
ところで、コレ、変でしょう。アイスの棒みたいなやつが2本ついてる。
ナイフとフォークのつもりなの。
もちろん私はこんなの使わないで、手でつかんで端からガリガリとカジッちゃう。
でも外人はこんなものでもチャンとコレをナイフとフォークに見立てて起用に使いこなしていた。
向こうの人は何が何でもフォークとナイフなんだよね~。
チョット食事ネタで英語脱線。
外人っておつゆ系の麺類を食べるときに音を立てることをすごくイヤがるでしょ?
ああいう音を立てて食べることを英語で「slurp(スラープ)」って言うんだけど、外人ってスラープしないんじゃなくて、技術的にできないんだよ。
いくら教えてもできないもん。
ナゼかと言うと生まれた時から食事の時に一回も音をたてたことがないので音の立て方、すなわち食べ物と一緒に空気を吸い込むノウハウを持っていない。
すべての食べ物と食事のツールが音を立てないで食べられるように設計されているし。
我々が、たっぷりアンのかかった熱の塊のような広東麺を平気で食べられることができるのは、食べ物と一緒に空気を吸い込むことによって一気に口の中の温度を下げるからであって、アレを音を立てずに、つまり空気を吸い込まずにいきなり口に突っ込んだらみんな病院行きよ。
ヨカッタよ~、我々はスラープをする国に生まれて。
スラープのおかげでどれだけおいしいものを食べることができているかわからない。
さて、Classic Rock StageにUFOを観に行く。
UFOを観たのは38年ぶり!
前回は1979年の中野サンプラザ。
前から2列目だった。
チケットを買った時、ギターはMichael Schenkerだった。
ところが来日したのはLone StarのPaul Chapman。
ガッカリしたな~、アレにゃ。
Scorpionsでも同じようなことが起こって、結局私はMichael Schenkerって一度も観たことがないということは以前にも書いた。
でもLone Starってなかなかカッコよかったよね。
ChapmanはUFOのOBで、Gary Mooreの後任でSkid Rowにもいたんだっけ。
下はその時のプログラム。
久しぶりに中を見てビックリ!
チョットとてもお名前は出せないが、著名が評論家さんが一文寄せている。
本心で書いたのかしらん?
コレはSchenkerが突然来なくなったので穴埋め的に書いたんじゃないかしら。
主役が抜けて「攻撃的」になるワケがない。
でも、コンサート自体は決して悪くなくて、すごく楽しんだような記憶がある。
Phil Moggもまだ若くてカッコよかったからね~!
ちなみに、アメリカ人にいわせると、「Chapman」という苗字は猛烈にイギリスっぽいそうだ。
雰囲気は変わっちゃったけど、今でもカッコいいPhil Mogg!
メンバーはベースがPete Way、キーボーズ&ギターがPaul Raymond、ドラムスはAndy Parker。
ギターはVinnie Mooreだ。
なんかPete Wayもかなり体調がよくないような話を最近聞いた。
オープニングでナニを演奏したのかが記録にないんだけど、2曲目は「Only You Can Rock Me」だった。
ココで大トラブル発生。
ギター・アンプはMarshallじゃなかったんだけど、どうもアンプの調子が悪く、何回弾いてもイントロ・リフの2小節目でギターの音が出なくなってしまうたのだ!
我がMarshallチームは「おいおい大丈夫か~!Marshall貸してやろうか~!」なんてやってるし。
ま、こういうことは時々あるじゃない?
「それじゃ気を取り直して、Only You Can Rock Me~!!」と景気よくやるんだけどまた同じところで止まっちゃう。
Philもはじめは笑っていたが、繰り返すうちにこめかみのあたりがピクピク…コワイ。
やっぱり怒ってる。
ギーってにらんでるもん。
「Give him your hands!」とか言ってプレッシャーかけるし…!と、ようやく難関を突破!
お客さんはそんなトラブルも忘れて「♪Only you can, rock me, rock me」は大合唱。
やっぱりコレっていい曲だな。
続いては「Lights Out」。
38年前の東京公演では「♪Lights out, lights out in Tokyo!」って歌っていた。
当然ここではオリジナルの歌詞通り「♪Lights out in London!」と歌った。
何たる感動!何たる感激!
ロンドンで演っているから当たり前なんだけど、「ロンドン」で「ライツ・アウト」。
そうだ!今、私はロンドンでコレを聴いているんだ!…ク~、まさかこんな体験ができるとは!
感激で本当に涙が出て来ちゃって一緒に歌えなかったよ!
繰り返しになるけど、Phil Mogg、カッコいいナァ~。
声も昔とそう変わらないしね。
各国の言葉で「Thank You」を言ってたけど、ちゃんと「ありがとう」も入ってた。
ちなみに日本人も来ていたんだろうけど、全く見かけなかったな。
実際、後で知ったんだけど、よくお世話になったKing Crimsonの訳詞なんかで有名な翻訳・通訳家の女性がELPを観に来ていたそうだ。
続いては「Love To Love」。
これもいい曲だ~。こんなにいい曲だったっけかな。
気になるのはVinnie Mooreのギターだ。音が時々出なくなっちゃう。
その後も「Doctor, Doctor」、「Rock Bottom」と名曲、人気曲のオン・パレード。
PhilがMCで言ってた、「こういうところで誰も知らない新曲なんかを演るべきじゃないよね」って。
100%同感!さすがよくわかってる!
楽屋村のようす。
ミュージシャンはバンドごとにプレハブの小屋に収まっている。
ほんの少し子供を連れてきているミュージシャンがいて、その子たちがこの砂場で遊んでいた。
ちなみにイギリスでは砂場のことは「Sandpit」って言います。なんかカッコよくね?
楽屋村にはいろんな設備があってビックリ!
コレは楽器屋。
こんなところで何か買う人いるのかね~?
さすが!
ココのモニタースピーカーがMarshallのMGになってた!
おありがとうござい~!
さっき一般の仮設トイレには1回しか行かなかったって書いたでしょ?
いくらなんでも日中に1回しか用を足さないなんてことはあり得ない。
チョット見にくいけど、写真の右端に「DAV」って書いてある黒いヤツがあるでしょ?
コレ、出演者や関係者向けの車両型移動トイレなの。
ナント、水洗で冷房完備。
何たる格差!何たる差別!
方や水洗で冷房完備、方や〇〇コの山!
どんなに遠くにいても必要な時はココまで戻ってきて用を足したというワケ。
事後に手を洗っていると、すんごいミュージシャンがジャンジャン入ってくるのよ。
目が合ったりした時、無視するのも何なので小声で「Hi!」って言ったりしてね。
そういえば2日目にはJimmy Pageも来てたよ。あ、トイレじゃなくて楽屋村にね。
楽屋村から見たメイン・ステージ。
皆さん、ココを通って舞台に向かう。
つづく
(敬称略 2010年7月24日 ロンドンにて撮影)