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2014年12月24日 (水)

杉本篤彦 Plays Wes Montgomery

クリスマス・イブか…。
テレビなんかを見ていると、ここ数年クリスマスに関する行事もものすごく縮退した感じがするんだけど…。以前はもっともっと大騒ぎしていたような気がする。
それじゃ静かに聖夜を過ごそうってんで、今日のMarshall Blogはジャズの話しでもしようか。
もちろんMarshallがらみ。
メタル一辺倒のシュレッダーの皆さんもWes Montgomeryの名前を聞いたことがあると思う。
ウェス・モンゴメリー…「モントゴメリー」ではない。
ジャズ・ギターの大巨人である。
「大巨人」といっても何かトンデモナイ奏法を発明したとかいうことではなく、すさまじいまでのテクニックと極端にデカい音楽的スケール、何とも味わい深い音色で、ジャズの世界では日陰者の「ギター」をいう楽器をサックスやトランペットと対等に渡り合える主役楽器に高めた「偉大なギターのイノヴェーター」ということになるのだろう。
ま、Wesの説明をしているとキリがないので、興味のある人は各自お調べいただきたい。

一般的にWesの愛器はGinson L-5CES。後年シグネチャー・モデルもリリースされている。
アンプはFenderの他にStandelというトランジスタ・アンプを愛用していた。
Wesはピックを使わず親指でピッキングしてたため、音の立ち上がりの速さを稼ぐために故意にトランジスタ・アンプを使っていたと私は見ているのだが、どうだろうか?
数年前、アメリカのMarshallのディストリビューターの副社長が私に興奮して話しかけてきたことがあった。この人はジャズ・ギタリストで、私がジャズを好きなのを知っている。
「シゲ!Standelを手に入れたぞ!しかも、●●ドルでゲットしたんだ!」
●●が結構な値段だったやに記憶している。
Standelは50~60年代のアメリカのスタジオ・ミュージシャンがこぞって愛用したブランドで、そのプレイヤーのリストを見ると、Merle Travis, Chet Atkins, Hank Garland, Buddie Emmons,そしてWes Montgomery。
要するにクリーン狙いですな…といってもまだ「ディストーション」を使う音楽がなかた時代の話しだからね。
反対に考えると、いかに「Marshallがロックを変えた」ということがわかるというものだ。
ところが、このStandelというブランドはなかなかの発明家で、ナント、世界で初めて「Piggy Back」を発売したというのだ。すなわち、アンプとキャビネットが別々になった我々で言うところの「スタック」である。
この他にも、世界で初めてギター・アンプのコントロールに「Treble」と「Bass」を分けて搭載したのもこの会社。さらにクローズド・バックのキャビを開発したのもこの会社らしい。ホンマかいな?

…とWesのアンプがわかったところで今日の主役に登場して頂こう。
もうMarshall Blogではおなじみの杉本篤彦だ。
杉本さんは1996年に『Club Montgomery』というWesのカバー・アルバムをリリースしているほどのWesファンだ。
S_img_0070
お相手はベースの江上友彦
S_img_0103
場所は池袋。
今日のレポートは「MONTGOMERY LAND」というドンズバの名前のジャズ・バーだ。

1_wm1マスターによれば、Wesの名ライブ・アルバムにちなんで「Full House」という店名にしようと思ったが、すでに同じ名前の店があった。
それでは、Wes Montgomeryにちなんだ他にゼッタイない名前を付けよう…ということで「MONTGOMERY LAND」と名付けたそうだ。
「Montgomeryland」はBuddy、Monkという兄弟と組んだThe Montgomery Brothersの1958年のアルバムのタイトルだ。
ま、こんな名前の店、他にあるワケないよね。
店内にはこんな肖像画も…『Boss Guitar』ですな。

S_img_0080ジャズ・バーにはつきものの高級オーディオ機器もバッチリ完備。McIntoshとJBLが中心のセット。
いつかは家にいいオーディオ・セットを据えて音楽三昧したいよな~。でも、本気でやるとなると、オーディオにかかるコストは楽器とひとケタ違うでね。
200Vの電気引き込んだりしてね。
そうそう、200Vで思い出したんだけど、横浜の元町の端っこにある「DON」というクレープ屋さん。学生の頃、今の家内(当時はいわゆる彼女)と元町でデートをすると、よくこの「DON」でクレープを買って食べた。30年以上前の話し。
で、その時のオジちゃんがいまだにクレープを焼いていて、先日EARTHSHAKERの取材に行った時に、ひっさしぶりに元町に寄って、家内とこのクレープ屋さんを訪れた。
「あっら~、そうですか~」なんて話から始まって、「元町もスッカリ変わってしまいましてね~。あんなにあった元町ならではのブランドがメッキリ減って、チェーン店ばっかりになってしまい、おもしろくもなんともないですよ!」とこぼしていた。
「しかし、30年以上もクレープを焼いていると、やっぱりその丸い鉄板も摩耗でダメになるでしょ?何代目かなんですか?」なんて訊いてみると、竹トンボみたいな道具でクルクル生地を伸ばしているぐらいでは、あの鉄板はまったくダメージがないらしい。
30年以上前と同じ鉄板なのだそうだ。ただ、アレを温めるヒーターとかスイッチ類がダメになってしまうので何度も交換したそうだ。
そこで驚いたのが、「ウチもね~、電力200V引いてるんですよ~」とそのオジちゃんが言うではないの!
「え~、クレープって200Vで焼いてるのかよ~」とビックリ。
イギリスの電気湯沸かし器よろしく、熱効率が100Vより断然良いのだそうだ。なんでもノウハウがあるもんですナァ。
…コレが言いたかっただけ。
ああ、あんまり身体の調子が良くないのに「クレープの200V」でだいぶエネルギーを消耗してしまった。

1_mc2 杉本さんもベースとのデュオでWesの曲ばかりを演奏するのは初めてのこと。
オープニングは、先にも出た名ライブ盤『Full House』から。
ジャケットがまたカッコいい!さすがBlue Note、Prestigeと並ぶ三大ジャズ・レーベル。これを見ながら演奏を聴けば、ギタリストなら誰しもL-5のナチュラルが欲しくなるというもの。
ロック一辺倒のギタリストには、このアルバムに収録されているDizzy Gillespie作のブルース、「Blue'n' Boogie」を是非聴いてもらいたい。さっき記した「すさまじいまでのテクニックと極端にデカい音楽的スケール」という意味がわかると思う。

Fh_2 杉本さんが選んだのは、Wes作のタイトル・チューンの「Full House」。これもカッコいい曲だ。
そう、Wesは数多くの名曲も作っているのだ。

S_img_0051 葉山のジャズ・フェスティバルそうる透・和佐田達彦とのトリオ、SWSでもレポートした通り、杉本さんは大のMarshall好き。
かつては第三世代のMGを愛用されていた。

S_img_0006 最近はJVMのコンボ。JVM215C。
さすがにチャンネル/モードはCLEAN/GREEN。もっともクリーンなサウンド。
杉本さんはMarshallのクリーンの魅力をよ~くご存じで、独特の奏法ともマッチして素晴らしい音を出してくれる。
Marshallのクリーンってスゴイ好き。

S_img_0052続いて「Mr.Walker」。
これはギター・ジャズ・アルバムの金字塔『The Incredible Jazz Guitar』からの1曲。

Ijg R&Bとかソウルっぽい音楽がハマる杉本さん。こうしたラテン調の曲もバッチリだ。
このアルバム、さすがに名盤中の名盤といわれるだけあって、やっぱり何回聴いても聴き飽きることがない。
でもね、このアルバムで一番好きな個所は1曲目の「Airegin」のTommy Flanaganのピアノ・ソロで2コーラス目に入る直前の4小節。いつも悶絶してしまう。
ちなみにこの「Airegin」はテナー・サックスの巨人、Sonny Rollinsのオリジナル。「Airegin」を反対から読むと「Nigeria(ナイジェリア)」になる。

S_img_0009_2 Gershwinの「Fascinating Rhythm」を引用する江上さん。右手の力が強いのか、弦高が低いのか、E弦が指板にバッチンバッチン当たる音がカッコいい!
ちなみにこの「Fascinating Rhythm」はDeep Purpleの「Burn」のリフの元になったと言われている…私はそうは思わないけどな~。

S_img_0016 再び『The Incredible Jazz Guitar』から「Four on Six」。これもWes作の有名曲。原曲がGeorge Gershwinの「Summertime」。
杉本さんの解説によると、この曲のタイトルは「6本の弦の上の4本の指」という意味なのだそうだ。
もしこれがDjangoなら「Two on Six」になる!

S_img_0035 以前、あのLenny Whiteが日本を代表するジャズ・ギタリストとこの曲で共演するのを観たことがある。
この曲はWesのオリジナル作品の中でもかなり有名かつ人気のある曲で、テーマにガッツリと大きなキメが入っているのだが、Lennyは全くそれを知らないで、ほとんどそのキメを無視してチンチキチンチキとレガートだけでテーマをやり過ごしていた。
Lennyといえば、Retuen to Foreverの『Hymn of the Seventh Galaxy』の頃、アメリカではドラム界のトップに君臨したと言われている人。そんな人がそんなだったんですよ!
ガンとしてキメなかったのは立派と言えば立派!Wesがキライだったんだりして!

ズ~と有名な5度のリフをでベースソロのバッキングをする杉本さんもカッコよかったが、ここは二人のスリリングな4バースが大きな見所だった。

S_img_0022『A Day in the Life』から「Angel」。Jimi Hendrixのアレではない。ブルージーなテーマを持つイージーリスニング編。
杉本さんお得意のダブル・オクターブが炸裂!
そこから素晴らしいコード・ソロへとなだれ込んだ。

S_img_0061 続いても人気曲。『Goin' Out of my Head』から「Nptown Blues」。ビッグ・バンドを従えて颯爽とソロをキメまくるWesが快感なのだが…

Goh こっちの方がカッコいい。(杉本さん、ごめんなさい!)Oscar PetersonのMPS盤、『Hello Herbie』。ギターはHerb Ellis。
ブレーキが効かなくなった大型トラックが山道の下り坂を全速力で走り抜けるようなドライブ感があまりにもすさまじい!
「Exactly Like You」という対照的な2曲目にも注目して欲しい。このHerb Ellisのバッキング。ジャズ・ギターを勉強している人なら必ずや聴いているであろう「4つ切り」の名演。1小節にたった4回しか弾かないのに、これをマスターするのは至難のワザ。
1小節に何百個の音符を詰め込むシュレッディングを習得するのも相当な鍛錬が必要だが、恐らく、カッコよくこの「4つ切り」を弾けるようになる方がそれより難しく、マスターするのに時間がかかるのではなかろうか?

Hh 前半はやや不思議な音使いで、後半はグイグイとブルース・フィーリング満点のフレーズをブチ込む。
杉本さんのソロは、シングル・ノート・ソロ、オクターブ・ソロ、コード・ソロと展開させていく。もちろんWesの手法そのものだ。

S_img_0092スゴかったのはコード・ソロ!
ザックザック弾きまくる杉本さんのコードの連発にピタリとつけるJVM。メチャクチャ音がいいのに加えて、押し出し感がハンパじゃない!
コードのひとつひとつの音がハッキリと、かつ伸びやかに飛び出してくる。
もちろんこれは杉本さんに「腕」によるものだが、やっぱりJVM…いいナァ。

S_img_0056 休憩をはさんで、第二部のオープニングは「Road Song」。ギター・ジャズの分野においてはPat Martinoの名演もよく知られている。
もともとは「O.G.D.」というタイトルだった。「O.G.D.」とは「Organ, Guitat & Drum」の略と言われている。
ここでも杉本さんはシングル・ノート・ソロ→オクターブ・ソロ→コード・ソロと展開し、熱っぽく名曲を仕上げる。

S_img_0046 続いて『Su Much Guitar!』の1曲目、「Twisted Blues」。
コレはあんまり聴かないナァ…と、CDを棚から出して来て聴いてみると…いいナァ。
こうして聴いてみると、ずいぶんWesも指グセで弾いていることがわかる。ヨソで聴いたフレーズがゴロゴロ出て来る。
この「Twisted Blues」という曲、今まで気にしたことがなかったのだが、コード進行が異常に難しく、ジャズ界の重鎮ベーシストがソロを断った…という逸話が残っているらしい。

3_smg …なんてことを全く感じさせないプレイ。

S_img_0084 ソロできっと何かのフレーズを引用してくれる江上さん。ここではMilesの「Jean Pierre」。
他の曲では「Rhythm-a-Ning」やら「Blue Bossa」やら元ネタを探すのも楽しい。
江上さんも元はEDENの「Higway Man」を使っていたとのこと。

S_img_0034 2曲続けてA&M時代からの1曲。いかにも杉本さんの選曲らしい。
まずは『Down Here on the Ground』から「Up and at It」。
これまたブルージーな8ビート・チューン。ゴリンゴリンのオクターブが冴えわたる!

S_img_0059 続けて『A Day in the Life』から一発屋Percy Sledgeの「When a Man Loves a Woman」。
ここはリバーブをシッカリと聴かせて鈴を鳴らすような音で弾いてくれた。もちろんJVM内蔵のデジタル・ディレイだ。ん~、いい音!
S_img_0072

これがアルバム『A Day in the Life』。第一部に演奏した「Angel」もこのアルバムに収録されており、もちろんThe Beatlesの「A Day in the Life」も演奏している。
ところで、この「A Day in the Life」が収録されている『Sergent Pappers~』がアメリカで発売されたのが1967年6月2日。
そして、このWesの「A Day in the Life」が録音されたのが4日後の6月6日のことだったそうだ。
この一連のCTIの作品はDon Seveskyらの大仰なオーケストラ・アレンジがされていることでよく知られているが、この曲も同様。
その大仰なアレンジがたった4日で果たして仕上げられたのか…という「?」がこの録音にある。
どうも、これはプロデューサーのCreed Taylorが裏で手を回して『Sergent Pappers~』を発売前にゲットしていたという話しが残っているらしい。
このアレンジを聴いて感動しまくったPaulは、未発表だった「Let It Be」をCreed Taylorに「もう、好きにしちゃって!」と寄贈したのだとか…ホンマかいな!という名盤だ。私は滅多に聴かないけど…。

Dil_2最後は『The Wes Montgomery』収録の「Jingles」。込み入ったテーマを持つ曲。

S_img_0126これも杉本さんの歌心を満載したソウルフルなソロが素晴らしかった。

S_img_0078杉本さんとMarshall…ジャズ・ギターの黄金コンビですナァ。
ひとりでも多くの人にこの温かくもスリリングな演奏と図太く美しいギター・サウンドを聴いてもらいたいと思う。

杉本篤彦の詳しい情報はコチラ⇒杉本篤彦オフィシャルブログ

S_img_0059_2杉本さんのパフォーマンスを土台に簡単なWes Mongomeryのガイドをしたつもりだったが、ロック・ギタリストの皆さん、いかがだだっただろうか?
Marshallのクリーン、いいよ~。

S_img_0124(一部敬称略 2014年11月14日 池袋MONTGOMERY LANDにて撮影)

***** お 知 ら せ *****
1993 年に出版され、当時もっとも詳しかったマーシャルに関する書籍『THE HISTORY OF Marshall(日本語未訳)』を、マーシャルの創業50周年を記念し大幅に改訂・増補して2013年に出版されたのが『THE HISTORY OF Marshall THE FIRST FIFTY YEARS』。

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そして、その日本語版がついに出来した!
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<内容>
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