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2013年12月16日 (月)

さよならバズーカスタジオ

東京メトロ丸ノ内線「新宿御苑前駅」。
新宿御苑は、元は江戸時代に信濃高遠藩内藤家の下屋敷のあった敷地だった。
1879年(明治12年)に「新宿植物御苑」が開設され、第二次世界大戦後に一般に公開されるようになった。
大正天皇・昭和天皇の大喪の礼がとり行われたのも新宿御苑。
2006年(平成18年)には「新宿御苑」の名を冠してから100年を迎えたそうだ。

Sgm_2駅を出てちょっと角を曲がると…。

04このスタジオがある。
アレ?これアビィ・ロード・スタジオだ。写真間違えた!

05やり直し。
「新宿御苑駅」を出て数十秒。
このビルの地下にそのスタジオがあった。

10vバズーカスタジオ。
「あった」というのは、入居ビルの老朽化を理由にこの老舗スタジオが移転することになったのだ。

20vバズーカスタジオの開業は1993年。現在まで20年間、ハード・ロックやへヴィ・メタルから様々なタイプの音楽にわたる数えきれないほどの名盤がここで制作されてきた。まさに都内屈指のの名録音スタジオだ。
かつてはJimmy Pageが使っていた1987を所有していたこともある。

30ロビーの風景。ウッディな雰囲気が張り詰めたミュージシャンの頭と心を和らげる。

40謎のエレベーター。
このテーブルに座ってソロ・アルバムを出したばかりのノンちゃんにインタビューしたんだっけ。
60「あ、オレの落書きだ!」なんてマーブロの読者もいるのでは?

50こちらは地下2階の待合スペース。

70こちらは地下2階のミキシング・ルームのひとつ。
取材当日にはもう引越しの準備が始まっており、膨大な量に及ぶ録音機器の解体が始まっていた。そのため、すべての設備を紹介することができないことをお許し願いたい。

80地下一階にもどる。
全設備中、2番目に大きなスタジオ「5.1」。

90ハイレベルな録音機器が部屋に充満している。

100

110そしてバズーカの心臓部。

120雰囲気満点のミキシングルーム!

130

150TANOYのスピーカー。

170レコーディング・ブースのようす。

180ナント言っても目を惹くのはこの巨大な72チャンネルのミキシング・コンソールだろう。
イギリスがオックスフォードの南西にあるベグブロークという小さな街でこのコンソールが製作された。

190Solid State Logic社製。いわゆる「SSL」。1969年創業のこの会社は元はパイプ・オルガンのコントロール・システムを製造していた。
「Solid State Logic」というのは創業者のコリン・サンダースがオルガンの製作者に自分の考えたシステムを説明するために考え出した造語だそうだ。
音楽のレコーディングに並々ならぬ興味を持っていたその創業者はやがてミキシングのコンソールの開発に着手し、SSLは現在では世界屈指のミキサーブランドに成長した。

200スタジオの開業にあたり、バズーカ・スタジオの現マネージャーがミキシング・コンソールの買い付けにアメリカのボストンに赴ていた際、「アビー・ロード・スタジオがコンソールを手放す」との情報をキャッチ。
そのままアビー・ロード・スタジオがあるロンドンのSt.John's Wood(冒頭の写真の場所。ヘヘヘ、最初にアビー・ロードの写真を掲載したのはこのためなのよ!)に飛んだという。

下はコンソールが東京に到着し、バズーカ・スタジオに設置しているところ。
設置時には指導のためにイギリスから技術者が来日した。

201マネージャーがアビー・ロード・スタジオを訪れた際に受けた説明。
「このコンソールはポールが自分のアルバムを作るためにSSLに特別に発注したものです。そのレコーディングの後、ポールがアビー・ロードに寄付してくれたものなのです」
ポールとはもちろん「ポール・マッカートニー」のことだ。

202Marshallや他のギター・アンプ・ブランドもそうだし、先のスピーカーのTANOYやGarrard、KEF、B&W、McIntosh、Quad、Neve等々、イギリスには名だたる音響機器のブランドが多いが、これはナゼだろうか?

203大変そうだけど、みんな楽しそうだ。

204vバズーカのマネージャーはこのコンソールを買い受ける際、「ここにキズがありますね?」と値引き交渉に入ったが、先方はこう切り返したという;
「ほほう…このキズはポールが付けたものかもしれないんですよ?ABBAのメンバーの誰かかもしれませんね。つまり、このキズは歴史なんですよ。それがわかりませんか?」
そう言われちゃったらね~。そしてこう付け足したという。
「このコンソールでこれからも新しい音楽の歴史を刻んでいってください」

205vこれはこのコンソールに付属していた証明書。「名器の血統書」とでもいおうか。
こう書いてある;

「(ヘッダー)abbey road
SOLID STATE LOGIC CONSOLE 4056B - ABBEY ROAD STUDIOS

1993年7月

Abbey Road Studio 1 でこのSolid State Logicコンソールを使用したアーティスト

FISH
AHA
ABC
DURAN DURAN
TOTO
DEACON BLUE
JOHNNY HATES JAZZ
FINE YOUNG CANNIBALS
PAUL McCARTNEY
GARY BROOKER
PERRY COMO
FLOCK OF SEAGULLS
MAURICE JARRE
ROY ORBISON
RUSS BALLARD
ANDREW LLOYD WEBBER
SARAH BRIGHTMAN
IT BITES
ADAM AND THE ANTS
BOB DYLAN
PAUL SIMON
ART GARFUNKEL
KATE BUSH
CHRIS REA
MICHAEL KAMEN
DONOVAN
JERRY GOLDSMITH
JOHN WILLIAMS」

Bs_img_7763そして、バズーカ・スタジオとSSL製ミキシング・コンソールは新宿で音楽の歴史を刻み続けて来た。

210やはりこうした名所がなくなるのは寂しいことだ。
加速度的に時代が移り変わっていく昨今、Marshall Blogを通じてロックや音楽の歴史を記録して後世に伝えたいと思っている。
その活動のひとつがこのMarshall Blogの『イギリス-ロック名所めぐり』や『Marshall Chronicle』のカテゴリーであり、やや広い意味では『ライブ・レポート』もそれに当るかもしれない。
覚えているようでも時間が経つと忘れちゃうからね。
それに、みんなが知らないようなおもしろい話しがまだまだたくさんあるんだよ。そんな話題をドンドン提供していきたい。

220冒頭に記したようにバズーカスタジオは移転するのであって、これが今生のお別れではない。
移転先は高田馬場。
今度はレコーディング・スタジオだけでなく練習スタジオを設備している。もちろん優れた耳と感性と技術を持ったレコーディング・エンジニアさんたちもそのまま引っ越すので完全にパワーアップすることになる。
つまり、「バズーカ」どころか、戦艦大和に搭載された46cm砲にスケールアップするのだ!
ちなみにこの46cm砲というのは当時世界最大で、1.5tの重さの砲弾を42km先まで飛ばすことができたという。42kmといったら東京~横浜までぐらいだからね。これを撃つ時には甲板の乗組員は全員専用の遮蔽物の影に隠れなければならない。さもないと発射した時の衝撃で内蔵が破裂してしまったらしい。その爆音たるや1959の三段積みどころではなかった…って当たり前か。

230でも、ここでは一旦言わねばなるまい…さよならバズーカ!
お疲れさまでした!
明日は高田馬場の新しいスタジオを紹介する。

240(2013年11月6日 新宿バズーカスタジオにて撮影)