Marshall Blogに掲載されている写真並びに記事の転載・転用はご遠慮ください。
【マー索くん(Marshall Blog の索引)】
【姉妹ブログ】
【Marshall Official Web Site】
【CODE/GATEWAYの通信トラブルを解決するには】

« Women's power Rockmaykan special <exist trace & FullMoon編> | メイン | THE VIRGINMARYS LIVE IN JAPAN »

2013年11月14日 (木)

フィル・ウェルズ・インタビュー~その5

改造について

P:改造や変更に関しては、よくメールなどで問い合わせが届きます。高音や低音のレスポンスを変えるとか。それは出来ないとアドバイスするのですが…。

Pw_img_7776_2特に新しいアンプが出ると、変な質問がよく届きます。新しいAFTのおかげで、EL34や6550等、自分の好きな真空管に入れ替えることが出来るようになりました。ボタンを押すとバイアスが調整されるワケです。
すると、「1959でもこれは出来るんですか?」と訊いてくるわけです。AFTをこの回路から取り外して、JTM45や1959や2203に入れれば、もうバイアス調整をしなくてもいいんじゃないかと思うらしいのです。
S:(笑)私も大分年を取りました。ギターを弾き始めた35年ぐらい前はそういった真空管の違いなど世の中ではそう問題にしていなかったように記憶しています。今すごく強く思うことは、良い音を出したいなら、真空管の違いを気にする前にもっとギターの練習すればよい…ということ。
P:まったく同感ですね。
S:でも、現在は技術的情報があふれていますよね?そういった環境はあなた方のお仕事の妨げになるものですか?
P:問題の一部は、「興味」ということだと思います。みんな1959をはじめとした好みのアンプを手に入れます。そしてインターネットで検索して、フォーラムか何かで「私はバイアス調整をして42mAから45mAに変えました。すると音がより温かみを増すようになりました」というような書き込みを読むわけです。
「これのパワー管をKT66に変えられませんか」とか。「もしEL34を外してEL84を入れたら、100Wが40Wのアンプになりますか?」とか訊かれることもあります。「どうやるんですか?」とね。
S:(笑)イギリスでもそうなんですか?

インターネットの落とし穴

P:はい。そういうこと事は出来ないんだというと、ビックリされるんです。インターネットを読んだだけで何でもできると思われてしまうんですね。
そこは現代のサービスに関する問題のひとつですね。インターネットで見聞きしたものが事実だと思われる傾向にある。本当のことももちろんたくさん書かれてはいますよ。

Pw_img_7788S:情報の選択が重要ですよね。
P:30~35年前なら…あなたがギターをプレイし始めた頃は、真空管アンプがあればパワー管をここにチェックしに来て終わりでした。
今は何と言うか、超高級スポーツカーみたいになっています。昔の車なら、買って乗ったらおしまいでした。手入れをせずに怠けていた故障は簡単に直せますが、最近はそれは簡単にいかないんです。
かなりちゃんと手を入れなければなりません。これまでよりもいろいろなことが製造の段階で関わってきていますから。
ですから、少なくとも現代のアンプはちゃんと今のモデルにマッチする真空管を使うべきです。
古い真空管をJVM に入れたりしたらアンプを損傷してしまうかもしれません。だから使う前にバイアス調整が必要なんです。
そこが以前と変わった所で、インターネットでは「マーシャルにはどんな真空管も搭載出来る。自動バイアスになったから」とか言われるんですよ。そこまで凄いアンプではありません。
まあ、サイズ的に搭載はできますが、バイアスが自動で変更出来る製品はごくわずかです。今後は増えるかもしれません。
しかし、それでも完璧にそういった機能が証明されたわけではありません。そこで、少なくともマッチしている真空管を買うことをお勧めします。
でも、長年かけて集めた4つの真空管があって、「初期のEL34なら良いでしょ?」と言う人は必ずいます。でも、上手く行かないと思います。
S:きっとお金持ちのお客さんなんですね?!
P:はい。私は固定観念をよしとしませんが、こういうことをしたがる人は大抵真空管にお金をつぎ込めるような余裕のある人です。でも、彼らはネットで情報を仕入れてきます。
S:RCAとかテレフンケンとか?
P:そうです。GECとか。「こっちの方が音が良い」と。最近のアンプは昔と比べてかなり構造が複雑になりました。 JTM45は30個ぐらいのパーツから出来ていましたが、JVM 410には500ものパーツが使われています。先ほども話しましたが、4台のアンプが中に入っているわけですからね。真空管以外にも重要な要素がいろいろ詰まって複雑なんです。

アーティストの機材

S:あなたが担当された特定のアーティストはいらっしゃいますか?
P:いえ。そういう形で働いてはいません。今でも工場にやってくるバンドはあります。例えばアイアン・メイデン。彼らはメンバーがそれぞれ異なったマーシャルのモデルを使っています。マーシャル用のテクニシャンがいて、その人が担当します。ステージの袖には、400Wのパワー・アンプを入れたフラ

Pw_img_7797イト・ケースがおいてあて、JMP-1とJFX-1が4台ずつ設置され、すべてプラグ・インされています。これらは予備の機材なので、ショウの途中で誰かの機材が壊れたら、即座につなぎ変えられます。そういうセッティングは私達で行ないます。
バンド関連でよくありがちなのは、2年ぐらい間そのバンドの姿を見なくなってツアーに出ること事が決まったとする。すると機材のすべてが工場にやってきます。ここで全部をチェックしたりします。
AC/DCが前回のツアーに出た時、彼らは新しく14台のキャビネットを購入しました。別にすべてを同時に鳴らす訳ではありません。いくつかは使い、いくつかは保管しておきます。彼らには専属のテクニシャンがいましたが、ツアーに出るとなると点検の為に多くが送り返されてきました。
長年見ている中で確実に変わってきた点があるのですが、最近は、スタジオやリハーサル・ルームからアンプが持ち込まれることが多いです。定期的に点検を行なっている所も数件あります。ある男性も定期的にやってくるのですが、レコーディングやリハーサル・ルームに35台のマーシャルを所有していて、それらを交代でチェックしたい。そこで、2~3ヵ月に1度、数台ずつ持って来て、点検を依頼します。それで数日後にまた引き取りに来るのなどということをしています。
S:緊急事態なんてことも?
P:バンドの機材の場合は緊急事態の事が多いです。地元のバンドだったり…国際的には知られていませんが、ここイギリスやヨーロッパでは名前のあるバンドなどが、ツアーに出る前にアンプの調子が悪くなった時に出来るだけマーシャルに近い場所を介して、よくやってきます。こういう事は結構多いです。バンドがアンプを山ほど積み込んだバンやツアー・バスでやってきます。そしてそのアンプをチェックして問題を解決します。よくありますよ。

Marshallを育てたのは誰?

S:マーシャルが1962年に“JTM45”を発表したのはセンセーショナルでした。それからマーシャルは世界的に有名な会社になりましたが、その成功に繋がった人物は誰だと思いますか? ジミ・ヘン

Pw_img_7802ドリックス? エリック・クラプトン? ジェフ・ベックやジミー・ペイジなど、いろいろいますが…。
P:そうやってワクを限定するよりも物事を大きく見た方がいいと思います。ジムが私に聞かせてくれたところでは、店の奥でジムはヘンドリックスやクラプトンなど、お店にやって来た人とお茶を飲みながら、彼らが探し求めている音を出せずに苦心しているという話を聞いていました。
そこで、そうした話をもとにしてジムが「彼らが求めている音を出すアンプを作らなくては」と奮い立ち、あのモデルが出来たことはあなたならよくご存じでしょう?
S:もちろんですとも!
P:ヘンドリックスも使っている、クラプトンも使っている、ザ・フーも使っている。バンドというバンドがみんな使っていて、その機材から彼らの欲かった音が出ていた。
他のバンドも彼らと同じような音を欲しがりました。みんな古いアンプではそういう音が出せないということに気づいた時、マーシャルを使うバンドが増え始めたワケです。
S:もう社会的な現象だったワケですね?
P:そうとも言えるでしょう。
もうひとつは、信頼性が高い事でした。ライブハウスに行くとクラプトンがその何かの箱を使ってギターを弾いているのが見えます。あなたはその音がとても気に入ったとします。でもあなたはホワイトスネイクのようなバンドを始める。そしてショップにやってきて、「素晴らしいアンプです。でも、低音は十分出てるんでしょうか?」と尋ねる。
最初の2~3年はそうした要求に合わせて製品をカスタマイズしていたようなものでした。先程も触れましたが…。そういったことも効果的だったと言えましょう。
S:お客さんの要望に細かく応えるということですね?
P:そういうことです。
しかし、一番大きかったのは結局は「口コミ」でしょう。
あなたがバンドでプレイしていたら、「いいなあ、どうやってそんな音をギターから出してるんだ?」

Pw_img_7793「マーシャルだよ」「マーシャルって何? 聞いた事ないよ」。
そうすると「ハンウェルで買ったんだ、あそこはスゴイよ。自分の好きなようにカスタマイズしてくれる」とバンドの間で広めてくれる。
そこでショップに行き、1台購入する。
多分成功のポイントは、ジムが顧客に欲しい物を欲しいタイミングで提供していたという事もありました。
始まった時は商業的な成功などは全く考えておらず、ちょっとした小遣い稼ぎになればいいな、という程度のものでした。それに、ジムはお金よりも友情をとるタイプの人でした。
だから、アンプを買いに来るからミュージシャン達と仲良くしていたのではなく、友達だから仲良くしていたのです。
1960年代、ロンドン市内には大きな音楽シーンがありました。ですから、お金を作ろうとして「こうした方がいいな」と思う事ができる下地があったのも良かったんです。
結果、ローズ・モーリスと契約したのは良い事でした。
S:一般的にはローズ・モーリスとの契約はジムの最大の失敗と認識されていますよね?
P:はい。しかし、ローズ・モーリスの力が会社に発展をもたらしました。彼らの方が規模が大きかったからです。
S:ああ、そういう見かたも出来るんですね?
P:ご存知の通り、最初は本当にショップの裏にあるガレージで製品を組み立てていました。
そこから現在のミルトン・キーンズに移りました。アンプを作るスペースが十分になかったし、顧客からの要求に応えられなくなってきたからです。
だからジムはローズ・モーリスと契約し、ここに大きな工場を購入し、ブレッチリーに移り住みました。当時はロンドンから移り住むと報奨金が出たんです。
S:え~?! 「出て行け奨励金(Kicked Out Reward)ですか?」
P:ハハハ!そこからイモヅル式にマーシャルは成長していきました。

つづく

(一部敬称略 2012年9月 英Marshall社にて撮影・収録 ※協力:ヤングギター編集部、平井毅さん&蔵重友紀さん)