Masha Solo Live ~ Live at Home <前編>
『Live at Home』と銘打ったSilex Mashaのソロ・ライブ。
よく日本ではバンドがひとつしか出演しない単独の公演を「ソロ・コンサート」なんて呼んでいるけど、ネイティブさんに言わせるとこの表現は奇妙に聞えるらしい。
「ソロ・コンサート」というのは、バンドからメンバーを切り売りして行われる公演のことを指すのだそうだ。
今回レポートするのはドンズバでそれ。
MashaくんがSilexから離れて、バッキング・トラックを使ってひとりで弾きまくるショウ。
しからば、単独で開くコンサートのことを英語でナント言うか…そういう表現は特にないらしい。
他説もあることだろうが「Individual concert(インディヴィジュアル・コンサート)」ぐらいのことになるようだ。
コレは日本では定着せんな。何しろ「ツーマン、スリーマン」の国だかんね。
さて、ゲストも登場してくれるものの、今日はネイティブさんに向かって胸を張って「マシャくんのソロ・コンサート」と叫ぶことができるのだ。
ステージの上にはまるで風神&雷神のように威厳を放ちながら屹立するMarshallのハーフ・スタック。そこへMashaくんがたった1人で姿を現した…「ソロ・コンサート」だから。
「エライこっちゃ、やで…こんばんは!
私、SilexのギタリストのMashaと申します。
今日はボクのソロ・ライブにお越し頂きましてありがとうございます!」「演奏する曲だけは完全に決まっているんですけど、その他は完全ノープランなんです。
そんな状態で臨んでおりますので皆さん、暖かく見守って頂きつつ、都度盛り上げて頂けると非常にありがたく存じます。
よろしくお願いします!緊張するわ~」ギターを弾かないウチから「Masha、カッコいい~!」の掛け声が飛び交う中、自作のバッキング・トラックに合わせて1曲目に披露したのは「The Eyes of the Dawn」。昨年末のSilexのライブに合わせてリリースした曲。さっきから「Mashaくんのソロ・ライブ」と騒いでいるが、実はMashaくん傍らに相棒を従えているのだ。
何度か姿を変えてはいるものの、長い付き合いの相棒だ。
それはもちろんMarshall。Mashaくんは今回もプリ・アンプの「JMP-1」、パワー・アンプの「9100」を4x12"スピーカー・キャビネットの「1960A」に組み合わせた。
ココでまたMarshallのブログっぽいことをやっておきましょう。
80年代の後半、LAを発進現にものすごい勢いで「ラック式ギター・アンプ」が広まってMarshallも1989年に「THE 9000」というラック・アンプをシリーズを発表した。
黒くてゴツイやつね。
そして、それを進化させて「MIDI」に対応できるラック・タイプのモデルを作ろうってんで1992年に発表したのが「JMP-1」だった。
下はその時の広告。
「30年にわたる素晴らしい真空管アンプのサウンドをMarshallが1Uのラックに収めました」
今のCODEみたいなもんだ。
昔っからこういうことをやっていたワケだが、「JMP-1」は真空管でそれをやってのけた。
32年前…いい時代だった。
「JMP-1」はヨーロッパの環境保全の法律の改定に抗しきれず、人気モデルの座をキープしたまま2006年に生産完了となってしまった。
その通知をイギリスの本社から受け取った時は「ナンでやね~ん!」と結構大きなショックを受けたことを覚えている。
何の変化もバリエーションの追加もしなく、一代きりで終わってしまったMarshallでは珍しいモデルだ。
今にして思うと「『Jim Marshall(ジム・マーシャル)のProducs(製品)』がひとつのプリアンプの中に入っている」ということで「JMP-1」という名前にしたんだろうな。
一方その頃、つまり1990年代の初頭、パワー・アンプの方ではパワー管のEL34が世界的に枯渇しMarshallは苦境に立たされていた。
いわゆる「EL34クライシス」。
私の世代の人はテレビやラジオに真空管が入っていたことをよくご存知だと思うが、かつてアメリカではドラッグストアでも真空管を売っていたぐらい普通の生活の中にある一般的なアイテムだった。
日本でも町の電気屋さんで売っていたけどね。
それが1948年にトランジスタが開発されてアレよアレよという間に真空管を作る国がロシア、チェコスロバキア(当時)、中国ぐらいになってしまった。
Marshallは最もクォリティが高かったチェコスロバキアのTESLA製のEL34を使っていたが、政情の変化で同社が真空管の製造を停止し、在庫分を売り切ってしまうとMarshallはEL34の入手ルートを失ってしまった。
当時中国性はまだ品質のバラつきが大きすぎて採用できず、EL34の代用品としてやむなくロシアのSVTEKから5881を購入し新製品を開発する決断をした。
その時に発表したのがJMP-1の相棒、ステレオ・パワー・アンプの「9100」と「9200」だった。
50W+50Wが「9100」、100W+100Wが「9200」。
これ1台でキャビネットを左右2台ずつ鳴らすことができる仕様だった。
そして、EL34問題が解決するとMarshallは既存の2つのパワー・アンプに設計変更を施して、ルックスはそのままに「EL34 50/50」と「EL34 100/100」というモデルに移行した。
大まかにMarshallでは5881は「リッチなハイとロー」、EL34は「ミッドレンジの食いつき感」と双方の音質の長所を定義づけていたようだ。
このパワー・アンプのシリーズはシビアなオーディオ・マニアの方々からも時折質問が寄せられるぐらい音質の解像度が高いとされていた。
マァその~、音質はもちろん最高級であることながら、私はこのルックスがあまりにも素晴らしいと思っていましてね。
黒と金のコントラスト。
ロンドンに行くとよくパブの看板に見かけるパターンだ。 ココでナニが言いたいか…というと、このMashaくんが出している素晴らしいギターのサウンドは純粋にアナログで作っているということ。
上で「EL34クライシス」の話を出しけど、「真空管」という超前時代的なモノは残念ながら将来絶滅を免れないでしょう。
最近のデジタル機器の隆盛を目にすれば近い将来真空管メーカーの損益の分岐が「負」に傾くことは明らかだ。
すると必然的にもうギタリストは気軽に真空管アンプでギターを鳴らすことができなくなる。
あの1959の音も、2203の音も、DSLの音も、JVMの音も、ギタリストにしかわかり得ないあの弾き心地も、Marshallの前に立った時に背中で感じるあの風ももう味わえなくなるということだ。レコーディングはもう仕方がないにしても、ライブ・ステージでは真空管のアンプでホンモノのギターの音をお客さんに聞かせてあげてもらいたいよナァ。
つまりホンモノの肉が食べられるウチにコオロギを食べることはあるまいに。
Mashaくんはそういうことをこの音で主張しているんですよ…と、Mashaくんのギターの音が私にはそう響くのだ。
続けて「One Evening in Paradise」。
Silexのライブではお客さんと一緒に歌って盛り上がる1曲。
今日は歌がないけれど、人気曲だけあって客席は熱気ムンムン! な~んか、さっきのMCの様子では「どうなることか?」とショウの先行きを心配していた感じだったけど、思った通り完全に心配はご無用! 「楽しんで頂けていますでしょうか?
『ステージに1人』っていう経験がなかなかないですよね…これまでなかったんですよ。
楽しませてもらっています。
最初はオドオドしていたんですが、今は皆さんが見守ってくれているナァ~という感じです。
こんな感じで多分2時間ぐらいかかっちゃうと思うんですけど大丈夫ですか?」
「ボクも初めてですし…ボクが初めてということは、当然皆さんもボクのソロ・ライブが初めてということになるワケじゃないですか?
『何を演るんやろ?』みたいなところがあったかと思うんです。
なので最初にSilexの曲を演っておけば盛り上がるだろうと思っての選曲でした。
チョット疲れちゃった…でもせっかくなので皆さんに頭からツマ先まで見て頂きたいと思っていますので
立ちっぱで我慢しようかなと思っています」
MashaくんのMCの途中だけどチョット脱線。
むかしむかし…今から20年近く前のこと。
腕利きのギタリストの手を借りてMarshallの魅力をナマで皆さんにお伝えする『Marshall Roadshow(マーシャル・ロードショウ)』というイベントを頻繁に開催していたのね。
いわゆる楽器屋さんのスタジオで開催する「クリニック」というヤツ。
下は2008年のその一場面。
「JVM」に「Vintage Moden」に「2203KK」がステージに並んでいる。
2203KKのキャビは「MODE FOUR」のAキャビだ。
ご存知の方には懐かしいことと思う。
そして、私がマイクを握ってそれらの商品の説明をしている。
これはナニも私がしゃべりたくてやっていたワケではゼンゼンなくて、「マーシャル・ロードショウ」は長年にわたって本場イギリスで展開していた重要な宣伝活動で「日本でもゼヒやって欲しい」という要請を受けて積極的に私が取り組んでいたというワケ。
島紀史、Syu、大村孝佳、故藤岡幹大等の各氏と北海道から九州まで全国を回った。楽しかったナァ。
そのロードショウで演奏するのはたいていデモンストレーターのバンドのレパートリーから歌のパートを取り除いたカラオケ・バージョンだった。
言い換えると、歌のパートを適度なアレンジを加えながらギターが代演するワケ。
コレがでね~、皆さん例外なくモノスゴく上手に演るんですよ。
言っちゃ悪いけど、「歌がなくてもゼンゼン行けるじゃん!」と、最初からインスト曲として成立しているようなパフォーマンス。
かなりの見ものでしたよ。
こんなイベントもYouTubeでスッカリ消え失せてしまったのはとても残念なことだと思う。
で今回、Mashaくんが耳馴染みのあるSilexの曲をインストで演奏している姿を目にしてマーシャル・ロードショウのことを思い出してしまった。
「ボクは出身が高知県でギタリストを夢見て20歳の時に決意して単身で大阪に出て行きました。
それまでは自分の音楽の活動も特になくて、一体ナニからやったらいいのかと思いました。
それで曲を作って、バンドの曲を作って、バンドで演奏する…ということに尽きるなと思ったんです。
そして色んな曲を作っていく中で幸運にもライブハウスで演奏することが出来まして、そこのブッキング・マネージャーの方が『なかなかええギター弾くやんけ』と気に入ってくださり、『ソロのCDを出したらええやん』と勧めてくださったんです。
それで至急作ったのが次の曲なんです。
色々とやりたいことをたくさん詰め込み過ぎた青春時代の1曲ではあるんですが、今でもすごく気に入っています。
自分の活動というか、自主制作ではありますけれどもギタリスト人生初めてのリリースした音源。
つまり自分の作ったものを世の中に出す第1歩を踏み出した曲なんです」
…と曲を紹介した曲はSilexのファースト・アルバム『ARISE』に収録されている「Forevermore」。以前にも書いたが、2016年に開催した『Marshall GALA』の記念すべき1曲目がこの曲だった。
アレからもう8年か!
コロナさえなけりゃ『GALA 3』も『GALA 4』も開催できていったんだけどネェ。
当然Silexにも出てもらう計画だった。
その第1回目のMarshall GALAの様子はコチラ。
↓ ↓ ↓
【Marshall GALA レポート】 vol.3: THE SHRED MASTERS
それだけ思い入れの大きい曲だけあってMashaくんの気合がスゴイ。
曲もいい加減スゴイけど、それをネジ伏せるMashaくんが更にスゴイ!続けて演奏したのは「Forevermore」と同時期に作ったという「What a Game!」。
目の覚めるようなハード・ブギ!
何度も繰り返し出てくる二拍三連のキメが耳につく。
ピックアップ・プレイクから疾走するソロは何度かの転調を繰り返しクライマックスへと向かっていく。
よ~弾くわ。
人間、こんなにギターを弾く必要があるのであろうか?…と不思議に思うぐらいよく弾く、しかも完璧に!
演奏が終わるやいなや割れんばかりの大歓声が沸き起こった!
「素晴らしい!ヤッタ~!ありがとうございます!
ア~疲れた~!…疲れるんですよ、ギターって。
カッコよく軽やかに演りたいなと思ったんですけど今のような感じの曲では到底ムリですね~。
でも、皆さんの熱く鋭い視線をもらったら逆に楽しくなってきちゃいました!」
激しい曲を演奏した後、よくMashaくんは指のマッサージをすることが多いけど、こんな演奏を聴かされた日にゃそれも全くムリないと思うわナァ。
人間というのはまったくスゴイもんです。
「じゃあ、もうドンドン演っていきたいと思います。
今日は私ソロのライブではありますが、スペシャル・ゲストをお呼びしておりますので最後まで楽しんでいらしてくださいね。
今日のライブのタイトルの通り「アット・ホーム」でユッタリしてください。
コレ、本当は『Mashaメタリック・ライブ』とか言っていたんですけど、それですとお互いにすごい気持ちで挑まないといけない感じじゃないですか。
そういうのではなしに、アット・ホームな空気の中でみんなで和気あいあいと音楽と冷たいドリンクを楽しんで頂こうかなと思っていたんですよ。
コレから演る曲はですね、ユッタリした曲ですので心地よく聴いて頂ければ幸いです」
Mashaくんが案内した通りココでガラリと雰囲気を替えてシットリとした泣きのバラード。
最近のSilexのライブでのMashaくんのソロ・コーナーには欠かせない1曲「Aria」だ。バッハの「G戦場のアリア」をベースにしたナンバー。
Mashaくんのカワイイ姪っ子さんのために作った小品が音楽好きなお父さんの耳に止まり、「この曲は、もっと長くあるべきだ…曲がそう言っとるき」とアドバイスされてフルサイズの1曲に仕立て上げたという。 美しいメロディを美しいサウンドで味わう…素晴らしい。
何もシュレッディングばかりが「Mashaギター」の魅力とは限らない。
しかし、いい音だな。
このスゴイところはただ「いい音」なだけではなくて、「Mashaくんのいい音」なんだよね。
まったく上手にMarshallを使いよる。 つづけて「Wind from the East」。Mashaくんの心の師、ジーノ・ロートへの鎮魂歌。
この曲も毎回Silexで取り上げられるが、いつも「これ以上はない」というぐらいの思い入れタップリのプレイを聴かせてくれるのだ。Mashaくん自身が「すごく良い曲」と自負する1曲でもある。
自分の曲でありながらジーノの魂が宿っているのではないか?とまで思い込んでいるという。
そして自分で感動している。
羨ましい。
ココで客席にBLINDMANの中村達也さん、GALNERYUSのSyuちゃん、そしてケリー・サイモンさんがいることについて触れた。続いての曲は「The Eys of the Dawn」のカップリング曲「Celestial Dreams」。
壮大なシンフォニック・サウンドにスルリと滑り込んで来るちょうどいい加減のクランチ・トーンのギター。
意表を突く転調を組み込みながら展開するMashaメロディ。
コレはMashaくん作の「ギター協奏曲」ですな。
いつかホンモノのオケと共演できたらいいね。
そのまま続けて演奏したのはゲイリー・ムーアの「The Loner」。この曲をよく取り上げている客席のケリーさんの前で演奏するには根性がいると言っていたMashaくん。
ナニをナニを、ひとたび演奏を始めるやいなや奔放にMasha流「The Loner」が展開した。
私は言いたいことはひとつ…皆さん、こういうのホントに好きね~。
「弾かせて頂きました。ありがとうございます。
楽しんで頂けましたでしょうか?
次の曲で私のソロ・パートはラストとなります。
でも誰も知らない曲…以前に演ったことがあるかもしれない。
弾くのは大変なんですけど…今後Silexの新しインスト・ナンバーとしてリリースするかも知れません、アハハハ!」ゲストを呼び込む前のMashaくんひとりのステージを締めくくったのは「新曲」。
シンセ・ストリングスのサウンドに彩られたルパートのパートで火の出るようなシュレッディングをカマしておいて…
イン・テンポになるともはやどこまでもすっ飛んで行く阿鼻叫喚のメタル地獄!
この曲でも派手な転調がドラマを盛り上げる。イヤイヤ、ホントにコレは大変だわ!
早くSilexで人間と演奏するところを聴いてみたいぞ!「『精進あるのみ』と言ったところでしょうか。
これから育てていく曲なのでよろしくお願いします!」
Silexの詳しい情報はコチラ⇒Silex Website
<後編>に続く
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(一部敬称略 2024年4月30日 四谷HONEY BURSTにて撮影)