A DOUBLE BOOKING <後編>~J-street R&R Band
この日最初に登場したsimoの関雅樹が「地元のおじさんのバンド特集」と説明したイベント『A Double Booking』。
「地元」とは「所沢」。
後半はその所沢の大ベテラン・チーム、J-street R&R Bandが登場した。
今、ショウの方は休憩中なので、その間脱線させて頂きますよ。
Marshall Blogで何度も触れて来たんだけど、私は父の影響で10歳にならないうちから映画に夢中だった。
いつの間にかスッカリ消え失せてしまったけど、毎晩のように放送されていたテレビの洋画劇場に父が推薦する映画が登場する時には間違いなく欠かさず観ていた。
父の推薦する映画にはハズレが全くなかった。
ビデオもない時代、目を皿のようにしてブラウン管に向き合った。
今考えてみると当時は実にノンビリしていた時代で、『大脱走』とか『荒野の七人』とか長尺の映画は前後編に分けて放送されるのが普通だった。
「後編」を待つ間の1週間が長くてネェ。
そんな作品のひとつがヴィクター・フレミング監督の『風と共に去りぬ』だった。
最近の若い人たちってサブスクの映画なんかを倍速で観たりしていると聞いた。
「信じられない!」と言いたくなるが、それも無理からぬことと思ったりもしているのね。
要するに観る速度を倍にしなければ鑑賞に耐えない映画だっていうことでしょ?
そんなこと…『風と共に去りぬ』や『七人の侍』に対して絶対にでませんよ。
さて、下は他人から見ればゴミ同然の私の映画チラシのコレクションから(←犬神サアカス團「たからもの」より)。
美しい「スカーレット・オハラ」を演じたヴィヴィアン・リーは実はイギリス人。
南北戦争を背景にディープ・サウスを舞台にしたこの映画のヒロインを演じたのはアメリカ人ではなかった。
この映画が公開された時、アメリカのボーイズたちは「イギリスにはこんなに美しい人がいるのか!?」と腰を抜かして驚いたらしい。
私は女性的で心やさしいメラニーを演じた東京生まれのオリヴィア・デ・ハヴィラントの方が好みだったりもするな…目がとても大きくてよ。
さて、この作品でアカデミー主演女優賞を獲得したヴィヴィアン・リーは、この12年後にエリア・カザン監督の『欲望という名の電車』で「ブランチ・デュボア」を演じて再びオスカーを獲得した。
こっちもモノスゴク良くてネェ。好きで好きで一体何度観たことか…
ロンドンの「ヴィクトリア&アルバート博物館(通称『V&A』)」に行くと『欲望という名の電車』で獲得したオスカー像と撮影時に使用したブランチのカツラが展示されている。
興味のある人はコチラをご覧あれ。
↓ ↓ ↓
【イギリス-ロック名所めぐり】vol.41 ~ V&A『Theatre & Performance』の最新展示
ところでナゼ突然『風と共に去りぬ』なのかと言うと…J-street R&R BandがオープニングのSEにこの映画の主題曲である「タラのテーマ」を採用していたから。
マックス・スタイナーが作ったこのメロディの美しいこと!
映画の中で感動的に使われるのは、第1部の最後で空腹に耐えかねたスカーレットが土にまみれた痩せ細ったラディッシュを口にして「今後は盗みをしようと、人を殺そうと、私は自分と家族を飢えさせはしない!」と宣言をするシーン。
もうひとつは、強くなり過ぎちゃったスカーレットが両親も娘も兄弟も、そして最愛であったハズの夫レッド・バトラーも失い、ひとり残されてしまったスカーレットが口にするラストシーン。
「Tara...home. I'll go home. And I'll think of some way to get him back. After all tomorrow is another day!(タラ…私の家。タラへ帰ろう。そして彼を取り戻す方法を考えよう。とにかく明日という日は今日と違う日なのだから!)」
ココに「タラのテーマ」がドーン!と被さって来る。
イケね、コレを書いているだけ涙が出て来てしまったわい。
しかし、「ララ」だけじゃなく、「タラのテーマ」とか「エデンの東」とかニュー・シネマが跋扈する前のハリウッド映画には殺人的に良い曲がゴロゴロしていた。
さて、ステージの方。
「タラのテーマ」が流れる中、「Tokorozawa...home. We'll back home. And we'll thing of some way to get back the good old rock'n' roll. Today is a big and special day!」とは言わなかったが…「Are you ready!?」と景気のよい声が上がった。
いよいよJ-street R&R Band(以下「Jスト」)の登場!
1曲目は「Crazy driver」。
吉角英麿伊賀武氏
荒井謙次伊東昌喜
平岡利之小原智雄吉角さんと伊賀さんのツイン・ボーカルズ!
これぞ聞き違いなど起こりようががない「日本のロック」!
ウ~ム、Jストの音楽を聴くのはこの時が初めてのことだったんだけど、このサビには猛烈な親近感を覚えるな。
きっとコレが私の中の「日本のロック」の原風景のひとつなのであろう。
ああ、Marshallを通じてレス・ポールとストラトキャスターが奏でるこのツイン・リード…涙が出て来るわ。
伊賀さんのアーシーなリフからスタートする2曲目は「Department girl」。 ゴキゲンな軽いクランチ・トーンを送り出しているのはMarshall STUDIOシリーズから「ST20H」と「ST212」。
STシリーズはMarshallの第一号機である「JTM45」の三代目モデルを小出力カしたすぐれもの。メンバー紹介をする後ろにドラムスが加わる。小原さんが叩いているのはNATALの新商品「ZENITH(ゼニス)」。
50~60年代のビンテージ・テイストを忠実に再現したキットだ。
ドスの利いた声でコッテリと歌い上げる吉角さん。そして伊賀さんのソロ。
70年代にタイム・スリップしたようだ。
こういうギターは不滅だね。
イングヴェイ以降はずっとピロピロづくしだったからナァ。
「改めまして所沢最強コミックバンド『J-street R&R Band』です!
よろしくお願いします。今日は存分に楽しんでいってください!
前回もコレをかぶったんですが、お客さんからは『アレどうなの?』なんて反応でした。
でも意外にもメンバーから「いいよ!」て言われたので今日もこの姿で現れました」
寡聞にして「J」がナニを意味しているのかは存じ上げないが、今でこそ「『J』ナントカ」というのは珍しくないけど1981年の結成当時にはかなり珍しかったのではなかろうか。雰囲気を替えて3曲目は「Raindrops」。吉角さんの声がユッタリ・ムードの中でより一層存在感を際立たせる。
「♪キミの町まであと少し」…いいナァ。日本のロックだナァ。
この町は所沢であろうか、それとも飯能であろうか?
伊賀さんと…平岡さんのコーラスがサウンドを分厚く演出する。
誰かさんが平岡さんを「コワい」と言っていたが、イヤイヤ、このとてもやさしい歌声はそんなことを微塵も感じさせない。続いては「Milk」という新しい曲。
曲を新たに作り続けているというのも立派!
小原さんと平岡さんがヘヴィ級のグルーヴを繰り出すミディアム・テンポのナンバー。「あいみょんみたいな優しい曲」と紹介していたけど、「あいみょん」ってこんな曲を演ってんの?
ところで平岡さんが使っている今日のMarshall。実はヘッドはJCM800時代の1959…つまりギター・アンプ。
じゃあスピーカー・キャビネットも?
ギター用の4x12"キャビ「1960B」と思いきやさにあらず。
コレは「IBS(Integrated Bass System)」というベース・アンプのシリーズのひとつで、2×10"+1×15"のスピーカーが搭載されておりバイアンプができるようになっている。
その証拠にリア・パネルには2つのインプットを搭載している。
こんなん初めて見たわ。
伊東さんがエレピのサウンドでファンキーなソロをキメる!そして荒井さんがハードなソロで曲を締めくくった。荒井さんもSTUDIOシリーズ。
永遠の名機「JCM800 2203」を小出力化した「SC20H」と「SC212」だ。「ありがとうございます。どこが『あいみょん』なんだよ!」
ヤッパリそうだったのね?「次に演る曲は1984年にヤマハの『EAST WEST』というバンド・コンテストで決勝大会までいった時の曲です。
ボクは所沢の地区大会に出て、そこで優勝して決勝大会まで駆け上がったんですが、実はその所沢大会の時の審査員が森園勝敏さんだったんです。
森園さんがボクらの曲を選んでくれて、終わった後に『いい曲だね!』って言ってくれたのをみんなですごくよろこびました。
今日は本当に森園さんとご一緒出来てとてもうれしいです」
森さんからそんなことを言われたら照れるね。
懐かしいね、EAST WEST。
私も高校の時に…つまり1978~1979年にかけて何度か予選会に出たけど、その時の審査委員は妹尾隆一郎さん、山岸潤史さん、鳴瀬喜博さんの皆さんだった。
「ギターの人(私)がワウワウを踏む時にリズムが乱れる」とナルチョさんに指摘され、大分前にこのことをご本人にお話したら「エラそうなことを言ってスミマセン!」と大爆笑されていらっしゃった。
そして、Jストのスタッフの方に頂いた情報によると、1984年の決勝大会ではsimoの岡井大二さんが審査員のひとりをお務めされている。
ところでこの『EAST WEST』という名称ね、イベントの関係者が当時津田沼かどこかにあった英会話教室の名前だったそうだ。 1984年度のEAST WESTのライブ・アルバムにも収録されているその曲は「Fortuity」。
「fortuity」とは「偶発的な出来事」という意味。
おっとな~!のサウンド。
こういう曲を演るバンドがコンテストに出ていたんだからスゴイ時代だった。
森さんがおっしゃったようになるほど良い曲だ。
「♪Take a chance」を2度繰り返すところがすごく魅力的だな。
伊賀さんのソロが華麗に曲を彩る。ディミッシュ・フレーズにハッとさせられる伊東さんのオルガン・ソロ。
聴きどころ満載の1曲だ!「お礼だけ言わせてください。
ブルース・アレイ・ジャパンのスタッフの皆さん、諸々ありがとうございます!」お客さんから伊東さんへお誕生日のプレゼントが渡されるひと幕も。
「みんな、今日はボクのために集まってくれてありがとう!」
その伊東さんのピアノをバックに…切々と吉角さんが歌い上げるバラードは「あの空の下」。コンパクトながら効果的なツイン・リードのアンサンブル。
こうしたサウンドがこの世から消えてしまったのは一体いつからなんだろう?
BAD SCENEとかなつかしくて仕方ないわ。
「それでは、そろそろラストです。
皆さん、飲んでます?
たくさん飲んでくださいね。食べ物もどんどん頼んでください。
そうすれば私たち、またブルース・アレイさんから呼んで頂けますのでね。
よろしくお願いします!」 「Rollingh down the J street」はノッケから気持ちのよいツイン・リード・ギター。めんたんぴんとか、センチとか、歌詞も含めてやっぱりこういうサウンドが「日本のロック」の雛形のひとつだよな~…この日、なんかモノスゴクそれを感じてしまった。
荒井さんが絶妙なオブリガードを入れ込んで来て…エキサイティングなソロを披露!今の曲でガツンと盛り上がっておいて本編の最後を飾ったのは「Draggin' on the highway」。最後の最後まで「J-street R&R Bandサウンド」をブチかましてくれた6人。
若い人にも聴いてもらいたいナァ…コレが「日本のロックだよ」って。
お客さんから花束贈呈。
そういえばステージと同じぐらい、あるいはそれ以上にエキサイトしていたテーブルがあったナァ。
それでいいのだ!アンコールではsimoの関雅樹と森園勝敏が合流。
「ありがとうございます!Jスト”最高でしたね!
せっかくですのでちょっとインフォメーションさせてください」
関ちゃんが着ているのは伊賀さんとやっている「TZ's(ティーザーズ)」のロゴTシャツ。
「TZ's」とは「トコロザワーズ」だって。そして関ちゃんが手にしているのはこのチラシ。
TZ'sのライブ告知。J-street R&R Bandに森さんと関ちゃんが加わってのアンコールの1曲目はJストのレパートリーから「そんなon the Road」。イメージ・チェンジしてきた吉角さん。
曲はサビ付きのシャッフル・ブルース。コレぞジャム・セッションの醍醐味、ギター合戦だよ~!
伊賀さんがボトル・ネックで攻めて来れば… 後輩もボトルネックで応酬。 後輩の師匠はホンの少しの音数でスゴイ世界を創りあげ…荒井さんがハードに締めくくった!「森園さん、その節は審査員をして頂きありがとうございました。おかげさまで優勝することができました。
関雅樹と森園勝敏でした。ありがとうございました!
かなり盛り上がってますけど、次に演る曲は唯一のカバーです。
44年前にこのバンドを結成してしばらくして演っていた曲です」再び伊東さんのピアノをバックに…
吉角さんがおなじみの歌メロを被せたのはレイナード・スキナードの「Free Bird」。この曲でも伊賀さんがゲイリー・ロッシントンのパートでボトルネックの妙技を見せる。
ところでこの伊賀さんが弾いているギター…見たことないでしょ? コレは関ちゃんのスタッフであり、私の友人のギター・ビルダーが作っている「七画の音工店」のオリジナル。
薄めのマホガニーのボディから出ているとは思えないシッカリした太い音が出ていた。そして、お待ちかねの後半のギターのパート。
まずは荒井さんがアレン・コリンズが弾いた通りにプレイ。リズム隊がココで大爆発!
そして伊賀さんがボトルネックをハズしてギター・バトルに加わった! 好きなだけ弾いてください!
かつてはこういう音楽がもてはやされていた時代があったんだ…いい時代だった。当然のごとく盛り上がりに盛り上がって『A Double Booking』の幕を降ろした。
割れんばかりの拍手と歓声が6人に浴びせられた。
J-street R&R bandの詳しい情報はコチラ⇒Official Web Site*オマケ*
どうでもいいことなんだけど、私は「死ぬまでに持っているCD5,000枚を全部聴く」という荒行に取り組んでいる。
アルファベット順に1枚1枚聴き進めていて、大分前にジャズを終えて、今ロックの「G」が終わって現在は「H」と格闘しているところ。
正直私はフランク・ザッパ以外のアメリカン・ロックを自ら進んで聴くことはほとんどなく、「G」の時に超久しぶりにグレイトフル・デッドを泣く泣く聴いた。
これぞ「荒行」!
そしてレコードの頃はに3枚組で販売していた『Europe '72』というライブ盤を聴いて驚いた。
アルバムの最後に「(Walk Me Our in the)Morning Dew」というボニー・ドブソンというカナダのシンガーソングライターの曲が収録されている。
コレはジェフ・ベックがBBA時代に「Morning Dew」として取り上げていた曲なので古いロック・ファンの方ならきっとご存知の曲であろう。
それでこのデッドのバージョン、オリジナルとは似ても似つかないアレンジなんだけど、コレが「Free Bird」の前半にソックリなのだ。
放っておくと本当にアレン・コリンズがギターを持って乱入して来そうなぐらい。
デッドのライブ盤のリリースが1972年11月、「Free Bird」が収録されているレイナードのファーストアルバムのレコーディングが1973年の3~5月…フフフ、アレン・コリンズかロニー・ヴァン・ザントはかなり高い確率で『Europe '72』を聴いていると思う。
ああ、昔のロックはたのしい!
<おしまい>
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