HIGH VOLTAGEの思い出 <その1>
<はじめに>
Marshall Blogは昨年の10月に1,000回目の更新を迎えたが、それ以前にも900回以上の記事を書いていたことを折に触れて記してきた。
それらの古い記事はもう見ることはできないが、すべてデータで残してあって、中には我ながら興味深い記事や貴重な情報も含まれている。
そこで、だいぶ前にそれらを今のMarshall Blogにアーカイヴとして再掲することを思いついた。
さすれば雨傘記事がジャンジャンできて毎日の更新がすごくラクになるじゃん?
ところが権利面での問題が出て来て、そのまま記事を掲載することは断念…ラクはできませんな~。
イヤイヤ、それよりも何よりも…ダ~メ、ゼンゼン。
ヘタで…。
初期の頃の記事を読み返してみると、写真も文章も全くなっとらん!
写真はまだヤングな感じが伝わって来て許せるにしても、昔の文章を読み直した日にゃ顔から火が出らぁ。
9年も前のことだからね。
今も大したことはないけど、こんな私でも少しは成長するもんだと感動したりして。
ま、ひとりでこの調子で2,000回も書いてりゃどんなバカでも少しは物事上達するわな。
…というワケで滅多にやることはないかも知れないが、皆さんにお伝えしておきたい、もしくは記録として半永久的に残しておきたい過去の出来事を「Marshall Blog Archive」として再掲することにした。
アーカイヴと言っても、先に書いた理由によりすべて書き下ろすことになるけどね。
その第1弾が今日の記事。
内容は2010年の7月にロンドンで開催された『HIGH VOLTAGE』というロック・フェスティバルのレポートだ。
当時は確か5回連載でお届けしたように記憶している。
「確か5回…」とうろ覚えな表現をしたのは、過去の記事を確認していないから。
決して横着をしているワケではなく、元の記事を読んでしまうと、どうしても文章がそれに引っ張られてしまうから。
記憶を頼りに完全書き下ろしで臨もうという企画だ。
なので、以前ご覧になって、内容にご記憶にある方にも是非ご再読頂きたいと思う。
本邦初公開の写真もいくつか加えておいた。
<背景>
さて、実はこの記事、あるいは企画は、もっと早い時期に取り組もうと思って用意をしていたのだが、毎日の更新や雑事に追われて長い間ほったらかしになっていた。
しかし、今こそ掲載すべき!と一念発起した。
理由は、「CLASSIC ROCK」という名前が昨年の11月に日本中のロック・ファンの間を駆け巡り、多くの人の知れる存在となったこと…コレがひとつ。
この『HIGh VOLTAGE』というロック・フェスティバルは、イギリスの「CLASSIC ROCK」という雑誌(出版社)が主催したものだったのだ。
そう、あの両国国技館で開催された『CLASSIC ROCK AWARD』というイベントの冠ブランドである。
加えて、この「CLASSIC ROCK」誌に大きな変動が起こったこと(後述)。
そして、今ひとつの理由はジョン・ウェットンの死だ。
言い換えると、このフェスティバルに出演したビッグ・アーティストがこの7年間の間にずいぶん他界したことだ。
これらが重なり今ココでまとめ上げておこうと思い立ったワケ。
<CLASSIC ROCKについて>
さて、昨11月のこともあったので、簡単にCLASSIC ROCKという雑誌について記しておくことにする。
CLASSIC ROCK誌は古き佳き時代のロックにスポット・ライトを当てた音楽雑誌で、まさに私のような頑固ジジイが泣いてよろこぶような内容。
日本でも手に入れることができるが、私の場合、CLASSIC ROCKを買うのがイギリスに行った時の楽しみのひとつだった。
いつもMarshall Blogに書いているように、私はパンク/ニューウェイブ、あるいは80年代以降のロックにまったく興味がないので、そうでない60~70年代前半のロックがフィーチュアされている時は例外なく買って持ち帰っていた。
ま、買ったところで熱心に中身を読むワケでは決してないんだけどね。
でも、そこはさすが本場モノで、今まで見たことのないような写真がたくさん掲載されているのがすごく魅力的で、他にも『ベスト100ブリティッシュ・ロック・アルバム』なんていう特集はMarshall Blogのネタとしてもとても有用だった。他にも『トップ30プログレ・アルバム』だの、『トップ100ソングライター』だのという企画もすごくおもしろかった。
こうしたチャートものは、本場のイギリス人たちが自分たちのロックをどう捉えているかを物語っているかを知ることができ、私にはものすごく興味があるのだ。
どんなに情報の伝達手段が発達しても、岡井大二さんとのインタビューにあった通り、土台ロックの礎がイギリスとは全く異なるこの極東の島国と、世界の中央との間には大きな隔たりがあることを常に意識しておくべき、という立場を私は採っている。
そうだ…実はコレは先日の専門学校での授業でも紹介したのだが、ここでもやらせて頂こう。
コレは我々が生まれた時から見てきている世界地図。
ユーラシア大陸とアメリカ大陸の間に位置する世界の中心、日本!まるでアメリカ合衆国が脇役に見える。
正確ではないにしろ、もし「世界地図を書いてください」と言われたら老若男女を問わず、日本人は100%この地図に近いレイアウトで描くだろう。
ところが…
世界はコレだ。
あ~あ~、日本がずいぶん端っこに行っちゃったな~。
こうして見ると、日本がなぜ「far east」なのかが本当によくわかるでしょ?
これだけ世界の中心から離れた末端にいればロックの在り方も変わってしまうのかも仕方のないことなのかも知れない。
でも、もはや音楽に関して言えば日本は洋楽をほとんど受け入れない鎖国状態だから関係ないか?
さて、話を元に戻して…CLASSIC ROCK。
文字通り60~70年代のクラシックなロックを中心に取り扱う傍ら、注目の新人を含めたコンテンポラリーな内容も併催することにより発行部数を順調に伸ばし、やがてイギリスで最も売れる音楽雑誌となった。
そして、通算150号を発売した2010年には、ナントNME(New Musical Exress。1952年創刊のイギリスで初めてヒット・チャートを掲載した老舗音楽雑誌)の発行部数を追い越したという。
それが2013年からの運営母体であったTeamRockという会社が経営に行き詰まり、2016年には姉妹誌のMetal HammerとProgともども出版を中止。
ああ、コレでCLASSIC ROCK誌も一巻の終わりか!…と思っていたら、先月、Future Publishingという元のオーナーが80万ポンド(約112百万円)で三誌を買い戻したのだそうだ。
実は以前はMarshallも関係を持っていて、『CLASSIC ROCK ROLL OF HONOUR』というイベントのスポンサーを務めたことがあった。
2010年にカムデンの有名なRoundhouseでそのイべントが開催され、司会はアリス・クーパーだった。
ライブ・パフォーマンスはCheap TrickとSlashをフィーチュアしたAlter Bridgeというバンド。
それに色々な部門の授賞式が執り行われた。
ようするに去年コレを国技館でやったワケですな。
ようやく本題!
これからレポートする『HIGH VOLTAGE』なるロック・フェスティバルは2010年の7月24日と25日の二日間にわたって開催された。
もちろんこのフェスティバルを観にイギリスに行ったワケではない。その前の週にMarshallで会議があってそれに出席するために赴いたのだ。
このフェスティバルが開催されることは事前に知っていたが、行くつもりなど全くなく、大好きなロンドンの街を散策することに時間を費やすつもりだった。
ところが工場にいる間、仲良しだったスティーヴ・ドーソン(Vintage ModernやJTM45/100のリイシューを担当したエンジニア)から「シゲ、明日以降もロンドンにいるならHIGH VOLTAGEに行ってみたら?シゲのためのフェスティバルみたいなもんだぜ!」と強く勧められた。
そして「アレも出るし、コレも出るし」と出演者の名前を挙げだした。
その中にはArgentの名前もあって、「シゲならもちろん知ってるだろ?」と「Hold Your Head Up」を口ずさみ出した。
聞くところによれば、Marshallがフェスティバルのスポンサーもしているという。
私は暑いのも苦手だし、そうしたフェスティバルものが好きではないので、正直あまり乗り気ではなかったが、私が若いころ好きだったバンドがゴチョゴチョたくさん出るので行ってみることにした。
このことを当時のMarshallの副社長に話すと、インターネットに出ているフェスティバルの情報や会場への地図を親切にプリントアウトして持たせてくれた。
翌日、ロンドンに出ていつもの通りオックスフォード・ストリートをブラつき、HMVの前を取りかかった。
すると店先にフェスティバルの看板が出ていた。
中には全く知らなかったり、興味のないバンドもあったが、だんだん楽しみになって来た。
このフェスティバル最大の目玉は、「この日一度だけ再結成する」というEmerson Lake & Palmerだった。
私的にはさっきのArgentやFocus、Zappa Plays Zappa、UFO、Foreignor、BTOっぽいヤツ、Big Elf、ZZ Top、Wishbone Ash、そしてGary Moore等がお目当てだった…ってコレだけ出れば十分じゃんね!ゼンゼンすごいわ。
最近は日本もロック・フェスティバルがスッカリ当たり前になった。
皆さん複数のバンドが出るイベントにはあまり行かないのに、フェスティバルはお盛んですよね。
ま、それはいいか…。
そうした大型のフェスティバルに出演バンドの一覧を見ても、残念ながらもうサッパリわからんのよ。
名前ぐらいは知ってるというバンドも多いことは多いが、中には完全に海のモノとも山のモノとも、空のモノとも土の中のモノとも判別できないバンドが多い。
そして、恐らく私の同輩諸兄も同じだと思うのだが、いつもこう思う、「ああ、コレが我々の時代にあったらナァ」と…。
そして妄想がコレに続く…「今年の『サマー・ロック・サミット(仮)』は誰が出るんだって?
1日目のメインのヘッドライナーはツェッペリンか。2日目はディープ・パープルね。またリッチーか。
他にはエエ~ッと…BBAにFree、Procol HarumにTen Years Afterね。Humble PieにSweetにSlade、Nazarethに、ハハ、Budgieも出るのか。
オープニング・アクトはQueenとThin Lizzyか。Queenはまだオープニング・アクトやってるのか?
プログレ・ステージは…クリムゾンとフロイド、今回はYesがヘッドライナーか?
アメリカン・ステージはCCRにグランド・ファンク、ChicagoにBSTね。前座はAerosmithね。最近人気が出て来たからな~」…コレやってるとキリがないんだわ。
で、今の若い子ってフジロックとかサマソニでまさにコレを味わってるワケでしょ?
うらやましいよな~。
でも、私は一種コレに似た経験をHIGH VOLTAGEでしたのであった。
さて、開催の当日。
副社長からもらった地図を持って地下鉄で会場に向かう。
会場はヴィクトリア・パークという所で、最寄りの駅はロンドン市内を東西に走っているセントラル線の東のやや外れのマイル・エンド。
どうだろう、東京で言ったら小岩とか市川って感じかな?
中心から30分近く乗ったような記憶がある。
サマソニの時の幕張駅のような混雑感はまったくなし。
「ホントにこの駅でいいのかよ?」みたいな。
それでも、若い人たちがポツポツと歩いて行くのでそれについて行った。
途中、お腹がすいたので、小さなハンバーガー屋に入って昼食を摂った。
コレがまた不愛想のトップ・モデルみたいなオヤジがやっていて、オーダーをする時にちょっとビビったが、ゼンゼン親切で、焼きたてで結構おいしかった。
おお~、ココが会場か!…なワケはなくて、ただのパブ。
さすが、名前も「The Victoria」。
土曜日のパブはどこも昼間っからこんな感じだ。
こういう建造物を見て歩くのが大好きだ。
でも、この教会は他のと意匠が大分違うね。なんか変わった宗派なのかしらん?
「BOW WHARF」というのは東ロンドンで最初にできた蒸留所で、100年以上前からウォッカ、ジンやウィスキーを作っている…というのを知ったのは後になってからのこと。
ちなみに「ウォッカ」の発音は、英語では「ヴォドカ」なので要注意。
市内の至る所に横たわる大小の運河が景観に大きなアクセントを与える。
ロンドン・タウンをブラつくのが大好きだ。
面積86ヘクタールにも及ぶ大きな公園。
計算してみると東京ドーム18個分だって。そんなに大きくないのかな?
浅草寺で換算すると。境内の総面積の5倍。
コレでようやくわかった…結構デカイわ。
でもね、一切、急ぐ様子がないのよ。誰も走ったりしない。
焦って会場に入って、少しでも前の方の場所をゲットしたい!…なんて顔つきのヤツがひとりもいない。
ま、出し物が出し物だけに年寄りが多いってのもあるけどね。
チラリと屋根が見えてきたのは、CLASSIC ROCKの姉妹誌、METAL HAMMERの名を冠したステージ。
すなわちメタル用ステージ。
何やら音は聞こえてくるがまだラウドではない。
コレが入り口のゲート。
実に簡素。
テントを張ってテーブルを置いただけ。ま、どこもこんなもんか。
イヤでも目に入る『Apostrophe (')』の凛々しいお顔!
この4か月後にさっきのRoundhouseで開催された、「Zappaの音楽と70回目の誕生日」を祝うイベントの告知ポスター。
Zappaファンのために記しておくと、出演は…
Dweezil Zappa
Gail Zappa
Jeff Simmons
London Contemporary Orchestra(当日「Yellow Shark」を演奏)
Royal Academy of Music(王立音楽アカデミー。ZappaのCDを出していることを以前紹介した)
Ali N. Askin(ドイツの映画音楽作曲家)
Ian Underwood
Scott Thunes他…
観たかったな~。
コレはネブワースで毎年開催されるイギリス最大のロック・フェス『Sonisphere』の宣伝。
Ian Hunterも頑張ってる。
国内ツアーの告知でマンチェスター、グラスゴー、ブライトン、ロンドン、ニューキャッスル、バーミンガム、ブリストルを回る。
Ian Hunterって以前AVTを使っていたんだよね。
それがですね~、さっきの入り口のゲートのところで少しモメちゃってね~。
入場に際してはすでに中に入っているMarshallのアーティスト担当のジョエルと電話でやり取りをして、ゲートまで迎えに来てもらうことになっていた。
それは問題なかったんだけど、荷物検査を担当したサン・ラみたいなコワイ顔をした黒人のオッサンが、私が持って行ったキャノンの愛機を「絶対に持ち込ませない」ってすごむワケよ。
今から7年前、当時日本はどうだったか知らないけど、向こうはプロフェッショナル・カメラ以外であれば無遠慮にステージの写真を撮っていいことになっていた。
反面、プロフェッショナル・カメラの使用には大変厳しく、「絶対に使わないから!」とそのサン・ラに言っても「ダメだ!ココへ置いて行け!」という。
冗談じゃないよ!
大事な商売道具だし、こんなところへ置いていったら二度と返してもらえないにキマってるだろーがッ!
するとジョエルがパスを見せてチョコチョコと説得してくれた。
そしてOK。
何せスポンサーだからね。
それでもサン・ラはジロジロこっちを見ていたな。
晴れて入場できることに相成った。
もっと早いうちに来ることがキマっいて、事前にプレス・パスを出してもらっておけばこんなことにはならなかったんだけどね。ナニせ急だったから。
中はこんな感じ。
向こうの方に見えるのが「CLASSIC ROCk STAGE」と呼ばれるメイン・ステージ。
すさまじくホコリっぽい!
ステージは3つあって、それぞれに雑誌の名前が付けられている。
すなわち…
CLASSIC ROCK STAGE
METAL HAMMER STAGE
PROG STAGE
の3箇所だ。
この頃はまだエア・ギターが盛んだったんだね。
でも、客が2人しかいない!
後になって盛り上がったようだ。
ま、往年の名バンドが山ほど出て実際に演奏しているのに、何が悲しゅうてエアギターを観なきゃならないのよ!
色んな所に他のイベントの告知ポスターが貼られていたりする。
「PROGPOWER EUROPA」か…なんだコリャ、ナニひとつ知らんわ!
チラシもいろいろあって、Jon AndersonとRick Wakemanが『THE ANDERSON WAKEMAN PROJECT 360』なる名義でYesの曲を演奏するコンサートの告知なんてのもあった。
つづく
(敬称略 2010年7月23日 ロンドンにて撮影)