【Marshall GALA レポート】 vol.8: Neo-Zonk
…ということで大掛かりな転換も迅速かつ無事に終了。
ね、ステージのようすが全然変わっちゃったでしょ?
Marshall GALA、五番目の出演者はNeo-Zonk。
かつてMarshall Blogに「プログレッシブ・ロックの救世主」として一度だけ紹介した女性キーボード2名と男性ドラマーからなるトリオ。
Marshall GALA最初の女性アーティストとなる。
ま、こう言っちゃナンだが、Neo-Zonkを目当てにMarshall GALAに来た方以外のお客さんはその実際のステージをご覧になったことはなかったであろう。
ヒヒヒ…。
そう、このトリオにはギタリストがいない。
それなのにMarshallのイベントにご登場頂いた。
なんとならば、ドラムのショボンちゃんはNATALエンドーサーなのだ。
そして、キーボードで奏でるベース・パートにはEDENが使われるからなのだ。
赤線に示したステージの真ん中の機材だけを使用した。
大福でいえばアンコだけ食べたようなものだ。
皆さんは「こしあん」と「つぶあん」どちらがお好みだろうか?私は決してアンコが苦手なワケではないが、まわりの餅の部分が好きだったりする。鯛焼きも尻尾の先っちょまでアンコが入っているヤツはちょっと頭にくる。
あまりにもどうでもいい話しだとお思いになるであろうが、例えキーボードで鳴らしていても、ベースのパートにいいベース・アンプを使うとメチャクチャ気持ちがいいそうだ。
つまり、「餅は餅屋」というワケ。
ハイ、餅だけに丸く収まりましたね。
1曲目は「Disorder-out of the cosmos-」。
あいちゃんが奏でるウエストミンスター寺院のような壮大なパイプ・オルガンの音色でこの曲は始まる。
イヤイヤ、ココはカンタベリー大聖堂といこう。なんたってプログレッシブ・ロックだからね!(カンタベリーはプログレッシブロックの聖地。詳しくはコチラ、またはコチラをご覧あれ)
そして、アンサンブルに突入。
ん?コレはどうなってんだ?5/4と6/4がくっついてんのか?
…とガマンして何回も数えてみるに…ハハン、5/4+5/4+5/4+6/4になってんだな、こりゃ。
ズドドドババドドドズズドドダダドドデデドドババドドダダドドデデドドザザドド!
一糸乱れぬアクロバット!
あいちゃんが先行してラテンチック(ラテンではないんだけど)なテーマを奏でる。
矢継ぎ早にReturn to Foreverを彷彿とさせるトリック・プレイ!
「ナンダってそんなことやる必要があるんかい?!」と思わず訊いてみたくもなるすさまじいキメ技。
いいんです。
プログレなんです。
こういうのが聴きたくてプログレ・ファンを長いことやってるワケ。
だからMarshall GALAに出てもらったのです!
とにかく二度目の度肝抜き難なく成功!ま、ハイドンじゃないんだけどね(交響曲第94番)。
しばしつなぎがあって、曲はまたここから徐々に違った表情を見せ始める。
まずは祥子ちゃんのソロ。
時折フレンドリーなフレーズを散りばめ、アグレッシブに弾きまくる。
ギターでいえばシュレッディングだ。
だから背景のMarshallが実にシックリくる。
ソロもすごいんだけど、リズムがまた凝ってる。
7/4+6/4になってるのかな?
あいちゃんが弾くバッキングがまたよくできていて、キーはDm→Em→Fm→Gmと転調していくんだけど、ベース・ラインがただ移調するワケではなくて、転調するたびに少しずつ変化していくのだ。
Dmの時はルートと短2度、ルートと短3度を行き来し、Emの時は同じく長2度と短3度、Fmの時は短3度。そして、GmのになるとDmの時と同じパターンに戻る。要するに転調する度に二番目に発する音程が半音ずつ上がっていくという仕組み…になってんじゃないの?
ショボンちゃんのソロ!
十分にテクニカルだが、実にウォーム。懐が深い、日本人離れしたドラミングを聴かせてくれる。若いドラマーにしては70年代の洋楽の空気感が漂っているのだ。
そして、とにかく音がいい。
ホンのチョットのアクションで素晴らしく抜けるトーンを叩き出す。
NATALがピッタリのドラマーだ。
いつもはウォルナットとバーチのキットを愛用しているが今日はアッシュ。何度も私のところに来て「音がいい!」と感動ぶりを示してくれた。
ショボンちゃんは現在はStaveスネアの入荷待ち中。今日はNATALのハンドハンマード・スネアを使用。ズドンズドンとドスのきいたスネア・サウンドだ。
キメの後、大きなブレイクに…。ココで曲が終わったかと思ったお客さんが拍手。
すると「ノンノン」と首を横に振ったあいちゃん。
頃合いを見て祥子ちゃんがハープシコードでバロックなフレーズを上品に奏でる。
そして、静寂。
コレが「嵐の前の静けさ」だということはプログレ・マニアなら先刻お見通しのことだろう。
ハイ、あいちゃん、〆のソロをお願いします。
ロック・フレイバーが濃厚なソロだ。
テーマに戻り、またぞろ3人のスリリングなキメで曲は終了。
大歓声!ヨカッタ~!
フ~、疲れた。
でもそれでいい。
プログレッブ・ロックを聴いてリラックスなんかしちゃイカン!眉間にシワを寄せて聴く音楽がプログレッシブ・ロックなのだ!
ウチのCD棚はそんなんばっかりよ。スワンプ・ロックとか全然なし。
我が家に「レイドバック」という言葉は…断じてない!
ショボンちゃんが刻む16ビートのパターンに乗って祥子ちゃんがMCマイクを握る。
「ギターレスのバンドですが、Marshallに囲まれてシアワセです!私たちチョットだけ変拍子が多いんですけど、手拍子とかして頂いて大丈夫ですよ!裏返っちゃうだけですから!」
祥子ちゃんの左手はホンの少しの変拍子を表現している。
ウソコケ!
初めて会った時、「私たち4/4の曲はないんですよ。あ、1曲あったかな?」とか言ってたよ。
変拍子は好き。
イヤ、正確に言うとカッコいいと感じる曲が変拍子だったりするだけのこと。
何拍子であろうが曲がよければそれでよし。
反対にいかに難しいことをやっても曲がおもしろくなければ何にもならないもんね。
Neo-Zonkの曲はそのことをとてもわかりやすく教えてくれている。
それと、ウチの社長に怒られちゃうかもしれないけど、Neo-Zonkには絶対にギターを入れて欲しくないナァ。
この音楽にギターを入れるとなるとシュッレッド系のギターになりがちで、そうなると一気にありきたりのテクニック系ロックになっちゃう。
Joe Zawinulはやっぱりスゴかった。Weather Reportのカッコいい点のひとつはギターがいないことだったと思う。Soft Machineもほぼそうだ。
ギターは最も普遍性の高い楽器だけに、使いようによっては音楽を凡庸なものにしてしまうアクの強さがあるんだよね。ある種、「両刃の剣」なのだ。
強引にNeo-Zonkのインストゥルメンタリゼーションを広げるならヴァイオリン(実際にやってる)かトロンボーンかな?チェロなんていうのもすごくおもしろい音になりそうだ。
だからFrank ZappaとJohn Mclaughlinは偉大だよね。コレガまた2人ともギタリストなのがおもしろいところ。もちろんZappaやMacLaughlinのような破天荒な個性を持ったスタイリストであればいくらギタリストが参加しても問題ないんだけどね。
ショボンちゃんの刻む軽快なビートに乗ったまま2曲目の「U.T.」に入る。
あいちゃんはオルガンでバッキング。ベースがすこぶるカッコいい!
それをEDENがギンギンに鳴らしてくれる。
祥子ちゃんもオルガンでテーマ・メロディを奏でる。
この曲のサビにはマイナーのII-V-Iの典型っぽいフレーズが出てきたりして楽しいな。フュージョニーな展開だ。
ショボンちゃんの刻む16ビートが小気味よい。
お、この曲は4/4拍子だ!
…と思ったのもつかの間。
必殺のキメ!
コレ最初に聴いた時はビックリしたっけナァ。
でっきり合図と根性で合わせてるのかと思った。
ショボンちゃんからタネ明かしをしてもらって二度ビックリ。
バラしたいのはヤマヤマだけど教えない。
でも、恐らく耳のいい人ならこのトリックを見破っちゃうんだろうね。アタシャからっきしダメだ。
そのまま6/8のハード・ロック・パートに突入。
アイちゃん、コルナでポーズをキメてから…
ダイナミックなシンセサイザー・ソロ!
あのね、このバンドって絶対にダラダラとソロを弾かないのよ。
バシっと言いたいことを言って規定のサイズで切り上げる。だから何回ソロが出てきても全然飽きない。
そして、キーボードは楽器の構造上、ギターと違ってペンタトニック地獄に陥らないからね。聞いていて楽しい。
ドワ~、ここの祥子ちゃんのベース、メッチャかっこいいわ~。
祥子ちゃんのベース・ラインもEDENで鳴らしてますから、ハイ。
バラエティにインストゥルメンタライズされた掛け合いを経て静かなパートに。
動と静を組み合わせてドラマを織りなしていくのはプログレ必須のパターンだ。
そして、例の必殺のキメを経ていよいよエンディングへ。
ク~、タマらんわ~。もっと聴きたい~!
世の中、「ありがとう」だの「がんばれ」まみれの草食系ロック全盛にあって、同じ年ごろの若者がこんなにシリアスな音楽を演っている現実に快哉の声を上げたいと思う。
この後のMCで偶然にもEmerson, Lake & Palmerについて触れた。
1970年代中盤、ミュージック・ライフ誌の読者投票でELPが人気第一位だった…ということを述べたのだ。
驚くことにKeith EmersonはこのMarshall GALAの4日後に自ら命を絶ってしまった。
そのMCで何が言いたかったのかと言うと、今から40年ほど前は中高生やごく一般のロック・ファンが普通にNeo-Zonkが果敢に取り組んでいるようなプログレッシブ・ロックを聴いて楽しんでいたということだ。
もちろんELPはどんな人が聴いても楽しめる究極的に質の良いロックをクリエイトしていたので万人から愛されて当然と言えば当然なのだが、今の若い人達が聴いたらはどうだろう?
ELPの音楽を楽しむことができるだろうか?
今の若いリスナーはNeo-Zonkの演奏に即座に歓声を上げるだろうか?
答えは「Yes」だと私は信じている。聴かせる音楽はそれこそYesでもいい。
ただただ若い人達は「ありがとロック」しか知らないだけだし、知らされていないだけなのだ。
だって「21世紀の精神異常者」を聴いてカッコ悪いと思う人間はこの世にはいないと思うでしょ?
知らないだけなの。
問題は、プロを標榜する若いバンドの子たちや、商品を作っている側の若手が最早「ありがとロック」しか知らないのではないか?ということだ。
その状態では音楽に明るい将来は見出だせないだろう。
今朝のニュースで驚いたんだけど、今度は政府が演歌の再興を援助することになったんだって?
レコード会社も大変だよな~。流行歌を政府が指導するなんてことあっていのかね?
でもね、実は「ありがとロック」もその一端なんじゃないかと最近にらんでいる。
1969年、ベトナム戦争盛んなりし頃にウッドストックが開催され、音楽や若者はそのパワーを露わにした。決してウッドストックがベトナム戦争を終結させたワケではないけど、反戦ムーブメントの一端を担ったことは確か。
昔そんな状況を目の当たりにした政府は、すでにロックには若者に対して計り知れない影響力があるのを知っていて、レコード会社に銘じて「ありがとロック」を流布させ、若者を骨抜きにしているんじゃないか?なんて考えちゃったりするんだよね。
スポーツさせて「♪ありがと、がんばれ」って歌わせておけば安泰じゃん?その反対を考えたら世の中スゴイことにならないとも限らない。
ま、こんなの単なるジジイの妄想なんだけどね。
どんな音楽を聴いても好き好きだからそれについてアレコレ言うのは大きなお世話なんだけど、「ありがと、がんばれ」だけじゃあまりにも若い人たちが気の毒だと思う。ロックじゃないもん、そんなの。
色んな音楽を聴かなきゃモッタイない。
「Tarkus」や「Knife Edge」を知らないで死んでいくなんて…。
「Knife Edge」を聴いてカッコいい!と思って、今度はヤナーチェクの原曲「シンフォニエッタ」を聴いてみる。コープランドの「ファンファーレ」でもグルダの「プレリュードとフーガ」でもいい。もちろんムソルグスキーでもいい(←私は苦手)。
こうした自発的な探求行為こそ音楽の大きな楽しみのひとつなんだよね。
でも「ありがとロック」はそれがムズカシイ。「売らんかな」で人工的に盛り上げた「草食系ロック」はどこかに大きなミッシング・リンクが存在していて、過去の偉大な遺産を継承できていないからだ。
そんなことばかり考えている日常にNeo-Zonkに出くわしたものだから、小さいながらも現在の音楽シーンに一石を投じるつもりでMarshall GALAにご出演願ったのだ。
文字通り私の「Take a pebble」だった。(今日はKeith Emerson追悼の意味も含めてELPで揃えてある)
ゴメンナサイ。ちょっと書きすぎた。Zonkを聴きながら書いてるうちについ興奮しちまったもんで!
ま、平たく言っちゃえば、昔のロックよ、帰って来てくれ~!ってこと。
2曲を演奏し終えて大歓声を浴びたNeo-Zonk。
私の顔も「してやったり!」になってる?
祥子ちゃん、「こんなへヴィなイベントに出させて頂いてとてもうれしかったです。」
この「へヴィ」が「変な」に聴こえちゃって、「こんな変なイベントに出させて頂いてとてもうれしかったです。」って言ったのかと思ってビックリしちゃった。
普段のライブでの祥子ちゃんのMCもおもしろいでね。へヴィな冗談かと思ったワケ。
ショボンちゃん、「高田馬場のバズーカ・スタジオでNATALに出会って、もうそれからNATAL一辺倒です。」
ショボンちゃん、ありがとう!
若きスーパー・ドラマーを紹介してくれたバズーカさんもありがとう!
ここで祥子ちゃんが目ざとく私が脇に挟んでいたモノを発見。
それはMarshall HEADPHONESのホームスピーカー、STOCKWELL。
最大出力25Wのパワード・オーディオ・スピーカー。
フル充電で25時間の再生が可能というすぐれもの。
何しろ音がいい!
持ち運びに便利なこの薄いボディから信じられないぐらいのリッチな低音が飛び出してくる。
…ということで私も自前のiPodを使ってデモンストレーション。
Neo-Zonkの3人も「ウワ~、いい音~!」とビックリ仰天。
しかもSTOCKWELLから流れ出て来たのは昨年の12月にリリースしたNeo-Zonkの最新アルバム『Luminous』から「Flow of Time」。このあたりの仕込みにヌカリはない。
音もいいけど、曲がいいから余計に良く聴こえるのだ。
コレがそのCD、『Luminous』。
ナントこの日、Marshall GALAにお越し頂いた1割近くのお客さんがこのCDをお買い上げになったそうだ。
何しろ1曲目が終わったとたんに物販コーナーへ走った方もいらっしゃったとか…。
やっぱりね、みんなこういう音楽に飢えてるんですよ。
オリジナリティに富んでいて、音楽家としての技術を発揮していて、細かいところまでちゃんと作り込んだ音楽。
Neo-Zonkにご出演願って本当にヨカッタ。私の目も節穴じゃないってことよ。
紹介してくれたショボンちゃんに感謝!
がんばれプログレ!負けるなZonk!
Get well soon and long live prog rock!!
Neo-Zonkの詳しい情報はコチラ⇒neo-zonk-site