人間椅子 レコ発ツアー『萬燈籠』~おどろの日
山がつの 垣根のおどろ むぐらのかげに (源氏物語より)
「おどろ」というのは草木が乱れ茂る様を指す言葉…。人間椅子はそんな様子の道を歩んできたのであろう。
先日レポートしたようにニュー・アルバム『萬燈籠(まんどろ)』を発表した人間椅子。
そのレコ発ツアーが敢行され、9月の末、東京でツアー・ファイナルを迎えた。
そういえば、この「レコ発」という表現だけはいまだに「レコード」という言葉を使っているのが解せん。ナゼ「シディ発」と言わないのであろうか?
ツアーは各地で好評を博し、ソールド・アウト続出。
この東京でのツアー・ファイナルは「おどろの日」と「どろろの日」と銘打って2日に渡って開催された。もちろんソールド・アウトの満員御礼!
SGとのコンビネーションの妙はいつも書いている通り。今回も素晴らしいサウンドだった。
今日もオープニングSE「此岸御詠歌」が流れる中登場し、1曲目に演奏されたのは「黒百合日記」。
まさに一発目にもってこいのへヴィ・チューン。全曲へヴィ・チューンだけど。
続いて鈴木さんの歌うところの「地獄変」。
ここまではニュー・アルバム『萬燈籠』の再現。つまりCD収録と同じ曲順で展開する。CDの仕上がりへの大きな自信をうかがわせる
「桜の森の満開の下」。1990年発表の人間椅子クラシック。
MCをはさんで「ねぷたのもんどりこ」。
口に出して歌ってみるがいい。「♪ね~ぷたのもんどりこッ」って。気持ちいでしょう?
歌ってこういうもんだ。Marshall Blogで度々書いているが、ビートルズの本当のよさは最終的には歌詞の意味がわかって歌ってみなきゃわからない。つまり歌詞とメロディがどうくっついているかということなんだよね。
で、「日本語が8ビートに乗りにくい」なんてことはもう何十年も言われてきたけど、最近言われなくなったでしょ?
ナゼかというと日本人は「音楽の鎖国令」を布いて、「J-POP」なる辺境の極東の音楽を独自に開発したからだ。
それまでサウンドのカッコよさしか味わえなかった洋楽を完全に葬り去り、何となく洋楽ロックのエキスっぽいところだけを抽出し日本語と合体させた。「ああ~、歌詞の意味が理解できて楽しいナ!」状態。
このあたりは英語を平気に自分の国の言葉として取り入れる感覚に似ているのかもしれない。もちろん英語も世界の言語から単語を借用して成り立っている言葉だが、日本人のやり方はその借用した単語をより日本語にしてしまうところが英語とチョイと違うし、そもそもアルファベットを使わない民族なのにカタカナを駆使して日本語にしてしまう。頭いいんだよね、日本人は。
そのテクニックを歌に巧みに利用したワケだ。
で、そうしてマンマとロックのエキスを吸収して、「J-POP」なる自分たちの音楽を手に入れたまではよかった。しかし、代償も大きかったことをそろそろ認めるべきではなかろうか…ってなことをいつも言ってる。
それは「歌謡曲」と「日本のロック」をきれいサッパリ失ったことだ。
そんな状況下で人間椅子をはじめMarshall Blogにいつも登場してくれるロックのミュージシャンたちには本当に「日本のロック」の保護、伝承、発展に寄与してくれる真のアーティストたちだと思ってる。
イケね、イケね、またやっちまった。
で、ナニが言いたいのかというと「ねぷたのもんどりこ」なのだ。
ロックの歌詞というのものは、自然と標準語で書くようになっているような感じがするでしょ?関西弁もたまに見かけるけど。
で、標準語ってのは冷たい感じがしなくもなくて、一番ロック・ビートに乗りにくいのではないかという気がするのだ。研究したワケではないので知ったようなことを言うのも恐縮なんですけどね。
そこで、登場するのが方言ですよ。特に東北弁。
もしくは各地に残っているおもしろい響きや気持ちのよいリズムを持った言葉をロック曲の歌詞に使うのはひとつの方法論だと思っている。
東京生まれ東京育ちの私には即座にいい例が思い浮かばないが、「おっちょこちょい」や「ノンキ者」を愛情を込めて「たーくらたー」と呼ぶ信州の方言がある。
私は長野に比較的長いこと生活していたことがあったのでこの単語を知ったが、ま、一度も街で「この、たーくらたーめが!」なんて誰かが叫んでいるのを聴いたことはない。でも、なんかいいでしょ、「たーくらたー」。言葉にリズムがある。
方言ではないが、「すっとこどっこい」なんてのも言葉がドライブしてる。そういう意味では「ずいずいずっころばし」は最高のロック歌詞だったりして…。
あんまりこういうことばっかりやっていると英語の歌詞よりワケが分からなくなってしまう恐れもあるので要注意だが、「がんばれ」、「まけるな」と歌っているかと思えば、「ゆっくり」だの「気張るな」だのと歌っているそこらへんのJ-POPの歌詞よりは少なくともよっぽどおもしろい。
最近、友川さんが注目を浴びていることも私はうれしく思っているのさ。
で、気がつくと今日も「♪ね~ぷたのもんどりこッ」って歌ってた。
続いて「幽霊列車」。
『萬燈籠』から「月のモナリザ」。これも鈴木さん独特の声が曲にピッタリとマッチしたへヴィ・チューン。「霊廟」なんて言葉を歌の中で初めて聴いた。歌詞は和嶋さん。
ここで少々『萬燈籠』から離れて新旧取り混ぜのコーナー。
「暗い日曜日」、「死神の饗宴」、「相剋の家」。
これはお気に入りの一枚なの。写りはよくないんだけど、「エレクトリック・ギタリスト」をうまく撮ったと思ってる。どうすか?
それにしても「和嶋+Marshall+SG」というのは「人間椅子」という解を求めるための必須の公式ですな~。この三要素のうちのどれかひとつが欠けても「人間椅子」にならないんじゃないんですかね?
今日は『萬燈籠』から「蜘蛛の糸」。
この猛烈にガナリ立てる無茶なシャウトが実に気持ちイイ!
やんやの拍手を浴びるアニキ。
中には「ダム~」なんて掛け声も!いくらなんでも「ダム~!」はないでしょ!
…んじゃ、ご希望にお応えして<どろろの日>のレポートではタップリとダムの話しでもしましょかね?覚悟しておいてくださいね。
ノブさんの歌に続いて同じく『萬燈籠』から「新調きゅらきゅきゅ節」。
「男子たるもの」か…。この曲なんて日本語とアップテンポの8ビートがからんだ曲の最高峰ではなかろうか?下手すりゃ「Manish Boy」だぜ!
「ぶんがちゃっちゃ」がまたさっきの「すっとこどっこい」よろしく実に気持ちイイ。
「恐怖!!ふじつぼ人間」。ク~、これまたグッとくるゼイ!このまま歌詞を適当な英語に置き換えたら完全にイギリス人が得意とするロックになるよ。
でも、そんなことをする必要はまったくない。この歌詞をイジってはならない!
「なめくじだらけの人間が ぬめりを垂らしてやってくる」、「腐臭の町には 鳥のかげさえなく 汚泥の川には畸形の魚浮かぶ」…スゲエ歌詞だ。
加治木剛の「川原の土手に腐った猫が横たわり」も驚いたけど、そんなノリだね。おとぼけキャッツ好きだった~。
タイトルは「仮面ライダー」みたいだけど、歌詞の世界は日野日出志を想起させる。
「人面瘡」。それこそ「どろろ」に出て来たね。百鬼丸が劇薬で退治したんだっけかな?
いかにもブリティッシュ・ハードロック然たるギター・リフが猛烈にエキサイティング!
観客はもう完全に興奮のふじつぼ…イヤ、るつぼと化した!
これだけで大満足の本編。でも当然コレで終わるわけない。
狂乱のアンコール。
続いて「ダイナマイト」。次回のレポートではダイナマイトの話しもしましょう。
「津軽のジミヘン」、和嶋さんの至芸が次々と繰り出され観客の大喝采を浴びる!
最後まで猛烈にプッシュするノブさんのドラミングはまるでダムの水叩きで放水を浴びまくるようだった。
さらにダブル・アンコールで「どっとはらい」。
いかにも人間らしいへヴィ・チューンで「おどろの日」の幕を閉じ、その興奮はそのまま翌日の「どろろの日」に持ち越されることになった。
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