Marshall Blog

　
コロナが明けてから3回目の「楽園」。
犬神さんの「楽園」で1年の早さを思い知ることは以前に書いたが、復活してからもう3年も経っただなんてにわかには信じられん。
『宇宙一超絶技巧雑技団』と銘打って毎年10月に開催される楽園上げての大イベント。
その中で開催される犬神サアカス團の単独公演は、今年は『生贄』と題された。 いつも通り冒頭はテレビでおなじみ、イベントの主催者であり「劇団あぁルナティックシアター」を主宰する橋沢進一からのご挨拶。
今年の『宇宙一超絶技巧雑技団』は橋沢さんの作/演出/出演で『1955』という芝居が期間中に何度か上演された。
民放のテレビ局の開設に際してのテレビ局員たちの奮闘を描いた昭和レトロスペクティブなドタバタ喜劇で、少しだけ泣かしちゃうという作品。
観たかったナ。
1955年というと昭和30年。
映画はテレビの台頭によって斜陽化したとよく言われているが、それは昭和33年頃かららしい。
しからば、まだ映画に元気があった1955年には皆さんはどんな映画を観ていたのかな？
洋画では…『エデンの東』、『理由なき反抗』、『旅情』、『ベラクルス』、『スタア誕生』…。
『エデンの東』のジェイムス・ディーン扮する「キャル」には泣けるよナァ。
注目すべきはリチャード・ブルックスの『暴力教室』かな？
この辺りら「ロックンロール」が始まった…とされている。
日本映画はどうか？
成瀬巳喜男の『浮雲』、五所平之助の『たけくらべ』、木下恵介の『野菊の如き君なりき』と『遠い雲』、久松静児の『警察日記』と『月夜の傘』、市川崑の『こころ』、豊田四郎の『夫婦善哉』、今井正の『ここに泉あり』、田坂具隆の『女中ッ子』、田中絹代が監督した『乳房よ永遠なれ』、新藤兼人の『狼』、黒澤さんは『生きものの記録』を撮ってズっこけている。
全部観たけど…と言うより、観たヤツを取りあえず並べてみたんだけど、昔の映画はヨカッタナァ。
『浮雲』の森雅之とデコちゃんなんかタマらんよ。犬神サアカス團登場。
例によって『宇宙一超絶技巧雑技団』の第1部はコントのコーナー。
昨年に引き続き「ショートショート童話」を演じた。
みんなが知っている童話を極端にミニマイズして1分とか30秒で演技するというムチャな企画。今回のお題はまず…
凶子姉さんがスッと脱いだこの草履でもうおわかりでしょう？
そう「シンデレラね。
このロマンティックな物語を1分で完璧に演じてみせた。
さすが超絶技巧雑技団！
2つめは30秒コース…コレは大変だよ。
お題は『西遊記』。
下は配役をキメているところ。
たいていの場合、「猪八戒」でモメるよね。
そういえば、明兄さんと同じNATALを使って布袋寅泰さんのバンドのドラムスを担当していたリバプールのドラマー、スティーブ・バーニーね。
彼が子供の頃、イギリスでマチャアキの『西遊記』が猛烈にハヤったんだって。
夕方に放映していたらしく、子供たちはとにかく『西遊記』を見逃さないように寄り道をしないで学校からまっすぐ家に帰ったそうだ。
で、イギリスで放映された『西遊記』のタイトルはただの『Monkey』だったそうです。凶子さん演じる三蔵法師と孫悟空たちが力を合わせて天竺に向かう姿が30秒で感動的に描かれていた。ということで爆笑のうちに第1部が終了。
続く第2部は犬神サアカス團狂熱のライブだ！「♪アガス…アガス…アガス」
客電が落ちて聞こえて来たのは素朴な弦楽器の音と不気味な低い声。
問答無用でカッコいい。
早速明兄さんにその音源について教えてもらった。
歌っているのはロシア連邦アルタイ共和国を代表する歌手「ボロット・バイルシェフ（Bolot Bairyshev）」。
この人、私と同じ齢だわ。
「我が故郷のクルルク」というヒット曲を持つアルタイのスター歌手だそうです。
犬神サアカス團が使っているのは「秘密の夢」という曲。
ホーミーのようにノドを使った特殊な唱法によるアルタイ地方の「カイ」という音楽らしい。
他の曲を聴くと「ずいずいずっころばし」ソックリのメロディの曲なんかもあって我々のルーツがモンゴルとかアッチの方なんだナァということを感じる。
なんとジョー・ザヴィヌルとの共演経験もあるらしく、何度か来日していて去年も「チュクル・カバイ」というグループで来たようだ。
観たかった！
とにかくスゴイ声だわ。 ボロットがかき鳴らしているのは「トプショール」というモンゴルの2弦の楽器だそうです。

そして、いよいよ犬神サアカス團が姿を見せた！
1曲目は「メメントモリ」。
「♪生きているヤツは手を上げろ！」
犬神凶子ONOCHIN犬神敦犬神明 「メメント・モリ（Memento Mori）」とはラテン語で「自分がいつか必ず死ぬことを忘れてはいけない」という意味。
「メメント（Memento）」は「記憶する」の命令形で、「モリ（Mori）」は英語で言えば「mortal（モータル）=死ぬべき運命」だ。
反対の「不滅の」は「immortal（イモータル）」ね。曲はそのまま明兄さんの疾駆するドラムスに乗って「自殺の唄」へ。明兄さんが繰り出すドライブ感満点のドラム・サウンドはNATALから。
愛用のアッシュのキット。この曲のキモはナンと言っても行儀の悪いコーラス。
それを「お客さんと一緒に歌おう！」ということで練習。そして曲に突入。
ナニせ曲自体はノリノリのドライビング・チューンだから盛り上がるに決まってら。
ひとつ…歌詞に「焼身　入水　ガス自殺」とあって「入水」を「にゅうすい」と歌っているけどコレは
「じゅすい」と読むのが正しい。
「入」という字は呉音で「にゅう」、漢音で「じゅ」と読む。
漢字が日本語になる時には呉音が使われることが多かったが、この場合は漢音で「じゅ」と読むことになったんだって。
他にも天皇のお后が正式に内裏にはいることを「入内（じゅだい）」って言うよね。
この「内（だい）」も漢音だ。さぁ、コーラスのパートだよ！「♪死ねッ」 「♪死ねッ」
「♪死んじまえ！」
こんな不謹慎な歌のコーラスで…なんて言ったら失礼かも知れないけど…とにかく大盛り上がり！
それが犬神サアカス團のライブ。
だから楽しいのだ！「どうもありがとう。
改めましてこんばんは、犬神サアカス團です。
毎年恒例のコノ『楽園』での公演に呼んで頂きまして本当にありがとうございます。
今日のタイトル…コレ橋沢さんが付けてくれたんですか？」「そう…この『生贄』というタイトルは橋沢さんが私たちに内緒で付けてくれました。
なんの相談もなく『生贄』です。
『生贄』って言うくらいだからね、自分の命を捧げなきゃいけない。
そのぐらいの気持ちで行きますよ、今日は。
『生贄』っていうのは、獲った獲物を神仏に差し出すっていうかね…そういう命のあるモノ物を差し出していい事を期待しようじゃないか…ということですね」「今日はライブハウスではなく小劇場でのライブです。
毎年、異様な盛り上がりを見せます。
汗だくで、全力で、盛り上がっていきたいと思いま～す！」ココでいつもの口上。
「今宵お目に掛けますは犬神一座の大サアカス…
どうかひとつ…最後まで…最後まで…最後まで盛り上がっていくぜ～！」3曲目は「スケ番ロック」。
またしても気骨溢れるドライビング・ナンバー。リフにソロにと疾走感溢れるギターが最高にカッコいい！
ONOCHINはもちろん今日もMarshall。
「JCM800 2204」と「1936」の最強コンビ。それに加えてはエフェクター音を担当する「ORIGIN50」。早速その最上のギター・サウンドでソロが炸裂！ そして暴走完了！続けて「カンフートーキョー」。いつもはスタンド・マイクで両手を自在に動かしてフリをこなす凶子姉さんだが…「♪ウッ！」…「♪ハッ！」…
と、今日はスタンド抜きでマイク片手に「♪一撃よ～！」もうイッチョ続けて…ONOCINのソリッドなリフから…「天誅」！連続するノリノリ・ハード・ナンバーで…大盛り上がり！
ナンカ今日はテンションが高い。
これが「生贄」のご利益なのか！「どうもありがとうございます。
さぁ、ワンマンのMCと言えば恒例の全員MCです。
今日は、秋…欲の秋。色々な欲に満ちてますよ。
敦くん、『欲の秋』をお願いします」「皆さん、今日はお足元の悪い中ご来場頂きまして誠にありがとうございます。
どんな欲があるかと言うと…ボクは賃貸に住んでるんですが、家賃がかかるじゃないですか。
毎月やっぱり払っていくんですが、その家賃が自動的にその払われる仕組み？…たとえば箱があって、ソノ箱が実はすごい箱で、毎月25日になるとその家賃が自動的にその箱に振り込まれる。
そんな箱が欲しいです。
つまり何かって言うと、『働きたくない』ということです。
人間は何のために生まれて、何のために生きるのか、わからないまま終わるそんなのは嫌だ…と。
やなせ先生もボクも同じ思いです。
以上です」「自動的にお金が湧き上がってくる箱？
成功をお祈りしております。
すごい欲だったね。
全然つながらないけど次の曲は…皆さん、座って聴いてください」明兄さんのフィルから始まるロッカ・バラードは「空の色は何色ですか」。凶子さんがシットリと、そして伸びやかに歌う。ギターを持ち替えたONOCHINのソロが曲のドラマを彩り…凶子姉さんがその美しい声で「♪ラララララ～」と歌うと感動が倍増する。「どうもありがとう。
さぁ、続きましての全員MCはONOCHINさん」「欲と言えば…皆さんは古着を買ったりします？
90年代くらいに『フリー・ブーム』ってあったじゃないですか。
渋谷とか下北沢で古着を買っていたんですが、人が着たヤツはイヤだなって急に思っちゃって1回途絶えたんですよ。
最近またチョットいいなと思って…結構良いのがあるので古着を買いあさってます。
秋だからなのかはわかりませんがナンカよく古着を買っていますね…という話」
そして例によって馬の話でMCを締めくくった。
またひと山当ててお客さんに大盤振る舞いするつもりでいるの。
スゴイ人だ！
　
犬神サアカス團の詳しい情報はコチラ⇒犬神サアカス團公式ウェブサイト

＜後編＞につづく
　
☆☆☆私の谷中墓地（その14）☆☆☆
チョット前まであんなに青々としていた谷中墓地のメインストリートもしばらく来ないウチにスッカリ冬の風情となった。
しかし…来る度に外国人が増えているような気がするわ。
さて、今日は前回予告した通りエライ人の悪事について少々書き連ねてみたいと思う。
まずは映画の話から。
「私が大好き」という理由だけでもう何度もMarshall Blogに引き合いに出されている1957年（昭和32年）、川島雄三監督の『幕末太陽傳』。
このポスターの左幸子を見ているだけでまた観たくなってくる。
下はそのワン・シーン。
中央は石原裕次郎扮する「高杉晋作」。
右の小林旭は「久坂玄端」役。
左は二谷英明が演じる「井上聞多」。
みんな演技はお世辞にもウマいとは言い難い。
時は幕末、「英国公使館焼き討ち事件」前夜。
場所は東海道最初の宿場「品川宿」の「相模屋」という旅籠。
土蔵のような外装だったので「土蔵相模」と通称された。
旧東海道には「土蔵相模」が存在した印だけが残されている。
今はファミチキを売っています。さて、最初の主役は「井上聞多」、あるいは「志道聞多」…つまりは「井上馨」。
スゲエ勲章だナァ。
ルックス的には二谷英明とエライ違いですな。
言わずと知れた元長州藩士の明治の元勲。
学校の日本史の授業では桂小五郎（木戸孝允）だの、伊藤博文だの、山縣有朋だの、岩倉具視だの、「江戸幕府を倒して明治維新を実現させた偉人」として教わるけど、ホントに偉大な人だったのか？…というお話。鹿鳴館を作ったのもこの人だ。
高杉晋作の子分だったこの井上馨という人は、伊藤博文とともに新政府きって女好きとして知られていた。
特に井上は金銭に対する欲望が誰よりも強く、そんな輩が今でいう財務大臣を務めてしまったワケだから、まさに泥棒に財布を預けたようなモノだったという。 それで触れておきたいのが「尾去沢鉱山事件」という強奪事件。
「尾去沢（おさりざわ）」というのは秋田の角館にあった鉱山で、「村井茂兵衛」という盛岡の豪商が保有していた。
その茂兵衛は盛岡藩に多額の融資をしていた。
当時の慣習として、そうした藩に向けて発行する証書は、事実とは反対に「貸主が金を借り受けた」旨の文面になっていた。
大名に借金するのは畏れ多いということで、備忘的な意味でそういうスタイルの証書を振り出していたようだ。
で、この鉱山が欲しくなった井上はこの証書の本当の意味を知っておきながら、書面通りに茂兵衛に借金の返済を迫った。
言い直すと、借金をしていた方が借金を取り立ててしまったのだ。
困ってしまった茂兵衛は不本意ながらその金を分割払いで支払うことにしたのが、井上は分割払いをガンとして認めず一括返済を迫った。
もう1回言うけど、借りている方が貸している方に一括で金を払えと迫ったのです。
茂兵衛は泣く泣く鉱山を手放し、井上はまんまとそれを手に入れた。
コレがあまりにもヒドい悪行だったために事件が露見し、井上は失脚した（後に復活）。
ものすごく簡単に「尾去沢鉱山事件」を説明するとこういうことになるようだが、もちろん事件には渋沢栄一等、他にも悪人がウジャウジャとカラんでいる。
取りあえず「明治維新の立役者のひとりである井上馨がそういう人」と知っておけばよいでしょう。
そもそもナンで明治維新を達成したことが偉いのか？
明治新政府が御一新後にやったことはすべて幕府が立てた企画だったんだってよ。
下はその尾去沢鉱山。
鉱山は1975年に閉山したが、今年までその跡を一般公開していたそうだ。
見に行けばヨカッタ！（現在は見学の申し込みが必要）さて、この事件が井上馨の墓があるワケでもない谷中墓地とナンの関りがあるのか？
それは下の墓に眠る人が深く尾去沢鉱山事件に深く関係したから。コレは「岡田平蔵」という人の墓。
墓石が大分傾いていますな。
岡田は井上から尾去沢鉱山を払下げてもらい、当の井上他と「岡田組」を設立。
その後、岡田が銀座で死体となって発見されると井上は「先収会社」という商社を設立した。
これに目をつけた大隈重信と三井組の番頭が働きかけて「三井の商社」として開業したのが「三井物産」なのだ。
井上は三井とズルズルベッタリで、その超緊密な関係を指して西郷どんは、井上に面と向かって「三井の番頭さん」と呼んだそうだ。
こんなことを学校で習った人はいますか？
いるワケないね。
勝者の「負の側面」は歴史には刻まれないからね。
ところで、この原田伊織さんという文筆家の本ね、この人、京都生まれで会津の人でもないのに長州藩を蛇蝎のごとく嫌い、一体何の恨みがあるのか知らんが下の著作の中で徹頭徹尾長州の悪行を糾弾している。
愉快痛快、大変にオモシロいです。
そして明治維新のせいで今に至るその後の日本がいかにヒドくなってしまったかを書いている。
この2冊、山口県の人、特に萩あたりの人なんかが読んだら気を悪くするだろうナァ。
ブックオフで200円ぐらいでよく見かけるので興味のある方はどうぞ。
次…コレも長州を代表して山縣有朋。
こんなに勲章をブラ提げていたらさぞかし重かったでしょうネェ。
欲しかったでしょうネェ、勲章。
まずは「山城屋和助事件」。
コレもヒドイよ。
下の写真は長州の「奇兵隊」で山縣の部下だった野村三千三（みちぞう）。
御一新後、野村は「山城屋和助」を名乗り、明治政府の兵部省大輔（今でいう防衛大臣）となった山縣に取り入り、軍需品の納入でたちまち財をなした。
言うまでもなく山縣も徹底的に甘い汁を吸い上げた。
要するに今も決して絶えることがない典型的な「癒着」の形態ね。
欲をかいた和助は生糸相場（当時、生糸は日本の外貨獲得の最有力業種だったからね）に手を出し、その巨額の資金を何の担保もなく兵部省、すなわち山縣から引き出した。
好事魔多し。
生糸相場が暴落し、和助は投機に失敗して莫大な損失を被る。
すると和助はまた山縣に泣きついて再起の資金を兵部省に捻出させた。
コレ、元は税金ですからね。
すると和助はその金を携えてパリに飛び、豪遊してしてしまった。
今と同じですよ。ナゼかパリ。
まだ日本人が珍しかった当時、「パリで放蕩を尽くしている日本人がいる」という話しが広まり、果てはドーバー海峡を越えてロンドンにまでそのウワサが聞こえ及んだという。
この事件が露見したことがキッカケとなり、陸軍省内で長州閥を糾弾する動きが活発化、山縣の辞職に至った。
そして、和助は日本に連れ戻された。
当たり前だ。
そして、和助は陸軍省内部の一室で自らハラをかっさばいて命を絶った。
だから事件の詳しい部分は闇のままで終わってしまったらしい。
和助の墓は2つあり、そのウチのひとつはこのシリーズの（その7）で紹介した横浜の「久保山霊園」にある。山縣有朋がらみでもうひとつ。
そして、ココからが今回の本題。
下の絵を見たことがあるでしょう？
シャケと花魁。
コレを描いたのは「高橋由一（ゆいち）」という明治期の洋画家。
（その12）に出て来た「淡島椿岳」の師匠だ。
一方、この高橋由一の師匠は？というと…
「日本で最初の洋画家」と言われる「川上冬崖（とうがい）」という人。
この人の墓が谷中にある。「冬崖川上先生の墓」…コレ、西洋人の名前のように名字と名前の順番が逆転している表記の墓石を時々見かけるんだけど、何か特別な意味があるんかいな？
調べてみると墓石に彫り込む名前について統一されたルールはないので、地域や宗派によって好きにやって良いようだ。
今度、谷中墓地の近くの墓石屋に寄って確認してみよう。冬崖は長野の松代の出身で江戸に出て寛永寺に務める傍ら絵を学び、その後幕臣となり、蕃書調所（ばんしょしらべしょ＝幕府の東大）に出仕して「絵図調出役（えずしらべでやく）」という西洋の絵画や地図を調査する職に就いた。そして長崎の「海軍伝習所」へ留学し、オランダ由来の遠近法や測量術を身につけた。
下はその海軍伝習所の跡。
数年前まではココに長崎県庁があったが、今は空き地になっている。
写真の奥の方が「出島」。 コレは冬崖の代表作のひとつ「ナポレオン像」。下は「横山由清（＝保三）」という国学者が翻訳した「魯敏遜漂行紀略」。
コレ、何かというと「ロビンソン漂流記」のこと。
言い換えると、この横山由清という人が日本にロビンソン・クルーソーを紹介した。
これじゃ翻訳されていても読めないな。
その挿絵を描いたのが冬崖だった。コレがその横山由清の墓。由清は晩年には東京帝国大学の教授を務めた。こんな顕彰碑が立っているぐらいのスゴイ人なのよ。
そして、この碑の撰文を書いているのが「細川潤次郎」という人。細川の墓も谷中にある。細川は元高知藩士の法学者。
スゴイよ、「中浜万次郎」から英語を教わったというんだから。
そう、「中浜万次郎」とはもちろん「ジョン万次郎」のこと。
井伏鱒二の『ジョン万次郎漂流記』はそれほどでもなかったけど、漂流文学の大家である吉村昭先生（また出た！）が、アメリカに漂流し日本に新聞を持ち帰った「浜田彦蔵」を描いた『アメリカ彦蔵』やロシアに漂流して「エカテリーナ2世」に謁見して許しを得、とうとう日本に帰って来た「大黒屋光太夫」を描いた『大黒屋光太夫』なんてのは読み出したら止まらないぐらい面白い。
三浦綾子の『海嶺』という長編もすこぶる良い。
コチラはアメリカに漂着して、しまいにはロンドンまで行ってしまった「にっぽん音吉」の話。
で、細川も長崎へ赴き、「高島秋帆」に砲術を習った。
ココでやや脱線。
下は長崎の観光名所として名高い「グラバー園」。そこに高島秋帆の大砲が展示されている。そしてコチラ。
長崎市の路面電車の終着駅のひとつ「崇福寺」からすぐのところにある高島秋帆の住居跡。「大砲の実習コーナー」みたいなスペースもあって、細川潤次郎もココで勉強したワケだ。
ちなみに東京の「高島平」はそこで高島秋帆が砲術の演習を実施したことからその名が付けられたんだよ。
コレが入り口なんだけど、長崎って住居面積が小さいせいなのか、こうして史跡のすぐ横まで民家が立っているところが多いんだよね。
人のウチの前の狭い路地を通って名所旧跡を訪ねるパターンが少なくない。さて、冬崖というか、山縣有朋に戻る。
下は1975年の直木賞を獲った井出孫六の『アトラス伝説』という本。
単行本には3本の短編が収録されていて、どれも興味深く読んだが「野口英世は本当に偉人だったのか？」ということテーマに据えた「非英雄伝」という作品が特にオモシロかった。
で、その直木賞を獲った「アトラス伝説」という短編に川上冬崖の「謎の死」について書かれている。
「アトラス」というのはギリシア神話に出て来る火の神様「プロメテウス」の兄弟で、世界の西の果てで天空を支えている巨神。
かなり重そうだ。
だから下半身の状態など気にしてはいられない。
ココから「アトラス（atlas）」が「地図」を意味するようになった。
つまりこの井出孫六の著書の題名にある「アトラス」とは地図のこと。その「冬崖の謎の死」とは、1881年(明治14年)、駐日清国公使館の依頼を受けた日本陸軍参謀本部地図課が日本地図を製作して清国に密売したとされる事件が発端となった。
まるで「シーボルト事件」のような話なのだが、その地図はすでに市販されているような類のモノで国家機密でも何でもなく、また金銭の授受があった事実も問題にならなかった。
それにもかかわらず、関係者数名が自殺を遂げ、事件は極秘のウチに処理される「謎多き事件」となった。
ということで『アトラス伝説』読んだんだけど、やっぱり謎だった…2回読んだけど難しくてよくわからん。
これでよく直木賞をもらったと思うよ。「直木三十五賞」は娯楽小説に与えられる文学賞だからね。
当時、陸軍参謀本部地図課長だった冬崖は静養先の熱海で発狂し、縊死したとされた。
ところが、冬崖の遺体は即座に荼毘に付されたため、その亡骸を見た者がいなかったらしい。
どうもこの事件には山縣有朋が深く関わっていてすべてをもみ消すために冬崖を暗殺した…ということを井出孫六は書いている。
謎だからわからない。
下が日本初の洋画家とされる川上冬崖。
谷中墓地に戻って…コレは「渋江信夫」という人の墓。渋江もその地図事件で嫌疑がかけられて自ら命を絶った。コチラは同じく地図密売事件に関わった「木村信卿（のぶあき）」の墓。
木村はその事件で要職を解かれたが自殺することはなく、石巻で67歳まで過ごした。
漢学やら兵学やらフランス語やら、多くの学問を修めた木村は蘭学を大村益次郎と戸塚静海に学んだ。下は谷中墓地内の天王寺の墓所にある「戸塚静海」の墓。静海は幕末の蘭方医でシーボルトに師事したが、それこそ「シーボルト事件」で幽囚の身となった。下が静海の学び舎の跡。
つまり長崎の鳴滝にあったシーボルトの私塾「鳴滝塾」の跡地。シーボルトはココで「二宮敬作」や「高野長英」といったたくさんの人材を育て、日本の医学の発展に貢献した。長崎に行くと「新大工町」というところがあって、そこの目抜き通りには「シーボルト通り」という名前が付けられているよ。
この辺りの街の雰囲気は凄く良かったんだけど、最近億ションが竣工して様子が大きく変わったようだ。静海はとても優秀な人で、「伊東玄朴」、「坪井誠軒」と並んで「三大西洋医学者」と言われた。今度はその伊藤玄朴、いってみよう！ この人は私も知っているぐらいスゴイ人で（会ったことはない）、その墓が同じ谷中の「天龍院」というところにある。伊東玄朴もやはり鳴滝塾でシーボルトに師事し、日本で種痘を広めた人のひとり。この「種痘を普及させた人」ってのが結構たくさんいて、もう私の頭には入り切りませぬ。
すごくスリムな墓石だ。神田岩本町エリアで玄朴が開いた有名な「神田お玉が池種痘所」跡。
コレはもうチョット調査しないといけないところ。コチラは昭和通りと蔵前橋通りの交差点付近。正確にどこかがわからないのだが、この辺りに玄朴の住居があって、そこに種痘所を開いていた。
こうした種痘所が後の「東京大学医学部」になるワケ。さらに脱線の度合いは深まる。
もうチョット付き合って！
下の生首を持った幽霊の絵を見たことがあるでしょう？
コレは川上冬崖の作品。この絵はやはり谷中にある「全生庵」という寺に保管されている。このお寺はスゴイですよ。境内に入ってまず目に入るのがこの顕彰碑。篆額を見ると「山岡鉄舟居士の賛」と読める。
篆額を担当したのは明治政府総裁「有栖川宮熾仁親王」。
薩摩の和宮さまと婚約をしていたが、幕府が公武合体を打ち出し第14代将軍家茂に降嫁したため水戸德川斉昭の娘で「慶喜」の妹である「德川貞子」と結婚したが、2年後に病没してしまった。
まるで気の毒な熾仁親王。
そして、撰文は勝安房…つまり「勝海舟」という豪華バージョン。
勝海舟、山岡鉄舟、高橋泥舟で「幕末の三舟」ね。
泥舟の墓も谷中の「大雄寺（だいおうじ）」というところにある。それからコレは「三遊亭圓朝翁碑」。
要するにこの全生庵には鉄舟や圓朝の墓があるワケ。
圓朝は明治の大落語家で、「真景累ケ淵」、「牡丹燈籠」、「怪談乳房榎」、「文七元結」、「芝浜」、「死神」、「鰍沢」など、現在も演じられる噺をたくさん作った人。
坪内逍遥は「言文一致運動」で圓朝の落語の速記本をの参考にしたというのだからスゴイじゃないか。
コレは「辛亥革命」をサポートした「山田良政」という人の石碑。
碑文は「孫文」←なんかいいリズムだな。「孫文」といえばもう「梅屋庄吉」ですな。
長崎に行くとこんなトリオの銅像が立っている。
真ん中が「辛亥革命」の父「孫文」。
向かって左が庄吉。
右がその奥さんの「トク」。
こういう庄吉の伝記があって、結構オモシロかった。
何しろダイナミックな人で、奥さんのトクさんもまた立派な人だった。
庄吉は今の金額に換算すると1兆円ほどの資金を孫文に提供していたという。
ちなみに庄吉は映画の「日活」の創設者の1人でもある。コレは長崎にある旧「香港上海銀行長崎支店」。
写真の左端に写っている白い建物は「長崎ちゃんぽん」の元祖と言われている「四海楼」…なんだけどウチはトンコツ系のラーメンがニガテなので完全パス。この施設の2階が孫文と庄吉の資料室になっていて、興味がある人には見応えがあるかも知れない。
日比谷公園内にある「松本楼」は、孫文の奥さんの「宋慶齢」が弾いたピアノが置いてあったりして、庄吉や孫文と深い縁があるそうなのでそのウチお邪魔しようと思っている。
下の右から2番目の写真の女性がその宋慶齢。
コレが三遊亭圓朝の墓。大学生の時に落語好きの父が見せてくれた圓朝に関する記述にこんな話があったことを覚えている。
ナンの噺だったか忘れてしまったが、寄席で雨が降るシーンを圓朝が演じると客席がザワザワして出してしまった。
お客さんは口々に「イケね！傘を持ってこなかった」みたいなことを言っている。
つまり圓朝の雨の描写が、「本当に雨が降って来てしまった」という錯覚をお客さんに起こさせてしまったというのだ。
それぐらい噺も上手だったらしい。圓朝は幽霊画のコレクターとしても名高く、上の冬崖の作品も圓朝のコレクションのようだ。圓朝だけではなく「三遊」派の門弟の墓も立っている。歴代圓生の墓。
我々に馴染みのある昭和の「圓生」は6代目だ。「ぽん太之墓」などというと圓朝のペットの墓のように思われがちだが、「ぽん太」は圓朝の弟子で噺家になる前から「ぽん太」と呼ばれていた。
「上野戦争（次回やります）」の時、ぽん太は圓朝の元に駆けつけ、弟子が全員無事であったことを伝えたという。
何しろこの全生庵の辺りは上野戦争の最前線だったからね。
ぽん太には身寄りがなく、とても圓朝に可愛がられたことから傍らに墓が建てられた。
今いる「三遊亭ぽん太」は2代目。最後は「山岡鉄舟」。
ナンってたってこの寺の開基ですからね。勝海舟ばかりがよく人の口に上るが、鉄舟はそれより先に西郷どんとタイマンを張って江戸城の無血開城の交渉をした人ですからね。
この人、身長が188cmもあったらしい。
この時代だと大巨人だったろうね。
鉄舟は剣術、禅、書道のエキスパートでもあった。

何しろあんパンが大好きで毎日食べていたらしい。
それゆえ、鉄舟は銀座の「木村屋」の看板の揮毫をしている。明治21年（1888年）、皇居に向かって結跏趺坐のまま絶命したそうだ。胃ガン。
「結跏趺坐（けっかふざ）」とは正式な座禅座りのことね。
片足だけ反対側の腿の上に乗せる座り方は「半跏趺坐（はんかふざ）」。
何で私がコレを知っているのかというと、高校の時に親の命令で千葉の鹿野山に3日ほど座禅を組みに行かされた経験があるから。
私は滅法身体が固いものだから、とても結跏趺坐など組むことが出来ず半跏趺坐も出来なかった。
そうなるとどうするか…まだこの下のグレードがあって、それでやらせてもらった。
それを「胡坐（あぐら）」という。
仕方ないでしょ、できなかったんだもん！
今は尚更できません。谷中って本当にスゴくて、遠藤周作の『沈黙』のモデルになっている、拷問に耐えかねて宗旨替えをしたポルトガル人宣教師「フェレイラ」の墓も谷中にあるんだよ。
もちろんお詣りしてきました。＜つづく＞
　（一部敬称略　2025年10月15日　下北沢小劇場楽園にて撮影）