杉本篤彦~25枚目のアルバム『CLUB DAZZ』発売記念コンサート
今日は赤坂のジャズ・クラブ「B flat」から。
以前、Marshallの配達には来たことがあるんだけど、取材でお邪魔するのは今回がはじめて。
ところで、音を半音下げる「フラット」のことを「b」って表記するでしょう?アルファベットの「B」の小文字の「b」みたいな…。
反対に半音上げるのは「#」。
元に戻すのは「♮」。
コレって全部「B」の小文字の「b」が元になってるんだぜ。
ところで、「Bb」ってすごくいいキーだと思わない?
ロック・ギターからジャズ・ギターに転向してブルースを演る時、絶対に「F「より「Bb」の方が弾きやすい。
「A」のすぐお隣りだからロック感覚でフィンガーボードを捉えることができるんだもん。
Joe Passなんかはよく「G」で演るんだけど、アレはなんでかナァ?
もちろん「F」や「B」がダントツの標準キーで、次いで「C」、「Eb」、「Ab」ぐらいの頻度でキーが選ばれるのは管楽器のため。
「管楽器の連中を殺すには刃物は要らぬ、'A'か'E'があればいい」…と言ったのは私だが、管楽器の方々にロック・バンドのフォーマットに参加してもらい、こうしたキーでアドリブ・ソロを演ってもらうとオモシロイぐらい苦労する姿を見ることができる。
ロックで使うキーは管楽器奏者にとって鬼門なのだ。
その最高峰は#が6個つく「F#」だろう。「A」は3個、「E」は4個。
楽器の構造がそうさせるのか、比較的b系は6個必要とするGbの前のDbまでは結構持ちこたえるようだ。
開演時間通りにステージに上がった杉本さん。
相変わらずの名調子でひと言ご挨拶。
「お寒い中今日はありがとうございます。インフルが流行っていますけど、久しぶりにコンピューターのプログラミングでCDを作りました。それを今日初めてバンドで演奏します」
前作の『Tomorrow Land』はカルテット編成の一発撮りのスタジオ・ライブ録音だったからね。
これがその新作の『CLUB DAZZ』。
通算25枚目の杉本さんのリーダー・アルバムだ。
オープニングはアルバム同様に「Winter Sky」。
冬が嫌いな杉本さんが、冬を好きになろうとして作った曲。
MG100DFXだ!
コレがまた実にいい音!
かのウェス・モンゴメリーもトランジスタ・アンプを愛用していたんだよ。
もうずいぶん古い話になるが、思い返してみるに杉本さんとの出会いもこのMGシリーズを通してだった。
ご存知の通り、MGシリーズはエントリー・レベルのモデルだけど、そんなの関係ない!
このふくよかで澄んだ美しいサウンド。
杉本さんの独特のピッキングとマッチして素晴らしい音を聴かせてくれた。
MGシリーズは「MG Gold」として昨年のNAMMでリニューアルが発表された。
100Wモデルはもうないけどね。
新しくこの世に出て来るギター・アンプの100W種は絶滅の危機に瀕しているんだよ。
フン、それでいいのかね、ロック・ギターは。
今日はたまたまジャズをやってるけど。杉本さんは40年ぐらい前の11月にお父様を飛行機事故で亡くしていて、その日は空は晴れていたのにとても寒かったのだそうだ。
その「寒空」に対するトラウマを払拭するためにこの曲を作ったとのこと。
杉本さんらしい温かいフュージョン・ギター・サウンド。
寒い寒い冬空の下から暖房のきいた我が家へ帰って来た感じ?
「冬も悪くないな…」とギターが言っているようだ、この曲と「冬」で思い出したのはこのアルバム。
Wes MontgomeryとJimmy Smithの『The Dynamic Duo』。
理由はこのアルバムに入っている「Baby, It's Cold Outside(外は寒いよ)」という愛らしい冬の曲が入っているからだ。
でも、このアルバムはナント言っても1曲目の「Down by the Riverside」のWesのソロですよね、杉本さん。
ノッケからカッコいいんだけど、2コーラス目のターンバックで小便チビります。
コレと『Fullhouse』の「Blue'n'Boogie」と『Half Note』の「No Blues」が私にとってのWesのブルースの3大名演。
お、そういえば、この「Down by the Riverside」もキーは「Eb」だ。
コレ、1987年に梅田の第二ビルの地下二階にあった中古レコード屋で買ったんだよな…こんなツマらんことだけはナゼか覚えている。
「昨年は友人のアイデアで全国の色々なところでディスコ・イベントをやりました。すごく勉強になりました。
ボクもジャズを取り入れてダンス・ミュージックを作ってみたいと思い、友人が『Dazz』という言葉を作ってくれました。
そして、途中でリズムが変わったりするオモシロイ曲ができました」
アルバムの2番目に収録されているタイトル・チューン「Club Dazz」をプレイ。
杉本さんはいつか是方さんとモロにEarth, Wind & Fireの曲を演ってディスコっていたが、この曲はもっとソフィティケイトされているイメージ。
中間部のキメのメロディがカッコいい!進藤さんのキーボーズ・ソロも大きくフィーチュアされた。
「昔、高校から社会人までアメリカン・フットボールを8年ぐらいやっていましてね…去年色々とトラブルがありました」
杉本さんは日大から日産に進まれたのだ!
そして、アメフトの関係の友人から委嘱されて「甲子園ボウル」のテーマ・ソングをお作りになられた。
実際に甲子園ボウルに招待されて甲子園球場にご自身がお作りになった曲が鳴り響いて大いに感動されたという…。
「No Pain, No Gain」という曲。
ゴンゴンとランで突き進んで何度もファースト・ダウンをゲットしているようなイメージ。
それもそのハズ杉本さんのポジションはランニング・バック。
パスを投げたり、取ったりというプレイではなく、地上戦で足で稼いで勝負するポジションだ。
そして、曲はハードに盛り上がってタッチダウンをキメる。
トライフォーポイントをキメてくれたのは平石さんのベース・ソロ!
アレ?よく見ると…
アンプはEDEN(正しい発音は「イードゥン」)じゃないの~!
次は杉本さんのボーカルズを味わうコーナー。
曲は「We are all Related」。
「やり取りが盛んなワリには人間同士の関係が薄くなっているように感じます。
孤独を感じている人もいるんではないでしょうか?」
囁くように、また語り掛けるように、シンプルなメロディを歌い上げる杉本さん。
第1部の最後を飾ったのは「Kambi Bolongo」。
アフリカの言葉で「大いなる川」という意味だそうだ。
杉本さんは小さい頃にリンカーンの伝記の舞台で鎖につながれた黒人奴隷の姿を見て衝撃を受け、さらに中学生の時に「ルーツ」を観て、人間の愚かな差別や争いについて考えるようになったという。
「ルーツ」は本当に衝撃的だったよね。
ウチの下の子にDVDを借りて来て見せたところ、やっぱり最後まで夢中になって観ていた。
私は1回目の最初の方を床屋のテレビで観たのを覚えている。
ナゼかというと、その床屋のオバサンが、テレビに映し出されるクンタ・キンテたちのアフリカの生活の様子を見て「ヤダね~、こういう生活はしたくないね~」としきりに言っていたからだ。
見るからにアメリカの歴史には興味などないようなオバサンだったからそんな発言も無理はない。
でも、ITにがんじがらめになって、危険でおかしな食べ物だらけの今の生活もなかなかにヒドイものだと思うけどね。
黒人奴隷についてはこういう本があるので興味のある方は読んでみるといい…なんてエラそうに言うといかにも私も読んでいるようなんだけど、実は字が小さすぎて最後まで読めな~い!(健さんには内緒だよ)
それと訳文があまりにも堅苦しすぎて何度挑戦しても途中でめげてしまうのだ。
でも、コレによると、黒人だけでなく、当時は白人の奴隷というのが大勢いて、それは悲惨な目に遭わされていたらしい。
アレックス・ヘイリーのおかげもあって「黒人奴隷」といえば北米がすぐに舞台になるけど、南米も相当ヒドかったんだよ。 板垣さんのソロ!
板さんとは2017年7月のアニソンのイベント以来。
あの時は驚いたわ~。
休憩を挟んで第2部は「泥棒の曲を演ります」と、前作『Tomorrow Land』から「怪人二十面相」からスタート。
ココでも進藤さんのピアノ・ソロから始まり、各メンバーがソロを披露した。
杉本さん、この曲がお気に入りなんだね。
葉山でもたいてい演奏するもんね。
いつもの杉本さんスタイル。
このオクターブを人差し指と薬指で片づけちゃうところがスゴイのだ。
普通、小指を使うでしょ?
「ありがとうございます…ふところは大丈夫でしたか?」とお得意のパンチラインもキマった。
江戸川乱歩…いいよね~。
大正って素敵だ。
杉本さんは歴史がお好きで新鮮組の土方歳三をテーマにした「Abordage」という曲を作っている。
「Abordage」についてはコチラに書いておいたので興味のある方はどうぞ。
そして、今回杉本さんは坂本龍馬のテーマをお作りになり、ニューアルバムに収録した。
ココでスペシャル・ゲスト。
その龍馬のテーマの作曲を委嘱した坂本匡弘(まさひろ)さん。
杉本さん、うれしそう。
坂本さんはその名の通り郷士坂本家の十代目なのだ。
「ちょうど明治維新150年の去年、杉本さんとヒョンなことからご縁ができて、幕末の話で盛り上がり、龍馬の曲を作りませんか?…という話をして実現しました」
「(龍馬の妻の)おりょうのお墓も杉本さんのお住まいのエリアにあるので、何か縁があるのかな?と思っています。ということで一緒におりょうのテーマも作ってもらいました」
私はといえば、先月は再び松平容保のひ孫さんとご一緒させてもらった。会津では去年は「戊辰150年」だった。
まずは龍馬のテーマ「Dragon Horse」。
新選組のだんだら模様の入ったギターで坂本龍馬のテーマを奏でる杉本さん!
コレが本当のフュージョンである!
龍馬が薩長同盟を結ばんと東奔西走しているイメージか?
サビにキャッチーなメロディを配置して#9のキメでコーラスを締めくくる。
杉本さんのこの曲に込めた気合いがメッチャ伝わって来る。そして、続いて「RYO」。
おりょうさんは男勝りだったが曲はメローに仕上がったとのこと。
たしかに…。
ホンワカしたメロディが大変に心地よい。
この2曲は長く演奏していきたいとのこと。
双方、会心の出来だったに違いない。
アルバムには重いテーマの曲も収録された。
それが次の「Pacific~太平洋組曲~」だ。
太平洋戦争で命を落としたすべての人を追悼するレクイエム。
「平成は戦争がない時代でした。ボクの音楽のテーマは平和です」
でも、ジャンプする前には必ずかがまなければならないでしょ?
最近の世間の情勢を見ていると、平成の最後半は次の時代でジャンプするための準備の期間だったのではなかろうか?…なんて私は心配している。
ところで、我々って学校で戦争のことをほとんど教わらないでしょう?
英語を勉強するよりよっぽど大切なことだと思うんですけどネェ。
第2部でも杉本さんのやさしい歌声が披露された。
何となく前作の『Tomorrow Land』と多くの共通項を感じさせる「それでも風は吹く」。
そう、Anyway the Wind blowなのだ!
コレはQueenじゃないよ、Frank Zappaだよ。
杉本さんの「風」は追い風だ!
本編最後の曲はアルバムの最後に収録されている「A Peace of Rainbow」。
お友達が「元気を出して!」と送って来た虹の写真にインスパイアされて作った1曲。
「ノスタルジックな曲」という杉本さんの形容はバッチリ。杉本さんや私の世代だと小学校の低学年の自分にテレビから流れてきたようなメロディかな?
なんか目をつぶって聴きたくなるね。
結局、間に「怪人二十面相」を挟んで、アルバム全曲を収録曲順に演奏して見せてくれた。
レコ発の鏡のようなライブ!
『Tomorrow Land』には東北に向けた作った曲が3編収録されていたが、その中から「遥かなる大地へ」を演奏。
シェイクのビートに乗ってそよ風のように、杉本さんのギターが赤坂の街をやさしく吹き抜けていった。
おお、「DAZZ…」!
帰り道、赤坂の一ツ木通りで発見。
「dazzle」とは「目をくらませる」という意味。
もし、次回作で杉本さんが織田信長にちなんだ曲を演ったら間違いなくこの写真の影響って言われるよ。
しかし、いい音だった!
杉本篤彦の詳しい情報はコチラ⇒杉本篤彦オフィシャルブログ