JTM45とレス・ポールで弾くブルース・ロック~松浦善博のDVD
現実的に「エレクトリック・ギター」と来れば、今でも東はストラトキャスター、西はレス・ポールが横綱の地位に君臨していることは誰も否定できまい。
それこそ優勝した場所の数は、白鵬や大鵬のそれはストラトやレス・ポールの足元にも及ばないだろう。
その点アンプはずいぶん波乱含みだナァ。最近は「デジタル」と言う外国の力士がハバをきかせちゃったりしてね…。
ギターに話しを戻すと、よく「ギターは完成されていない楽器」と言われる…イヤ、よく言われていた。
一方、完成された楽器としては、ピアノとジャズにおけるアルト・サックスが挙げられていた。
ピアノは悠久の歴史の中で音楽も種類も出尽くし、キーを押せば誰でもひと通りの音が出て、何の拘束もなく自由に和音が出て、独奏にも協奏にも向いている。つまり、何ら進化する必要がないことからそう言われるのであろう。
もうちょっと言えば、音楽の三要素である「メロディ、リズム、ハーモニー」の全部が得意でこれ以上楽器に望むことがない…すなわち「完成している」ということと見た。
アルト・サックスは"Bird"ことCharlie Parkerが現れ、テクニック的に頂点に達してしまい、こちらももう楽器として変化しても意味がないところまで一気にやりつくしてしまったからだと思う。
Parkerが活躍したのは1940年代。それから70年経った今でも、アルトサックス界は音楽的・技術的にBirdを超えることができないでいる。
そこへ行くと、百花繚乱、エレクトリック・ギター界はにぎやかだよね~。やれスイープだのライトハンドだの、次から次へと魅力的な奏法が出て来て活性化を図って来た。そして、流行の音楽に合わせて積極的に姿や機能を変えてきた。
このスィープもライトハンドもジャズの世界では、ロックより20年ぐらい前に用いられていた手法だけど、それらをガッチリと吸収してビジネスの域にまで持っていってしまう「ロック」という音楽の貪欲さはたくましいとしか言いようがない。
しかし!ナニが起こっても、ナニがあってもギターはストラトかレス・ポール。
輝くことを太陽が拒んでも、山が海に落っこちても、はたまた「6」が「9」になったとしても…ね。
別項の冒頭でLeo Fender氏がボヤいたという話しを書いたことがあった。Leoには気の毒だが、もうこの2大名器の勢力図は人類とロックがこの世にある限り誰も描き変えることはできないだろう。
ロックを作って来た楽器という驚異的に豊富な実績だけでなく、やっぱりカッコいいもんね。音がどうの前に問答無用でまずカッコいい。
当然、それらに関する文物も豊富に流通して人気を博しているようだ。私は買ったことないけど。
最近では三宅庸介によるストラトキャスターの完全解剖DVDが大好評だった。
そして、今度はレス・ポールに関するDVD。
Marshall BlogではShrimpheadsでおなじみ、稀代のレス・ポール弾き、松浦善博が案内してくれる。
Shrimpheadsでは何種類かのギターを使われているが、確かに松浦さんといえばレス・ポール。実にシックリくるコンビネーションだ。
オガンちゃんの影響なんかもあるんだろうけど、フト気が付くと、何となく関西系の人の方が南部っぽい感じがして、レス・ポール度が高いような印象があるな。
もちろん例外はたくさんあるのはわかっている。
でも、レス・ポールの太く、粘っこく、濃い音色が私にはお好み焼きやたこ焼きを連想させるのである。
ストラトキャスターなんかだと「生そば」とか「江戸前寿司」っていう感じがしない?ネタは「こはだ」とか「サバ」とか「アジ」みたいな光物のイメージを持っているのは私だけであろうか?
コレは私のレス・ポール。
約20年前にニューヨークのグリニッチ・ヴィレッジはブリーカー・ストリートにある「Matt Umanov」という楽器店で買った中古品。
このお店はBob Dylanが通ったことでも有名。
まだ、私も若かったんだな…試奏を勧められて店員の前でバリバリ弾いて見せた。
店員があんまり私の腕をホメるもんだから、いい気になって買っちゃった!雰囲気にも完全に飲まれてたな。
その店員、ヤケにホメるなと思ったら、このギター、そいつの委託品でやがんの!
でも、ものすごく軽くて鳴りがよく、とても気に入っていて、「掴まされた」という感覚はまったくない。
その店員に言わせると、ココでしか手に入らないメチャクチャ珍しい仕様で、何しろピックアップはSeth Loverが本当に手巻きしたピックアップが搭載しているということだった。
フレットが減りまくってしまって、今は静養中。
で、このギターの写真(下のものとは異なる)を撮ってLes Paul本人に見せたことがある。
やはり約20年前、その時はもうFat Tuesdayが閉店していて、Lesがレギュラーで出演していたリンカーン・センターの向かいのIridiumでのこと。
彼はもうかなり耳が遠くなっていたが、私が言っていることを解すると、「ありがとう!ものすごくきれいなギターだね!」と言ってくれた。
そして、裏面にサインを入れてもらった写真はどこへ行っちゃったかナァ~。ここでお見せしたくてずいぶん探したんだけど出て来なかった。
また忘れた頃どっかからポロっと出てくるはず。
さて本題。
コレがその松浦さんのDVD。
すごく面白かった。
歴史や裏話、関連ミュージシャンの興味深いエピソードを交えてレス・ポールにまつわる情報がふんだんに盛り込まれている。
ちなみにジャケットやブックレットには私が撮った松浦さんの写真を採用していただいた。
もちろん模範演奏もタンマリ。
サブタイトルにあるように、ゴキゲンなヴィンテージ・トーンで、渋いブルース・ロック・フレーズをバリバリ弾いている。
やっぱりヴィンテージ・トーンってのはいいね。コレハ音がいいだけでなく、その時代の音楽自体がいいということでもある…ということを忘れてはなりません。
だって、今テレビに出ているようなバンドさんがビンテージ・トーンでフォークまがいの音楽をやっていてもヴィンテージ・トーンの魅力は伝わらないでしょ?
そうそう、日本では判を押したようにブルースやブルース・ロックというとキマってアルファベットの6番目の文字から始まるアメリカの有名ブランドのコンボを使うけどね、言っときますけど60年代後半にイギリスでブルース・ロックが猛威を振るった時、Marshallはスタンダードなギター・アンプのチョイスだったんよ!
もちろんその理由の一番はEric Claptonの影響。そしてMarshallの方が安いということもあった。
今、58年のレス・ポール・スタンダードって2,800万円とかするんだって?
私が若い頃は1,000万円ぐらいで、それでもビックリ仰天したもんだけどね。
でもね、そんなお宝ギターも、ちゃんとしたアンプがなければ意味がないんよ。
もちろん素敵なヴィンテージ・トーンを出すなんてことも無理。
今はデジタル技術が進んで、ギター・アンプの類がどうにもヘンテコリンな方向に進んじゃっているけど、どんなにデジタル技術が進化しても、さっきのBirdみたいに、ホンモノのいいギターとアンプの組み合わせが出すいい音を超えることは絶対にできないだろうし、またトレンドも変わることだろう。
そんなことを熟知しているかのように、DVDの中で使った松浦さんの選んだアンプは…
Marshall JTM45 Offsetのリイシューだった。
以下の写真はMarshall Museum Japan蔵のアイテム。
いわずと知れた1962年に誕生したMarshallの第一号機がJTM45。そのリイシューだ。
世界でアメリカで250台、日本で50台のみ販売された超レア・アイテム。
なぜそのレアぶりを強調するのかというと、Marshallは「二度と作らない」と決めこんでいるので、世に出回った300台かオリジナルを手に入れる以外、将来ゲットする方法がないからだ。
いうまでもなくオリジナルのOffsetなんて言ったらアータ、58年のレス・ポールまではいかないにしても、その値段たるや目の玉が飛び出すことは間違いない。
マァ、とにかく素晴らしい。これぞ「いいギター・アンプ!」としかいいようがない。
音だけでなく弾き心地も夢心地。
どういう感じかと問うばらば、「あ~、ギターをやっていて本当にヨカッタ!この世に生まれて来てヨカッタ!」と思わせてくれるほど。
でも、ギターがなければただの箱。重い箱。ギターとギター・アンプは最も仲のいい夫婦なのだ。
最近のギターをやっている若い人たちはアンプを持たないことが多いと聞く。
やっぱりギターを志したからには、こうした優れた真空管のギター・アンプでお気に入りのギターをかきならす快感を知って欲しいものだ。
利便性や流行を追いかけるのもよいし、楽器を嗜むうえで道具に凝ることがひとつの大きな楽しみであることもよく理解している。大いにやればいい。新しもの好きはごく自然な人間の性だ。
ただし、それをやるのは、本当にいい道具を味わってからでも遅くあるまい。
ナニをやるにもオリジナルのスゴさを知っておくことは大変重要なことだと思う。
このJTM45 Offsetのリイシューはそんな体験をさせてくれる稀有な製品だった。
そんじゃ私がコレをゲットしたかって?答えはノー。
そりゃ欲しかったよ。価値を考えればそれほど高い買い物でもなかったし、お金のことならナントカなる。誰かに借りてもいいし、分割払いで買うこともできた。
でもね、問題は置き場所なんですよ。
1960ほどでないにしても、やはり4x12"キャビとなれば大きいからね。
昔、1959と1960AXを自分の部屋に入れていた時期があったけど、デカい、デカい。ライブハウスなんかでは小さく見えるMarshallもイザ民家に入れてみると実に巨大なのだ。
でもさ、この松浦さんのDVDを見ていたら、後悔の念が湧き上がって来ちゃたよ!
♪もしかしてだけど…場所だってナントカなったんじゃないの?…って!
せっかくだからもうすこしJTM45を…。
これは1962年製のオリジナルJTM45 Offset。
裏面には電源ケーブルやスピーカー・ケーブルを収納するためのキャビティがついていた…というかスキ間があった。
シャーシが端っこに設置されてたからね。だから「Offset」。
Marshall社のミュージアムに展示されているシリアルナンバー1番のJTM45。
JTM45についてはここではこれ以上詳しく触れない。
興味のある人は是非下の拙著をご覧頂きたい。
①Marshall Chronicle (シンコーミュージック・エンタテイメント刊)
②アンプ大名鑑[Marshall編](スペースシャワーブックス刊)
本当はDVDの内容ももっと詳しく書きたいんだけど…ガマン、ガマン。
ひとつだけ…DVDの中で松浦さんはJTM45のセッティングを変えて実際に演奏し、音色について語ってくれたりしている。
おススメです。
あ~、弾きたくなってきた!早くレス・ポールのリフレットしてもらわなきゃ!
松浦善博の詳しい情報はコチラ⇒松浦善博オフィシャルサイト
DVDの詳しい情報はコチラ⇒アトスインターナショナル公式ウェブサイト