GENKI SESSION 2025<後編>
20分の休憩をはさんで『GENKI SESSION 2025』の第2部がスタートした。
オープニングは難波さんをフィーチュアするコーナー。美しくもの悲しいピアノに続いて難波さんが歌うのは「PYG」の「花、太陽、雨」。
難波さんの歌にピタリとコーラスをつけるGENKIさん。
やがてバンド・アンサンブルが入って来る。
第2部でドラムスを担当するのは佐野康夫。松本さんのベース・ソロ。
今回松本さんは全くタイプの異なる大きなソロを合計3回プレイした。
ココではユッタリとしたリズムで低音で彩るドラマをタップリと聴かせてくれた。そして難波さんの重厚なオルガンのソロが続く。
一糸乱れぬインストゥルメンタル・パートからバーニーの熱血ソロへ!
こうして正統派プロッグ・ロック・スタイルの雄大な1曲で第2部はスタートした。
「イヤ~、ステキですね…自分に言っちゃイケないね。
いいナァ、名曲に名演。
難波弘之!」
続けて第2部のメンバーを紹介。「いくつか暗い曲を…」の言葉通りダークな雰囲気で1971年のビル・ウィザーズの「Ain't No Sunshine」。
フーム、コレには「消えゆく太陽」という邦題が付けられていたのか。ディレイを利かせたバーニーのブルージーなソロをタップリと。
フレーズがフレーズを呼んで、後半は凄まじい様相を呈した。
問答無用で素晴らしい!その激演をサポートしているのはMarshall。
バーニーのMarshallは愛用のSTUDIOシリーズ「SV20H」とCelestion「クリームバック」を搭載した「1936」キャビネットだ。難波さんもイスから立ち上がって濃密なソロを披露。
「そういうことで暗い曲がいいですね。
暗い曲ばっかり聞いているとどうですかね?…大丈夫ですか?
一般的に言うと、世の中的にはナンカ…♪手のひらに~太陽を~じゃないですけどね、普通は歌を聞いて元気になるとか、明日への希望が湧くとか、そういうことなんですけどネェ。
個人的に言うとそうではなかったんですね。
バーニーは暗い曲どうですか?」「根が暗いので…」
ウソこけ!
いつもニコニコのバーニーに限って「根が暗い」などということは断じてないでしょう。
もう25年も付き合っているんだからそれぐらいのことは知ってるよ!
でもね、バーニーの笑顔を本当に見習わなければならないと思っているんです。
考えてみると、GENKIさんも、難波さんも、松本さんも、このチームの皆さんはいつもニコニコされているわ。
しかし、暗い系のエンターテインメントというモノは落ち込んだ気持ちを和らげてくれる働きがあるらしいよ。
映画なんかも「ああ、マイッタな…」とふさいだ気分の時には悲惨なストーリーの作品を観るといいそうだ。
自分よりヒドイ目に遭っている人を見ると元気が湧いてくるというのがその理屈。
人間って残酷だな。
そんな話を耳にして気分が冴えない時に一度コレを試してみたことがあった。
インターネットで「最も悲惨な話の映画」かなんかで検索すると『マッチ工場の少女』という1990年のフィンランド映画が出て来たので、早速DVDを借りに行って観てみた。
すると悲惨どころか、映画があまりにもツマらなくてベラボーにハラが立ってしまった。
そしてフト気が付いてみると、アラ不思議…あの「冴えない気分」が見事にスッ飛んでいた!
なるほど、確かに効果があったわい!「私なんかはブルースとかが心にガツ~ンと来たワケですよ。
どっちかと言うとこの会はだいたい暗い曲なんですよ。
暗い曲とか、ヤクザな曲とか。
本当のことを言うと、明るい曲とか楽しい曲はなかなかロックにはなんないんだよね。
どうなんですかね?よくわかんないですけど」
我々の世代のロックはまさにその通り。
マディ・ウォータースが歌った通り、「ブルースから生まれた子供がロック」。
そのマディ・ウォーターズがナニを歌っていたか?
このことである。
今では「ありがとう」と「ガンバろう」がロックですから。難波さんのピアノをバックにジックリと歌い込む「Cry me a River」。
GENKI SESSIONバラード部門の親玉的ナンバー。
バンド・アンサンブルが入ってガラリと雰囲気が変わり、持ち替えたレスポールをバーニーが非の打ちどころがないギター・サウンド存分に泣かせてしまう!
佐野さんのヘヴィな三連のビートで…
最後まで思う存分GENKIさんがシャウトする。
やっぱりコレはハイライトのひとつだね。
最初からカデンツァまで「川一本分」、イヤそれ以上泣いて頂きました。「サンキュ~!
なんつ~んですかねコレ?なかなかいい歌詞なんです。
とは言いつつも、みたいな…そういうアレですね。
考えると次の曲ももしかしたらそういう…直接的に好きとか嫌いとかそういうことじゃないワケですね。皆さんも色んないろんな人生を歩んできているんでね、そういうことはあります」「Cry me a river」といえば、やたらと下のジュリー・ロンドンのバージョンが有名だけど、この録音でギターを弾いているのもバーニーなんだよ…バーニー・ケッセル(Bernie Kessel)。
以前、渡辺香津美さんはMarshallの「1974X」という30Wのコンボ・アンプにギターをダイレクトにつないでア・カペラでこの曲を弾いてくれたことがあった。
さて、この「Cry me a river」という慣用句には「人前で過剰に泣く人」に対する皮肉の意味があるようで、それを踏まえて歌詞を見てみると、「アンタよう泣けるわね」と「アタシャ川1本分泣いたわ」と、2通りの意味でこの文句が使われているのではないか?と思えて大変にオモシロイのである。 「Won't you move over!(チョットどいてよ!)」とGENKIさんの一喝で待ってましたの「Move Over」!
ジャニスの祈りをも吹き飛ばしかねない自家薬籠中の最深部にある1曲
ピッタリとイキを合わせてプレイするバーニーとのユニゾン・パート。
2人とも実に楽しそう!バーニーもステージ前面に歩み出てエキサイティングなソロを客席に撃ち込んだ!
続いてはザ・カーナビーツの「好きさ好きさ好きさ」。
元はイギリスのザ・ゾンビーズの「I Love You」。
前にも書いたかな?…The Zombiesって今では誰もクチにすることのないバンド名だけど、ロッド・アージェントとコリン・ブランストーンという優れたソングライターを擁してしただけにいい曲がイッパイあるんだよね。
私はロッド・アージェントが書いた「The Way I Feel Inside」という2分にも満たない小曲が大好きで「人生の100曲」に選んでもいいと思っている。
でも「I Love You」の作者はベースのクリス・ホワイト。
1965年にリリースされたがイギリスでは売れなかったらしい…というかシングルにすらなっていない。
そんな曲に目をつけてGSで大ヒットさせた当時の制作者のセンスがスゴイね。多分この日の夜中、お客さんの半分ぐらいは「♪お前のすべ~て~」のGENKIさんの声が夢に出て来てニヤリとしたことであろう。
ちなみこのパート、オリジナルでは「♪And I don't know what to say(なんつったらいいのよ?)」と歌っている。さぁて、この辺りからいつも通りの興奮の展開となるよ~!
でもGENKIさんは「オマエら最後までイケんのか~!」なんてはしたないことは絶対に言いません。
若いバンドはよくコレをやってるけど、そもそも入場料を払っているんだから最後まで見ていくにキマっているワケよ。
代りに「30 Days in the Hole」とバンド全員でコーラスをキメた。以前、ジョー・サトリアーニが来日した時、Marshall Blogで取材をさせてもらったことがあった。
挨拶をするためにマネージャーを訪ねると、かなり年配の方で少々驚いた。
ナゼそんな話になったのかは覚えていないのだが、そのマネージャーがこんなことを言っていた。
「私が70年代のはじめにこの業界に入った時、最初に面倒をみたバンドはハンブル・パイだったんだよ」「スゲエ!」と思ったわ。
本場の業界人の歴史に感動してしまったというワケ。
あの人比較的コワモテだったけど、ヘタをするとドン・アーデンみたいな人だったりして?
写真のチェックは結構シビアでした。
ところで、スティーブ・マリオットの歌はGENKIさんにピッタリだよね。難波さんのエレピのソロ。
おいしいフレーズ満載!いいナァ、こういうギター・プレイは今時タマらんよ。
真空管アンプの図太いサウンドでロックのカタマリのようなフレーズを次々とつなげていく。
自分の「ロック心」が浄化されるようだわ。「♪Thirty days~!」
「♪ティラティラ~」
(歌とギターで掛け合いを表現しているつもり)
緊張感あふれるこのシーンも盛り上がっておいて…フィニッシュ!
すかさず佐野さんのドラムスが先行して雰囲気を盛り上げる。
続いて出て来たのはGENKI SESSION後半の定番曲のひとつ、スペンサー・デイヴィス・グループの「Gimmie Some Lovin'」。
コレ、「愛しておくれ」という邦題が付いていたのか!知らなかった。
ファンキーなアレンジがゴキゲン!ワーミーバーを上下させてダイナミックにギターを操るバーニー。
難波さんのスペイシーなシンセサイザー・ソロ。
松本さんの3回目のソロはファンキーなビートで!
「カモン佐野康夫!」
佐野さんがド迫力のドラム・ソロをタ~ップリと披露。全員をフィーチュアした規格をはるかに上回る灼熱の演奏だった!
本編も残すところ1曲。
それに取り掛かる前にもう一度メンバー紹介。
「お馴染みの曲で『全てか無しか』」と曲を紹介すると客席から「おお~!」と歓声が上がった。
まさに「キタキタ~」という感じ?バーニーのギターがGENKIさんを導いてスタート。
「♪All or nothing」…この曲ってもちろん「All or nothing」というパンチラインが一番重要なワケだけど、聴くたびにヴァース(Aメロ)のメロディがすごくいいと思うんですよね。
スモール・フェイセズっていいバンドだったよナァ…見たことはないけど。
Marshallの大のお得意さんだったし。 もちろんこの曲では「♪All or nothing」と歌って頂く「お客さん参加コーナー」がつきものである。
それを先刻ご承知の客席の皆さん。
会場を練り歩いてそんなお客さんにGENKIさんがマイクを向ける。「♪All or nothing」
ホントに皆さんお上手なんですよ。
まさかこのコーナーのために練習をして来ているんじゃなかろうな?そしてお別れ。
ステージ下手の階段を上って…
「バイバ~イ!」
と、終わるワケがない!…You ain't heard nothin' yet! お楽しみはこれからだ!(アル・ジョルソン)
エネルギッシュに再登場!
このルーティンを今回も三度ほど繰り返して「All or nothing」のクライマックスに到達した!
カデンツァは「♪All or nothing」でするGENKIさんとバーニーの掛け合い。
締めくくりはもちろん大ジャ~ンプ!
コレにて本編終了。 そしてアンコール。
まずは難波さんと2人でシットリと「Imagine」。会場の隅々に行きわたる平和の願いを歌うGENKIさんの声。
とても感動的だった。「時間との戦いになりますね。
あと2曲演っちゃおうかな…いいっスか?」
大歓声!今日はこれまでより開演時間が30分早いからね。
お客さんはナニを演奏するのかもうお見通しなんだけど、それが聴きたいのだ!まずは「Goin' Down」。
ステージに跪いての力唱!
「everybody…なんか突然everybodyだけ英語っていうのは、そういうことだな。
みんな今日はどうもありがとう!
今日も残り少なくなってきまして、みんなで歌ちゃおうぜ!」 GENKIさんが「♪Goin' down」と歌うと本当に自然にお客さんが「♪down, down,down」。
それを聞いたGENKIさん…「さすが常連だネェ!」そしていよいよ感動のフィナーレ!
GENKIさんの誘いでお客さんがイスから立ち上がる。タンバリンを手にした阿部さんもステージに上がって…「アッコちゃん」だ!
「スキだ~、アッコちゃ~ん!」と絶叫するGENKIさんがスキ。
毎回書いているけど、井上先生が書いた歌詞のオリジナルは「庄内おばこ」という秋田民謡ね。ステージのヘリに腰をかけて「スキ、スキ」。
この後、もちろん客席に入ってお客さんに歌って頂いたことは言うまでもない。今回も良質の素材と最高のパーフォーマンスで3時間半以上タップリと楽しませてくれた6人!
もうGENKI SESSIONにお邪魔すると「あ~、音楽を聴いたナァ」という気持ちになるんだよね~。
今回も全くその通りだった!最後もジャンプして…
キマった!
「どうもありがとうございました!」
大歓声!もう一度バンドのメンバーを紹介して割れんばかりの拍手を浴びながらGENKIさんと5人のバンドマンはステージを後にした。
今年もアッという間に終わっちゃった。
でもきっとすぐに「夏は来ぬ」ですな。
来年も楽しみにしています! <おしまい>
(一部敬称略 2025年8月27日 東京キネマ倶楽部にて撮影)