フィル・ウェルズ・インタビュー~その4
アーティストこぼれ話
S:アーティストに話題を移しましょう。
たくさんの人たちが興味を持っていると思うので。特にロックのジャンルだけでも。実際、あなたはアーティストのケアをされた事はありますか?
P:ありますよ。80年代に工場でアーティストのサポートを受け付け始めました。ディーラーだけではなく対象を広げたのです。それからアーティストが昔のように再び訪れるようになりました。アーティストの大きさによるのですが…、ま、人気と言った方が良いでし
ょうか…。アーティストが来る場合とローディーが来る場合があります。
でも、ここにアーティストが直接来ることは当然あります。アンプを準備して、通常のおもてなしをして。
このあたりの話は1日中でも続けられますが、ずいぶん前の話で…アイアン・メイデンは3台のバスでやってきたことがあります。1台はバンド用、2台目はクルー用。そして3台目はビール用です。
S:ええっ?ビール?
P:本当です。3台目のバスはビールでいっぱいなものですから人が乗れないんです!
S:ギャハハ!
P:小規模なバンド…「地元のバンド」と言ったらいいでしょうか。「地元」というのは「イギリス」という意味ですよ。そういうバンドは、小さなバンに乗ってやってきます。前の座席にメンバー3人が乗っていて、後部座席は機材の山。その一番上にマットレスを敷いて、足1つ分の高さしかない所にもう2人が寝ています。その状態で地元をツアーして廻るんです。
S:それはキツイ!(笑)
このお話は12年前にあなたからお聞きしましたが、AC/DCが600台のキャビネットを持っていたんでしたっけ?
P:はいはい。そんな話をしましたね。AC/DCは手に入れたものは絶対に手放さないんです。それで、アンガスとマルコムは…特にアンガスはかなり慎重な性格で、私がこれまでに話をした中でも最もサウンドにこだわるギタリストのうちのひとりです。いつも同じ機材で同じサウンドを得ようとする。多くのギタリストがそうですが、彼も例外ではありません。
S:ギタリストとしては誰もが望むことですよね?
P:当然です。そこで彼らがやっているのはロッカーのようなもので、ひとつはこの国に、そしてアメリカに1ヵ所、オーストラリアに1ヵ所。それぞれのロッカーに2~300台ずつキャビネットを保管しているんだそうです。
S:(笑)あの時あなたからお聞きした話では、「良いコンディションのマーシャルを探す人を専門に雇っていた」とか?
P:はい。たぶんロード・マネージャーだったと思います。ツアーをしていない時に色んな国に出向いて小さいヘッドなんかを探すんです。おもしろそうなマーシャルがあったら買って帰る。そしてアンガスとマルコムが気に入るかどうか試させるんです。
新しいのもありますが、古いマーシャルも持っています。
マルコムは実際に“JTM45/100”を使用しています。オリジナルの方ですよ。音が気に入ったから。
S:オリジナルのJTM45/100!?
P:そう。それから、ビッグ・バンド…この国では比較的有名な、トム・ロビンソン・バンドがあります。彼らもここへ来ました。
S:「2-4-6-8…」
P:そう!「2-4-6-8 Motorway」ですね。そうです。トム・ロビンソンとリード・ギタリストが来たのですが、50Wのリード・ギター用の小さなマーシャルを買いに来ました。1987年のことです。
S:あの曲、もうそんなに前か…。
P:そして、私が面倒をみました。他のバンドとまったく同じように対応していたんですが、「あなた方が有名になってナンバーワンになったら、また戻って来てください!」と伝えたんです。それから3週間後、「2-4-6-8 Motorway」が見事ナンバーワンになりました。
S:日本でもヒットしましたよ。
P:やっぱり?そして彼らはまたここに帰ってきてくれました。彼らが使ったのは小さな50Wのヘッドだけで、マーシャルのキャビネットにつなげて使ったのです。その音を大変気に入ってくれました。
こうしたサービスの後で比較的有名になりました。お金も少し稼いだことでしょう。いまだにここに戻ってきてくれます。
いわゆる有名になった才能ある人達の中で、もう長年見かけていない人達もいます。誰もみんな違いはありません。みんな良い人達ばかりです。
誰とは言いませんが、1人か2人は若干エゴのある人もいますが、ほとんどの人はすごく凄く良い人たちで、我々のしている仕事に感謝してくれています。
S:それはうれしいことですね。
ステイタス・クォー
P:もう数年経ちますが、ステイタス・クォー(注)が…。
S:フランシス・ロッシ…。
P:はい。彼らはすべての機材を…。
S:白くする。
P:はい!そのせいで販売した製品が数年に1回は工場に戻ってくるんです。要するに白いから汚れやすいんですね。
私が全部担当してやり直しました。ハモンド・オルガンも含めて。ほとんどの機材はマーシャルで、ステージ上のすべてものを白くしたいんです。
我々は今は改造にはまったく対応していませんが、昔はこんなことをしていたんです。…というのは、彼らはステージにヘッドと4×12”のキャビネットをふたつ…アングルドとストレートを積んで並べます。そのキャビネットのひとつにはスピーカーが入っていますが、もう1台にはスポット・ライトが入っていました。だから、オフになっていると見た目は普通のキャビネットと変わりません。しかしショーが始まった途端、キャビネットから照明が飛び出すという仕組みです。それを私達でやりました。昔はそうしたリクエストの誰かれなく、分け隔てなく対応していました。
S:クォーの白いマーシャルはずいぶん前からのことですか?
P:はい。もともとはグレーでした。白に変えた理由を彼らのローディーたちに尋ねたことがあるのですが、白くしておけば、照明が当たった時、赤が当たれば赤いマーシャルに、青が当たれば青いマーシャルに変わるんです。要するに、オブジェクターのスクリーンのようなものです。見た目もいいですよ。ステージが1色に染まりますからね。ライトの色が変わるたびにいっぺんにステージの色が変わるんですから。
S:ハハハ!いいアイデアですね。おもしろい!
一方では対応不可能な申し出はありませんでしたか? ミュージシャンのエゴか何かから…。
P:ある事はあります。特別な物を欲しがる人はいます。でもそれは大抵、製造上の問題からできないものが多いんです。
昔はよくあったんですが、バンドがやってきて、もっとベースやトレブルが出るようにしてくれと言われる。だからコンデンサーを外してやったりしたんですが、今はそれができません。日本に送られるのか、それともメキシコ行きなのか、はたまたロシア向けなのか、すべての国にそれぞれ固有の規律があります。だから商品は常に一定にしておかなければなりません。そういう理由もあって今はそういうことに全く対応しないんです。
しかし、バンドから特別な要求をもらうことはあります。奇妙なものもあります。6台のアンプをつなげてくれと言われたことがあります。でも、プラグ・インするギターは1本だけ。ステイタス・クォーがこれをやっていました。彼らの場合は、バンドのギター・テクが対応したのですが、1台目にギターをプラグ・インする。そのアウトからある箱に信号を送ります。そこで信号を5~6、7つに分配して残りのアンプに送る。そうやって対応しました。
S:要するにパラレル・ボックスですね。
P:その通り。ノイズはまったくなかったですね。
そのようなことをやりたいとよく言われますが、改造を要することは「できません」と断っています。
S:わかります。
P:奇妙だなと思った質問をもらった事があります。あるローディが…ローディじゃなかったかな?4×12”のキャビネットの配線をあるバンド用にリワイアしたいというんです。マーシャルが使っているハンダを使いたくないというんです。音に影響を及ぼすと思っていたらしいんです。
S:(笑)
P:シゲ、本当の話しですよ!それから、とある紳士がこんなリクエストをしてきたこともありました。マーシャルのコンボのキャビネットの足は大体20mmぐらいの高さなんですが、それを16mmにして欲しいと言うんです。その4mmの違いで低音のレスポンスが変わると思ったそうです。
S:へえー(笑)。
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(注)ステイタス・クォー(Status Quo)はギターのフランシス・ロッシとベースのアラン・ランカスターが中心になって1962年に結成されたイギリスの国民的バンド。日本でいえば、バンド版北島三郎とでもいおうか。昨秋もO2アリーナで20,000人の観衆を前にコンサートを開催した。
最新では2010年にヒットを記録しており、51年の活動期間に60曲以上をチャートに送り込み(イギリスのバンドで最多)、うち22曲がベスト10に食い込んでいる。
1991年には、マーブロにも時折出てくるBPI(British Phonographic Industry)が主宰するイギリスのグラミー賞と言われるThe Brit Awardを獲得した。
考えてみると、クォーもマーシャルと同じ歳だ。
日本には1975年9月に初来日。オープニング・アクトは「めんたんぴん」だった。観たかったな~。
このカテゴリーでこうしてグダグダとバンドの解説をするのははじめてのこと。イギリスではこれほど地位の高いクォーが、日本ではほとんど忘れかけられたマイナーな存在になっていることが悲しくて記してみた。
私は決してクォーの熱心なファンではないが、こうして彼らの演奏を見てみると、やっぱり「皆さん、こういうの忘れちゃってませんか!?」と世間に問うてみたくなるのである。ネブワースでのライブ。白い2203とフレットクロスなしの白い1960の壁!是非ご覧あれ!
ザッカザッカと至福のブギ・ロック。タマリません!もういっちょ!この合唱は一体?!
うわべだけでなく、国民が世代を超えて自分たちのロックを愛しきっている感じがしますな。見ていてとても気持ちがいい!
ネブワース、コンサートの時ではないが、一度訪れたことがあったが、夢を見ているかのように美しかった。
(一部敬称略 2012年9月 英Marshall社にて撮影・収録 ※協力:ヤングギター編集部、平井毅さん&蔵重友紀さん)
つづく