三宅庸介 MEETS STUDIOシリーズ <後編>
前回に引き続いての三宅庸介によるSTUDIOシリーズの試奏レポート。
今日はMarshallの代名詞とでも言うべき伝統のモデル、1959をダウンサイズしたSTUDIO VINTAGEのシリーズ。
イヤ~、おもしろかったね~。
<SV20HとSV212>
まずはSTUDIO CLASSICの時と同じく、ヘッドと2x12"キャビネットのコンビネーションから。
三宅庸介(以下「Y」):あ~~、シゲさん…コレはもうダメです、ダメ!
Marshall (以下「M」):ハハハ、ナニナニ…「ダメ」って一体ナンですか?いつも冷静な三宅さんにしては珍しく興奮されていますね!どうですコッチは?
Y:「どうです」って訊かれても、ひと言で…「ダメです」。
(SVによって破壊されてしまった三宅さん恍惚の図 ↓ ↓ ↓ )
M:そう来ると思っていましたよ!
Y:ボクにこういうのを弾かせたら絶対にダメです!
欲しい!ホントに欲しい!
(長い間)
で、ナニを言えばいいんですか?
M:へ?インタビューですから…コレについてナニか語って頂かないと…。
Y:………。
M:言うことなし?
(ショックのあまり三宅さんがナニもしゃべろうといないので私からアノ手コノ手で水を向けた)
ところで、折角ご持参頂いたのにさっきからペダル類を全くお使いになる素振りさえお見せになりませんね。
Y:ハイ。例えいつも使っているようなオーバードライブのようなモノをつないだとしても、ナンノ違和感もなくマッチするのはわかりきっていますから。ワザワザつなぐ必要なんてありません。
M:三宅さんは以前1959もお使いだったワケで…で、このSTUDIO VINTAGEは1959のダウンサイズ版を標榜していますでしょ?
音が似ているとかそういうことではなしに、Marshallのアイコニックなモデルのひとつである1959の魂を受け継いでいるところはどういう点だとお思いになりますか?
Y:手元を下げた時のゲインの上がり下がりだったり、それでトーンが変わって来るサマがそのままだったり…。
今、HIGHの1にインプットしてLOUDNESS1をフルにしています。
リンクはしていませんが、干渉するのでワザとLOUDNESS2もフルにしました。
そうすると少しだけ低域が膨らむ感じになるんです。
M:1959の場合、使っていない方のチャンネルのボリュームは第2のEQになるとか言われていましたからね。
Y:で、こういうことをホンモノの1959でやったら普通手に負えませんよね?
特に新しい1959なんかですと、パーツも新しいので、元気がありますからピュアに100Wの音が出て来るワケです。
そんな状態で色々なことをコントロールしようとなると、ステージでもレコーディング・スタジオでも…ムリですよね。
人の多いところではまずそんなことできません。
M:ホント…現場によっては大音量に気をつけなければマズイですよね。
Y:でも、コレだとそういうことができてしまうワケです。
ま、音量をこうして上げると、アンプと近距離で弾いているので、弾いていない時には当然ノイズが出て来ますが、ゼンゼン問題にならない。
ホントにコントロールしやすいし、トーンがすごくいい雰囲気で効いてくるんです。
M:「いい雰囲気」?
Y:はい。その辺も割とうまいこと当時のまま…というか…昔のMarshallって、「コレ、ホントにトーンが効いているのか?」なんてことがよくあって、結局EQを全部フルにするのが一番よかったりして。
このSCもそんな感じで、さっきのSCとは違って「トーンで音を作ってください」とかいうほどではない。
イヤ、もちろんEQをイジれば音は変わってきますよ。でも、どこをどうやってもいい音がしています。
M:なるほど…(しめしめ、大分落ち着いてき来て、だんだん語り出して来たぞ)。
Y:コレはちょっと…ボクのイメージなんですが、音が周波数ごとにミルフィーユみたいになっていて、隙間を感じるんですよね。
M:わかんね~わ!
Y:(笑)層になっているその間に空気感があるというか…そこに色んなモノ、例えば倍音だとかが詰まっている感じなんです。
M:じゃSCの方は?広島風お好み焼きみたいな?コッテコテ?
Y:SCの方はもっと密度が濃いんです。ギッチリ詰まっている感じ。
M:そういう風に言われるとわかるような…わかんないような…。
やっぱりわかりませんな。
Y:SVの方は弾いていても、ピッキングした時にホントにチョット親指に力を入れるだけでミルフィーユの層の中に違う倍音が入ったりとか…そういうことをものすごく認識しながら弾けるから、も~~~メッチャたまらないです!
M:フィードバックする時もいかにも1959ですよね?
Y:そう!音が裏返ってキレイに何度、何度と音程が変わっていく。その裏返る時の感じがもう完全に1959なんです。
M:もともと1959のようなアンプがあったからフィードバックなんて方法が出て来たワケですもんね。
Y:そうなんです。JCM800のフィードバックとはまた違うんです。
M:よくわかります。
Y:も~~~!コレはアカンですよ!(←コレばっかり)
M:スタンバイ・スイッチをLOWにするとどうですか?
(スタンバイ・スイッチをLOWにして弾く)
Y:あんまり変わらないですね。
M:音の張りが変わって来る。
Y:ウン、そうですね。LOWにした時の方が弾きやすいですよ。
(弾き続ける)
あ~~~!コレはアカンですよ!(←あ!また!)
<SV20HとSV112>
今度はヘッドはそのままに1x12"キャビネットのSV112につないで弾いて頂いた。
Y:SCの時ほどの違いはない感じで、2x12”から移っても違和感が全くないですね。
アンプのコントロールをイジる必要なない。
でも、アンプの前で弾いている分には2x12”の方が気持ちいいですね。
でもさっきのSCと同じでレコーディングの時は1x12”の方がマイキングはしやすそうですね。
<SV20C>
そして、最後にコンボのSV20C。
Y:当たり前ですけど、コレはスタックとの違いが出ますね。
さっきSCの時にアンプの形式よりもスピーカーの数の違いを意識すると言いましたが、こっちはキャビネットにスピーカーだけが入っているモノとアンプのシャシとスピーカーが一緒に入っているモノとの違いを割りとハッキリ意識させられます。
このSVのコンボは明らかに「コンボ感」が出ています。
M:確かに…。
Y:そういえば、1959のコンボって馴染みがありませんよね。
M:2159。2159って日本には入って来なかったのか、ホントに少数しか輸入されなかったのか…。確かMarshallの本社のミュージアムで見たことがあったと思いますが、日本では見たことはありません。。
Y:1987のコンボはありましたよね?
M:はい、2187ね。大分前に私がMarshallに提案して日本限定50台で作ってもらいました。
「19-」アタマがヘッド、「21-」アタマがコンボの型番だったんです。
Y:なるほど。で、最初は何となく聴き馴染みのないサウンドという感じがしました。
でも、弾いているうちにキャビネットの一番共振するポイントに合わせてベースを下げたり、プレゼンスやトレブルを上げて調節することで違和感はなくなりましたね。
そもそも、「いい音」って大抵そうなんですけど、弾いているウチに自分の方が慣れないとダメなことが多いんですよね。
M:自分を慣らす?
Y:誰でもこういうことはあると思うんですけど、パッとギターをプラグインして音を出してみて、気に入らないとか、抵抗があったりする…こういうのは「気に入らない」というより、そのアンプを鳴らせていないということだと思うんです。
だから自分の方が変わるべき…ということがあるのではないでしょうか?
M:なるほどね~。そういうギタリストばかりだとラクだな。でも、昔はそういう感じでしたよね。
Y:で、SV20Cはコンボ独特のスクエアに低域が全部出きってしまっているイメージがあります。
スタックだと低域の角がチョット丸かったりするんですね。ボクはそっちの方がコントロールしやすい感じがします。
コンボの音ってチョット「台形」っぽくて…。
M:今度は算数ですか!
Y:(笑)コンボはローが「面」で鳴っている感じなんです。
それとまずはやっぱり床に置いて鳴らすべきですよね。
鳴らしていないキャビの上なんかに置くとダメです。それも共振して鳴ってしまう。音を出しているのならともかく、鳴っていないのはマズイ。
M:大地にシッカリ足を付けておけ!ということですな?
Y:人と一緒ですよ!
M:ゴメンなさい!
Y:コレもやっぱりレコーディングの時は、実際に鳴っている音をマイクで拾った音との共通点を探しやすいと思いますよ。
M:やっぱり。
三宅さんはASTORIAの時、最後までスタンダードな黒いMarshall伝統のデザインにこだわった方のウチのお1人ですが、このシリーズのルックスについてはいかがですか?
ま、おっしゃりたいことはないと思いますが…?
Y:ないですよ。
M:出て来る音や細かいデザインは別にして、Marshallってサイズそのものがすごくいいと思いませんか?
何と言うか、それぞれ大きすぎることもなく、小さすぎることもなく…。
Y:すべてが絶妙ですよね。
M:偶然ですけどね。
Y:マジックには偶然が必要ですからね。
M:でも偶然が起きるでろうことをそれまで積み重ねているんですって。
Y:必然なんですね。
そうそう!ひとつ「オオ!」と思ったのは、SV212のハンドルはメタルなんですね?
M:そうそう。さすが!
こうして新商品が発表されるたびに三宅さんに試奏して頂くようになってからどれぐらい経つかナァ?
Vintage Modernの時ぐらいからか?
Marshall弾きとして、長い間に色々なご経験を積んで来られた方だけあって、良い点についても、劣る点についても、都度色々と適切なご意見を聞かせてくれるのがとても面白いし、勉強になる。
従来型のMarshallに与する伝統支持派で、どちらかといえば辛口なわけ。
しかし、今回はいつもと様子が違ったね。
こんなにトロけてしまった三宅さんを見たのは初めてのことだった。ASTORIAの時も結構トロけさせたつもりだったけど、アレは三宅さんに対してはルックスがマイナスした。
今回は、何と言うか…何度挑戦しても絶対に勝てない相手との対局で「負けました」と言わせたような…。
実際には将棋を指す趣味が私にはないので、この例えはふさわしくないかもしれないが、タイトルをもぎ取った時の棋士の気持ちはこんな感じなのではなかろうか?
ま、別に三宅さんと「Marshall勝負」をしているワケではないんだけどね。
やっぱり自分の音で自分だけの音楽を作っているようなアーティストから「欲しい!」なんて言われればそりゃうれしいもんです。
また、文中で太字でフォントを大きくした演出で三宅さんの興奮具合が少しでも伝わるといいんだけどナ。
とにかくこういう時は、この仕事をしていて本当にヨカッタ!と思える瞬間のひとつなのだ。
実は、今日のSTUDIO VINTAGEはゼ~ッタイに三宅さんがハマるという自信があったの。
だからワザとさきにJCM800系のSTUDIO CLASSICを先に試してもらった…というチョットした作戦があったのです。
さて、今回の2編をお読み頂いてSTUDIOシリーズにご興味を持った方は是非楽器店に足を運んでお試しになってみてください。
もし、ミルフィーユや広島風お好み焼きのお味がお気に召さない場合のご意見は三宅さんにお願いします!