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2014年7月16日 (水)

You Got News from Marshall

この数日、facebookで多くの人にシェアされているMarshallの動画がある。
それはHandwiredシリーズのPVで、1962を製造するシーンが収められている。

A_1962 「#LIVEFORMUSIC」を標榜するMarshallの新しいイメージに合致させたこのPVのつくりは、今までの同種のモノに比べ、ケタ違いにソフィスティケイトされている。
ここで見られる光景は、さすがに私には見慣れたものではあるのだが、とても新鮮に感じた。そして、何よりもカッコいい!ウマいこと作りよるわ~。
まずはそのPVをご覧いただきたい。

Marshallではすべての工程を工場で自己完結している。PVの中では木工や配線、組み立てのシーンがフィーチュアされているが、当然これだけではMarshallを作ることはできない。

F_img_8273_2他にも鉄板からシャシを作り上げる工程や…

50

55組み立てたケースの下地の処理…

83

85とても高度な技術を要するカバリングの貼り付け…

90

100真剣である。

110他にもある。
これはハコに入れる緩衝材。要するにクッションを作る装置。コレがなくては出荷することができない。

130イングヴェイやサトリアーニがしっかりと応援してる!

140vこのあたりは最終の工程だ。

150こうした工程のどれかひとつが欠けてしまってもMarshallを作ることはできない。これはHandwiredであろうが「普通ワイアード」であろうが同じことだ。

160v最初のHandwired製品の復活は1999年のJTM45 Offsetだ。
下の写真、今はNATALの設備になっているが、2003~2004年にHandwiredシリーズをスタートした頃はこのスペースで作っていた。
ここにベテランと若い男女の工員が学校の教室のように机を並べでみんなでセッセと配線や組み立ての作業に勤しんでいたのだ。

この部隊のリーダーであったキャシーと私は仲が良く、工場を訪れるたびに彼女はとてもよくしてくれて色んな話しを聞かせてくれた。(キャシーにはすごく可愛い男の子がいて、ずいぶん大きくなったろうな~)
この部門の一番の苦労は「教育」だと彼女が言っていたことがすごく印象に残っている。

ご存知の通りMarshallが操業を開始したのは1962年のこと。当時は今のようなPCBなどは使用せず、すべて手作業で基板を製作していた。
その後、Marshallは世界的な成功を手中にし、大量生産を可能にするPCB基板を採用するようになった。

2004年にHandwiredシリーズを始めた時にはまだ昔の手作業時代の経験者が工場にいて、当時の作業を完璧に再現することができた。その人たちはほとんどが女性だった。
しかし、そういった先輩たちがいつまでもこの作業に従事できるワケはない。いずれはリタイアしてしまうのだ。そこで若い工員にその技術を伝承する計画が持ち上がった。
コンピュータの使用法などと違って「マニュアル一冊あればいい」などということはあり得ず、手取り足取り、細かなところまで技術の伝授を行う必要があった。

コレだけやっている分には特にも問題はなかった。
ところが、うれしいことにと言うか、当たり前のことと言うべきか、最初に出した1974Xと2061Xが世界的な大ヒットとなり、オーダーが山となってしまった。
これでもベテランの工員さんが次から次へと製作すればさほど大きな問題にはならなかったのだが、何しろ若手の指導も将来へつなげるための大切な仕事である。
つまり、ベテランの工員さんは若手の「教育」に時間を割きながら自分の作業をしなければならないという大きな苦行を強いられてしまったのだ。

その苦労が実ってか、今では先の2機種のみならず、この1962他の新しいモデルも追加されHandwiredシリーズはMarshallの人気シリーズのひとつとなっている。

200工場に行くと、ここでしか見ることのできない工具がゴロゴロしている。

210どれも職人の魂が込められた逸品だ。

220こうしてみると、年季の入ったRoly Gallagherのストラトキャスターのようではあるまいか?

230Marshallに関する情報をもうひとつ。

それはASシリーズのことだ。ASとはAcoustic Soloistの略で、Marshall自慢のアコースティック・ギター用のコンボのこと。
このシリーズが今年でめでたく発売20周年を迎えたのだ。
何回かのモデルの入れ替えや仕様変更があったものの、20年続く商品ってかなりスゴイよ。

「生きる化石」よろしく、Marshallのラインナップで仕様を変えずにもっとも長い間製造され続けているアンプ(キャビネットはのぞくという意味)は1959と1987で48年。もうすぐで満50歳になる。
1962は初期に大幅にルックスを変更しているので、1959たちに軍配が上がる。

1959や1987を除いて現行のラインナップの中の20年選手はASシリーズだけだ…と思うとさにあらず。
昨日説明したEL34 100/100も20周年を迎えている。しかし、汎用性ということで言えばASにとてもかなわない。

というのは、実はASは海外では「大」が5つぐらい付くベストセラー商品なのですよ!

日本ではステージでアコギを鳴らす時、いまだにラインを使用するのが主流だが、海外ではアンプを使うのが極当たり前。
その時にお声がかかるのが、ナチュラルにアコースティック・ギターの音をアンプリファイするMarshall ASなのだ。
特にヨーロッパでの人気は非常に高く、フランスでは最も人気のあるアコギ・アンプのひとつに数えられている。ま、これにはPierre Bensusanの影響もあるかもしれないけどね。

日本もアコギ・アンプのステージでの使用が主流になればいいんだけどナァ。
ナゼ、海外のミュージシャンがアコギ・アンプをステージで使うのかというと…これは実際に世界的に有名なフィンガー・ピッカーに聴いた話し…

「ホワッ?なぜアクースティック・グィターのエンプを使っているかって?(この発音からわかるように話してはアメリカ人です。帰国子女ではありません)
オイオイ、シゲさん、そんなこと訊くのかよ。可愛いヤツだな~(←ウソ。これは言っていない)
そりゃ、キマってるだろ、ハァン?
自分のグィター・セァウンドを作るのにミクサー・ガイにいちいち頼むのは面倒だろう?モア・トレブリーとか…。
オン・ジ・アザー・ヘァンド、エンプが自分のところにあれば自由にセァウンドを作れるじゃないか。
それと、エンプから出したセァウンドはラインの音に比べて何といってもパァンチが効いてるからね。
一度使ったらやめられないよ!」

とこんな調子だった。
まさにASはそうしたギタリストの考えを満足させる名器なのだ。

Asしかし、コレ忘れてたんだけど、このシリーズの開祖はAS80Rという40W+40Wのステレオ・コンボだけだったんだよね。1994年の発売。
その5年後、もっとリーズナブルな入門機種を導入しようとすることになってAS50Rが誕生した。

As50d



また、その1年後、AS80Rは6年間の勤務を終えてリタイア。2000年に代わって登場したのがデジタル・エフェクトを搭載したAS100Dだった。
AS50Dもその後、デジタル・エフェクトを搭載し生まれ変わって現在に至っている。

このシリーズって考えてみると何のオプションもなくて、思い切り自己完結しているところがいいのかもしれないな。
ASというとても狭い世界の中にも20年の間にデジタル・テクノロジーが浸透し、技術の変遷を見る気がする。

Handwiredのような伝統的な技術からデジタルまで…Marshallはやはり魅力的だ。
ひとつ頭に入れておきたいのは、こうした幅のあるビジネスができるのもひとえに50年の伝統があるからだと思う。
これは、どんなに低音や爆音を出そうが、どんなに歪もうが、他の新しいアンプ・ブランドには到底マネできないことなのだ。
Marshallはその伝統を大切に前進を続けていくのだ!コレでいいのだ!

A_as100d