激突 vol.7 RYOGOKU GRAPPING 両国でロックがっぷり四つ~電氣ベンベン
今回は「RYOGOKU GRAPPLING」と副題したOAMAさん企画のイベント『激突』の第7回目のレポート。
「grapple」というのは「つかみ合う」という意味。
「4つのバンドが激突して取っ組み合いをする」というワケ。
映画好きのOZMAさんのこと、この「激突」はスピルバーグの1971年のテレビ映画『DUEL(=決闘)』が由来。
私はテレビの吹き替え版でしか見たことがないが、穂積隆信のセリフ読みが実に良くてネェ。
「アイツか?……イヤ、違う。それともアイルか?…イヤ、違う」
大学の時、映画好きの友だちとよくこのデニス・ウィーバーのセリフのモノマネをしたものだった。
そして、1974年に公開されたのが『続・激突!/カージャック!』。
コレは原題が『The Sugarland Express』といって『激突!』とは何の関係もないお話。
前作が当たったのでスピルバーグの虎の威を借りて買ってに「続」を付けちゃったんだネェ。
でも、さすがはスピルバーグ、映画自体はすこぶるオモシロい。
間違いなくタイトルで損をしている1本。
で、今回OZMAさんからもうひとつ「激突!」が作られていたことを教えて頂いた…全く知らなかった。
下は開場前の「出演者顔合わせの儀」の時の様子。
主催のOZMAさんから注意事項やらお願いやらのお達しが発せられる…といっても笑い声が絶えない。
「ガンバるぞ~!」
と工事現場の朝礼さながらの気合いが入れられてお客さんを迎えた。
会場はOZMAさんが9月に催した『THE ROCKS HEAVEN』に引き続いての「両国SUNRIZE」。
そのレポートの時に私が知る両国について書いてしまったので、今回は軽~く歴史的なことを書き記しておきたいと思う。
下はMarshall Blogお得意の江戸時代の地図。
現在SUNRIZEがある場所が江戸の昔にどうなっていたのか調べてみた。
中央の青い部分は大川…すなわち「隅田川」。
左から隅田川に流れ込んでいるのは「神田川」。
その河口の橋が「柳橋」だ。
柳橋はとても格の高い三業地で、新橋の芸者は柳橋の芸者と並んで歩くことが許されなかったという。
今は神田川に屋形船が係留してあるぐらいで何の面影もない。
中央の紫色の部分は「御米蔵」。
全国から召し上げた年貢のコメはココに集積された。
「蔵前」という地名はその名残。
蔵前では「札差屋(ふださしや)」という商売が栄えた。
コレは現金に替える質屋みたいなもので、食うに困った貧乏侍はこぞってここへ禄米を持ち込んで現金に替えた。
で、今SUNRIZEがある場所はどうもその御米蔵の離れの敷地内になるようだ。
御米蔵の様子、見てみたかったネェ。
ちなみに…
江戸の昔、𠮷原に行くには徒歩、馬、駕籠等の手段があったが、最もゴージャスな方法は舟で行くことだった。
それは柳橋から下のような「猪牙舟(ちょきぶね)」という細長い船に乗って隅田川をさかのぼり、今の「今戸橋」というところから左に折れて「山谷堀」に入り、𠮷原に至った。
風流だね~。
そんな舟でもあればヨカッタのだが、この日は折悪く人身事故が原因で総武線が不通になってしまっていた。
それゆえお客さんの出足が遅れてしまったが、ほぼ定刻通りOZMAさんが姿を現し、恒例の前説でマイクを握った。
「はい、皆さんこんばんは、OZMAで~す!
ボクの前説を聞きにこんなに集まって頂いて心から感謝しております。
本日はココ両国SUNRIZEに於いて4バンドが激突するというイベントになっております。
皆さんはいずれかのバンドのファンでいらっしゃると思いますが、ゼヒ全バンドを確認して最後のNERVOUS BREAKDOWNの時まで必ずココに残る…というコトを今誓って頂けますでしょうか?
よろしくお願いします」
OZMAさんが各バンドを紹介。
「まずは『電気ベンベンベンベンベンベンベンベンベンベンベンベンベンベンベン』…本日改名しました。
『ベン』が15、アハハハ!
リハを聴かせて頂きました。
ま、久しぶりの共演なんですが…個人的にはウルサかったで~す!ウフフフフ。
ハイ、誰かが悪いんです。
でもそのラウドなところや妖艶なデンコちゃんのパフォーマンスを楽しんで頂ければと思います」
「では、始めましょうかね。
じゃあ、みなさん、『激突Vol.7』最後まで楽しんでいってくださいね。
構えてくださいよ。
はっきょーい!
『激突Vol.7 ロックしまくって ハッピーにいくぜ!』
オー!イエイ、イエイ、イエイ!」
OZMAさんの檄が飛んだところで最初にステージに姿を現したのは「電氣ベンベン」。
Marshall Blogへは2度目のご登場だ。
飯島丈治が弾くアルペジオでスタート。
エフェクト音が混ざったとてもふくよかなサウンドだ。
ベースは新加入の松尾泰幸。
チャイナ・ドレスを身にまとってシャープなドラミングを聴かせるサマンサ。
そしてデンジャー・デンコ。
冒頭から電氣ベンベンの世界があふれ出て来たわ!
「うつしよは夢 夜の夢ぞまこと」と歌うドロリとした陰鬱な「和」だ。
コレは江戸川乱歩ですな?
曲名は「YTJ」…「夜話つむぐ邪淫」。
デンコさんがノッケから圧倒的な歌声で迫って来る!
乱歩に言わせればこの姿が夢の中の姿…すなわちデンコさん本来の姿なのだ。
ハックション!
え?タイトルのアクロニムの解釈が違う?
本当は「呼ばれて とび出て ジャジャジャジャーン」だって!
カンちゃん、ナンででごじゃるか?
そのまま続けて曲は「clocktower」。
前回観た時にも取り上げていた1曲。
これも飯島さんが弾く独特なハードなリフで始まる。
サマンサさんが叩き出すワルツのグルーヴが小気味よい!
曲の中に完全に入り込むデンコさん。
バンド・アンサンブルからギター・ソロに。
飯島さんはMarshallとエクスプローラー。
今回は「JCM2000 DSL100」と「1960A」を使用した。
前回も書いたが、飯島さんも既成のロック・フレーズにとらわれないプレイをする人だ。
そしてMarshallはその個性的なプレイにベスト・マッチする。
怖いゲームの中にある景色から着想を得て作られた曲。
サビでは「♪行け 闇の中を 言葉は胸に隠して 行け 風の中を 記憶を頼りにして」と歌われる。
ゲームからこんなに深い言葉が出て来るとは!
「栄誉あるトップバッターを務めさせて頂きます『電氣ベンベン』と申します。
本日はNERVOUS BREAKDOWNにお誘いを頂きました。
ありがとうございます。
案外、大丈夫…しゃべると普通。
しゃべると怒られる感じなので、あまりしゃべらないキャラで来ていたのですが、今日はチョット言いたいコトがあります。
新しいベースが入りました!
おいちゃん、おいちゃんです」
「おいちゃん、ひと一言しゃべります?
あ、特にないということでございますので、皆さん、シックリと仲良くしてやってください。
よろしくどうぞお願いします」
「おいちゃん」となるとチョット脱線しないとマズイだろうナァ。
脱線のの先はもちろんコレ…葛飾区「柴又」。
驚いたんだけど、「山田洋次」に柴又の存在を教えたのは作家の「早乙女勝元」なんですってネェ。
早乙女さんは3年前に亡くなってしまったが、戦争の悲惨さを後世に伝えるために江東区に「東京大空襲・戦災資料センター」という施設を作り自らが館長を務めた。
私もココに「行こう、行こう」とは思っているんだけどなかなか行かれないでいる。
「とらや」の「おいちゃん」と言ったらナント言っても初代の「森川信」だよね~。
森川さん亡きあと、「松村達雄」、「下条正巳」とバトンが渡されて、このお2人もそれなりにヨカッタけど、やっぱり「森川おいちゃん」につきるわね。
ナゼ、森川信のおいちゃんがヨカッタのかと考えてみるに、渥美さんと対等にお互いの芸をブツけながら演じることができたのは森川さんだけだったからではなかろうか?
それはキレイな江戸言葉を話すことができたからだと思う。
森川さんはエノケンの時代に「森川信一座」というチームを結成して大人気を博した人。
もちろん喜劇を中心に映画にもたくさん出ているんだけど、山村聰が監督した『蟹工船』のシリアスな演技もヨカッタ。
離婚はしたけど森川さんの奥さんは女優の「水戸光子」だった。
大正8年生まれ(ジム・マーシャルの4つ年上)の水戸さんは「原節子」や「高杉早苗」の同期で、当時は
国民的スターだった。
確か「お嫁さんにしたい女優」の第1位に選ばれたことがあったんじゃなかったかな?
ホントに気品があってステキな女優さんだったと思う。
最近、「山本薩夫」の1959年の作品『荷車の歌』をまた観たんだけど水戸さんが実にいい役を演じているんだよ。
この映画、全国の農協の婦人部の人たちが10円ずつカンパをして3,200万円を集めて制作された。
大変良い映画ですよ…YouTubeで観ることができます。
で、その水戸さん。
小野田さんが昭和49年に日本に帰って来て、何かのインタビューで「好きな女性のタイプは?」と尋ねられたことがあった。
29年も日本を離れている人にそんなことを訊くのもどうかと思うが、小野田さんは「水戸光子さん」と答えたそうだ。
小野田さんって陸軍中野学校のOBでとっても優秀でマジメな人だった。
下の戸井十月の本のお母さんとのエピソードでアタシャ涙が出たよ。
脱線終わり。
ルバング島から両国に戻って…
「後ろの方におやつが置いてあるので、人の手作りがイヤじゃない人は自由に食べてくださ~い!」
今回初めて舞台を踏んだという両国SUNRIZEでの3曲目は「風待ち」。
この曲は覚えている。
前回聴いてこの曲だけにヤケにさわやなイメージが印象的に残ったのだ。
この曲でもゴキゲンなグルーヴを繰り出すサマンサさん。
サマンサさんのグルーヴはホントに心地よい。
チャイナ・ドレスがまたよく似合う!
今、「おいちゃん」と紹介された松尾さんとの相性もバッチリだ…って、エエエエエッ?
おいちゃん、サム・ピックで弾いてる!
私もほぼ50年にわたってコンサートに足を運んで色々なベーシストを見て来たけど、サム・ピックを使って弾くベーシストって初めてお会いした!
考えてみるとピック弾きと指弾きの両方ができて便利ということか?
サム・ピックに慣れればすごくいいアイデアなのでは?
ムムム、このギターを中心としたアンサンブル・パートが実にカッコいいぞ!
「自然に任せて生きているケモノたちに学んで命を祝福しよう!」ということを伸び伸びと歌うデンコさん。
デンコさんはとてもインテリで、送られて来るメッセージに私が知らない言葉が含まれていないかいつもヒヤヒヤしています。
続けて「elegy」。
ココでもアルペジオ。
例のメロトロンのようなエフェクト音がとても効果的だ。
そのギター・アルペジオに松尾さんがメロディアスなベース・ラインをつけていく。
ワルツのリズムに乗って歌うデンコさんが抱くイメージは「灰色の街」。
そこに住む者たちは感情を持たない静かな影のようなモノだ…そんな歌。
この曲の間奏もいいんだよネェ。
そこからギター・ソロにつながり、曲は熱気を帯びていき…
デンコさんの激唱!
今回続いては初めて聴いた「no way out」は何でも大昔に作った曲だとか。
とびっきりハードなリフを携えて…
変拍子を交えて激演を展開する問答無用のドライビング・チューン!
「意味をなさない歌詞」を標榜して叫び続けるデンコさん。
キメのパートが6/4と7/4拍子になっているのかな?
思わずキング・クリムゾンを連想してしまうインストゥルメンタル・パートがスリリングだ。
この曲を歌う時は、声が「音のひとつ」として機能することを意識するそうだ。
ギリギリとノドを締めあげて歌うその様は十分バンドの中の「音」のひとつになっている。
ま、声楽の人なんかは自分のノドのことを「楽器」って呼ぶもんね。
さらに続けて「蒼ざめた馬」。
コレも前回のレポートでチョコチョコと解説をしたけど、「蒼ざめた馬(The Plae Horse)」というのは「死を象徴する馬」として聖書に出て来るんだネェ。
革命が起こり得ぬ遠い氷の国の悲しみが消え去ることを祈ってデンコさんが情念を込めて歌う。
Marshallの分厚いサウンドを利した飯島さんのア・カペラのソロ・パートが出て来て…
そのまま切れ目なく最後の曲「泡沫(うたかた)」へ。
電氣ベンベンの定番の演出だ。
全7曲…
短いながらも徹底的の「電氣ベンベン」の世界を両国の地にブチまけてくれた。
やっぱりこういうロックは日本独特のモノだと思うんだよネェ。
ヘヴィで暗くて…好きだ。
加えてデンコさんの「狂気」にも似た激しい演技。
それらが陰鬱に絡み合って造り上げられるのが電氣ベンベンのステージ。
ドンドン好きなようにやってもらいたい!
デンコさんがMCで案内していた「おやつ」のパウンド・ケーキ。
前回のフィナンシェもおいしかったけど、今回もお金を取っても一向に差支えがないであろう出来栄え。
おいしかった!
激演もおやつもごちそうさまでした!
<つづく>
