Masha~Live at Home <前編>
昨年4月に開催されて評判の高かったSilexのMashaくんのソロ・ライブ『Live at Home』が帰って来た。前回、ステージには2セットのMarshallが設置されたステージだった。
「2セット」というスタイルは今回も同じ…でも下の光景はかなり珍しい。
私もMarshallの仕事に携わってからカレコレ今年で27年に及び、Marshall関係者の中でも最古参の部類になってしまったが、これまでこうしてMarshallのラック式アンプが2組並んだステージを目にした記憶はない。
あったのかな?…イヤ、多分ないな。
見た目は普通のハーフ・スタックとは異なるものの、デジタル皆無、100%真空管駆動、至福のアナログ天国。
デジタル機器の氾濫により「ギターの音の良し悪し」という概念が無くなって来ている昨今、最高のギター・サウンドで楽しむことができる今時とてもうれしいギター・ショウとなった。ショウが始まる前に今日の屋台村をチェック。
Silex関連のCDやグッズがズラリ。コレは車なんかにペタリと貼っつけるステッカー。
今は「カッティングシート」っていうのかな?
私の世代だったら「シール」だ。 この日に初めてお目見えしたCDも並んだ。
開演時刻になりMashaくん登場!
「お待たせしました~!
Mashaソロ『Live at Home』へお越し頂きましてありがとうございます!
今日は1日よろしくお願いします!」「(満員の客席を見回して)スゲ~、うれしいな~。
去年からボクのソロ・ライブを始めまして今回で3回目になります。
楽しみにしていました、アッハハハ!
新年一発目ということで思う存分弾かせて頂きますので、一音一音全部聴いて頂けますようよろしくお願い致します」「アットホームな感じで演っていいですか?
ボクのソロ・ライブと言っていますが、後から素敵なゲストお二方を迎えて熱いステージをお送りしたいと思っています。
休憩はありません。
前半と後半と分けるとしたら前半がボクのソロという感じになります。
すごく激しい曲は後半に登場するゲストと一緒に演りたいと思っております。
ジックリと聴いて頂けますとありがたいです」今回のソロ・ライブの冒頭を飾ったのはSilexナンバーの「One Evening in Paradise」。
Silexファンにはあまりにもおなじみの1曲。
普段はChoくんが歌っているパートをそれこそ歌うようにMashaくんがギターでなぞる。Silexのライブでは中間でみんなで歌うパートがあるが、今日はMashaくんがMCで触れていたようにお客さんたちはジックリとMashaくんのプレイに耳を集中させた。
「ありがとうございます…楽しいなぁ~。
今の曲は弾いていてすごく楽しい。
もちろんオリジナルの方には歌があるんですけど、そのメロディを弾くのがすごく楽しいんですね。
こんな感じのMCなんですけど。みなさん大丈夫でしょうか?」続いての曲は「Whar a Game!」。
怪し気なSEから一転、激しいキメがなだれ込んで来る。Mashaくんが人生で初めて作ったインストゥルメンタル・ナンバー。
やりたいことをテンコ盛りにして大変なことになってしまったという。なるほどコリャ大変だわ!
短調から長調への転調、幾度となく出て来るアクロバチックなキメ、しして火を噴くようなソロ!
ディミニッシュ・スケールを大胆に取り入れたメロディ・ラインがとても印象的だ。「ハァ~、ハァ~…ありがとうございます!
ヤバイなぁ、大変だなぁ。
やっぱり普段のライブだとバンドのみんなで勝負してる感じがあるじゃないですか?
でも今日はご覧の通り1人じゃないですか?」「佇まいは静かな感じかもしれないですけど、音で勝負!って感じでやっていきたいと思います。
これからその『音で勝負』の曲が2つ続きます」その勝負音を出すのはMarshall。
昔は「1987X」を愛用していたMashaくん。
最近はもうズットこれ。プリ・アンプが「JMP-1」、パワー・アンプが「9100」、そしてスピーカー・キャビネットが「1960A」。
「9100」は50W+50Wのステレオ・パワー・アンプ。
インプット・ジャックから出力トランスまで左右の回路が一切共有部分を持たない「デュアル・モノ・ブロック」という構造。
Marshallのパワー管といえば「EL34」が相場だが、9100や9200が発売された1993年当時、EL34が世界的に枯渇して入手困難だったため、Marshallは「EL34」の代わりに「5881」を採用して設計した。
その後、1997年になってようやくEL34の流通が再開したため、Marshallは仕様変更を施してそれぞれを「EL34 50/50」、「EL34 100/100」というモデル名にして再発売した。
昔、このEL34をラックに固定するための金具…我々なら「耳」と呼ぶのが普通のパーツをMarshallにオーダーする時にどう伝えればいいのか悩んだことがあった。
「The metal parts on the both side of EL34 100/100」ぐらいのことを言ったら、「Ears?」という答えが返って来て驚いたわ。
マンマなのかよ!
ついでに言っておくと、ヘッドやコンボの下面に付いている「足」ってあるでしょ?
アレも「feet」と「足」のままで通じる。一番驚いたのは、よく展示会で商品をシリーズごとに分けてディスプレイする時、そのひとつひとつのカタマリを「島」なんて表現するけど、アレも「island」っていうんだよ。
こういうヤツね。
コレは2008年のフランクフルトの展示会の様子。
この頃はジムもまだピンピンしていたっけ。 この辺りからますます「ジックリ」聴かせるパートに入る。
この後で取り上げる難曲「Forevermore」と同じ頃に作ったバラード「Aria」。
巧みな歌い回しでメロディをこの上なく美しく奏でる。
同時にパートに合わせてピックアップを使い分け、様々な表情をギターから引き出すのだ。
しかし、いい音だな~。途中でバッハの「G線上のアリア」をクォート。
コレ、「G線上」を知らない人がこの曲を聴いたら間違いなくMashaくんが作ったメロディだと思うだろう。
それぐらい自然に「G線上のアリア」のメロディは組み込まれているのだ。
つい先日、偶然ミッシャ・マイスキーが演奏するバッハの「無伴奏チェロ組曲全曲集」という2枚組のCDを聴いたんだけど、かなりの忍耐が要ったな。
私が思うに、最終的に「バッハが好きな人」って、「本当に音楽が好きな人」って感じがするよ。
だろすると…私は失格だ。もう1曲バラードを。
コレはSilexのステージでおなじみの「Wind From The East」。この曲もMashaくんが持つロマンティシズムを存分に発揮するジーノ・ロートに捧げられた1曲。
本当に歌を歌っているような演奏だ。ワウワウ・ペダルを使ってソロを劇的に演出する。
Mashaくんが弾くギター・ソロの密度はベラボーに高い。
そのソロには様々は要素が含まれているけど、弾き終わるとそれらがビシっとひとつにまとめられている。「ありがとうございます。
次に演奏する曲もメロディを聴いて頂きたいなって感じです。
バリバリのメタルではないので眠たくなったらスミマセン。
眠たくなるほど心地いい…ってこともあると思います。
ナニを言っているのかわからないけどすごく楽しいです」「前回ココでソロ・ライブを演らせてもらったんですがナンカすごく温かかったの。
でもMCについてはチョット反省したんですよ。
ただですね…やっぱりMCは向いてないな。
『オマエラ、ノッてんのか!』みたいなタイプではないし。
なので、引き続きこのままの感じでいきたいと思いますのでよろしくお願いします」続いて取り上げたのはSilexのレパートリーにはなっていないMashaくんのソロ曲「Celestional Dreams」。
「Celestional(セレスチュアル)」というのは「天の」とか「天上の」とかいう形容詞。
この曲を収録したCDがこの日の屋台村に並んだ。オーケストラとMashaくんの完全デュオ。
コレ、オケもMashaくんが作ったのか…スゴイな。
荘厳なオーケストラ・アレンジメントをバックにMashaくんのギターがひたすら伸びやかにメロディを奏でる。なんかこうなるともうMashaくんが神々しく見えてきますな。
そう「celestial」という単語には「神々しい」とか「こよなく美しい」という意味があるのだ。
こうなるとホンモノのオーケストラをバックにこの曲を演奏したいと思っているだろうナァ。
いつの日かその「Celestional Dream」が実現できることを祈っています。「あ~、楽しいナァ…おしゃべりはノープランです。
もしよかったらガヤが欲しい。
ボクがソロで演奏するのはあと3曲。
その後はまずギタリストの松浦和亦が出て来て、ボクと彼のインスト曲を演奏する予定です。
素晴らしい自分の身内なんですけど、ChoくんというSilexのボーカリストも後から登場しますのでお楽しみにしておいてください」「次に演ります2曲はカバーです。
皆さんは『Friday Night Fantasy』という曲をご存じですか?
『フライデイ・ナイト』って金曜ですね?…コレはテレビの『金曜ロードショー』の曲なんですけど。
だいぶ昔のことですのでわからないかも知れないですけど…。
ピエール・ポルトっていう人が金曜ロードショーのために作った曲が『Friday Night Fantasy』なんです。
ボクは昔からその曲がすごく好きでカバーしてみたかったんですよ。
それを今日演るんですが、その曲を聴くとナンカ郷愁とか哀愁を感じてしまうんです。
ガキの頃をすごく思い出してしまう」「ウチはオヤジが出稼ぎ大工だったので週末以外はずっと家にいなかった。
たまに外国にお寿司屋さんを作りに行ったりしていました。
だいたい週末の金曜日とかに家に帰って来て、家族みんなでご飯を食べたりとか、テレビを見たりとか、団らんの時間があったんです。
その日は夜更かししてもいい…それで金曜ロードショーを見たんですね。
だからすごく思い出深い曲なんです…ナンでこんなことしゃべってんだろう?
とにかくすごく好きでいつか演りたかった曲なので頑張ってカラオケを作って来ました。
アタマの音を聴いただけで『オ~、あの曲か!』ってなると思います」おお、この曲か!
「Friday Night Fantasy」というタイトルだとは知らなんだ…というより考えたこともなかった。こうして聴くといいもんですな。
Mashaくんの音楽的センスの冴えを見る思いだ。
それもそのハズ、やっぱりMashaくんは色んな音楽を聴いていて、ウチへ来るギタリストの中で「20世紀で一番カッコいいヴァイオリン協奏曲」とされるアラム・ハチャトゥリアンの「ヴァイオリン協奏曲」を知っていたのはMashaくんだけだった。「弾いてみたかった」というだけに感情の移入の仕方がひと際目立つ演奏だった。
この曲がこんな風に聞こえるとはネェ。
オモシロイものです。Mashaくん、テレビの映画劇場でチョット脱線させてね。
水野晴夫が解説していた「金曜ロードショー」って昔は「水曜ロードショー」だったんだよね。
しかし、あのテレビの「映画劇場」ってのはいつからなくなっちゃったの?
かつては毎日やっていたのにね。
番組のテーマ曲と解説者もそれぞ個性的だった。
ま、やっぱり解説者の最高峰はどうしたって淀川長治だったでしょうね。
私も古い映画しか観ないので、家には淀川さんの本が何冊かあって、どこで読んだのか、とても印象に残っている言葉がある。
淀川さんは生涯に8万本を超す映画を観ていて、それを称賛した人に向かってこう言った。
「ボクなんか全くダメです。映画をたくさん観てはいても、1本も創っていないのですから」
こんなことをしている私なんかにはグサっとくるセリフですよ。
ちなみに淀川さんが解説をしていた「日曜洋画劇場」のエンディング・テーマはコール・ポーターの「So in Love」だった。お次は「月曜ロードショー」。
5日前に亡くなった作家の曽野綾子のご主人で文化庁長官を務めた作家の三浦朱門のエッセイ『老年の品格(新潮文庫刊)』にオモシロいことが書いてあった。
三浦さんは東京大学のご出身。月曜ロードショーの解説を長年務めた荻昌弘も東京大学の出身で、学内で「映画研究会」を主宰していた。
三浦さんたちが学生の頃はまだまだ映画は娯楽の王様で、荻さんの映画研究会は入会の希望者が絶えなかったらしい。
すると、荻さんは入会試験というのを設けて会員を選んだのだそうだ。
コレが大変に評判が悪かったらしい。
「そんなことをしちゃ校友に失敬だ!」と、三浦さんは入会しなかった。
荻さんの月曜ロードショーのテーマ曲はブロードウェイ・ミュージカルの『ピーターパン』の「序曲」だった。
『Peter Pan』にはいい曲がたくさん入っているよ。
で、今回Mashaくんの選曲のおかげでこの辺りのことを調べていて一番おっタマげちゃったのは小森和子。
小森のオバちゃまも「来週はモア・ベターよ」とか言って映画劇場の解説をしてたかな?
そもそも「More better」という英語は断じてない!…言うならせいぜい「Much better」でしょう。
で、オバちゃま…なんと菊池寛(「文藝春秋」の創刊者)、川口松太郎(女優三益愛子のご主人、川口浩&昌のお父さん)、檀一夫(檀ふみのお父さん)と愛人関係だったって自分で言っているのよ。
最近見ないな…と思ったら20年も前に96歳でお亡くなりになっていた。
脱線終わり…Mashaくん、ありがとう。 カバー作品のもう1曲はゲイリー・ムーアの「The Loner」。
この曲は人気あるネェ。
ギタリストの皆さん、みんな演りたがる。ワーミー・バーを大胆に使って激情をブチまけるMashaくん!
しかし、いい音だ。ちなみにゲイリー・ムーアはイギリス南部の海辺の町、ブライトンに住んでいて、Marshallが新商品を出すと近所の「GAK」という楽器屋さんに自分から出向いて試奏したそうです。
「ありがとうございます。
『Friday Night Fantasy』わかりました?
(客席の反応よし)
あ、ヨカッタぁ!すごくうれしいです。
自分でこのカラオケを作ったんですけど、『あっ、この曲を演奏出来るんだ』と思って、作っていてうれし泣き…そんなことがあるんですね」「ギターのソロ・ライブに行かれる方もいらっしゃると思うんですが、なかなかバンドのギタリストにとってソロ・ライブというのはハードルの高いものなんですよ。
もちろんSilexのライブでもハラハラドキドキするんですけど、もうその比ではありません。
でも楽しいんだ、コレが!
去年初めて演った時は『またいつか出来たらいいな』と思っていたんですが、やりたいことをやってる時が一番素直っていうか、ハートがすごく素直に進むっていう感じ…わかります?
要するにまたやりたくなったの。
ソロなんでアットホームな感じでトークしましょう」「今まで、20歳ぐらいからバンドをやりたくて、その一心で活動して来ました。
やりたいことと求められてることのバランスを考えないといけないとすごく思って、その時その時にベストを尽くすようにしていました。
でも心のどこかで、『もっとこういう曲を演りたい』、『もっとこっちのコードを弾きたい』と、バランスをとるのが難しいと感じていたんです。
でも、求められていることを優先してやってきたことの方が多かった。
そろそろいいお年頃になって『もっとやりたいことやっておけばよかったな』と思うようになった。
自分が楽しいこと、自分が思っていることをやってみて、表現して、それが求められてるものではなかったな…という経験をした方がよかった…そんな風に思うことが結構あるんですよ」「ソロ・ライブってステージに自分しかいない。
そんなことまず考えられなかった。
一方ではやってみたいっていう気持ちもどこかにあって…でも自分はそんなタマじゃないなと思っていたんです。
ギタリストって『目立たないといけない』みたいなのがあるじゃないですか。
カッコよくないと楽しくないじゃないですか?
自分も太らないようにするとか、これでもガンバっていて、ボーカルに負けないぐらいのカッコいいギターを弾いて、いいバンドにするんだ!っていう感じでやっているんです。
でも自分は『もう少し後ろでやりたい』っていう性分なんですね。
だからそういう意味で迷った気持ちでバンドをやってる時期もあったんです。
しかし、もっと目立ってみて、ズッコケたらそこでまた勉強して、次につなぐチャレンジをする方がいいじゃん?ってなったんです。
今日は目立つしかないポジションにいてすごく緊張しているんですが、コレ気持ちいいな~って思っています…ボーカルになった気分?」 「でもやっぱり私は1ギタリスト、1バンドマンなのでメインのSilexをドンドン進めていく立場にあります…ウン、今年はうまい具合に話がまとまりそうだな。
これからも楽しみにしててください。
そして引き続きSilexの応援をよろしくお願いします!」前半の最後に演奏する曲に備えて少々ウォーミングアップ。
イヤ、コレはきっとMashaくんのサービスなのね?
ア・カペラでバリバリと弾いて見せておいて…前半の最後に難曲「Forevermore」を持って来た!
弾け飛ぶブギのリズムに超絶技巧を敷き詰める!
「Marshall GALA」でも演奏してくれたおなじみの曲だけど、聴けば聴くほどこの曲の大変さがわかってくるわ。
出音も実に魅力的!
太くて、コシがあって、音がストレートに飛び出してくる。
まさに真空管アンプならではのサウンドを聴かせてくれるわい。 「人間ってスゴイなぁ」と思わず感心させられてしまうような一寸のスキもない凄まじいギター・プレイだった!
日曜日の朝のテレビ番組に出ていれば間違いなくたくさんの「あっぱれ!」をもらっていたことだろう。「大変だった~!」
こうして『Live at Home』の前半が締めくくられた。
Masha(Silex)の詳しい情報はコチラ⇒Silex Official Website
☆☆☆Marshall Music Store Japanからのお知らせ☆☆☆
REIGNING DAYSはMarshall Recordsの発足とともにデビュー・アルバム『エクリプス(Eclipse)』を発表したデボンシャーのトリオ。
アルバムに収録されたシングルが大きな評判を呼び、「グラヴィティ(Gravity)」はケラング!のトップ20に食い込んだ。
2019年に惜しまれつつ解散。『Eclipse』は英気溢れるいちブリティッシュ・バンドの唯一の記録となったしまった。
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