【50 YEARS OF LOUD LIVE】vol.7~Joe Satriani
再びニコがMCで登場。ニコは本当におしゃべりが上手。ステージでもオフステージもまったく変わりなく人を惹きつける魅力を持っている。
10年以上前、初めてニコに会った時、その強いコックニー訛りで(ニコはロンドンはハックニーの生まれ)何を言っているのか理解するのにかなり苦労したが、フランクフルトの展示会で一緒にドラムを組み立てたり、来日公演に遊びに行ったり、色々な機会で顔を合わせているうちに仲良くなった。すると、訛りの問題なんかウソのように吹っ飛んでしまうんだな…。コミュニケーションって実に不思議なもんだ。
そして、紹介される7番目のギタリストは…
ジョー・サトリアーニ!
ものスゴイ歓声!驚くべき人気の高さ!
演奏の前にジムへの弔辞と50周年への祝辞を述べるジョー。
ハウス・バンドのギタリストとしてクリス・ジョージも出ずっぱりだ。
ベースのジャズ・ロウクリーも出ずっぱりだ。
♪チーチッキ、チーチッキ…ハイハットのレガートで始まるこの曲… 「Satch Boogie」!
いきなりの代表曲にものスゴイ歓声が送られる!
それにしてもものすごいテクニックと歌心!
昨日のリハーサルで十二分にブッ飛んだけど、こうして本番で見るとこれまたスゴイ。
真ん中のタッピングのパート。
この曲を聴くとね、西山毅さんを思い出すんだ~。2001年に開催した『マーシャル祭り2』の時に西山さんはこの曲を選んだ。そのプレイが最高にカッコよくてね~。ドラムは菅沼孝三、ベースは櫻井哲夫だったからね。スゴイに決まってるでしょ?
今回、ホンモノを見ていて思い出しちゃった!
さて、今日のイベントにはシグネチャー・モデルを出しているギタリストが多く出演しているが、ジョーもそのうちのひとり。
JVM410Hにノイズ・ゲートを組み入れたJVM410HJSを 使用していた。 下の写真でいえば向かって左で並んでいるJVMだ。この人もやっぱりBキャビなんだね~。
向かって右はニック・ボウコットのDSL100Hと1960A。このジョーのセットではおやすみしている。
本番直前にステージ横に準備されていたジョーのJVMのフット・コントローラー。JVM最大のウリ、CLEAN、CRUNCH、OD1、OD2と4つのチャンネルすべてを使用しているのがわかる。
ナンダカンダ言ってもですよ、こうしてジョー・サトリアーニのようなあまりにもすごいギタリストが無条件に認めているJVMはすごいと思いますよ。
こんなスーパー・プレイを見れば、何のヒイキ目もなしに素直にそう思っちゃうよ。
「ウマイ」の種類にもいろいろあるし、昨日も書いたけどプロに対して「ウマイ」なんて表現は失礼だとも思う。でも、「ギター」という楽器をひとつの「音楽作るための単なる道具」としてとらえた場合、その道具を使いこなすことにおいては、もしかしたらこの人が一番「ウマイ」んじゃないかな?…という気がした。
これまで40年近い間にずいぶんといろんなギタリストを見てきた。ジェフ・ベックやゲイリー・ムーア、イングヴェイ、ザック・ワイルド、ウルリッヒ・ジョン・ロート、パット・マルティーノなんかはすぐ目の前で見たし、昔のサンタナもヴァン・ヘイレンもルカサーもリッチーも、ロバート・フリップもヤン・アッカーマンもフランク・マリノもフランコ・ムッシーダもドイル・ダイクスもローレンス・ジューバーもマーチン・テイラーもパット・メセニーも、レス・ポールもロイ・ブキャナンもローウェル・ジョージも…ありとあらゆるタイプの名手を見てきて、その誰もが「スゴイ」と思った。でも、「ウマイ」というキーワードが与えられたら…ん~、やっぱりこの人を推すかも。
2曲目は「Always with me, Always with you」。この愛くるしい旋律!
曲の良さが彼のプレイのウマさを引き立てていることも間違いない。
またね、たたずまいがいいんだ。落ち着いていて、すごく大人の感じがする。
この日、ジョーはポールと楽屋がいっしょだった。で、ポールに用事があったので楽屋を訪ねると中からギターの練習をしている音がする。ドアをノックすると、そのギターの音が止み、中からドアを開けてくれたのはジョーだった。「あ、練習の邪魔をしてスミマセン」というと「ゼ~ンゼン、平気さ!」とニコニコ答えてくれた。こういうちょっとしたことでますますファンになっちゃうんだよね~!
ジョーのコーナーの3曲目にはポールさんがジョインした。
曲は「Goin' Down」。
向こうの人、この曲好きだよね~。何かというとコレ。でもカッコいいから大歓迎だ。
ドラムはブライアンからニコにスイッチ。
歌も披露したジョー。
ニコのこの表情がまた素晴らしい!
もちろん、この2人が揃えばお約束のギター・バトル!
2人ともテクニックに頼らない濃いフレーズの応酬で聴衆をまったく飽きさせない!
「あ、そう来る~?、じゃこっちは…」みたいな…。
ジョーが歯で弾けば…
当然、ポールも!
名手同士のバトルは素晴らしい~!
技術の粋を尽くしてスリリングに速く弾くギターと数少ない音でエモーショナルに弾くギターとどちらが難しいか…なんてことを昔はよく考えたものだ。昔、マーブロに書いたこともある。
以前は私は「速弾き至上主義」で圧倒的に「速弾き」の方が難しいと確信していた。とにもかくにも脳ミソと指を超人的になスピードで自由にリンクさせる至るまでには呆れるほど時間のかかる鍛錬と努力が必要だし、それらの音をひとつひとつ美しく出すことは最高の難関だ。
しかしですよ、数少ない音で人を感動させるというのも同じぐらい難しいということが段々わかってきた。それはビブラートのかけ方がどうとか、音色がどうとかいうことではないしに、やはり音楽の神様に選ばれた者だけがなし得る所業で(ナンカ、「下司の極み!」みたいになってきたな…)、一般人が努力しただけではどうにもならないエリアのような気がしている。森園さんのギターなんかを見ているとそう思うね。
ジャズとロックのバンドをバックにソロを弾くスタイルのギターを対象に、弾いているフレーズの難易度や音楽性を考慮して個人的に選ぶとすれば、タル・ファーロウあたりが頂点だと思うな。味わい深い複雑なフレーズを、速く、そして誰よりもうまく弾いているように思う。私くんだりじゃまったくコピーできないし、コピーする気にもならんわ。
で、私なりの結論は、ギターという楽器は、早く弾くのも、ゆっくりいい音色で弾くのも難しい。引き分け。どちらとも言えないんだけど、ひとつ言えるのは、すべての楽器がそうであるように、もっともいいギターというのは、「歌っている」かどうか、つまり「音楽的」か否かに収斂されるではなかろうか?当たり前のことなんだけど、ギターはロックにおいてはファッション性の強い楽器なのでこのことがすぐに忘れられてしまう。
やっぱり「歌」は音楽の頂点にあるものだからね。これが「オペラが音楽芸術の頂点」といわれている所以だ。
そうしたことを煮詰めたギタリストって似て来てしまう、ということも今回発見した。ロンドンのスタジオでジョーが新しいモデルの試奏をしているのを見て本当に驚いた。土方隆行にソックリなのだ。私は仕事柄ずいぶんオフ・ステージの土方さんのギターと接してきたが、なんというか、リズムの感覚とかアーティキュレーションとか、呼吸のタイミングとか、もちろん弾くフレーズもどことなく似ている。とにかく「正統派達人の域」に届いてしまうと、ああして同じになっちゃうんだね~。
落ち着いていて、とてもやさしい物腰もよく似ていると思った。
ああ、いいものを見せていただきやした!地球の裏側まで行った甲斐は十二分にありましたわ!
後日、チャリング・クロス・ロードのCD屋でジョーのパリの2枚組のライブ盤を買った。
つづく
(一部敬称略 2012年9月22日 London Wembley Arenaにて撮影)