Marshallの新製品三部作<作品2>~1959 MODIFIEDとJCM800 MODIFIED
今回のNAMMショウで発表されたMarshallの新商品の2つめは「改造マーシャル」。
本家が「改造」ってのはヘンな話で、普通だったら「進化」とか「発展」とかいう言葉をあしらって元来あった商品を「グレードアップしました!」と喧伝するところ。
でもMarshallは故意にそうしなかった。
「改造」である。
改造されたMarshallは「1959」と「2203」。
今風に言えば「シン1959」と「シン2203」という感じスかね?
我々の世代なら「本郷猛」と「一文字隼人」だ。
商品の名前は「1959 MODIFIED」と「2203 MODIFIED」とそのマンマ。
社内では「Nineteen-fiftty-nine Mod」とか「Two-two-o three Mod」とか呼んでいるようだ。
日本では「ごーきゅーもっど」とか「まるさんもっど」になるかな? 私が若い頃、つまり1970年代の話。
みんなMarshallのナチュラル・ディストーションでギターを弾きたいんだけど、100W出力の「1959」ではあまりにも音がデカすぎて日本のライブハウスの規模では実用的ではない。
そこで半分の出力であるところの「1987」を重用する人が少なくなかった。
ハードロックに限って言えば、そこにギターを直接インプットして得られる極上のギター・サウンドでライブをするのが当たり前だった…そういう時代があった。
新宿ロフトのBAD SCENEのステージのサウンドなんて忘れられないわい。
その後、「マスター・ボリューム」という概念が出て来て「自由な音量で好きなだけアンプを歪ませることができる」なんて触れ込みにギタリストたちは飛びついたんだね。Marshallも1978年に「Mater Model」と呼んだ「2203」や「2204」を発表し、ほどなくして1981年にJCM800シリーズがスタート。
時の音楽シーンの勢いに後押しされてJCM800は世界中で爆発的にヒットした。
一方では「そんじゃ1959にマスター・ボリュームを付けたらどうなのよ?」と、その手の改造が人気を呼ぶようになった。
今回のこのMarshall新商品のシリーズはそうした巷間で人気のあった改造を自らの手でやっちゃおう!という「イヤミ」と取れなくもないコンセプト?
イギリス人っぽくていいネェ。
Marshallが付けたキャッチ・コピーは「Inspired by Guitarists, Created by Us」。
なるほど…考えてみれば「ミュージシャンの声に耳を傾けてそのニーズに応える」という精神はピート・タウンゼンドのアイデアを取り入れて60年前に作った最初のMarshall「JTM45」の時と変わっていないのかも知れない。
1959 MODIFIEDまずは「1959 MODIFIED」。
フロントはこんな感じ。
確かにこういう風に改造されたMarshallを時々見かけるな。
やっぱりいいな、このルックスと色合い。
センター・フロント・フェイス、スモール・ゴールド・ロゴ、ゴールド・ビーディングにレヴァント・カバリング…この組み合わせはもはや「芸術品」の域に達しているんじゃん?
私は事務所の壁に飾ってある「1959」を10年以上、365日、毎日目にしているけど飽きる気配は一切ない。
久しぶりに言うけど、この黒いハコの中には「ロックの伝統と夢」が詰まっているからなんだ。さて、左上に取り付けられたプラークには「MODIFIED 1959/M01 MARSHALL FACTORY BLETCHLEY UK」と記されている。
基本的なコントロールは普通の1959と同じ。
改造のキモはまず4インプットのハイ・チャンネルのLOWをつぶして取り付けられている「MASTER VOLUME」。
1959の歪みサウンドを自由な音量で得られればどれだけうれしいか…ロック・ギターを弾く人なら誰だって思うもんね。
低音量にしてもペランペランにならず、どんな音量設定でも厚みのあるウォームなトーンが得られるように設計されている。 パネルの中央部、ノブの下に配置されているのは3つのミニ・スイッチ。
向かって左から…
①オーバー・ドライブ・モード(「I」か「Ⅱ」)
②クリップ・オンオフ(「0」か「CLIP」)
③ブライト・スイッチ(「0」か「BRIGHT」)
まず③はわかりやすい。おなじみのブライト・スイッチ。
今までになかったのは①と②の機能。
これは組み合わせになっていて、まず②で「クリップ」をするかどうかを決める。
クリップを「オン」にすると尚一層深い歪みを得ることができる。
次に①でモードを選ぶ。
モードは「I(DIOD)」と「Ⅱ(TRANSISTER)」を選択できるようになっている。
コレは整流回路をイジっているのかな?
「I」はタイトでコンプがかったサウンド。
歪み系のペダルをアンプの前に1ケ挟んだようなイメージらしい。
「Ⅱ」はオープンでオーガニックな歪み…「ナチュラル」という表現がふさわしいサウンド。
「Ⅱ」をを選択すると若干音量が下がるため、マスター・ボリュームを調節する必要があるようだ。
何を言っているのかよくわからないでしょう?
スティーブがそれぞれの機能をウマい具合にデモンストレートしてくれているので下のビデオでその効果のほどをご確認頂きたい。回路はハンドワイアード。
ECC83を3本、EL34が4本使われている…つまりオリジナルの「1959」と同じ。以上で説明したサウンドの違いにご注目!
2203 MODIFIED続いては「2203 MODIFIED」。
フルフェイスのフロント・パネル、エレファント・グレインのカバリングにホワイト・パイピング…なるほど「JCM800 2203」だ。
コチラのプラークには「MODIFIED 2203/M01 MARSHALL FACTORY BLETCHLEY UK」と記されている。
それでは「2203 MODIFIED」の改造っぷりを見てみましょう。
「2203」は元々マスター・ボリュームがついているモデルなのでその改造の必要はハナからなし。
そこで、与えられた改造はコチラもパネル中央にミニ・スイッチが3つ。
向かって左から…
①ミッド・シフト(「0」か「MID-SHIFT」)
②ODモード(「I」,「Bypass」,「II」)
③タイト・スイッチ(「0」か「TIGHT」)
①は中音域をブーストするヤツ。
ソロの時やシングル・ノートを太く鳴らしたい時に入れてやれ。
今回のはすごく出来がいいらしい。
②で追加のオーバードライブのモードを選ぶ。
3点スイッチになっていて、真ん中のポジションはバイパス…すなわちオフ。
「I」を選んでも「II」を選んでも歪み度がアップするが「II」の方がゲイン度がより高い。
③は低音域をカットして音をシャキッと際立たせる。
ODモードをオンにして歪みを深くした時に使用すると低音の切れ味が良くなる。「2203」を使う時、大抵の人はギターを「HIGH」チャンネルにインプットすると思うんだけど、案外「LOW」で使う人多いんですよ。上で紹介したスイッチはもちろん「LOW」インプットした時にも有効で、クリーンめのサウンドで機能させるのもいい感じ…らしい。
オリジナルの「2203」同様、回路はECC83を3本、EL34を4本使用している。
スティーブ・スミスのデモンストレーション・ビデオはコチラ。
「1959」や「2203」をよくご存じのベテランだけでなく、真空管アンプが身近でない若いギタリストの皆さんにも是非お試し頂くことを願っている。
<つづく>