amber lumber~ワンマンライブ 山本征史生誕祭 <前編>
今回のamber lumberの単独公演のレポートは昨年も開催された征史さんのお誕生日ライブ。
前回は客入れBGMに相撲甚句が使われていたが今回は「There Will Never Be Another You」が会場に流れていた。
「もうひとりのアナタはいないことでしょう」という意味のタイトルから「貴方だけを」とか「貴方なしでは」なんて邦題が付されることがあるジャズのスタンダード中のスタンダード。
曲自体は1942年の『Iceland』というミュージカルの挿入歌なのだが…『アイスランド』?
イギリスに行くと「Iceland」というスーパーマーケットをよく見かける。
コレ、ナニかというとその名の通りありとあらゆる冷凍食品を取り扱っているスーパー・マーケット。
『アイスランド』ねぇ…私は人様より多くの映画を観ているつもりではいるけど『Iceland』なんて映画は影も形も観たことがない。
もちろん人の口に上っているのを耳にしたこともない。
そんな映画ではあるが、バーンスタインの『キャンディド(Candide)』同様に音楽だけは残ったというワケ。
そんな名曲だからしてモダン・ジャズのアルバムを聴いていると、チョクチョク「There Will Be Never Another You」のコード進行を拝借したオリジナル曲に出くわす。
同じ曲を吹き込んでしまうと著作権使用料を支払わなければならないので、昔のジャズ・ミュージシャンはよくこういうことをした。
ジャズの場合はアドリブ・パートに入っちゃえば「でもそんなの関係ネェ」だからね。
そして「There will~」のコード進行を元に新たに作られた曲の代表がホレス・シルバーの「Split Kick」という曲(アート・ブレイキーの『A Night at Birdland』収録)。
「よくもマァ、こんなカッコいい曲が作れるもんだナァ」と聴く度に感心してしまうのだが、コード進行はまさにパクリなのよ。
そんな名曲を実にうまく使ったのが1982年の『ガープの世界(The World According to Garp)』。
ジョン・アーヴィングが著した原作を映画化することは不可能と云われていたにもかかわらず、『明日に向かって撃て!』や『スティング(The Sting)』、『スローターハウス5(Salghterhouse-Five)』の名匠ジョージ・ロイ・ヒルがうまい具合に撮り上げた。
ちょっとココでサブ脱線をお許し頂きたい。
この『明日に向かって撃て!』という邦題ね。
原題は『Butch Cassidy and the Sundance Kid』という。
ご存知の通り「ブッチ・キャシディとサンダンス・キッド」というのは19世紀末のアメリカで「ワイルドバンチ」をいう徒党を組んで銀行強盗や列車強盗を働き、ボリビアまで逃げた末に銃撃戦で射殺された大悪党だ。
この映画は私が小学6年生ぐらいの時にリヴァイバル上映されて、バート・バカラックの主題歌の効果もあって大きな人気を呼んでいた。
でも、私はそんな悪党が巻き起こした仕儀にスポーツ青春映画よろしく「明日に向かって撃て!」とは何事だ?と思っていた。
これは悪事を推奨しているかの錯覚を受ける…悪党が主役の「青春映画」ではあるのかも知れないが。
そして、後に気になったのが原題にある「the」。
「Butch Cassidy」には何もついていないのに「Sundance Kid」には定冠詞の「the」が付いている。
ナゼか?
コレ、「ブッチ・キャシディ」の方は人名なんだけど、「サンダンス・キッド」というのはニックネームなんだよね。
「Sundance」なんてファースト・ネームがあるワケないもんね。
だから「唯一の」という意味合いで「the」がついているというワケ…ではなかろうか?
ま、どうでもいいか?
イヤ、「起きている間中、私はこんなことばかり考えている」という話し。
さて、『ガープの世界』。
まず、ロビン・ウィリアムスやグレン・クローズを主役に配し、脇をジェシカ・タンディやジョン・リスゴーが固めたキャストがとてもヨカッタ。
この作品は「The Will Never Be Anoter You」だけでなく、下のポスターの赤ちゃんとビートルズの「When I'm Sixty-Four」を組み合わせたタイトルがズバ抜けて良いアイデアだった。
かつて私はこの映画が大好きで、今でもこのタイトルを見るだけで泣くことができる。
もうひとつ泣けるのは自分が64歳まであとわずか…ということ。
「64歳なんて一体いつのことだよ」と思いながら曲を初めてこの曲を聴いた13歳の頃から50年経ったなんて信じられんわ。
で、肝心の「There Will Be Never Another You」。
今回のSHOJIMARUや『ガープの世界』で使われていたのはナット・キング・コールのバージョン。
1955年の『Nat King Cole Sings for Tow in Love』というアルバムに収録されていて、私は映画を観てすぐに買いに行ったわ。
ネルソン・リドルのオーケストラをバックに「Love is Here to Stay」やら「Tenderly」やら甘ったるい曲をあの美しい声で聴かせてくれる好盤。
その美しい声の持ち主がこの人。
ナタリー・コールのお父さんね。
この人、楽屋でステージ用の服に着替えた後は絶対にイスに座らなかったという。
ズボンにちょっとでもシワがよってしまうのをキラっていたのだそうだ。
定刻になり『山本征史生誕祭』がスタートした。
「なんか今日、男子率高くない?私も遂にアレかしら?」
「アッハハハ!…モテ期かしら?
あ、そうか山本さんのお誕生日だから男性率高いのか?
先に言っちゃったけど今日は山本さんの誕生日です」
「ありがとうございます。
イヤ本当に毎年お付き合いくださってありがとうございます。
今日も精一杯演らせて頂きますので最後までよろしくお願いします!」
森永"JUDY"アキラ
山本征史
1曲目は「青い月」。
実は昨年の征史さんのこのお誕生日ライブの時も「青い月」を1曲目に演奏した。
ナニか特別な思い入れでもあるのかしらん?
続けて「あたし待ってんの」。
説得力あるアキラさんの歌とシャープなストラミングが絶妙な味わいを醸し出すおなじみの1曲。
そのアキラさんのゴキゲンなギターの音を出しているのがMarshall。
ココSHOJIMARUでのワンマン・ライブではスッカリおなじみの『AS100D』。
「AS」は「Acoustic Soloist」の頭文字。
アコースティック楽器用アンプの傑作だ。
アキラさんの歌に導かれて奏でられるコンパクトながら滋味深い征史さんのソロ。
征史さんもSHOJIMARUのライブではおなじみのMarshall「1992SUPER BASS」。
この日も2台のMarshallがamber lumberサウンドのお手伝いをさせて頂いた。
「ありがとうございます。イヤ~なんかありがたいね。
よく言うじゃん?…『他人も自分みたいに思えたらいい』みたいなさ。
人が幸せになったらソレをよろこべる人になったらいいんでしょ?
でも実際は誰のことも好きじゃないんじゃないか?って思うくらいに人の幸せをよろこべないんだよね。
どうしたらいいんだろう?…『人の不幸は密の味』」
「三次元の人間界には過去、現在、未来ってあるけどホントは全部一緒らしいんだ。
その概念がどうしても理解できなくて。
過去も未来もココにあるっていうのが理解できない。
いつ理解できるのかな?
だから多分私は過去に傷ついたコトを死ぬまで言い続けるよ。
コレでつながったかな?」
とアキラさんがつなげたのは「毒を吐く」。
今日もまるで匕首を突き立てるような鋭い歌声で毒を吐いてくれた。
アキラさんのストラップを見よ!
何せアキラさんにはジミヘンがついているのだ。
そのまま、またファンキーなストラミングに乗って「冗談じゃない」。
本当にこのストラミングは聴いていて気持ちがいい、というか安心感が強い。
征史さんのソロ。
たちまちエキサイトして…
爆発!
コレが第1回目。
ギターをガットに持ち替える。
「半年ぐらいかかってカワイイ子が出来ちゃったんです。
岐阜県の可児市のギター・メーカーから『早くキメてください!』って催促されつつ何回も行ったり来たりしているウチにヘッドのデザインを私がやることになったんだけど、またそのデザインが決まんなくて…。
『あなたのデザインさえキマればもう全部完成します』っていう状態でグズグズしてた。
かわいいでしょ?」
「音もカワイイんですよ。
私たちはラッキーよね。
今日もMarshallの良い音で演奏できて…」
おホメの言葉ありがとうございます!
「そうは言っても森永さんは機材をナニひとつ車から降ろしていないんですよ。
自分の荷物が来たら降ろせばいいのに『あっ、あっ』とか言ってギターの1本も降ろさない。
今日もボクが全部降ろしました」
「だって女の子だから…。
見掛け倒しで何にも出来ないんです。
山本さんがいなくなってもこの子(ギターのこと)と一緒にしばらく曲を作ったり頑張ったりして~いこうと思いますよ」
歌詞のお題を出してくれた人がほぼお越しになっているというので「最後のひとつ」。
今頃ナンですが、この愛らしいワルツは亡くなった人のことを歌っているという解釈で良いのであろうか?
詞も曲もとても良い出来だと思う。
「酔漢」、「財布」、「芝の浜」の三題で作ったという『芝浜』に匹敵する…と言ったらホメ過ぎか?
三遊亭圓朝の『鰍沢』も三題噺なんだよね?
『鰍沢』といえば林家彦六(ex. 林家正蔵)。
下の写真、私が大学の頃は右側の木造の建物が駐車場の部分までつながった四軒長屋だった。
場所は銀座線稲荷町駅の裏。
今では残された部分の部屋のひとつに藤間流の日本舞踊の師範がお住まいだが、昔は「彫ナントカ」という彫師が住んでいた。
タトゥーじゃないよ、浅草のホンモノの彫師だ。
その長屋に「稲荷町の師匠」の林家彦六が住んでいた。
正蔵師匠の『鰍沢』、とてもいいですよ。
新しいガット・ギターが相当お気に召している様子のアキラさん。
「ありがとうございます。
イイでしょ?カワイイっしょ?
コロナの時に家で借り物のガット・ギターで配信してたんだけど、それを返せって言われちゃったものだからガット・ギターが欲しいナァと思っていたの。
だからコレ、配信の画角に収まるサイズなの。
どうぞ、お誕生日の山本さん。おしゃべりして頂いてください」
「今日は話したいことがないんですよ。
相撲も見てはいたんですけど森永さんとは話が合わないし。
相撲好きは相撲好きなりの見方がありますからね。
そんな思うようにいかない気持ちを歌ってみましょうか」
征史さんの歌で「思えども思えども」。
久しぶりだよね。
ウチは動物を飼わないけど、私はネコはキライではありません。
だからとても好きな曲。
「♪いっそネコに ネコになって」のところで今回もグッと来てしまった。
泣かせる曲だ。
「今日のセットリストがなかなか決まらなくて二転三転したんですよ。
ところで最近、ウチの母がニワトリの卵を孵して今朝ヒヨコが生まれたんだよ。
8個あっためて、1羽だけ孵った」
「セットリストはいつもだいたい決まるが本番の5分前とかですからね。
そのニワトリは家の中で普通に飼ってるの?
森永さんのことお母さんと思ってるんじゃない?」
「人のことを親だと思ってる感じ。
食用の大っきくなったヤツなんだけど、カァちゃんが言うには1メートルぐらいになるみたい。
足にも毛が生えていてジュラ紀みたいな。
そんなのがコッコッコッってやってるワケ…ヤバいね」
アキラさんのSNSへの投稿によると、そのジュラ紀っぽいニワトリは「天草大王」という地鶏なのだそう。
「天草大王」だなんて名前からしてスゴイが、なるほど見てくれもスゴイ。
立派なニワトリだナァ(サイズは未確認)。
アキラさん曰く「食べるとおいしいヤツじゃん?」
天草大王は明治中期に熊本の天草地方で作出していたが昭和に入って一旦は絶滅したのだそうだ。
ところが残された情報を基に2000年に復活に成功。
アキラさんのお見立て通り、熊本県内のみ飼育されている大型の食用鶏なのだそうです。
ギターを鉄弦に持ち替えて「Heart to Heart」。
四分音符をポツンポツンと置いていく征史さんのベースが独特。
そして耳に残る「♪Heart to Heart」のコーラス。
第1部最後に持ってきたのは楽しい楽しい「ランデヴー」。
この曲のAメロのリズムって10/8拍子というか、4/8と6/8拍子が組み合わさって出来ているのね?
アキラさんにニジリ寄ってグイグイとグルーヴを引っ張る征史さん。
お誕生日のプレイはノリノリだ!
「ありがとうございました!」
しばし休憩。
amber lumberの詳しい情報はコチラ⇒amber lumber Official Web Site
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(一部敬称略 2024年3月22日 神田SHOJIMARUにて撮影)

