PROGRESSIVE LIVE 2026~深井麻梨恵バンド
プロッグ・ロックの2大女性キーボード奏者がしのぎを削るダブル・ヘッドライナー・ショウ。
その前に…「プロッグ・ロックの2大女性キーボード奏者」なんて簡単に言っているけど、考えてみるに海外には女性でプログレッシブ・ロックを演っているミュージシャンなんて果たして存在するのであろうか?
今現在の状況は存じ上げないが、少なくとも私がロックに夢中になっていた頃を思い出してみると……出てこない。
せいぜいカーヴド・エアの「ソーニャ・クリスティーナ」とルネッサンスの「アニー・ハズラム」、それにカンタベリー人脈の「バーバラ・ガスキン」ぐらい?
彼女たちは全員シンガーであって、キーボード奏者ともなると全く思い浮かばない。
もっともギタリストもドラムマーも同じなんだけどね。
そんな3人の「プログレ女丈夫」のアルバムをピック・アップしてみた。
左はイギリス王立音楽大学出身の名ヴァイオリニスト「ダリル・ウェイ」率いる「カーヴド・エア」の『Airborne(1976年)』。
ソーニャのフワフワしている声が何ともいい味わい。
そういえば生前の大谷令文さんは「ソーニャ・クリスティーナのファン」だって言っていたっけ。
コレ、ドラムスがポリスの「スチュアート・コープランド」なんだよ。
でも残念ながらカーヴド・エアは初期のアルバムの方が断然魅力的なの。
中央はアニー・ハズラムのソロ作品『Annie in Wonderland(1977年)』。
このアルバムに限ってはプログレ色はほとんど感じられないが、当時旦那だったロイ・ウッドがプロデュースしただけあって大変に素晴らしい仕上がりになっているのでピックアップしてみた。
右はバーバラ・ガスキンが参加しているカンタベリーの名門バンド「ハットフィールド&ザ・ノース」の代表作『The Rotter's Club(1975年)』。
内容はもちろんのこと、ジャケットのデザインも文句のつけようがありゃせんわ。
とにかく「女子プロレス」というのは珍しくないけど、「女子プログレ」というのは世界的にも稀有と言えるでしょう。
というワケで休憩をはさんでの後半、「深井麻梨恵BAND」の登場だ。
「ありがとうございます!」
カッコよかった先ほどの池㞍家に続いて深井麻梨恵BANDをお送りしま~す。
楽しんで頂けたらうれしいです。
よろしくお願いしま~す!」
早速、重厚な音色でキーボードを操り出す「深井麻梨恵」。
曲は前回紹介した女性キーボード奏者のコンピレーション・アルバム『池尻家×SHOKO solo project "Sonicscape"×深井麻梨恵』に収録されている「Help Me」。
コチラは7年前のCD発売記念ライブの時の深井麻梨恵BANDのステージ。
そして、今。
曲はすぐさまバンド・アンサンブルに突入した。
メンバーはベースが「上田哲也」にスイッチ。
上田さんはMarshall Blogへはコレが2度目のご登場となる。
前回は2019年8月、黒沢ダイスケさんのライブの時だった。
場所は横浜にあった旧「Hey Joe」。
下はその時のようす。
ギターとドラムスは池㞍家のステージから留任。
樋口征宏
伊藤"ショボン"太一
同じく7年前のHey Joeの時のショボンちゃん。
ドラム・ソロの途中で「スティック」を「チョップスティックス」に持ち替え、鴨のローストかなんかを食べながらドラムスをプレイするという離れ業をやってのけた。
4/4拍子に3/4拍子を練り込んだリズムに乗った麻梨恵ちゃんのハードなオルガン・ソロ。
続くギター・ソロもハードにキメた!
カッコいいわ~。
スリリングな要素に富んだな曲想がコンパクトにまとまっていて実にカッコいい!
「このメンバーで演奏するのは本当に久しぶりです」
10年近くぶりらしい。
そんな話をしていた麻梨恵ちゃん、「あ、イケない!私、靴をはいて来ちゃった!」と履物を脱いでいる間、マイクをショボンちゃんに渡した。
話を振られたショボンちゃん。
この日は晴天でかなり日差しが強かったことから日傘の話に。
ショボンちゃんは秋田の人で大層色が白く紫外線に弱いため外では日傘を愛用しているそうだ。
「乳母日傘(おんばひがさ)」なんてのは良家で育ったことを意味する言葉だけど、もう日本もこんな気候になってしまったのだから男性だって大いに日傘を使うべきだと思いますよ。
私は使ってはいないけど「男の日傘」は賛成。
でも今年の夏は日傘は要らないネェ。
その代わり「雨傘」は片時も離せない。
東京は今日で33日連続の雨模様だってよ!
おかげで野菜の値段がアホみたいに上がっちまったじゃねーか!
麻梨恵ちゃん的には新し目だという「Antinomy」。
ピアノの低音部を使った7/8と4/4拍子を組み合わせたリフ。
ヒナステラみたいというか「Tarukas」みたいというか、いいナァ~。
「antinomy」とは「二律背反」という意味。
互いに矛盾する2つの意見や考えがあって、どっちももっともらしいんだけど同時には成り立たない状態のこと。
ようするに「アチラを立てればコチラが立たない」ということね。
夏目漱石の『こゝろ』なんかはまさにこの状態だわね。
リズムはそのままにバンド・アンサンブルとなって…
ホールズワース・テイストのギター・ソロが飛び出して来た!
樋口さんは真空管アンプの良さをよくご存知だ。
この日使ったMarshallは「モディファイド・シリーズ」の「1959MS」。
歪を深めにセットしてバリバリ弾いてくれた。
1959MSはハンドワイアード回路なので、音の立ち上がりがすこぶる速く、大変に図太い音を出してくれる。
だから樋口さんのようなシュレッダーが望むであろう理想の弾き心地とサウンドをシッカリと実現したハズだ。
コチラ側にもどんなに速いパッセージを弾いてもひとつひとつの音に説得力が込められているように聞こえて来た。
フレットレスの特性を活かした上田さんのベース・ラインがまた素晴らしい。
ダイナミックなシンセサイザー・ソロ!
そしてダカーポしてあのピアノのリフへ。
この曲、メチャクチャ好みです。
ショボンちゃんはNATAL。
Cafe Racrの12"、13"、16"、22"のキットに
現在は生産していない「Staveスネア」を組み合わせた。
上田さんのベースから「♪ニュイ~ン」とスタートしたのはCDに収録されている「Beyound the Green」。
ココまでとはガラリを趣を替えて、7/4と6/4拍子を組み合わせたリズムで…
クリーン・トーンのギターがポツポツと語り掛けていくユッタリ・ナンバー。
このクリーン・トーンがまたいいんですよ、「1959MS」は!
どこまでも太く、音ヌケがよい。
曲はメローに進行していくが、きっとどこかでまた大爆発するんだろう…と思うでしょ。
ところがそのまま最後まで調子を変えずに幕を下ろす。
コレもまた良き哉。
ナニもアクロバットばかりがプロッグ・ロックではありません。
イギリスの「The Enid」なんてバンドを聴いてごらんなさい。
ココで告知のコーナー。
メンバーそれぞれライブのお知らせと麻梨恵ちゃんのグッズ紹介。
ショボンちゃんはオラが「いなほ米」のPR。
続いては麻梨恵ちゃんが19歳の頃に初めて作ったという曲「wAndёя(ワンダー)」。
専門学校の時、麻梨恵が作ったこの作品を先生方が演奏してくれたそうだ。
緊張感あふれるスウィング・ビート。
ショボンちゃんのジャズ・ドラムはいいナァ。
猛烈にスウィングする。
7/4拍子のリズムに乗ってオルガンとギターでテーマを奏でギター・ソロへ。
何回も言って申し訳ないけど、1959MSのヌケよいサウンドがこういう場でも抜群に良い効果を発揮する。
ホント、樋口さんはウマい具合に使ってくれた。
ノリノリの様子で麻梨恵ちゃんがハードなオルガン・ソロをキメた!
そして、冒頭のスイング・ビートのパートに戻り…
凄まじいキメをもってして曲を仕上げた。
「ありがとうございます!
それではココで池㞍喜子さんをお迎えして一緒にお届けしたいと思います!」
開演するまでは「絶対に負けるワケにはいかないわ!」と殺気立てていた「対決姿勢」はどこへやら(←ウソです)、「ツイン・キーボーズって憧れません?」と2人で仲良くおしゃべりをして深井麻梨恵BAND最後の曲に取り掛かった。
曲は「Birth」。
喜子さんのオーケストラル・サウンドから…
麻梨恵ちゃんのボコーダーのプレイ。
そして超密度の濃いバンド・アンサンブル!
なんかコレは「Brand X」を思い出すな。
2人で丁々発止と渡り合うキーボーズのバトル!
これぞ「プロッグ・ロック女王の雌雄を決する「対決」だ!
そして息もつかせぬ7/4拍子のアンサンブルを経て曲は終了し、深井麻梨恵BANDは持ち時間を消化した。
アンコールの準備をしている間に…
麻梨恵ちゃん、本番の冒頭に靴を脱いで裸足になっていたでしょ?
裸足で舞台に立つ人って結構いるんだよね。
下は太平洋戦争前後に「国民的喜劇俳優」として大活躍した「榎本健一」、通称「エノケン」。
聞いたことあるでしょ?
エノケンは演技中に舞台から飛び出していた釘を踏んでしまい、それが原因で壊疽となり右足を切断した…と言われていた。
ウチの父もそう言っていたぐらいで昔の人なら誰でも知っている話だった。
ところがコレは実は当時の都市伝説で、本当はエノケンが「孫悟空」を演じていた時に謝って如意棒を足に落としたことが原因で脱疽(壊疽とほとんど同じ)を罹患してしまった。
エノケンの足は重篤な血行障害に陥り、手術を繰り返したもののうまくいかず、最終的には右足の大腿部から下を切り落とすことになってしまった。
真相としては釘を踏んだことがこの悲劇の原因ではなかったのだが、やっぱり薄暗い舞台で裸足になるというのは十分に注意した方がよいでしょうね。
ところでエノケン。
浅草の観音様の横の毎日外人でゴッタ返している抹茶のお店がある場所には昔、水族館があってその上だか下だかに「カジノ・フォーリー」というエノケンが運営する劇場があった。
エノケンはモノすごい人気で、『男はつらいよ』の「おいちゃん」いるでしょ?
あの人は「森川信」といってやはり浅草で大人気の喜劇人だったんだけど、エノケンがいる以上浅草では一番になれないということで関西に活動の場を移して一旗上げたという。
エノケンといえば私はあのヘンな声で歌う「月光値千金(ナット・キング・コールで有名な'Get out and Get Under the Moon’ )」とか「洒落男(♪オレは村中で一番…)」とか「東京節(♪ラメちゃんったらギッチョンチョンでパイのパイのパイ)」ぐらいしか知らないんだけどね。
それと1945年に作られた「黒澤明」の『虎の尾を踏む男達』という映画。
コレ、歌舞伎の『勧進帳』をベースにしたミュージカルで、GHQの検閲により製作から7年を経た1952年にようやく公開された作品。
狂言回しを演じるエノケンも良いが、スター中のスターだった「大河内伝次郎」が実にカッコいい。
私も若い頃はこんなのまっぴらゴメンだったけど、歳を取ってから観てみたらメチャクチャよかった。
1時間の短い作品…特におススメはしません。
一方、大河内伝次郎が主演している『小原庄助さん』という1949年の清水宏監督の作品は大のおススメ。いい映画だよ~。
はい、アンコールの準備もできました。
晴くんも参加してツイン・ベースにツイン・キーボーズでドリーム・シアターの「Acid Rain」。
最後の最後まで持てる技の限りを尽くし、凄まじい演奏を聴かせてくれた6人。
私なんかはこうした音楽を愛でてくれている奏者や観客がまだ日本にいることをとてもうれしく感じてしまうのだ。
お疲れさまでした~!
エ、「プロッグ・ロックの女王」は一体どちらに軍配が上がったかって?
そりゃ両方にキマってるわな!
最後はお互いの熱演を称え合ってイベントは終了した。
この日を境に「女子プロ」とは「女子プロレス」ではなくて「女子プログレ」を意味するようになりましたとサ…ウソこけ!
<おしまい>
(一部敬称略 2026年8月7日 吉祥寺シルバーエレファントにて撮影)